第一話 招隊状…中編 もう一つの故郷

 部屋中に何度も何度も鳴り響く呼び鈴とドアを叩く音によって目を覚ます。そこにはカーテンから漏れ出す陽光によって照らされた昨日の部屋があった。そう、今日行くはずだった入学式に持っていく持ち物、着て行くはずだった服が用意されている学生の部屋。しかし、テーブルに放り投げられている赤い封筒。戦場への招隊状。それは、一時的もしくは、延々に学生生活がお預けとなることを示していた。


「もう、なんなのよ…」


 憂鬱な現実へと引き戻され、嫌気が刺す。

どれだけ夢の世界に逃げても、いつかは現実が追いついて来ることは分かっている、分かっているけれど。それでも、逃げたい。きっともう逃げられないだろうから。


 そうして再び毛布を頭にかぶって、引き戻そうと騒々しく鳴る現実に耳を塞ぐ。


 だが塞いで直ぐに一つの考えという名の妄想が思い浮かぶ。もしかしたら昨日の召集令状は間違えで、本当は召集されていなくて、その令状を回収しに来たのではないかと思ったのかと。可能性は無いに等しいだろうけど、例えそうだとしたら大学生活を取り戻せる。


 戦時なのだから、いつかはこうなると覚悟していたつもりだったけれど、実際に自分の番となると、頭では分かっていてもこんな現実味の無い妄想を信じたくなる。藁にも縋る思いとはきっとこういう事を言うのだろう。


 塞ぎこんでいた耳を解放してベッドから起き上がり、騒々しく鳴る玄関の扉の前に立つ。


 もちろん頭では分かっている、そんな偶然なんて無い。けれど何処かそんな偶然を信じようとする自分が居る。数秒後の二人の自分を思い浮かべてドアを開ける。ドアスコープを覗かずに。例え結果が決まっていたとしても、ほんの少しでも先延ばしにすれば変わるんじゃないのかって。


 ドアの先には昨日の区役所員ではなく——深刻そうな顔をしたイルゼがそこにいた。


「あぁ…イルゼ。こんな朝早くからどうかしたの?」

「良かった! 夜逃げして無かったんだね! 昨日何回も電話したのに出なかったからショックで夜逃げでもしたのかと思ったよ!」

「さすがにそんな事しないわよ…」


 イルゼが心配して態々訪ねて来てくれた事は嬉しかった。が、召集は紛れもない事実であることが残念で辛かった。


「あなたも大変なのにわざわざ心配してくれてありがとね」

「ううん…良いんだよ。小さい頃から三人で助け合って来たじゃん。それに…私も一緒に私も一緒に行くから、ほら」


 そう言いイルゼが赤い封筒を見せる。


「イルゼ、やっぱりあなたも来てたのね…」

「うん、帰ったら家の前に人が居てさ、話しかけたらこれでさ、全く、せっかくの努力が水の泡って奴だよ」


 いつもと比べて全然元気が無く、やはりイルゼも今回はかなり応えているようだ。まぁ、あんなに毎日、苦手だった勉強を頑張ってやっとの思いで大学に入ったというのに、入学は延期されて、校門をくぐる筈がヴァルハラの門をくぐる羽目になるかもしれないのだから無理も無いだろう。


 このまま玄関先で立ち話もなんだしと、イルゼを招き入れる。


「おっじゃましまーす」

「それじゃ、飲み物用意するから荷物そこら辺に置いて椅子に座ってて」

「どうも~ありがとね~」


 そう言い、荷物を置くと椅子に座るとイルゼは溶けたアイスの様にぐだりと寝そべる。


「イルゼさーん、何飲むー?」

「ハイジと一緒ので良いよー」


 一様聞いてはみたものの、そもそもうちにはコーヒーか紅茶かジュースしか無い。イルゼは何でも良いらしいし、何を飲もうか。まず、ジュースはあまり好きでは無いからコーヒーか紅茶の二択になる。だけど、少し前に見た本には確かコーヒーは寝起きの空っぽの胃には刺激が強すぎるみたいな事が書いてあった気がするし、朝はコーヒの方がしっくり来るが、気分転換も兼ねて紅茶にしよう。


