第2話 狐火・二
「そなた、今までどれほど鬼を斬った?」
――今は昔。
桜の蕾もほころび、もうほどなく京の都に春がゆき渡ろうとする。
山桜や辛夷の植わった庭のある
「……数えきれませぬな。とても、数えきれませぬ」
「そうであろうな。愚問であったわ」
晴明はほんの少し苦笑して、長くのびた白鬚をしごく。綱の眼前に座る鳥の子の狩衣に墨色の
「
「……いえ、ううむ。実のところを申しますと、まことに憶えておりませぬ……。手強い鬼ともなれば憶えておりますが、一太刀で葬った有象無象となれば……」
都の人が恐れる鬼や
齢のころ四十に近いが鍛え抜かれた強壮な体躯の持ち主で、整った精悍なその面貌は武骨者の多い東国武者にしては、どこか品のある風雅さがただよっている。晴明とはもうだいぶ古いなじみであった。
侍女が膳に
瓶子を手にすると、綱は晴明の土器に酒を注いだ。
「よい、よい、今日はそなたに伝えることがあってな。あと、そなたについての変わった噂を耳にした」
「は、いかなることにございましょう」
「最近、そなたが都の外へ出ると、なにやら怪しげな
「は、たしかに付いてまいります。もう五年ほど前から……」
「なに? そんなに前からか。
「いや、あれはですな」
綱が軽く笑む。そうして今度は晴明の差し出した瓶子を
「鬼火ではなく狐火にございます」
「狐火?」
眉間に皺を寄せて、晴明が怪訝な顔をした。
「はい。いつだったか七条堀川を通りましたところ、
「ふむ」
「その時に、日暮の夜陰に潜みたる鬼めが女の童に襲いかかりましてな、腕でこう……首の根を摑んで持ち上げました」
「ふむ、それで」
「是非もありませぬ。斬りました」
「鬼をか」
「はい」
「事も無げに言うのう。ふむ、それでどうなった」
「娘を見れば眼を回して伸びておりまして、捨ておく訳にもゆかないので、邸に連れて帰り介抱いたしました。熱まで出して寝込みましてな、幾日か逗留させて養生させました。おどおどして口をなかなか利きませぬが、妻も下女もずいぶん可愛がっておりましたな」
「ふむ……つまりその
「はい、狐でございました。私もながいこと物怪や鬼を見てまいりましたので、
「うむ」
「その一件からしばらくのち、私が都の外に出た時に、狐の娘が
「……」
「もっとも、他の者と一緒にいると、遠くの方でうろちょろとしておりますが」
「その狐……そなたに懸想しておるぞ」
お
稀代の陰陽師安倍晴明の母は、
無言の間が流れる。なにやら気詰まりなって綱も庭へと目を向けた。
そのまま暫くのあいだ、澄み渡った春風に吹かれて揺れる鈴束のような桜の蕾を眺め、晴明と綱は数献の酒を酌み交わした。
佐保姫が冬の眠りからさめたのか、遠くの山々にはもう残雪は見えない。吹きすさぶ春の
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