#017 その名!規格計画②


 お話タイム!

 恐怖まみれの数分が始まるぜ!

 「——お話とは?」

 

 「——なにか、欲しいものはありますか?」


 すごく真摯な目つき。顧客第一、立派な仕事!!!

 「え、そういうために?」

 「まぁ、単純に奢りたかった気分というのもあります」

 そんな初給料入った大学生みたいな!

 「ですが、それはそれとしてです。リラックスした状態で、自分自身に聞いてみて欲しいんです」

 「はぁ……」

 そんな欲しいものがあるだろうか!

 こんな状態、こんなところで!

 ——しかし真摯な問いかけには真摯に応えねば紳士とは言えないだろう。それこそが真の漢というもの。

 考えねば!考えねば!考えねば!


 しかし浮かばない。頑張れないもんだ。


 「なんだろう……どうしよう……」

 「大丈夫です、時間はあるので」

 確かに時間はある!どんなことも時間が解決してくれますからね……みなさんゆとりを持って生きましょう。

 

 「あ、あの、ご注文……」


 ぶっ壊された店員さんが立っていた。すまない!忘れていた!悩みすぎて!

 「えーとえーとえーと」

 パラパラその場にあったメニューを見る。

 はぁ!学園の一施設にしては普通のカフェくらいにはメニューが充実している!食べログがあるなら星四くらいはつけてあげるぜ!

 しかし多過ぎる気もする。

 こんな時だからかな?

 「えーと、このチーズケーキ……」

 

 「このラブラブ♡恋のベリーソーダ」


 ——晴天の霹靂!!!

 

 そんなことあっていいのか!そんなこと!

 しっかりと彼女を見つめる……目に感情がない!というよりかは、あくまでそこに異常を見出せていないようだ!

 あ、でもちょっとイラついてる。

 早くしろってことだ!許して!

 「チーズケーキ!あとコーヒー!」

 てか俺が先だったろ!おい!なんで俺が悪いみたいになってんだ!クソ!

 「り、了解しましたぁ……」

 今にも決壊しそうな声だった。休憩に入ったほうがいいのではないか?

 

 「それで、決まりました?」


 割と押してくる。そんな押さないでくれ!俺は低反発な人間なんだ!

 「うーん、ちょっと掘り下げてください」

 「お前がやったんだろ」

 「はい……っていやそうじゃなくて」

 「自責の念じゃないんですか」

 「掘るんじゃなくて抉ってるじゃないですか!」

 「これは盲点でした」

 言うことなんだかえげつない。

 最高じゃねぇか!

 「なんでしょうね、例えば自分だけではなく、誰かのことも考えていきましょう」

 「誰かのこと」

 「例えばあの人ああだからああして欲しい、みたいに誰かに対するプレゼント」

 

 ——そうか!

 ——present!!!


 「それだ!!!!!!」

 店内の視線を独り占め!!!許せ!!!

 「——決まったんですね」

 しかしにこやかな彼女。強靭な芯を感じる。話してたらなんかわかったが。

 「でもまだ決まっているわけでは」

 「そうですか……待ちましょう」

 何やらそこから仁王立ちのようなオーラを感じる。この人の方が漢なのではなかろうか。

 にしても誰だろう。

 よくよく考えるとまだ三日だしな。大した人間関係構築できてるかと言えばそんなこともないんだよな。

 クロエ、シャリオ、ニックス。

 三人くらいか。

 じゃあ一体何を渡せばいいのだろう?

 ということで着ぐるみの方を向いてみた。

 二人ともプラカードを掲げている。

 クマはプロテイン。

 ウサギはメガネだった。

 すでにあるものを買ってもらおうとしている!一番つまんねぇだろ!プレゼントが日用品だったこと!

 「はぁ……」

 「すごく落胆」

 「やっぱり難しいですね、自分自身の欲望と向き合うってのは」

 「ですがそれが大事なんです」

 「なにゆえに」


 「——魔術というものには」


 え⁈何⁈今ここでなんかそういうこと話すの⁈じゃあさっきまでの僕の優柔不断っぷりはなんのために⁈

 「魔術というのはイメージこそが本質なんです。ましてや固有魔術に至っては」

 確認のため着ぐるみを振り返る!

