第38話 魔法

醜いコビトは町を歩く。

美しいとはお世辞にも言えない、町。

ごちゃごちゃしていて歩きにくくて、てんで整っていない。

コビトは悲しいけれどこの町が好きで、

その悲しみは、コビトが醜いことから来ている。

コビトはぎょろっとした目に涙をたたえている。

そう、最初から、かなわなかった。

コビトの女神のマルが、誰を見ているかなんて、

気がつきたくもなかったし、それでも、もしかしたらとも考えた。

でも、マルは魔法にかかってしまった。

魔法をかけたガラクタは、それが魔法だとぜんぜん自覚していなくて、

コビトだけがその性質をわかっている。

よその町で散々見てきたもの。

コビトがどうしても手に入れられなかった、女神の薔薇色の視界。

その視界にコビトをうつしてほしくて、コビトは何でもした。

道化にもなったし、悪人も演じた。

でも、最後は英雄がすべてを奪っていった。

女神も、薔薇色も。


コビトは悲しかった。

コビトの胸は痛かった。

普通でないコビトは、ゆがんだ町をとぼとぼと歩く。

ああ、こういうときはこの町は悲しいほどそっけなくて、

そのくせ痛々しいほど包んでくれる。

異形のコビトにゆがんだ電気の町。

いっそもっとゆがんだら諦められただろうか。

そんなことはないことを、コビトはよく知っている。

どんなにコビトが醜く変わり果てたとしても、

コビトは女神をどこかで探し、その笑みを渇望するのだ。

どこへいっても同じ。

この町でもそうだった。


気配がして、コビトは振り返った。

磁転車のとまる気配。

磁気掃除人の子供かと、コビトは黙って道をあける。

どうもと少年が挨拶して、磁転車は通り過ぎる。

磁転車特有の少し軽い音。

そして、後ろに少女が乗っている。

あいつらも魔法にそのうちかかっちまうんだろうかとコビトは思う。

ただの少年、ただの少女。

ただの通りすがりなのになぜか、ガラクタとマルが重なり、

コビトの異形の目はまた潤んだ。

胸が痛かった。否定したいのにできなかった。

魔法にかけられたかのように、醜いコビトはつらかった。

女神の美しい笑みは、果てしなく遠かった。

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