07
「くしゅん……」
椛島が起きてくれない
だから下からお布団を持ってきて寝転んでいたがこれだと寒くて駄目だった。
だからといって隣に寝転ぶわけにはいかないから天井を見て時間をつぶしている。
「……あれ、もう真っ暗だ」
「椛島」
ご飯の時間にだってちゃんと起こそうとしたのに起きてくれなかったのが椛島だ。
「あんたどこに……あ、そこにいたんだ。ごめん、ベッドを占領しちゃって」
「それはいいけど椛島はご飯を食べた方がいい、食べるなら温める」
「そうだね、食べさせてもらおうかな。というか……お風呂にも入っていないや」
歯だって磨けていない状態だからとにかくこのまま寝るのはよくない。
あとどうせすぐには寝られないからなにかできるならこちらとしてもよかった。
できればこのまま紫月に甘えるのがいいが……ここで遠慮をしてしまうのが椛島だろうから言わないでおく。
「服も貸せる」
「先に入らせてもらおうかな、流石にもう帰るのはあれだしお風呂に入った状態じゃないとどこで寝るにしても迷惑をかけてしまうから」
「お風呂に入ってご飯を食べたら歯を磨いて寝ればいい、新しい歯ブラシならあるから」
「うん」
リビングも客間も真っ暗で誰もいなかった。
まあもう日付も変わっている時間だから当然と言えば当然だ。
「ここにいてほしい」
「わかった」
椛島がお風呂に入っている間、壁に背を預けてさっきみたいに天井を見ていた。
でも、別に楽しい行為ではないからすぐに飽きて色々なところを見ておくことでなんとかするしかなかった。
幸いすぐに声をかけられて洗面所から出られた。
「お待たせ」
「ご飯温める」
「あ、それって誰が作ってくれたの?」
「いつも僕が作っている、だから味については安心してくれればいい。あの二人が文句も言わずに食べている物なら大丈夫のはず」
「や、そんな心配はしていないけどね」
温めて渡してからもなんとも言えない時間を過ごすことになったのはあれだ。
流石にお客さんを放っておいて戻るわけにもいかないしじっと見ておくわけにもいかないから違うところを見ておくしかないがこれにしたってすぐに飽きる行為でしかない。
「美味しい」
これならご飯の時間に心を鬼にして起こすべきだった、紫月に頼めばよかったのにどうして夜の僕は自分で起こそうとしてしまったのか。
「佐藤」
「ここにいる」
「本当は過激な二人を見たからじゃないんだよ、そもそも好き同士なら抱きしめるぐらい普通だからね」
「ん」
二人が抱きしめ合っていたというのは本当のことで初という点については曖昧な状態だった。
「私さ、紫月さんに告白をして振られたんだよ」
「コンビニでは普通だった」
「だって家に上がらせてもらう前にしたから」
「そのまま上がれるところがすごい」
「告白をして振られたからって走り逃げるのはずるいと思ったからだよ」
見ないようにしているからいまどんな顔をしているのかはわからない。
仮に笑っていたとしても気持ちのいい種類ではないだろうからこのままでいい。
そもそも寝て起きればまた学校だ、このまま長く続けさせるのは違う。
いま椛島がしなければいけないのはご飯を食べて歯を磨いてしっかり寝ることだ。
長くお昼寝的なことをしてしまったからすぐには寝られないだろうが寝転んでおけばなんとかなるはずだった。
「ごちそうさまでした」
「新しい歯ブラシがある」
「うん、使わせてもらうよ」
再度洗面所まで付いていったりはせずに階段のところで待っていた。
お風呂に比べれば遥かに時間のかからない行為だからお部屋にすぐにいけた。
一応嫌ではないならと確認をしてからベッドに寝転ばせて僕はそのまま床に寝転がる。
なにも掛けていないよりもマシだ、それに僕はお昼寝をしていないから朝までは一瞬だった。
「椛島起きて」
「……おはよう」
「おはよ。僕は家事をしなければならないからここにはいられない、椛島はどうする?」
帰るなら帰るでもいい、残るなら残ってもいい。
残る場合は椛島の分もご飯を作る、お弁当だってそうだ。
「一旦帰るよ、荷物だってここにはないから」
「わかった、それなら早めに行動した方がいい、紫月とは顔を合わせづらいだろうから」
「まあ……昨日までとはちょっと違うけどその点は気にしなくて大丈夫だから」
外まで見送って中に戻ったタイミングで「おはよう」と紫月が挨拶をしてきたから返しておいた。
「日向は帰ったのね」
「そう」
「ま、仕方がないか」
そうだ、誰が悪いという話ではない。
それでもいまは家事をささっとやって学校にいくだけだ。
「はぁ……少し寝すぎてしまったわ」
七月も下りてきて三人になった。
「七月にもゆうにも聞いてほしいから言うけどあたしは日向からの告白を断ったわ」
「そ、そうなの? 知らないところでそんなことに……」
「はは、それならあんただって同じでしょ、津曲を抱きしめていたぐらいなんだから。つか扉を完全に閉めてからにしなさいよ」
これもそうだ、やるにしてもそうした方がいい。
積極的に見られたいならいいのかもしれないが見てしまった側もなんとも言えない状態になるから。
「あ、あれは……そうね、言い訳はできないわね」
