05
「ゆうさん!」
「落ち着いて、紫月が原因なのはわかっている」
「いえ、今回紫月さんは関係ありません。私はあなたとお勉強がしたくて来た――あ、あら? ゆうさーん?」
「お勉強はやらない、テストまでは時間がある」
さあ学校から離れよう。
元々何故か外で椛島と集合することになっているから最初から付き合えないのもあった。
なにも言わずに離れても聞いてくれはしないだろうからちゃんと説明してから動き始めたのに無理だったが。
「あんた遅いよ……って、なんで津曲さんまで連れてきたの」
「三人でもパフェを食べにいくことはできる」
丁度お小遣いを貰ったところであと少しが足りなかったばかりに諦めることになった、なんてことにはならないからいい。
問題だったのはお出かけすることを朝に言ってきたことだ、そのせいで授業に集中することができなかった。
できれば二人きりの方がよかったがまあいけるなら文句はない、早くパフェを食べにいくべきだろう。
「べ、別にそれがメインじゃないけどね、ある程度勉強を頑張った後にご褒美的な感じで食べにいくだけで」
「午前中も午後も学んで追加でお勉強とか頭おかしい」
「失礼な子だね全く」
ああ……少なくとも一時間は無理そうだ。
だったらっ、しっかり切り替えてお勉強をやって文句を言われないようにするべきだ。
全ては自分のため、美味しくいただくためにも努力を忘れてはならないと教えてくれているだけだ。
「ふぁぁ……あ、すみません、実はここのところあまり寝られていなくてですね」
「紫月が原因だとわかる」
「いえ、あ、全て関係ないとは言えないかもしれません」
「おお、その話ちゃんと聞かせてください」
椛島が食いついてしまった、いまは恋の話なんかどうでもいいのに。
「か、椛島さんも好きな人がいるならわかるはずです、相手をしてもらえない時間が続くともやもやするのです」
「あー……なるべくわがままは言いたくないんですがどうしてもぶつけたくなるときは私にもありますよ」
こちらは集中しているのに二人はお喋りばかり、流石にこんなことばかりが重なると呆れたくなる。
とはいえ一人で呆れていたってただ時間を無駄にするだけだからあと三十分と決めて頑張っていた。
時間が経過したら二人のことなんか無視して一人で外に出る、別にパフェを食べられればそれでいいから一人だとしても問題はない。
「待ちなよ、なんで一人でいこうとするの」
「パフェが食べたいから、恋の話なんかどうでもいい」
「参加できないからって拗ねないの、それに一人で食べにいったってつまらないでしょ」
この前は本当に拗ねていたが勝手に参加できなくて拗ねていることにされるのは複雑な気持ちになる。
何故か津曲から頭を撫でられているし……なんなのかこの時間は。
「安心してください、いまからはゆうさんでも参加できる内容にしますから」
「僕はただパフェを食べたかっただけでしかない」
「つまり私達とそれだけ一緒にいきたかったということですね?」
「ん? いや津曲が急に参加してきただけで椛島といければそれでよかった」
「あう……」「あんた……」
事実だから仕方がない。
それよりもパフェだ、ファミレスでも十分美味しい物が食べられるから入店したときからハイテンションだった。
種類もそんなにないからそこで悩む必要がないのもいい、注文の方も椛島がまとめて済ませてくれたから待っているだけでいい。
店内が混んでいるというわけでもなかったから運ばれてくるまでに時間がかからなかったのも最高で、ハイテンションのまま五分とかけずに食べ終えてしまった。
「むふぅ、最の高」
「珍しくハイテンションだね、ま、わからなくもないけど」
「ゆっくり食べればいい、僕は余韻に浸っておくから」
「いや誰これ……」
同級生の佐藤ゆうだ。
窓の向こうを見ていると制服を着た人が多く歩いていた。
ここら辺にだって学校はあるし僕らだって向こうからいちいち来ているぐらいだからおかしくはない。
で、その中で一番気になったのはどんな偶然か鎌野と歩いていた辰巳だ。
「椛島、辰巳がいる」
「本当だね、鎌野と楽しそう」
辰巳とぐらいしか過ごしていないみたいだが鎌野はよくどんなことをして遊んだのかを教えてくれる。
僕は地味にそれを楽しみにしていた、そこに自分が関係していないからただ気になったり楽しめるのがいいことだった。
「ふふ、複雑ですか?」
「は、はい? 別に辰巳が好きなわけじゃないですからね」
「その割には構ってもらおうとしていた」
一ヵ月近く学校にいけなかった理由がわからなくなってしまったぐらい。
絶対に許さないとか言っていたくせに物を隠したりとか悪口を言っていたわけではなかったみたい(本人談)なので難しくなった。
「違うから、あのときは辰巳のことが気に入らなかっただけ」
「どうだか」「ふふ、どうだかですね」
「津曲さんもやめてくださいよ……」
もちろん先輩にこそしないものの普段のようにこちらの手をつねってきた。
甲から他の場所に変わっているだけ仲良くなれたのかもしれない。
基本的にはいい方に考えるタイプだから勝手に一人で嬉しくなっていた。
