初恋美少女のために本気出して、6年後。
こうして俺は約束通り、翌日の昼休みも図書室に向かった。
目的はもちろん、初恋美少女──
『初恋美少女と毎日会話しよう』
これは俺の定めたFDGsの中で、最も基本的な項目だ。
FDGs (First lover Development Goals) とは、俺がタイムリープしてから定めた『初恋美少女の攻略目標』である!
そこには唯咲さんの好感度を上げるために必要な項目が幾つかあり、それらをクリアすれば彼女との結婚エンドが約束されるのだ! たぶん!!
……まぁネーミングが安直で、そもそも英語が合ってるか分からないし。まだ2つしか考えてないけど。
きっと17個くらい達成したら、超絶可愛い唯咲さんのウエディングドレス姿が目前だろう。
「どうしたの? ニコニコしちゃって?」
「あっ、いや……」
いやたぶん俺、ニコニコじゃなくてニチャニチャしてたんだろうな……。
「良いことでもあったの?」
「えっ? まぁ、そんな感じ?」
「へぇー、良かったら聞かせてくれる?」
「ふぇっ!?」
グイッと身を寄せる唯咲さんに、俺は変な声を漏らした。
えっと……、良いこと……、そりゃもちろん……。
「……ゆっ、唯咲さんと一緒にいるから、楽しいなと思って」
「……ふぇっ?」
……って、何言ってるんだよ俺!
てか俺、ニチャァってしてないよな?
してたら終わりなんだが? ドン引きされて第二の人生が早くも終了するんだが──。
「えへへ、わたしも楽しいよ。ソラくん♪」
あっ、昇天しちゃう。第二の人生終わりそう。
「あっ、それ!」
尊死寸前なのに構わず、唯咲さんは俺の持つ本を見てさらにグイッと身を寄せた。
「ソラくんも、野球好きなの!?」
その時の俺は、たまたま見つけた野球マンガのノベライズを読んでいた。
それを見た唯咲さんの目はキラキラと輝いていて、
「あぁ! もしかして唯咲さんも!?」
俺もまた、嬉しくて声が大きくなった。
しかも唯咲さんが可愛く「うん!」と頷いた姿を見て、全俺が号泣しながら抱き合った。
マジか! うわぁ前世で野球やってて良かったァァァ……!!
「ソラくんはどこのチームが好きなの?」
「俺はチーターズ!」
「ホント? わたしも!」
「マジか! 選手だと誰が好き!?」
「えっと、わたしは──」
しかし話が盛り上がりかけたところで、チャイムがまた阻んできた。
そしてまた寂しそうに俯く唯咲さん。
そりゃあ俺だって、唯咲さんと会えないのは寂しい。
図書室でしか会えないなんて耐えられない。
「あっ……、あのさ、唯咲さん」
だから俺は、これを機に次のフェーズへ移行する。
声を詰まらせながら、俺は勇気を出して彼女にこう言った。
「きょっ、きょきょっ、今日よかったら、いっ……、一緒に帰らない?」
『初恋美少女と毎日登下校しよう』──これもまた、FDGsで基本的な項目だ。
○
「くそっ、遅くなっちまった!!」
午後5時──小学校の放課後、にしては遅いこの時間。
俺は急いで図書室まで走っていた。
理由はもちろん、一緒に帰る待ち合わせをした唯咲さんに一刻も早く会うため。
これ以上、理想のメインヒロイン(予定)を待たせないためだ。
「あーもう、何でこうなることを忘れていたんだ俺は!!」
小学生時代の俺は、一応クラスで一番成績が良かった。
故に俺は、担任の先生から『毎週水曜日の放課後、授業が嫌すぎて学校に来ない男の子──
……唯咲さんと仲良くなる前の出来事だったからか、すっかり忘れてた。
記憶が正しければ『断りたい』と内心思っていただろう。
だが俺は『頼まれ事を断ることを恐れる』チキン野郎だったためか、それで引き受けてしまったのだろう。
しかもその杉山くん、とにかくヤンチャな不良少年で、勉強させるまでかなりの時間が必要だったんだよな……。どうして引き受けたんだチキン野郎。
(悪いけど今日は、今日だけは断ろう)
そう思ったが……。
……先生に『俺か唯咲さんにしか頼めない』って言われたから断れなかった。
さすがに唯咲さんとあの不良を会わせるのは、彼女が可哀想だ。
てか、なんで俺たち二人にしか頼めねぇんだよ先生。
──ごめん唯咲さん、やっぱり今日は……
──大丈夫、図書室で待ってるから
──えっ?