「悪いことじゃないから気にする必要はないわよ、別に責めたくて出しているわけじゃないんだし」
「ふふ、ありがとう」
平和だ、少なくとも僕ら三人はそうだ。
今回は特に言いたいこともないが余計なことをしなければ最低限の仲ではいられる、やはり家族と喧嘩とかになると厄介だからこのままがいい。
「ゆう、日向のことお願いね」
「なんで僕?」
「だってあんた日向のことが好きなんでしょ? 丁度いいじゃない」
「丁度いいってなにが? まさか微妙な状態を利用して仲を深めろってこと?」
だったのにすぐに無理になって余計なことをしている僕がいた。
気になっていなければムキになることもなかったのだろうか? それともお友達のことだからと相手が姉でも食いついていただろうか。
一つわかっているのはとても余裕を持って行動なんかできないということだ。
「別にそういうつもりはなかったけど一緒にいれば違うんじゃないの?」
「流石にそれは紫月でも許せない」
「と言われてもね、そもそもあんたが許しても許さなくても現実は変わらないしね」
「ま、まあまあ、二人とも落ち着きなさいよ」
「あたしは落ち着いているけどね」
食べていくつもりだったが自分の分は作らずに朝ご飯も二人分だけ作ってお家を出てきた。
早めの時間でも寄り道もせずに学校まで歩いて、教室に着いても普段みたいに離れたりはしなかった。
「あれ、ゆうちゃん今日は早いね」
「おはよ、やらなければいけないこともすぐに終わったうえに寄り道をしないで来た結果がこれ」
「ど、どうしたの?」
どうしたのとはどうしたのか。
「鎌野は?」
大体一緒にやって来て「佐藤さんおはよう」と挨拶をしてくるから違和感しかない。
とはいえ僕らと違って喧嘩なんかにはなっていないことはわかる。
あまり人のことは言えないが萌木は表情に出やすいからだ。
「今日はお寝坊さんでね、一緒に登校はできなかったよ」
「まだ三十分ぐらい余裕があるんだから待てばよかった」
「……今日にある教科が本当に苦手でね」
「なら僕の方がどうしたのと聞いてあげるべきだった」
「や、やめてぇ……そんなことをされたら涙がこぼれちゃうぅ……」
今更ながらにテストについて不安になってきた、ただ異常に落ち着いているよりはいいのかもしれない。
だからお喋りはここまでにして教科書なんかとにらめっこの時間に変えていく。
こういうときに限って時間は早く経過するもの、あっという間にテストの時間になった。
「はあ……」
始まればまた変な落ち着き方をしていて気持ち悪かった。
だがいまはこうしてやることをやってさっさと解散になる方がいいのかもしれない。
普段通りだと休み時間がありすぎて顔を合わせたくない存在と合わせることになってしまうかもしれないからだ。
こんなことになったのは初めてだった、あと喧嘩みたいなことをした紫月にではなく椛島に対してそう感じているのが本当に微妙だった。
「終わった」
「そうだね、佐藤さんお疲れ様」
「ん、鎌野もお疲れ」
これからどうしようか。
紫月とは気まずくないしお金なんかも貯めておくべきだからお家に帰るべきだろうか。
「僕はこの後萌木とご飯を食べにいくつもりなんだけど佐藤さんもいかない?」
「今日は食欲がないから」
「わかった」
まだすぐに解散ではなくてお掃除をしなければならないからその間に出ればいいと思う、あと鎌野はもう少し考えて人を誘うべきだが。
「「あ」」
何故今日に限ってお掃除の場所が変わって遭遇することになるのか。
それでもいまはやらなければならないことがあるのがよかった、いや本当にちゃんとやっておかないと見回りの先生が怖いから知った顔と顔を合わせたところでどうしようもないというか……。
キャラが壊れてしまうぐらいには普段通りでいられていなかったが救われた形になる。
「じゃあまたね」
「ばいばい」
大人しく帰ろう。
朝ご飯も食べていないからお腹が空いた。
帰ってくるのかどうかは知らないが帰ってきたならあの二人にご飯を作ってあげなければならないから寄り道をしている場合ではない。
「ゆう、待ちなさい」
「お腹が空いたから早く帰りたい」
「それならたまには食べにいかない? 七月と津曲も誘ってね」
「お金の無駄遣いはよくない」
「まあまあまあ、たまにはいいじゃない、付き合いなさい」
朝のあれがそれだけむかついたということか。
すぐに二人も加わって僕らは学校近くのファミレス――ではなく少し遠いラーメン屋さんにいた。
どうしてもラーメンの気分だったうえに妥協もしたくなかった結果らしい。
お金についてちくちく言葉で刺されていても「そういう気分だったんだから仕方がないじゃない」と開きなっている。
ただまあ、時間もつぶせるうえにやはり気まずくはないうえに椛島とも会う可能性がないのはよかった。
なんというかこれまでに食べたラーメンとはまた違っていて新鮮だったのも大きい。
「日向とは過ごしたの?」
七月がまとめてお会計をしてくれている間に聞かれたから首を振る。
「あんたのところにもいかないなんて重症かもね」
「失恋なんだから当たり前」
「でもねーなんかそこまでじゃない気がしたのよね」
「好きでもないのに告白なんかするわけがない」
