アンリ
朝の光を浴びながらアープのアイアンホースが赤い砂ぼこりを巻きあげて走っている。
フロンティアにも昼夜は訪れる。1日は24時間40分。故郷の星とほぼ同じである。
アープは教会らしき建物の前にアイアンホースを停めて中に入っていく。
「神父さん。いるか〜い」
建物に入るなりアープが呼びかける。
「そりゃあいるさ、ここは教会だ」
神父らしい衣装を着た男が並べてある長椅子から、のそりと起き上がる。
「ガウディ。私が言っているのは本物の神父さんの事だよ」
ガウディと呼ばれた男は優しい感じのいかにも神父という風体なのだが、どこか違和感をおぼえる不思議な男だった。
相手の事を信用しているのか。無防備な動作で長椅子に腰掛けるアープ。
「確かに前にいた神父は『神よ! どこにおられる!』と言ったきりいなくなってしまったらしいからね」
マルスでの開拓が進んで人の生活が始まれば、神に心の安らぎを求め教会ができ人が集まった。
しかし度重なる無法者の振る舞いに神父たちは次々に逃げだしていったのである。
「で、着任そうそう派手にやったそうだね。正義のアープ・お・ね・え・さ・ま」
神速。
ガウディの額にTwinkle スペシャルが押しつけられている。
「着任そうそうお別れか」
神速に首を振るガウディ。
★ ★ ★
(これは夢……)
小さいアンリが遊んでいる。
(お姉ちゃん……)
アンリのそばに優しく見つめている女性がいた。
(いやな夢……)
次の瞬間。無法者らしい集団がアイアンホースに乗って現れ、あろう事かロープで人を縛って引きずっている。
(お父さん。お母さん)
引きずられボロボロになった男女はアンリの両親だった。息はもうしていない。
無法者たちが手に持っていた火がついたビンをアンリ向かって投げ込む。姉さんがアンリを庇うよに体を覆い隠す。
人が焼ける匂いが鼻につく中、力強い声が聞こえる。
「アンリ。あなたは生きなさい!」
(おねえちゃん‼︎)
ベットから起き上がるアンリ。
(またあの時の夢……)
震えながら泣いているアンリ。手首の火傷の跡に涙が落ちる。
★ ★ ★
神父。どんな町でも怪しまれずに人々に受け入れられるという意味では銀河連邦議会のスパイとしては最高の職業だろう。
一部の施設でしか使えないはずの通信システムも教会は特例として銀河連邦政府と連絡をとるために使えるのである。
「連邦議会のヤツらは嘘つきは泥棒の始まりって言葉を知っているのか」
「彼らは神の存在なんて信じていませんからね」
自分たちの力だけで星を開拓していった人々は神の存在は弱い者の心の支え程度だと思っているのだろう。
「連邦議会はこれ以上、ビルダーに権力がつくのを懸念している。お前にパワーバランスをとってもらいたい」
「メタル鉱山の権利を欲しがっている連中がいるのか」
「血まみれアープの本領。期待しているよ、あとこれを持っていくといい」
手頃な大きさの箱を渡すガウディ。
「これは……」
ビーム弾のカートリッジが詰め込まれていた。
「役にたつはずだ」
今朝見た夢のせいだろうか?
アンリは気分の晴れないまま仕事をこなしていた。
「いたっ!」
床を磨いていてテーブルにお尻をぶつけたのは何度目だろうか?
「大丈夫かい? アンリちゃん」
カウンター越しにグラスを磨きながらマスターが声をかけた。
「すみません。大丈夫です」
アンリはマスターがお尻をぶつけて大丈夫かと聞いているんだと思っているがマスターはアンリの元気の無さを気にかけていた。
入り口のドアが開く。アンリが気づく。
「すみません。まだ準備中なんですけど」
アンリの言葉を無視して男たちの集団が入ってくる。
ジェシー達だった。
アンリが今にも噛みつきそうなオーラを出している。
「すみません。すぐに飲み物を用意しますのでお待ちください」
咄嗟にマスターがその場を収めようとする。
「マスター。オレたちの用があるのはそこの女だから気にすんな」
「な、なんですか」
アンリは今朝見た夢を思い出し、ジェシーに怯えていた。
間髪入れずにアンリのお腹を拳で殴る。人形の様に倒れるアンリ。
「例の場所まで運びだせ!」
ジェシーは部下に命令をし部下たちがアンリをぞんざいに運び出す。
「マスター。これをあの保安官に渡しておけ」
ことの顛末を呆然と眺めていたマスターにジェシーが手紙を出しテーブルに置いていく。
アープが「ノーザン・サルーン」にやって来たのは無法者の嵐が去ってしばらく後の事だった。
いつもなら抱きついてくるはずのアンリがいない事に気づく。
「マスター。アンリは?」
アープに手紙を渡す。
「ド外道が!」
停めてあったアイアンホースに飛び乗り怒りそのままに猛スピードで走っていく。
何もできなかったマスターがアープの後を追う。
無法者に連れ去られどうなるアンリ。
正義は執行されるのか。
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