第48通 年賀はがきの光と闇 中編
郵便局も国家公務員から郵便公社へ変わると、積極的に営業活動を行い収入を増やすようにと指示が出るようになります。
公社というのは国が経営する会社の事ですが、公務員時代の郵便局というのは独立採算制で、郵便局員の給料は郵便局の収入から賄われていて、税金からは支払われていないんですよね。
なので公社化になったとしても、何が変わったのか?なぜ営業努力に力を入れないといけないのか?
確かに制服も変われば、『郵便局』という名も『郵便公社』という名前に変わりましたが、我々局員には公社になった事があまりピンと来ないんですよ。
しかも、立場的には公務員のままなので。
しかし、管理者はそうは言ってられません。
収入確保が郵政から指示を出されるわけですから当然の様に年賀状の目標枚数が増えていきます。
この頃だと6000枚くらいでしょうか。
集配課長からの営業努力に対しての小言も増えていきます。
やがて郵便局は公社から民営化に。
そして世の中がガラリと変わる事件が起こるのです。
そう、携帯電話の普及です。
若者を中心にメール文化が花咲くと郵便離れが急速に進み、郵便ハガキの利用量が減り、年賀状の利用者も年を追うごとに減っていきました。
そんな中、郵便局は企業としての売り上げ減の穴埋めに年賀はがきの販売に力を入れようとします。目標枚数が6000枚から8000枚へ。
11月に入ると年賀はがきの発売が始まります。それと同時に各配達区域に、配達員の押印がされてある『年賀はがきの購入注文ハガキ』の計画配送も始まります。
これは全区分口、全ての家庭や会社に、郵便がある無し関係無しに配達するという『全戸配布』という配達で、三日間程の日程で計画配達を行います。
このハガキに購入枚数を書いていただくと、お客様のご自宅に郵便局員が年賀はがきをお届けするというものです。
ですが、年賀はがきはなかなか売れません。自分のタイミングで郵便局の窓口で買いたいお客様の方が多いんですよね。要は12月に入ってから買いたいのです。
そして、この購入ハガキに配達と窓口受け取りの記入欄がありまして、窓口受け取りでご注文をいただいてもそのハガキに押印してある担当者の成績にならないんです。
窓口の成績になるんです。
ですので、そのハガキの窓口受け取り欄をマジックで斜線を引いて記入できない様にしていました。
ですが、その様にいろいろと自分から買ってもらえる様に工夫をしてもなかなか売れません。
そこで私は季節に関係無く、郵便配達時や書留や小包などの対面配達時にお客様に積極的に笑顔を見せ、郵便局の商品『イベントゆうパック』等の営業活動を行い顔を売っていました。
郵便局側もお客様確保の為に、配達員から直接年賀はがきを買っていただいたお客様への粗品を用意していました。
その粗品も取り合いになるんですよね。みんな自分のお客様に来年も買って欲しいものですから、多めに粗品をあげたり、少しでも良い粗品をあげたいんです。
すると、あっという間に粗品も無くなるので、足りない分を100均等で購入していました。自費で。
自分の家族や親戚、友人知人から年賀はがきを買ってもらう為に、11月に入るとみなさんにお願いに駆けずり回り、配達時にはお客様にお願いに駆けずり回る日々に追われます。
当然、毎日郵便配達にも追われ、同時に配達先のお客様にご注文いただいた年賀はがきを粗品と一緒に手渡し。
その時忘れてはいけません「また来年も私から年賀はがきのご注文よろしくお願いします!」の笑顔の声かけも。
その年賀はがきの営業販売と同時に、年末の日本の風物詩『お歳暮』のゆうパック商品の声掛け営業もあります。
11月に入ると、非番日や週休の日でも友人知人に各商品の声掛け営業&ご注文いただいた年賀はがきのお届け等に追われ、12月からは年末年始の繁忙期の準備。
民営化になってからは特にこの時期は体も頭も休める日が無い日々が続きました。
私は幸運な事に、友人知人や贔屓のお客様にも恵まれ、なんとか毎年ノルマを達成できていましたが、この様な活動を行っても、売り上げが上がらない局員も多くいます。
真面目に営業活動を行っても成績が上がらない局員。
鼻っから「8000枚?売れるわけないだろ!?」と目標枚数にお手上げで、ノルマ未達成で上司から怒られても気にしない反骨精神旺盛な局員もいます。
こういったノルマ未達成者をなんとかしたい。なんとか営業成績を上げたいと考える管理者も、あの手この手と考えます。
そして、管理者による地獄の追い込みが始まります。
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