この話は続けたくない、僕だって進んで言い争いなんかしたくないのだ。
「そりゃ少しはあっただろうけどあたし的にはどうも本気には見えなかったのよ。仮に本気でも好きな子がいるから無理だったけどね」
「はっきりしたことだけはいいところ、だけどこれで終わり」
七月と津曲が出てきたのもある。
「終わりでいいけどあたしには他にもいいところがあるでしょ」
「自分で言ったらおしまい」
「生意気に育ってしまったものねー」
僕だって誰かのことでムキになるようなことにならない方がよかった。
だから椛島と出会ってしまったのは僕にとって悪いこととしか言えなかった。
「はあ? あいつあたしに頼んでおきながらどこにいったのよ」
「紫――」
手で押さえられてみなまで言うことができなかった。
僕は確かに紫月に頼んで椛島を遠ざけてもらおうとしたのにこれではまるで意味がない。
だってその押さえてなにも言わせないようにしているのが椛島だから、その椛島はなにか気に入らないのか不機嫌そうな顔をしている。
「ぷは、いまは僕がその顔をしたいぐらい」
「あんたなんで私から逃げているの?」
「自意識過剰」
逃げているわけではなくて教室の椅子に張り付いているだけだった。
でも、喋りかけてきた際にちゃんと返事をしているのに逃げたことになっているらしい。
「事実でしょうが!」
「振られてから椛島はおかしい、お互いにとっていい時間にはならないから今日のところは離れた方がいい」
「ちゃんと相手をしてよ!」
さっきまで近くに紫月がいた状態でこんなに大声を出せば気づかれるに決まっている。
椛島の抵抗も無駄で「こんなところにいたのね」と救世主が現れた。
「紫月さんっ、この子に私を避けないように言ってください!」
「落ち着きなさいよ、そんなに興奮してどうしたの?」
「どうしたのって……特に理由もなく避けられていたら気になりますよ」
「だそうだけど、実際は頼まれていてもあんたのために動けたわけじゃないわよね、つまりゆうはいつもと同じように存在していただけだった」
な、何故素直に吐いてしまうのか。
だが最近の僕が生意気だからと意地悪をしたくて口にしているわけではないことはわかる。
紫月も七月も全く意地悪な存在ではない、だからこそ仲良しとまでは言えなくてもこれまで特に喧嘩もせずにいられたのだ。
「……た、頼まれたってこの子になにを頼まれたんですか?」
そういうのもあってこうなってしまっても悪いのは紫月ではない、避けようとした僕の方だ。
「え、一緒にいるべきじゃないから遠ざけてほしいって言われただけだけど」
「は!?」
「大きな声ね。ゆう、どうすればいい?」
これまでと同じように対応をするだけでいい。
変なことまで求められているわけではないのだ、本命と無理だったからってこちらが求められているわけではないのに馬鹿だった。
「紫月ごめん、だけどこれはやっぱり僕がなんとかしないといけないことだから」
「わかったわ、私は七月と家で――あ、そういえば津曲と出かけていたんだった。ま、ゆっくりしているからなるべく早く帰ってくるようにね」
「ん、ありがと」
「別になにもしていないでしょー」
とりあえず……こんな暗いところからは離れて教室にでもいこう。
こちらの腕をずっと掴んだままだったから運ぶのには苦労しなかった。
特に言いたいこともなかったから教室に着いても椅子に座らせるだけにした。
「……なんで急に一緒にいるべきじゃないと思ったの」
「椛島のことで紫月と言い争いみたいになったから、家族と衝突するぐらいなら出会わない方がマシだった」
「で、出会わない方がマシだったって……そこまでなの?」
「学校では特にお友達がいないからお家でぐらいは安心して過ごしたい、だけど紫月や七月と喧嘩をすれば過ごしにくくなる、だからこれからも他の存在のことで似たような状態にしてしまうぐらいならゼロの方がマシ」
家族には誰も勝てない、これはずっとそうだ。
「これで終わり」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「なに?」
これで本当に終わりにできないのが自分の弱さだった。
「わ、私といる時間が無駄だとか言わないよね……?」
「無駄じゃない」
誰もそんなことを言っていないのに不安な状態だから全部悪い方に考えてしまうのかもしれない。
やるにしても失恋のダメージがもう少しぐらいは落ち着いてからにするべきだった、やはり僕が悪い。
ただだからこそ無駄に傷つけないためにも離れた方がいいと考えたのだ。
「ならいてよ! あんたがいなくなったらもう私にはっ……誰も……いてくれないんだから」
「な、なんでそうなる? 紫月と過ごしづらいのは経験していない僕でもわかるけど七月だって萌木だって津曲だっている――」
「求めてくれているのはあんただけでしょうが!」
お互いが黙ったまま約一分が経過してもわからなかった。
確かに恋愛感情を持っているわけではないもののお友達としてはいてくれているのに変だった。
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