「ぶぇ、ぶぅ、ぶぁ」
このときになって初めて木魚の気持ちがわかった。
ポクポクポクと優しくではあってもリズムよく叩かれても察してあげることはできない。
「あんたの頭ってなんか触れたくなるんだよね」
「奇麗にしているからかも」
「そういうのじゃなくて……小さいから?」
とは言うが実は紫月と五センチぐらいの差しかなかった。
一番高いのは七月、時点で津曲という風になっているから僕らはみんな同じようなものだ。
「それよりあんたからもなにか貰おうと思ってね」
「お金はある」
「うん、だからまたお店にいこうよ」
それなら教室でのんびりしている場合ではない。
お勉強もしなければならないから早くお店にいって欲しい物を探し始めるべきだ。
ただなんとなく今日だけで終わらなさそうな感じがした。
自分から言い出した手前、適当に終わらせようとしてきてもそれはそれで気になるから時間をかけてくれればいい。
「そういえば二人きりで出かけるのって初めてだっけ?」
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」
基本的に複数人で集まっているから早くも忘れてしまった。
おまけに自分がおまけの立場でいるとそこまで集中していないから〇日は〇〇と遊んだと細かくは言えない。
最近一緒に過ごすようになったばかりなのに残念な記憶能力だと言われてしまうかもしれないがそれが現実だ。
「椛島はなにが欲しい?」
「ん-どうせなら食べ物みたいにすぐに消えてしまう物じゃない方がいいんだよね」
「お金はあるけどゲームとかは無理」
ゲームだけに関わらず三千円とかの物はまだあげられない。
僕が椛島大好き人間だったらどうなっていたのかはわからないが現在はそうではない、買っても五百円から千円ぐらい物だ。
「や、そこまで求めないよ、そうだね……あ、写真とかどう?」
「だったらスマホで撮ればいい、最近は進化しているってスマホ大好きな紫月が言っていた」
「それじゃあ味気ないでしょ、いいから付き合って」
「あー」
もし同じようにやるとしてもどうせならみんないるときの方がよかった。
おまけでも写真の中ではお友達みたいにいられるからだ。
でも、連絡先を交換できているのは姉二人とだけだから呼び出すことができない、一応聞いてみても「今度でいいでしょ」と受け入れてもらえず残念だった。
「私、あんたといられる時間好きだよ、そこから目を逸らしたって意味はないから言うけどさ」
「僕は泥棒猫、好きな人がいるのに惑わす女」
「はは、自分で言うことなの?」
奪えるぐらいの魅力が本当にあったらこんなことにはなっていない、誰かから奪うなんていいことではないから悪いことでもないのだが。
「でも、本当はわかっている、だから椛島はその人に集中してくれればいい」
「あんた……」
「早く撮ろう」
「ふぅ、そうだね」
やり方は当然のようにわからないから任せた。
じっとしているだけでいいのは楽でいい、笑うのは得意ではないから終わった後にちくりと言葉で刺されてしまったが嬉しかった。
「あのさ、好きな人……教えようか?」
「いい」
一度も協力してほしいと頼まれたことがないし知ってもなにもできないから。
あと最近の自分的に悪い感情が出てきてしまいそうだったからそのままがよかった。
ほら、知らないままの方がいいこともあるのが人生なのだ。
「はぁ、知りたいって言っていたくせに教えようとしたら今度はそれなの?」
「ごめん」
「えっ、あ、謝る必要はないけど」
「物も買わせてほしい、これだけだと椛島的にメリットがない」
「これで十分だから、まだ来たばかりだけど帰ろ」
好きな人がいるから受け取りずらいか。
一人で残るような場所でもないから言うことを聞いて付いていく。
今度は二人ではなくみんながいるときか少なくとも僕達以外にも人がいるといいと思った。
「はは、移動時間の方が長いって変だよね」
「そんなものだと思う」
「まあ……そうかもしれないけどさ。付き合ってくれてありがと、それじゃあね」
「ばいばい」
自分から誘っておきながら微妙そうな顔をするのは何故なのか。
あとどうしてここまで気になるのか、椛島も言っていたように気にするなら辰巳の方が自然なのにおかしい。
おかしいから茶化さない七月に相談をしてみた。
「助けたからって気にすることはあっても確実に気に入るわけではないでしょう? だからなにもおかしくはないわよ」
「それはわかった、だけどなんで椛島のことがここまで気になるのか」
「ゆう的に魅力的だったからだと思うわ。ただ……椛島さんには好きな子がいるから……」
「だから好きになる人もいるって聞いたことがある」
「実際にそういうことはあるみたいね、より魅力的に見えてしまうのかもしれないわ」
ただお喋りしたいからいるだけだが本当のところはそこからきているのだとしたら悪いことだと言える、だからそうではないことが一番だ。
しかし曖昧な状態のままいるのも危険な気がしたからどうしたらいいのか悩む羽目になった。
自分から近づいてはいないからそこだけはまだマシだった。