しかし唯咲さんは、俺を待つと言ってくれた。
ということで先生の頼みを受け、そしてまた勉強させるまでに時間を要し、今に至る……。
「唯咲さん!!」
だから俺は、急いで図書室へ駆け付けた。
(……あれ? いない??)
まさか先に帰った? ……まぁ俺のことなんて待つわけないか。
そう思ったが……。
「……なんだ、これ?」
テーブルの上で無造作に散らかった本の数々と、地面に落ちた開けっ放しのランドセル。
それを見た瞬間、嫌な予感がした。
「いやっ、やめてっ! 返してっ!!」
次の瞬間、外から女の子の叫び声が!
唯咲さんだ。唯咲さんがいたのだ。
だけど、喜べるような状況でないことは明らかで。
「へへっ、やーだよ!!」
「ギャハハ! こんな本ばっかり読んでるから、お前は地味子なんだよ!!」
「へいっ、パス!!」
男子生徒3人が、唯咲さんをいじめている。
未来のヒロイン(願望)が、本を盗られて泣いている!!
「何やってんだお前ら!!」
この状況に怒りを覚えた俺はすぐさまその場へ駆け付けた。
「好村くん、どうして……?」
「言ったじゃん、唯咲さんをイジメから守るって」
とは言ったものの、今の俺に勝てる気がしねぇ……。
だって相手はジャ〇アンが3人。一方で俺はの〇太くんだ。
(……だからといって、逃げていい理由にはならないだろ!!)
俺は彼らを睨みつける。
「は? 誰だお前」
「ヒョロヒョロな陰キャが、俺たちの邪魔すんなよ」
「いたっ……!」
「好村くん!」
くそっ。
いくら相手が格上とはいえ、好きな人の前で押し倒されるとか情けねぇ。
それでも俺は、ひたすら睨み続ける。
「あ? なに睨んでんだよ」
「オレたちに
「クソ生意気なやつ」
「……返せよ」
「は?」
「唯咲さんの本、返せよ!!」
右手で拳を作り、無闇に立ち向かう俺。
それから無我夢中になって彼らに襲いかかった。
小学生相手に、中身25歳が大人げないことに。
「……ははっ、くそ
だが情けないことに、俺はその小学生相手にボッコボコのギッタンギッタンにされた。
本を取り返すところまでは良かったけど……。
さすがに今の俺に敵う相手じゃなかったみたいだ……。
「……ぐすっ、ごめんね。ソラくん……」
だけどそれ以上に情けないのは、唯咲さんを余計に泣かせてしまったことだ。
……俺、最悪だな。
好きな子を待たせるし、泣かせるし。おまけに喧嘩は弱いし。
「……大丈夫だよ、これくらい」
だから、せめて慰めるくらいはしないと本当に最低なまま終わってしまう。
俺は「心配ないよ」と笑って見せた。
「それに良かったじゃん。本、無事に帰ってきて。しかもほら? キレイだろ? へへっ」
「……良くないっ!!」
「どわっ!?」
ちょっ、唯咲さん!?