 イルゼがアイスの様に溶けてから数分後、アーデルハイトが紅茶と数枚のクッキーが乗った皿をテーブルに置いた。


「ごめんなさい、これぐらいしか出せる物なくて…」

「突然押し掛けたのにお茶とお菓子まで貰って悪いね。あっ、そういえば」


 椅子の下に置かれた紙袋をイルゼがテーブルの上に出す。


「じゃじゃーん! これ来る時に買って来たんだ! お腹が、じゃなくてハイジと一緒に食べようと思ってね!」


 途中、何かを言いかけていたが、まぁ大体予想は付くし、それ以上にお腹が空いてるから態々突っ込まなくても良いか。


 大きな紙袋には、まるで専門店にある果物やクリームを乗せたお菓子みたいなパンに、シチューやブルストをそのまま包んだ、見たことの無い多種多様なパンが入っているし、焼きたてのパン特有の熱気と良い匂いが食に飢えた空っぽのお腹を刺激する。


「え!? ほんとに良いの? ありがとう!」

「うん!沢山買って来たから遠慮せずどんどん食べてね!」


 そう言い、イルゼは両手にパンを持って実に美味しそうに頬張る。


 それを見たアーデルハイトもイルゼに負けず劣らず、手に振れたパンから勢い良く食べ進めていった。


 袋の底が見え始める頃には、両者限界が…という事は無く、イルゼは食べ始めた頃と変わらぬ様子で、未だ美味しそうに頬張っていた。


 満腹となって一息着いたアーデルハイトが紅茶を片手に話しかける。


「イルゼ、あなたほんとによく食べるわね」

「いやー、下のパン屋の職人さん、グラン・シャリオから来た人だからさ! 色んなパン作れるし、優しいし、どれも美味しいんだよね!」

「それなら、このパンの種類と美味しさも納得ね。だけど、ここのパン屋さん結構、高いわよね。それでもかなりお世話になってるけど」


 良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに、イルゼが早口で自慢げに語り始まる。パンを両手に持ったまま。


「ふっふっふ。私の懐事情を心配してくれる我が優しき友よ。待っていたぞ! その質問を! キミは知らないだろうが、ここ最近、帝国とグラン・シャリオ王国間では同盟が結ばれる事になった。それに伴い、先んじて大幅な関税の引き下げが行われたのだよ。だ・か・ら! グラン・シャリオ産小麦を多く使う、あのパン屋さんのパンも値段が下がったというわけさ! 知らなかったでしょ!?」


 イルゼにしては珍しく、正確な情報を仕入れていて驚いた。やはり食に関する事は周知しているようだ。が、残念ながら新聞やラジオでもやっている一般常識的な情報だった。だけど、パンも貰ったしここは乗っておこう。


