04

「はい、あんたにプレゼント」

「仮面?」

「そう、あんたって異世界だったら暗殺者で表情一つ変えずに人を殺していそうだからお似合いだと思ったの」

「う゛ぅ……カバシマコロス」

「え、ちょっ」


 ノリが悪い人間だと言われたくないから少しふざけてみたらすぐに興奮気味な椛島が出来上がった。

 何故かまた来てくれているからできることだ、だからこそ無駄にしたくないと思ってのことだ。


「はぁ……あんたになにかをあげるなんてするんじゃなかった」

「ありがと」

「ま、どうせ外では使えない物だけどね」

「椛島が使ってほしいなら使う、これを装着しながらお買い物とかにいく」

「や、完全に不審者で通報されるだけだからやめておいた方がいいよ」


 それなら約束している相手の紫月が来るまではこのままにしておけばいいか。

 津曲も連れてくるぐらいだからまたみんなでわいわいお出かけすることになる。

 どうせなら好きな人を連れてきてほしいとダイレクトに頼んでも「嫌よ」とすぐに断られてしまったからあまり期待はできないがまあ悪くはない。


「遅れてしまってすみません、紫月さんを起こすのが大変で……」

「約束の時間まではまだ時間があったからもう少しぐらいはゆっくりでよかったのに津曲がもうね……」

「結局、みんな十五分前には集まりましたね」

「お二人は偉いです」


 紫月の方向に椛島を押そうと考えていたもののいま押すと受け止めきれずに怪我をしてしまいそうだったからやめた。

 大体、そんなことをしなくても自然と意識を向けられるから大丈夫だというのもある。

 その証拠としてすぐに三人で楽しくお喋りをしながら歩き始めた、それこそ暗殺者だったらいますぐにでも三人を殺めることができるぐらいの余裕がある。

 武器はなにがいいだろうか、自分のキャラ的に短剣とかがお似合いかもしれない。

 とはいえ後ろから気づかれずにやるのは卑怯な気がしたからどうやって踏み込むかを考えていたらいつもの商業施設に着いた。


「今日はなにか予定があったんですか?」


 これは気になる、商業施設にいくことだけしか教えられていなかったから入る前にはっきりしておくべきだ。


「そうね、津曲がどうしてもあたしからなにか欲しいって言うからなにか買ってあげようと思って」

「お金を払うので私も紫月さんからなにか欲しいです!」

「それじゃあ意味がないじゃない。だけどそうね、ゆうが椛島にはお世話になっているからなにか買ってあげるわ」

「いいんですか!? お願いします!」


 ここがはっきりした点もよかった、それに椛島とか辰巳の嬉しそうなところを見られるのもいいことだ。

 物欲というものがないうえに既に椛島からはプレゼントを貰えているからテンションは変わらなかった。

 びびっとくる物よりも辰巳と七月ペアと会えないものかと考えていたがそこもなにも変わらないまま時間だけが経過していく。


「一旦休憩にしてクレープでも食べませんか?」

「いいわね、違う味を注文して相手に少しあげればもっといいわよね」


 紫月は甘い物が本当に好きで逆に辛い食べ物が苦手だった。

 カラシとかワサビとかだけではなくカレーの中辛だって食べられないぐらいだからいつもそこでは七月と争うことになる。


「間接キスになってしまいますよ?」

「や、手でちぎればいいじゃない」

「その場合は手が汚れてしまいます、ですのでちゃんと守ってくださいね」


 津曲は紫月ガチ勢みたいになっていた、お家では必ずぐったりしてしまうぐらいには付きまとわれているらしい。

 そこに後輩組二人と七月も加わるからどんどんと体力を失っていきそうだ。


「ん-やっぱり美味しいわよね、千円近く出す価値があるわ」

「紫月さん……?」

「わかったからいちいち怖い顔をしないの、家族の七月だってそんな変な絡み方はしてこないわよもう」


 いまこそなんとかしなければいけないときだ、それでも押したりはしないが。


「紫月、椛島が羨ましそうな顔で見ている」

「あーはいはい、あんたともしてあげるから安心しなさい」

「あ、いえ、私はもう紫月さんから欲しい物を貰えているので満足できています、佐藤の方が物欲しそうな目で見ていたので大丈夫なら食べさせてあげてください」


 やはり色々なことを辰巳と交換する方が合っている気がした。

 鎌野の幼馴染でもないのだから遠慮はそろそろやめるべきだろう。


「はあ~」

「なに大きなため息をついているの」

「遠慮は本当によくない、遠慮をしたからって相手は勝手に動いてくれたりはしない。さっきだって椛島が勇気を出した結果、紫月は応えてくれたんだから続けるべき」

「珍しく長く喋ったと思ったら余計なことを……あんたは自分のことに集中しなよ」

「これがいまやりたいこと、もちろんここにいない辰巳にだって言う」


 が、気に入らないみたいで不満気な顔はずっと変わらなかった。

 僕らが見つめ合っていてもなにも意味はないからこちらが先に別のところに意識を向けることで終わらせた。




「最初からそうだけどあんたっておかしいよね、少なくとも私のじゃなくて味方をした辰巳の協力をするべきでしょ」


 集めたがりとすぐに解散にしたがるところが影響していまはもう二人だけになっていた。

 つまり短時間で再び椛島が遠慮をした形になるが表情だけで止めてきたから口にしたりはしないでいる。


「もうお友達だから関係ない」

「で、そのスタンスでやってきたのにこれまで友達がいなかったってどういうこと? 本気じゃなかったの?」

「これまでだって同じように求めていたけどそれでできるかどうかは別」

「なるほどね」


 たまに近づいてきても姉二人といたいだけでしかなかった。

 椛島及び辰巳と安心していられているのははっきりしているからだ、もう逆に自分目当てだと言われても信じられないぐらいにはその前提で動いている。


「好きな人を教えてほしい」

「しつこい、別に紫月さんの真似をするわけじゃないけどあんたにだけは教えない。一緒に過ごしていてもみんながみんな大事な情報を吐くわけじゃない、一緒に過ごすようになったばかりなら尚更だよ」


