第49通 年賀はがきの光と闇 後編①

「君が提出した期待目標達成計画書では10月の予約で6000枚になってるけど、君の今の取り組みでは何枚の予約が上がってるの?」

「…3000枚です」

「3000枚だよね?今年の個人の目標枚数は何枚?」

「…8000枚です」

「11月1日から年賀はがきの販売が始まるけど、残り5000枚はどう達成させるの?」

「…お客様に積極的な声掛け活動をし、目標達成に向かって頑張ります」

「うん。頑張るのは当然だよね?

具体的にいつまでにどうやって達成させるの?」

「…は、はい…

書留や小包配達の対面配達の時に年賀はがき購入ハガキを手渡しして一枚でも多く注文を取って目標達成に向かって努力します」

「じゃあ、いつまでに何枚注文を取って、いつ目標の8000枚が達成できるか?具体的な目標達成計画書を提出してくれる?」

「…は、はい…」


 郵便局が民営化になり、各郵便局にも営業努力を求められる様になりました。


 11月から配布を開始していた『年賀はがきの購入注文はがき』は『年賀はがきの購入予約はがき』と名前を変えて10月から全戸配布を開始に。

これには局員もお客様も驚きました。

10月から今年は何枚年賀はがきを買おうか?と考えるお客様がいると思いますか?なかなかいませんよ。

 ですが、課長、局長ら管理者からは早期目標達成の為に発売前から声掛け営業を始めて予約枚数をあげろ!と局内ノルマ達成の為に指示を出します。

声掛け営業に関して局員に対して、いろいろ指示が出ました。


何件声を掛けて何枚予約を取ったのか?毎日営業記録を提出しろ。


売り上げ目標に対してどういう取り組みをするのか具体的な目標達成計画書を書け。


全戸配布した年賀はがきの予約注文の声掛けローラー作戦。

これは班としての取り組みで、各区の区分口が印刷されている用紙に沿って一軒一軒お客様に年賀はがきの予約注文を声掛けして、済んだ区分口を声掛けした班員が押印してその用紙を埋めていくのです。

毎日の通常郵便配達に追われてる中でのローラー作戦は骨が折れました。

その進行が遅い班は、班長が課長からどうして進行が遅れているのか?説明を求められます。


 そして、11月1日年賀はがき発売日になると、局員は自分の家族、親戚、友人知人の年賀はがき代を払い込み(殆どの局員が実費で立て替えて、後日に代金をそれぞれから回収していました)

配達の合間にお客様からご注文いただいた年賀はがきを配送。

同時にお客様に積極的な声掛け営業を。


 はっきり言います。声掛け営業で、配達先のお客様だけでは目標8000枚は売れません。

一家族が平均的に何枚年賀状を出すのでしょうか?50枚~100枚でしょうか。

間を取って70枚とします。

8000÷70=おおよそ115。

115軒のお客様が70枚買っていただく計算ですが、普段の配達時に115軒のお客様に注文をいただき、それを配送に行くのです。不可能です。

ですので、局員は自分の家族、友人知人、親戚とありとあらゆるツテを使ってなんとか売り上げを確保します。


 その当時、私はそのツテに非常に恵まれていまして、約6000枚ほどはそのツテで買っていただき、残り2000枚を声掛け営業で配達先で買っていただきました。

 殆どの局員はこういう具合にノルマ達成に向けて取り組んでいきます。

一軒辺り50枚から70枚程の売り上げを地道に重ねていくのです。

ですから、100枚~300枚程買っていただけるお客様は班員同士で取り合いなんです。


 そんな中、お客様に声掛け営業を行うと「ごめんね?知り合いで郵便屋さんがいてさあ。頼まれててね。ごめんね」と言った返答も年々増えていきました。


 12月に入っても売り上げ目標に達成できない局員には朝の朝礼で、低成績の局員から毎日営業スピーチが課せられるようになりました。

自分の現在の枚数と、目標達成のためにどう取り組むのかを発表です。

 そして、毎日年賀はがきの携行販売用の年賀はがきセットを渡されて、何件声掛けをして、何枚売ったのか?の営業記録を提出。


 ただでさえ、普段の配達に追われてるのに毎日年賀はがきの営業について、班長や管理者からのプレッシャー。


それに耐えきれない局員がどうするか?


自分で買うのです。

年賀はがきを。


目標達成の為に、局員によっては2000枚3000枚買っていた局員もいました。

これを我々は「自腹営業」「自爆営業」と称していました。


管理者も分かっているんです。自腹で買ってることを。

でも、何も言いません。局内目標枚数を達成さえすれば良いのですから。

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