勢いよく抱きつかれ、思わず変な声が漏れた。
「……だって、だって、ソラくんが」
「……ごめん」
俺も彼女の背に手を回し、優しく抱いてみる。
「もう、こんなことしないって、約束してくれる?」
「…………」
唯咲さんの言葉に、俺は答えを詰まらせる。
ここは頷くのが良いかもしれない。
彼女に気に入られるためならば、イエスマンに徹するのが最適かもしれない。
「……ごめん、それは守れない」
だけど俺は、唯咲さんのお願いを聞くことができなかった。
「だって俺、これから先も唯咲さんがいじめられてるところなんて見過ごせないよ!」
「でもわたし、もうソラくんが傷つくところ見たくないよぉ……」
「……それは」
唯咲さんがそれを望むなら、言葉で彼らのイジメを止めればいい。
だけど今回は、そんなことが通用するような相手じゃなかった。
きっとこの先も、そんな相手が唯咲さんに襲い掛かるかもしれない。
「……じゃあ分かった。俺、約束するよ」
それならば──。
「俺、強くなる。唯咲さんをずーっと、無傷で守れるくらい!」
「……ずっと?」
「あぁ。何年経っても、何十年経っても、ずーっと唯咲さんを守る無敵のヒーローになるから!」
目が合うだけでドキドキさせられるつぶらな瞳を見つめながら、本気で宣言した。
「……うん、約束!」
そして俺たちは、指切りをして。
『たとえ何が襲ってきても、初恋美少女を守る無敵のヒーローになる』
この瞬間、FDGsに新たな項目が追加された。
○
ここから俺の、唯咲さんの好感度を極限に上げるまでの長い戦いが始まった。
①初恋美少女と毎日会話した。
雨の日も風の日も、どんな日だって欠かさなかった。
②初恋美少女と毎日登下校した。
こちらも学校のある日は毎回欠かさなかった。
③名前呼びをした。
知り合って三年目くらい。小学六年生の頃だったか。
意を決して甘音って呼んでみたら、めちゃくちゃ可愛い笑顔を向けられて死にかけた。
④ 甘音好みの見た目に変身した。
甘音に相応しい男になるべく、甘音に好かれる存在であるべく、冴えないルックスを『爽やかイケメン風』に改造してやった。
ファッションや美容にも気を遣うようになり、特にファッションは『甘音好み』のものを徹底的に探り、甘音の前で実際に着てみせた。
⑤ 甘音を守り続けた。
甘音を守れるように、日々身体を鍛え続けた。柔道とか合気道とかボクシングとか、色々な護身術を身につけた。
その結果、いじめっ子は撲滅。
他にも甘音にしつこく付きまとう男や、いかにもな不審者を撃退したこともあった。
⑥甘音の大好きな野球を始めた。
野球でかっこよく活躍する姿を見せるために、俺は前世でもやってた野球を再開。
「甘音にかっこいい姿を見せるために」という一心で、過酷な練習を乗り越えた。
そして全国の舞台で活躍するところを、甘音に見せることができた。
⑦甘音と同じ道を進んできた。
小学校、中学校はもちろん、高校も同じ場所に進むべく、俺は甘音と同じ『県内トップの進学校』を志望した。
その時はもちろん必死に勉強した。
そりゃ前世で得た高校入試の知識がアドバンテージになったが、それでも必死に勉強しないと届かなかった。
それはもう、めちゃくちゃ厳しい学習塾に通ってビシバシしごかれないといけないくらいに……。
おかげで何度も脳を破壊されて体調を崩したが、それでも負けじと勉強して。
無事、二人で合格した。
〇
そして初恋美少女のために本気出して6年後。迎えた高校生活──。
7つのFDGsをクリアした俺は今、家の前で待つ初恋美少女の前でしゃんと胸を張って挨拶をした。
「おはよう、甘音」
「おはよう、ソラくん♪」
初恋美少女のために本気出す。
そう意気込んで、俺は自分の定めたFDGsに従って生きてきた。
毎日会話したり、登下校したり、名前呼びしたり。
守れるように武術を身につけたり、野球でかっこいい姿を見せたり、同じ道を歩んできたり。
「そういえばソラくん、変わったね?」
「えっ? 何が?」
「なんか……、初めて会った時よりも爽やかになったというか、男らしくなったというか?」
「そっか、……ありがとう」
甘音の言葉に、俺は照れくさくなって彼女から目を背けた。
同時に、改めて自分が別人のようになったことを思い出す。
前世で曲がっていた背中はシャキッと伸びていて。
身体はがっちりとした細身の筋肉質に。
そしてボサボサの髪やガサガサの肌は、清潔感に満ちている。
──誰かのために頑張るって、なんて素敵だろうか。
前世では考えられないほど輝かしい自分を携え、俺は甘音と共に新たなステージへ足を進めた。
全ては、彼女との結婚エンドを目指すために。
【あとがき】
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初恋美少女からの好感度を上げ続けて6年後、気付けば他の美少女からの好感度も爆上がりしていた件 緒方 桃 @suou_chemical
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