10
「おめでとう佐藤さん」
「ありがと、鎌野も頑張って」
「うん、頑張るよ」
こちらにくっついてきている萌木は「ゆうちゃんと離れたくない」と粘るつもりのようだ。
鎌野はそれでも呆れたような顔をしたりはせずに「佐藤さんがいいならゆっくりすればいいよ」と言っている、本当に大人なのはやはり鎌野だった。
「あのー……」
「津曲、なんか久しぶりな感じがする」
今日も相変わらず奇麗な髪と瞳だ。
じっと見ていたくなるぐらい、こればかりは真似をしたところで同じになることはない。
「ふぅ、そうですね、私的にもそう感じます」
「大丈夫、最初の冗談はなかったことにしてあるから」
「本当かよと言われてしまうかもしれませんがあのときは本当にゆうさんを独占したかったのですが……」
「七月は魅力的だから仕方がない」
「すみません……」
信じ込んで行動していたわけではないからノーダメージだ。
「あ、いたいた、七月津曲いたわよ」
「ここにいたのね、見つかってよかったわ」
姉妹の登場、特に七月の方は津曲を見つけられて安心したような顔をしている。
意外だったのは用事で帰ったはずの日向もいたことだ、何故か不機嫌そうだったが。
「こら、なに辰巳に自由にさせているの」
「磁石だから離れない、ほら」
試しに鎌野に引っ張ってもらっても少ししか距離ができなかった。
「辰巳はいい加減離れなさい」
「わっ、冷静な感じなのに力が凄く強いね」
だというのに日向が引っ張ったらこれ。
気になるからいまのは萌木がやめただけでいいか。
「ゆう、津曲さんは返してもらうわよ」
「ん」
「萌木、僕らもそろそろいこう」
「うん。ゆうちゃんまたね、あんまり椛島さんに自由にさせちゃ駄目だよ?」
「大丈夫」
紫月も「それじゃああんまり遅くならないようにしなさいよー」と教室から出ていった。
全く久しぶりではないがまた日向と二人きりだ、とりあえずは前の席に座るだけだった。
「紫月さんが見ているけど気にせずにいちゃいちゃしちゃおう」
「それよりテストの結果は?」
触れずにいれば飽きて帰るからこちらとしても紫月がいようと気になったりはしない。
「テストで失敗をしたことがないし今回も全く問題はなかったよ」
「ならよかった、補習とかになったら日向と一緒にいられる時間が減るから」
「ま、真顔なのになんでこんなに効果があるのか……」
「なら笑う、にこー」
「ぶふっ、すっごくぎこちないよっ」
む、もっと前々から笑っておくべきだった。
真顔でも効果があるなら笑みを浮かべればわかりやすく効果があったはずなのにこれでは悔しいだけでしかない。
「日向のことが好き」
「し、知っているけど?」
「でも、誰かに恋をしている日向が気になっていたから恋をしていなかったらどうなっていたのかはわからない」
「ちょ、余計なことを言わなくていいから、それにそれは偽物だし……」
偽物か。
「ならこれも偽物ではないことを願っておく、日向がいてくれないと嫌だから」
「ちょ」
「ぎゅー」
「ちょっ、紫月さんが見ているんだよ!?」
「『紫月さんが見ているけど気にせずにいちゃいちゃしちゃおう』とか言っていたのにそれなのね、ゆうの方が強いわ」
他に集中しなければならないことができたときは直前のそれなんてどこかに吹き飛ぶからすぐに普段通りの日向に戻った。
とはいえなんだか自分といるときよりも楽しそうに見えて悔しくなったから離したりはしなかった。
175 Nora_ @rianora_
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