 いつもの呆れたような顔ではなく本当に嫌なこと、受け入れられないという気持ちが伝わってきた。


「このままずっとみんなから教えてもらえない?」

「あんたがその調子ならそうかもね」

「僕と僕じゃない人の差がわからない、それに茶化すようなことだってしないけど」


 お互いがそれきり黙ったことで変な雰囲気になってしまった。

 椛島と過ごして初めて気まずい気持ちになってどうしようもなくなったから解散にする。

 寒いだけだから寄り道もせずに帰ってお部屋に一人でいると「遅かったじゃない」と紫月が入ってきた。


「僕だけ教えてもらえない」

「ああ、別にあたしも七月も椛島もあんたのことを疑っているわけじゃないけどね」

「だったら教えてくれればいいと思う、安心すればいい、僕なんかじゃ奪えないから」

「嫌よ、あのゆう大好きな七月でさえ言っていないんだからわかるでしょ」


 だったら好きな人がいること自体を言わなければよかったはずだ。

 僕がこそこそ尾行をしてそれで突き止めたわけではないのだからこういうことが増えても文句を言える立場ではなかった。


「それより辰巳も津曲も好きな子がいないんだから狙ってみたらいいんじゃない?」

「はあ……」


 あそこまで露骨に態度を変えているのにこの姉はなにを言っているのか。

 謎に呆れた顔をされる僕でも同じようにしたくなる、もし本気で言っているとしたら正気を疑う。

 本当はここが異世界で誰かに作られた通りにしかできない場合だったら仕方がないが流石にやばい。


「とりあえずいまは休んで」

「なんで急に?」

「おかしくなっちゃったから――あう……」

「おかしいのはあんたよ」


 そもそも知ろうとすること自体が間違っていると言いたいだろうか。

 もしそうなら一緒に過ごす意味なんかない。

 だが一番残念なのは僕が急に消えたところで一ミリすらも影響を与えられるわけではないということだ。

 別にメンタルが最強というわけではないからその事実を直視することになるだけでやられてしまう、故に大人しくしているしかない。


「いまのままだとすぐに一緒にいられなくなるわ、だからなんとかして辰巳や椛島にいてもらえるように頑張りなさい」

「それも勘?」

「そうよ、家族であるあんたならあたしの勘がよく当たるってわかっているはずでしょ。ま、一人でもいいなら無理をする必要はないけどね」


 と言われても何故か来てくれているだけで矢印は別の方向に向かっているのにそんなことをしていいものなのか。

 一人で虚しく頑張っているところを見られたくない気持ちも今更ながらに出てきていた、なにも一人でいることは悪いことばかりではないのだ。

 小学校や中学校ではないから授業をしっかり受けておけば教師からは特になにも言われないことも大きい。


「なら諦める」

「そ、まああんたの人生だから好きにすればいいわ」


 どうせ頑張り続けることなんてできないからこれでいい。

 それこそ仮面を装着したときみたいに壁を作ればよかった。

 誰も来ないなら来ないで仮面云々もしなくて済むからどちらにしても僕の勝ちだった。




「ここから悪い空気が出ているね」

「ちょ、ちょっと椛島さん、そんなにペシペシ頭を叩いたらいくらゆうちゃんでも怒られるよ?」

「でも、事実なんだから仕方がない。で? なんでそんな感じ?」

「別になんでもない」


 今日は自分で作ってこなかったから購買にいくことにした。

 三年間で一度ぐらいは利用しておかないともったいないから丁度いい、朝はただやる気が出なかっただけだが。

 混んでいても買えないほどではないからすぐにパンを買って離れることができた。

 教室だと変な絡まれ方をされそうだったから外にいく、ベンチなんかはないが段差ならいくらでもあるからそこに座って食べればいい。


「いただきます、あむ」


 カレーパンもたまには悪くない、今度は焼きそばパンを買おうと思う。


「美味しそうじゃん」

「辰巳は?」

「辰巳も一緒に来ようとしていたけど七月さんに呼ばれてそっちにいったよ」


 学校でももっと一緒に行動してもらいたいところだった、紫月が七月といないからこんなことになる。


「だったら椛島もいけばよかったのに」

「私は紫月さんとはいたいけど七月さんとはそうでもないから」

「差を作っていたら怒る」

「や、そんなのしょうがないでしょ」


 幸いなのはパン一つぐらいすぐに終わることか。

 決めて行動しているのに対象が来てしまったら困るのだ、だが相手に期待するのは違うから僕の方から離れればいい。

 ここまで露骨にされていて気にせずにいける人間は少ない、途中で椛島だってなにをしていたのかと自分に呆れるはずなのだ。