「へーそうなんだ! やっぱりイルゼは物知りね!」

「へへ~そうでしょ~。って、もうパン無くなちゃった」

「一体、何個食べたのよ。あなた……」

「美味しいから仕方ないね!」

「それは、そうだけど…これは食べ過ぎよ」


 その後、二人で食後の紅茶と小一時間程の会話を楽しんで、パンで窮屈になったお腹を落ち着かせた。


「ねぇハイジ。いつ行く?」

「そうね、確か午後の三時までにリュストゥブルク陸軍基地だったから、念の為に三○分くらい前に着くように行きましょ」


 イルゼが大きな溜め息を吐く。


「全く…酷いもんだね! 午後の三時と言えばお菓子の時間じゃん!」

「そうなのね、私の家は特にそういうの無かったのよね」


 するとチッチッチと鳴らし、変な口調でイルゼがうんちくを語り始める。


「アーデルハイトさん、あなたはミカドニア公国って国をご存じかな?」

「ミカドニア…確か西方に有った国で、もう滅亡してる筈だけど。その国がどうしたの?」

「その通り! 大変よくできました! ていっ!」


 イルゼがアーデルハイトに椅子から飛び寄って髪をわしゃわしゃと勢い良く搔き回す。


「ねぇ!ちょっと危ないからやめてよイルゼ!」

「よーしよしよし! 良い子だ良い子だ!」


 テーブルに当たってティーカップが倒れかけたところで漸くイルゼがアーデルハイトの髪を搔き回すのをやめる。


「おっとと…よし、この程度にしておいてやろう」

「もう、それで結局、ミカドニアがなんだって言うのよ」


 イルゼの口調が元に戻る。


「あーうんとね、この前、外国の文化について調べてたら見つけたんだよね。うん、それだけだよ」


 それなら一体なぜ、髪を搔き回して来たのは何だったのだろうか。元々寝起きだから寝癖で髪は乱れていたものの。全く、イルゼには困ったものだ。


 ふと時計を見ると既に時間は既に一二時を周っていた。


「ま、まぁわかったわ。あと時間的にそろそろ支度しないと」


 クッキーをつまんで窓の方を向きながらイルゼが横目で言う。


「支度も何もわたしはやって来たしハイジ待ちだよ? 一緒に行く為に来たんだし」

「……。考えれば確かにそうね。それじゃお茶でも飲んで待ってて~!」


 言葉を置き去りにアーデルハイトが寝室に慌ただしく走って行く。


「ハイジは、あ―見えて所々抜けてるからね……」


 窓から見える街の風景を見ながら赤毛の少女は小さく漏らす。


 アーデルハイトが、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりと慌ただしく支度をし始めてから丁度、漫画の単行本を二冊読み終わる程度の時間(※約三〇分程度)が経った頃。


「ごめんイルゼ!カップとお皿洗っといてくれないかな?」

「全然良いよ~、それにしてもハイジも漫画読むんだね。小説みたいなやつしか読んでないと思ってたよ」

「私だって漫画の一つや二つ見るわよ。そんな小説ばかり読んでたら疲れちゃうわ」

「そりゃそうだけど、まぁー私は漫画しか読んでないけどね! あはは!」

「そんな事だろうと思ってたわよ。それじゃ洗い物よろしくね~」


 そう言い、再び言葉を置き去りにアーデルハイトは慌ただしく支度を再開する。


「そんじゃやりますかー」


 ちゃちゃっと洗い物を終わらせ、イルゼが風に当たりながら漫画を見ていると、ようやく支度を終えたアーデルハイトが、テーブルに荷物を置く。


「ごめんねイルゼ、待たせたわね」

「大丈夫、大丈夫。漫画読んでたし、あっという間だったよー。そういえば、食べ物とかどうするの? しばらく帰ってこられないし」

「あーそれは大丈夫よ。こっち来てまだ一週間も経ってないし、こっち来てからは外食と缶詰しか食べて無いの」


 それを聞いたイルゼの顔が引きつる。


「そ、それはそれで大丈夫じゃない気が…」

「た、確かにそうかもしれないけど、これから行く場所の方が大丈夫じゃ無いでしょ!」

「それはそうだけど…何ていうか、ハイジって結構ずぼらなんだね…」


 赤面したアーデルハイトは玄関へと逃げる様に早歩きで向かう。


「もう! 早く行くわよ!」

「はいはーい」


 玄関を出てアーデルハイトは溜め息を吐く。


 それにしても、引っ越しして一週間も経たずにこんな事になるなんて思わなかった。さようなら、私の夢のマイホーム…。というか、鍵ってオーナーさんに渡した方が良いのかな。


