第47通 年賀はがきの光と闇 前編

なぞなぞです。

バブル期4000 平成12000

これなーんだ?


答えは

年賀はがきの郵便配達員に課せられた売り上げノルマの数字です。


 今回は以前にリクエストをいただいたお話をお伝えしようと思います。

郵便屋さんに課せられた年賀はがきの『期待目標』という名のノルマのお話。

 私が郵便屋さんになった平成初期は何度もお伝えしたようにバブル期最盛期。

通信文書の多くはFAX及び郵便物で送られる時代でした。

そして、年賀はがきの最盛期でもあります。


 この頃国家公務員であった郵便局にも、年賀はがきを一人あたり何枚売ってきて欲しいという『売り上げ目標』というものがありました。

とはいっても、この頃は正真正銘の国家公務員ですので、そんなに売り上げに対しての厳しいペナルティや営業取り組みといったものはありませんでした。


 年賀はがきの目標も一人あたり4000枚。

この数字が多く感じるか少なく感じるか?これは人それぞれですが、この頃はほとんどの家庭が当たり前のように年賀状を送っていた時代ですので、お客様にお声を掛け、ちょっと努力をすれば大体達成ができる数字なのです。

ただ、ほとんどの職員が配達中に営業活動を行うといった事が面倒くさいのでやりたくないのが本音です。


私は入局した初年度は11月から中途採用といった事もあり、班長から伝えられたのは「まあ、今年は2000枚で良いわ」でした。


正直ビビりましたね。

郵便屋さんに営業活動があるのか!?と。2000枚ってそんなに売れるの!?と。

しかも、営業活動に対してのノウハウなど何も伝授されずに、ただ「売ってこい」の一言。


で、どうしたのか?

年賀はがきの売り出しが11月から始まるので家族、親戚、友人達に私から買ってくれ!とお願いするのです。


そうすると…


意外といけちゃうんですよね2000枚だと。景気も良いし、みんな年賀状は出すから簡単に達成できたので私も拍子抜けしました。


そして翌年からは先輩達と同じ様に目標枚数4000枚になります。


 郵便局が10月から年賀はがきの予約を受け付ける事を始めたのもこの頃で、年賀はがきの注文ハガキに配達員が自分のハンコを押印して、各家庭の郵便受けに通常郵便物の配達時に投函していくのです。

すると、この注文ハガキに「無地70枚」「絵付きハガキ60枚」という風に各種別欄に枚数を記載されて郵便局のポストに投函あるいは配達員に手渡しされ、11月1日以降に各家庭に購入していただいた年賀はがきを配達する専任配達員がお届けするのです。

 私の班では毎年この専任配達員をベテランの副班長が軽四で配送していました。


ただ、この頃は何度も言う様に国家公務員の時代。

局員もあまり乗り気ではないんですね。

「あんまり注文ハガキをばら撒くと、注文で上がってきた分を配るのが大変だぞ?」と先輩達も平気に言ってましたから。

 実際に私の班の専任配達員係の副班長が「お前達が注文取ってくるのが多いから年賀はがきの配送も一苦労やわ。

もう少し考えて売ってこいよ」とぼやいていたのをよく耳にしました。


そして…


数年が経ち、バブルも崩壊。

少しずつ景気も悪化していく中、国家公務員とはいえ郵便事業の売り上げから職員の給料を賄う独立採算制の郵便局にもその煽りがやってきます。

 年月を重ねるうちに年賀はがきの目標数が増えていきました。

4000枚から5000枚。5000枚から6000枚へ。


ただ、この頃は目標枚数に達しない場合でも「こら!今年のお前の枚数は目標に全然足りてないじゃないか!しっかりしろよ!」と班長やその上の役職の課長代理に小言を言われても

「いやあ〜すんません」と笑って誤魔化す職員も多く、それが通用していました。

 実際、目標を上回る枚数を売り上げてる局員もいたのですが、そういう局員は生まれつき真面目なタイプ。そして成績を上げて出世を目指すタイプでした。


私はどうだったか?

家族や親戚、友人知人に年賀はがきの声を掛けて贔屓にしてくれるお客様から買ってもらったりと気がつけば目標クリア。

根が真面目だったんですね。


そして時が流れ、郵便局も国家公務員から郵便公社へそして民営化され日本郵便に。


すると『期待目標』というノルマがずっしりと職員達にのしかかる様になるのです。

ノルマ達成というプレッシャーに押しつぶされた職員が取った行動とは?

次回後編に続きます。


今回もご愛読いただきありがとうございました。

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