 着ぐるみ越しにもわかるくらい呆然としている!え⁈そんな大事な話⁈

 だからか!よくわかりました!許して!

 「そのためにも、しっかり自分が何がしたいかを把握する必要があるんです」

 「そのために……?」


 「いえ別にそういうわけではないです」


 じゃなんなんだよ!

 あんた何がしたいんだよ!

 僕の心だけ掻き乱していきやがって!

 かわいいね♡

 「香薫です」

 「教訓でしょ」

 「ふふふ、間違えました」

 そんな高貴な家でも食べられるのか……俺はシャウエッセン派だったんだが、乗り換えた方がいいのか?

 「それで、どうですか?何か決まりました?」

 「待ってください」

 あんたが変な話持ち出すから脱線しちまった!

 さて。

 いや。

 選択肢はもうあと一つしか残っていないのだからしょうがないんだけど。

 「——コミュ障の友人がいまして」

 「はい」


 「その人のために、何かしらの対策になるようなものを出していただけると嬉しいですね」


 「——なるほど」

 どこか納得したような。しかしどこかしこりが残っているような。

 そんな声だった。

 まぁこの際ほっておこう!キニシスギ君になり続けたら何も食えなくなるからね!

 「どんなものがありましたっけ……」

 何やら真っ赤なポーチを取り出してゴソゴソ漁る!

 赤がトレードマークなんだろうか?髪色に合わせたコーデでとてもオシャレさんだと思います。

 「これだこれだ」

 彼女はポーチからティアラを取り出した!

 またしても真っ赤!そして精巧な細工!お値段以上の価値はありそうなものが!リターンズ!

 「……同じ感じですか?」

 「いえいえ、侮ってはいけませんよ。これはですね……」  

 そうそれなりの大きさの胸を張って、自分の頭に載せる彼女。やはりこんな具合だからこういうもんが似合うな。やっぱり可愛い子は可愛い格好しなきゃね!

 まぁどんな格好も似合うんですけどね。

 ブスは知らん!

 「そして着けました」

 「はい着けました」

 「そして離れます」

 「離れました」


 ——すると何やら彼女に真っ赤なタライが飛んできた!


 「ね?すごいでしょう?」

 そう言いながらつかつか戻ってくる。

 もちろんというべきか、頭には巨大なタンコブができていた!今どきあんなもんそうそう見ねぇぞ!

 「すごいけど!方向性!」

 「とまぁこのように周囲に人がある程度近くにいないとこうなるというアイテムです」

 「はぁなるほど……」

 

 ——確かに立派なアイテムだ。

 ——これくらいスパルタでないとあいつも治らないような気も薄々している。

 ——しかしだ。しかしだしかし。


 「……その友達、溶けたりするんですよ」

 「なんと」

 ほんとに引いた顔!そうだよ!その顔が見たかった!!!普通そうだよ!!!

 「だからこれにぶつかったら爆発したりする可能性もあるんですよね」

 「難儀な方ですね」

 「本当に」

 「しかしご安心ください!ちゃんと痒いところに手が届くものになっています!」

 「なんと!」

 「はい、これどうぞ」

 何やらリモコンらしきものを渡された。

 強弱が記されている。

 おい?

 「これで、何が降ってくるかを簡単に操作することができます」

 「最弱は?」

 「こんにゃく」

 「地味に嫌だな……」

 「最強はサメです」

 「作品が終わるな……」

 ピーキーなきゃわアイテム!

 いいんじゃないでしょうか。

 「確かにいいかもしれない」

 「お値段は五百ゴールド」

 「ふむ……」

 しっかり値段を上げてきた!!!

 商売上手なお嬢さんだ!!!

 着ぐるみの方を見てみると、すでに二人とも五百ゴールド分の硬貨を手にしていた!

 多分ワンオフ品だよこれ!!!

 「……いただきましょう」

 「ふふ、まいど」

 昨日と変わらない、舌足らずな発音。

 毎日でも聴きたいぜ!生活は苦しくなると思うけど!

 その場合は俺が叫ぶだけだ!