「ねーイルゼ、家の鍵ってどうしたの?」

「私はオーナーさんに渡したよ。だって持ってったら無くすかもしれないし、戦場で鍵ごと爆散なんてなったらオーナーさんも困るでしょ多分」

「いや、多分じゃなくて絶対困るでしょ。だけど無くすのも怖いしオーナーさんに渡すのが良さそうね…。それじゃ行くわよ。ちゃんと荷物持った?」

「うん!最悪忘れてても令状だけ持ってれば大丈夫だよ! あははははははは!」


 イルゼはそんなことで良いのか…。それじゃ本当にさようなら、私の夢のマイホーム。

 アーデルハイトはしばらく見る事の無いであろう、アパートのアンティークな内装を目に深く焼き付けて、掛替えの無い一人の親友と歩みを進める。



 階段を降りているとイルゼがふとアーデルハイトに尋ねる。


「ここのオーナーさんって何階に住んでるの?」

「あー言ってなかったわね。ここのオーナーさん、一階のパン屋さんの店主よ」


 唖然とした表情でイルゼがアーデルハイトを見つめる。


「え? 初めて知ったんですけどハイジさーん」

「言ってないんだから当たり前でしょ。ほらさっさと行きましょ」

「だけどさ、今の時間帯だと忙しいんじゃないのかな?」

「もし、そうなら封筒に手紙と鍵を入れてオーナーさんのポストに入れれば良いのよ」


 アーデルハイトが手紙を入れた茶色の封筒を見せる。


「一体、いつ用意していたんだ…。ハイジ、恐ろしい子…」

「私は常にあらゆることを想定しているからね。ふふん!」


 この手紙を用意するのに大半の時間を使っていた上にそれを誤魔化す為にわざとジタバタと慌ただしく動き回って、忙しく見えるようにしてたなんて口が裂けても言えない。本当に口が裂けたら、そもそも何も言えないだろうけど。


 そんな他愛も無い話をしていると既に一階まで降りて来ていた。


「それじゃ、お店の様子覗いてみましょ」

「うん!」


 アパートから出て、大通りの方から店の中を覗くと、いつもなら人でごった返していた店内には客は誰も居なく、いつもなら笑顔を振り撒いて接客していた店主も暗い顔で椅子に座り込んでいた。


「どうしたのかしら…」

「いつもなら、あのおじさんもっとニコニコだったのに」

「えぇ、いつもはそうよね」

「取り敢えず中に入ってみようよ、ハイジ」

「そうね、このまま見てても分からないしね」


 そうして、アーデルハイトとイルゼは店へと入店する。扉の開く音を聴くと、げんなりとしていた髭面の店主が忙しない笑顔を作って出迎える。


「い、いらっしゃい……って、今朝の子とネルトリンさんじゃないか…。今日もパンを買いに来てくれたのかい?」

「いえ、今日はこれをお渡ししに来ました」


 そう言い、アーデルハイトは店主に鍵を手渡す。


「まさか、ネルトリンさんも…」

「はい、召集されてしまったので留守の間、預かっていただけないかと思いまして」

「あぁ…もちろん、断ることは無いさ」


 鍵を受け取った店主が思い出すように言う。


「実は、私の娘も召集されていて、それを今朝、娘に知らされたんだ……。レギーナって言ってね、背は隣の赤毛の子と同じぐらいで、私と同じ金髪。そして、母さんと同じ綺麗な緑色の目をしているんだ…」


 店主は自分の胸当たりの高さに手を置いて、まるでそこに娘がいるかの様に見つめる。


「もし見かけたら、よろしく頼めないかな…」


 アーデルハイトは葛藤する、自らの良心と。

 今でも自分一人に精一杯なのに、店主の娘の面倒まで見れるのだろうか、いっそのこと表向きは承諾して後は見ない振り、そもそも会えるかも分からないし。でもそれは…。


 その葛藤を打ち消すように突然とイルゼが後ろから覆いかぶさるように肩に手を回して、店主に告げる。


「分かりました! 娘さんの事は私とハイジに任せて下さい! だから、これからも美味しいパンをよろしくお願いしますね!!」


 そうだ、私は一人じゃないんだ。小さい頃から支え合って来た親友がいるじゃないか。

 それに続いて、アーデルハイトも店主に答える。


「そうです! 私達が娘さんを支えますから安心して下さい!」


 二人の言葉を聞いた店主が目を潤ませながら感謝を言い、紙袋がパンでパンパンになるほど詰め込んで手渡す。


「う、受け取ってくれ。これは私からの、せめてもの感謝の印だ」

「え! 良いんですか?! こんなにたくさん!」

「あぁ!もちろん! それでも少ないくらいだ!」

「ありがとうございます!」


 目を煌めかせたイルゼが『パンの詰め合わせ、店主の感謝を添えて』を受け取る。

 イルゼに続きアーデルハイトも感謝を述べる。


「こんなに沢山、ありがとうございます」

「あーそれとネルトリンさん。出征中の家賃は気にしなくて良いよ」

「いえ、さすがに悪いですよ。家賃はきちんとお支払いしますから」

「こうやって呑気にパンを焼いていられるのも、戦地で戦ってくれてる人達のお陰なんだから、これくらい当然だよ。それに結構ウチのパン屋は儲かっているんだからな! ワッハッハッ!」