「今度こそゆうちゃんは渡さない」
「辰巳、一緒にお勉強しよ」
「私のことは萌木って呼んで」
「萌木、いいからお勉強をしよ」
何回か椛島に誘われたり七月に誘われてお勉強をしていたが足りない気がしていたのだ。
もう本番は明後日に迫っている、終わってから泣くことになってもどうにもならないからそうなる前になんとかするのだ。
「僕も参加していいかな?」
「うん、なにも発生しようがない翔太君ならいいよ」
「はは、萌木がいつも通りで安心するよ」
一人の時間にだってお勉強をしていたのにどうして今回はこんなに不安なのかわからない。
高校生になって初めての期末考査というわけでもないのに変だ、まだ人間関係で悩んでいる方が自分らしかったと言える。
でも、これはやればやるほど結果に繋がる行為だ、失敗をしても誰に迷惑をかけるわけでもないことは楽でいいが。
「あれ? さっきまでは消しゴムがあったのにどこかにいっちゃったみたいだ」
「はい」
「ありがとう、今度新しい消しゴムを買って返すから安心してね」
「鎌野も萌木も大袈裟すぎる、貸し借りぐらいお友達ならするもの」
「そっか、とりあえず使わせてもらうね」
落ち着かない。
お勉強を続けても集中しきれていないことがすぐにわかって微妙な気分になった。
それでもななんとか手だけは動かしていると「もう限界だよ」と萌木がギブアップ……。
「テスト本番付近は軽く見直すぐらいでいいんだよ、頑張るのはもうやってきたんだから」
「そう? 本本付近こそ頑張らなければいけないんじゃないかな」
「人によってやり方が違うからね、翔太君にはそうだというだけだよ。それにゆうちゃんといられているのにお勉強なんてもったいなさすぎる」
見ておくはずが全然見られていなかったから今日はこれでいいのかもしれない。
この謎の不安も誰かといればなんとかなる気がする、事実、自分からお勉強に誘っておきながらこうしてお喋りをできている時間だと少しはマシになるからだ。
「萌木、萌木にとってのライバルは前からそうだけど椛島さんだよ、最近は佐藤さんとずっと一緒にいるからね」
「今日はなんで一緒にいないの?」
「用事があるから無理だと断られた。あと萌木には言っていなかったけど僕は椛島が気になっている」
あのときも言っていたように本人への迷惑を考えなければ好きでも全く悪いことではなかった。
これが本当にちゃんとした好意であれば初めてそういうつもりで見られる人間が現れたということでいいことでしかない。
「な」「おお」
「なんでかはわからないけど」
「で、でもさ、椛島さんにも好きな子がいるんでしょ? そのままだと振られちゃうんじゃ……」
「泥棒猫になる」
「ははは、佐藤さんはやっぱりすごいや」
おお、何故か更によくわからない不安な気持ちがどこかにいった。
必要だったのはコミュニケーションだったということか、本人と話せばもっとよくなるかもしれない。
だがまあ今日は用事があって無理だからとりあえずは捨てて二人と盛り上がろうと思う。
「こんなことをしている場合じゃない、用事もそこまでかからないだろうから椛島さんを呼ぼう――ううん、突撃するしかないよ」
「わかった」
「僕もいこうかな」
連絡もせずにいったものだから「こら佐藤」と僕が怒られた。
変な絡み方をしていたのもあって萌木には強気に出られないみたいだ、鎌野には「鎌野は今日も大きいね」なんて言って笑っている。
「ま、もう終わったから別にいいや、寒いから上がりなよ」
「お邪魔する」
客間でもリビングでもお部屋でもいい。
ただ誰かが来てしまう可能性があるリビングの方がいいのかもしれなかった、そうでもなければ休まりすぎて寝てしまうかもしれないからだ。
そんなことになったら間違いなく「なんのために来たの」と言葉で刺されてしまうから避けたかった。
一緒にいたいからだと答えたところで好きな人がいる云々と言われて終わるだけだし本当に奪おうとしているように見えてしまうのも駄目なのもある。
「お邪魔しまーす、……椛島さん後で二人だけで話したいことがあるんだよ、いい?」
「二人に丸聞こえなんだけど……もう少し上手くやりなよ辰巳は」
「うわーん! だってゆうちゃんが椛島さんのことを気になっているって言うからさー!」
「声でか……それにそのことならもう本人が教えてくれたけどね」
「え!?」
声でか……と言いたくなる気持ちがわかる。
「さ、早く入りなよ」
「お邪魔じま゛ーず……」
結局集まる場所は椛島によって客間となった。
畳のお部屋で寝転びやすいのがいまの僕にはよくなかった、だからすぐに寝転んで速攻で刺された自分がいる。
「ふーん、ということは珍しくこいつが馬鹿なことを言ったわけじゃないんだ?」
「そうです、私が言い出したことなんです」
「ま、本人にも言ったけど受け入れられることじゃないから」
わかっていることだからそんなに繰り返し言わないでほしい。
やはりなにも感じないというわけではないからだ。
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