 舌足らずに⁈

 「あ、あの〜ち、注文……」

 あ!!!壊れかけのガラスの店員さん!

 忘れてた!ごめんね!

 そんなこんなでチーズケーキとラブラブ♡恋のベリーソーダがやってきた。

 なんとも!情けない気分になります!

 チーズケーキはシンプルなタイプだ。下の土台はクッキー的なものに近い。そして上のみんなが好きな部分は割と硬めのような気がする。

 ジャムなどはかかっていない。代わりにレモンピールの砂糖漬けが乗っかっている。爽やかでいいですね。

 そしてベリーソーダは、紫色の爽やかな気分にさせてくれる炭酸の中に複数のベリー系の果実、さらに紫色のホイップクリームまで乗ってるときた!こういう時にただのホイップクリームで済ませないその根性、かなり豪胆。

 そして何より恋人がよくやってる、ハート型の二人で使う前提のストロー!

 一体パティシエはどんなやつなんだ……こんな学園という閉じた場所でこんなブレイクスルーなメニュー、只者ではない!

 「美味しそうですね」

 ちゃんと両手を合わせて嬉しそうに斜めにさせる。お上品ムーブレベル50!

 「届いたもんですから先にいただきましょうか」

 「そうですね……では」

 そういうと途端に口をあーんと開き始める彼女!

 「……どういうおつもりですか?」

 「私は奢った身ですよ」

 「なるほど……」

 そういうことか……策士だぜ!

 彼女の思った以上にギザついた歯の並びと、妙に長い舌がよくわかる!割と爬虫類系?

 着ぐるみの方を向くと限りなくこちら側に寄っていた!やめなさい!冷やかさないでくれ!いやまぁ俺もそうしてたから何も言えないけど!

 ということでフォークで手付かずのチーズケーキを少しとって、彼女の口に運ぶ。

 すると舌を器用に使ってスルッとフォークから滑るように消された。

 いやぁなんと見事な舌使い。こんな感じの人がキス上手いんだろうか?僕にはよくわからない。

 

 ——しかし冷静になると俺はなんでこんなことをしているんだろう?


 あくまで昨日会った女の人に!食べさせるという奇妙なことを行なっている!マッチングアプリでもないんだからさ!

 しかしまぁこういうこともあるんだろう。世の中の小さな確率をあまり無視してはなりません。

 「やはり、思った通りの飛び越える美味しさ」

 「なるほど……」

 俺と同じ価値観を持っているのか……身体の相性もいいかもしれないね……なんちゃって!ほんとになんちゃって!冗談ですよ!

 「では、口直しといきましょうか」

 なんだその笑みは!

 まるで俺がヘタレみたいに言って!

 そうかもしれないが!

 しかし僕はさっきのことを簡単に乗り越えましたからね!あまり馬鹿にしないでもらいたい!

 「随分と震えていますが」

 「いやァ……別にィ……」

 体温が下がっているのは俺がクールキャラだからだ!ステイ・クールだろ?ユージオ!

 「汗もダラダラ」

 汗が出るのは体温調節をするからだ!ユージオ!俺から離れないで!頼むから!

 

 ——だがしかし、ここで俺は本当に頭を冷やす理屈を立てることに成功した!


 あくまでこれは金銭を通じた関係——いわばギブアンドテイク!

 恋愛というのは互いに無償の関係でなければならないが……しかし今この場を支配するのは買ったものと買われるもの!

 俺の方が優位なんだ!俺こそが!今この場を支配するべきなのだ!うん!そうだそうだ!

 ということで嘘みたいに落ち着いてストローに向かう。

 するとすでに彼女も口に加えていた。

 

 ——二人で同時に息を吸い込む。


 うん!!!甘酸っぱい炭酸に果実のフレッシュ感、ホイップクリームのコクまで加わってあと引く美味しさ!みなさんお試しを!


 ——すると突然、何やら爆発音が聞こえた!!!

 

 方角を確認すると、そこにはピンクの頭から煙を出している最も遠い少女がいた!!!


 忘れてた!全然クールになれてない!

 だから主役?

 照れること言うなやい!!!

 失敗は失敗?

 それは本当ごめんなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る