 そう言い、店主は豪快に笑って見せる。


「ありがとうございます…。必ず、またここのパン食べに来ます」

「私も一緒に来ますよ!」

「そんときは出血大サービスで食べ放題だな! なんなら…その日は臨時休業にして貸し切りってのも良いかもな!」

「マジですか! 店主さん! って、おっと……」


 飛び出した勢いでイルゼが転びかける。


「あぁ、もちろんだ!」

「やったぁ! 店主さん! 私、もう、その為だけに行って来ます!」


 込み上げるものを抑えてアーデルハイトは頭を下げて礼を言う。


「本当にありがとうございます。もう、何と感謝を伝えれば良いか…」

「頭を上げてくれネルトリンさん。あなた達が帰って来て、またウチのパンを頬張ってくれたら、それ以上のもんは無いよ。ほんとは、私が戦地に行って娘を守ってやりたかったが、こんな老い耄れの身体では厳しいどころか迷惑になるからね。だから、どうか娘を頼む」


 店主がアーデルハイトとイルゼに深く頭を下げる。


「任せて下さい。だから、ヴァイツェンさんは……美味しいパンを焼いていて下さい!」


 隣に立っていたイルゼが拍子抜けした顔でアーデルハイトを見つめる。だが、そんなことお構いなしに店主が透き通るような優しい笑顔で背中を押す。


「私が言うのは違うかも知れないが、二人とも——いってらっしゃい」


 二人は晴れ渡る空の様に実に爽快な笑顔と口調で店主に返す。


「「行って来ます!!」」


 ◆ ◇ ◆ ◇


 アパートを出て、メインストリートを向かう道中。アーデルハイトの心境は靄ついていた。

 いつも食べる事にしか興味の無いイルゼだったけど、きっとイルゼも私が知らない所で成長しているのだろう。むしろ成長していないのは私かも知れない。昔から二人よりも、しっかりしないと、私が助けて上げないと、って勝手に思って、二人が居るのにすぐ一人で抱え込もうとしている。小さい頃ならまだしも、そろそろ成人する様な人間のする考えではないだろう。何だかイルゼに見透かされた気分だ。だけど、今気付けたのは良かったかも。


「さっきはありがとう。イルゼ」


 紙袋がはち切れそうなほど入ったパンを一つ一つ頬張っていって、木の実を詰め込んだリスの様な顔をしたイルゼが隣を歩くアーデルハイトの方を向く。


「ぬぁに?どおしたのハンジ」


 アーデルハイトはその瞬間、思った。彼女は本当に成長しているのだろうか、ただの自分の勘違いではないのかと。


「あはは…ただの独り言よ」


 口の中身を流し込んだイルゼが紙袋からパンを取り出してアーデルハイトに手渡す。

「ハイジも食べなよ!やっぱりここのパンが一番だよ!」

「そうね、私もここのパンが一番好きよ」


 ・―・ーー ・― ーーーー ・・・―


 ノイエモント帝国


 《帝都リュストゥブルク》を中心とした大陸内戦における同国の英雄である≪帝国七諸侯≫が統治する専制主義国家。大陸北方を中心とした広大な領土を保持しているが、厳しい寒さの上、複数の大国と国境を接している帝国は、その厳しい環境を生き抜く為に旧来より技術力を重視する傾向にある。その技術力を活かして、今となっては人口、経済、軍事共に高い水準に達して大陸の列強諸国の中でも抜きん出た存在となっている。《第六の彗星》落下後は《厄災国家》と成り果てた西方の隣国ラスヴェート共和国によって引き起こされた《第四次彗星戦争》にて、共和国と直接対峙する西部戦線を抱える事になったが、開戦前から綿密に計画されていた防衛計画により死傷者は最小限に抑えられて、戦局も極めて有利に運ばせている。


 ・―・ーー ・― ーーーー ・・・―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る