第37話 違法局
ギムレットの闇電装技師の店には、
窓から墓標のように空中線がある。
窓だというのに光も差し込まない、そこに立てられた空中線は、
静かに、違法電波局を受信している。
中央の手のかかっていない電波局から、
流される違法の電波。
空中線があればさらに増幅されて身体に届く。
ギムレットの店に溜め込まれた磁気の影響で、
違法電波はさらにゆがむ。
カガミはこの電波のことを知っているのだろうかとギムレットは思う。
いつまでたってもこの違法電波局が途切れないのは、
カガミが気がつかないバカヤロウなのか、
気がついていても目こぼししているバカヤロウなのか。
どっちにしろあいつはバカヤロウだと結論付ける。
違法電波局は、ある種の毒の電波を流している。
人によっては毒。しかも、甘美な奴だときている。
それは身体に作用して、視界がゆがんだり、あるいは輝いて見えたり、
身体が熱くなったり、言葉がうまく出てこなくなったり、
そういった症状を喜びと感じるようになったり。
増幅させたらとんでもない毒だ。
でも、この毒の違法電波局は消えたためしがない。
摘発されたという話も聞かないし、
途切れたとしても、発生源をかえてまた、電波は放たれる。
町の電波局ではないだろうとギムレットは思っているが、
この違法局は、どこから来てどこに行くのだろう。
どこを目指しているのだろう。
どこに届けるための電波なのだろう。
ギムレットは、この毒を理解できない。
確かに身体に作用する電波ではあるが、あるべき理由がよくわからない。
ただ、ギムレットは思う。
なくしてはいけない感覚のひとつなのかもしれないと。
穏やかに生きていくのは、町の理にはかなっている。
でも、人というものは理だけで生きているのではない。
忘れるな、と、電波が伝えているような気がする。
ギムレットはその一点を思うから、違法電波局を受信する。
この電波は、生身の身体のほうが効きがいいのだろう。
ほとんどが電装のギムレットには、
毒の電波はゆがみにすらならなかった。
ギムレットは、いつもそれを少し残念に思う。
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