「なに私から逃げているの、まさかアレで怒っているの?」

「自意識過剰」

「どうだか、明らかに拗ねているでしょ。はあ~まさかここまで子どもだったとはねー私がいないと駄目なのかもねー」

「椛島なんか必要ない、僕は暗殺者だから一人でも余裕」


 外に出てみたらそれらしい段差が思いのほかなくて苦戦しているところなのにやめてほしい。


「だから――」

「それ以上近づかないで、一歩でもこっちに来たら本当に暗殺者のお仕事をしなければならなくなる」

「はは、やってみてよ」


 返事をしてしまっている時点で負けているか。

 逃げるのも面倒くさくなったから腕を組んで目を閉じていると「それでいいんだよ」と言われてしまった。

 なにがいいのか、これだって変えたわけではなくてただ面倒くさいからでしかないのに微妙な気分になる。


「いやでもやっぱりおかしいでしょ、なんで私のことをそんなに気にしているの?」

「気になる」

「え、もしかして私のこと好きだとか?」

「そうならそうで問題ない」

「なにもかも意外だね、あんたのそれには応えられないけど」


 好みの話でしかないから元々広げられる前提で喋ってはいなかった。

 前みたいに気まずくもなかったからそのままなにも言わずにギリギリまで外で過ごした。

 靴からシューズに履き替えた際に「落ち込まないようにね、だって最初からわかっていたことでしょ」と言われて頷く。

 勝手に振られたみたいになっていることがむかつくがまあ大人な対応をしてあげただけだからここで片付けよう。


「おかえり」

「ん、鎌野はいつも眠たい?」


 気持ち良さそうにも見えるから一日だけ真似したことがあったが一日だけでやめることになってしまった。

 休めているはずなのに無駄に体力を使うからだ、机の大きさが少し合っていないのも悪かったのかもしれない。


「それもある、だけど一番はやっぱり佐藤さんがいないと一人だからだよ」

「それなら付いてくればいい、謎の能力があって勝手に椛島達が集まってくるから」

「椛島さんは変わったね、なにがあったんだろう?」

「紫月と七月パワー」


 あとは見たこともないが好きな人がいることも影響していそうだ。

 本当にやりたいことができればしょうもないことなんてすぐにやめる、時間の無駄にしかならないとわかるから。


「全部じゃないだろうけどお姉さん達本当にすごいね」

「興味があるなら連れていく」

「いや、それよりも佐藤さんに付いていくよ」

「わかった、僕は暗殺者だから覚悟して」

「はは、楽しそうだ」


 お友達は結構壊れやすいところがあるからまあ鎌野が変になっていても気にならない。

 僕が移動した先にたまたま紫月達がいた! なんてことになれば細かく言葉で刺してくることはないだろうから連れていってあげようと思う。

 だって明らかに素直になれていないから、幼馴染の辰巳相手でもこうなのだから間違ってはいないだろう。


「出発」

「うん、いこう」


 休み時間だと不完全燃焼になりそうだったから放課後になった瞬間に動き始めた。

 すぐに辰巳と椛島を回収、そしてすぐに三人でお喋りを始めてくれたから悪くない。

 本当はこのまま姉二人のところにいこうとしたが初回に頑張りすぎてもあれだからここまでにした。

 まずは同級生相手に遠慮をしないところからだ。


「今日中になんとかできてよかった、そうじゃなかったらこいつはきっとどんどん殻にこもっていっただろうから」

「そんなことがあったんだ、佐藤さんは意外と教えてくれないから」

「ま、自分が拗ねていますなんて言いにくいでしょ、辰巳みたいになんでも言える方がおかしいんだよ」


 欲望に正直の方が生きやすいのは確かだった。

 欲深ければ一つが無理になっても新たな目標が出てきて一つに拘っている場合ではなくなるのもいい。


「私にだって言えないことぐらいあるよ、好きな子とかね」

「「出た」」

「みんな一気に変わるんだね、萌木にも好きな子がとうとうできたんだ」

「ざ、残念かな?」

「いや、人を好きになれるのはいいことだからね、僕としては自分のことでもないのに嬉しいよ」


 圧倒的な差を見せつけられた形になる。

 というかこうやって対応できるのが自分のいいところだったのに最近はおかしくなってしまったみたいだ。


「鎌野は大人」

「はは、ありがとう」


 でも、いまからでも遅くはない。

 だからしっかりここで切り替える必要があった。

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