十七通目 家

 山登りを趣味とする青年が山の中で外れ道を見つけた。好奇心に任せて入ってみたところ、池にたどり着いた。空気はじめじめとして土はやたら水分を含んでいる。足に絡みつく背丈の低い草をかきわけ池をのぞいた彼は思わず顔をしかめた。どんより濁っている。ここは陰気で薄暗い。幽霊なんかが出るのはこんな場所だろうと引き返そうとしたところ、足に何か当たった。

 草を払って見ると、家である。足首ほどの高さの家が建っている。しゃがんだまま顔を上げるとそんな家が草の向こうにずらりと見える。ぞっとして走り出そうとしたがつまづき、池に半身落ちてしまった。無我夢中で振り回した手で何かを掴み水面から出してみると家である。それも周りにびっしり建っているものと同じような。

 悲鳴を上げた青年は後ろも見ずに逃げ出した。それから一年ほど、池から出て来た小さな家が自分の身体を覆う悪夢にうなされたという。

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