#016 その名!規格計画①
あれから色々あって戻ることになった。
なんだかんだでレクレーションは平和に終わったが、しかしあのバク転くんは随分と落ち込んでいるように見られた。
「どしたん」
「……魔族について言ったんだ、そしたらそんなもんいるわけないだろ!チンカス!って」
「えぇ……」
口悪いなうちの教師!あんなのが教師でいいのか!と思ったが命綱は彼らによって握られているのだ。無理に反抗しようものなら全面戦争待ったなしだろう。
「……てか君たちはどうしたんだ」
「あれと釣りをして魚を食った」
「マジかよ」
「あんな甘いとは思わなかったよ」
「コリコリしてました」
「それ魚か……⁈」
困惑しまくるバク転くん。
君がストレスで死なないかどうかが俺の気がかりだ。
「——今回のレクレーションはこれで終わりとなります、みなさん後はしっかり休んで、明日から始まる通常授業に備えてください」
ということで解散になった。
いやぁ!疲れたね!こんな調子だったら仕方ないと思うんだけど!!!
「これからどうする?飲む?」
「無理だよ⁈」
ニックスはピンピンしている!俺はお前が一番今怖い!
「流石にやめましょうよ、ハセベさんも疲れてるようですし、クロエさんに至っては」
シャリオが下を指差す。
——するとそこには紫色の水たまりが広がっていた。
「うぅ……」
「うわ喋った!」
てか溶けてる!
こいつ人間じゃないのかもしれない。ニグルーに連れて帰ってもらった方が良かったか?
「見る限り、疲れから溶ける毒成分を自分自身に循環させてしまったかと」
「なんでそんなこと」
「胃腸炎みたいなもんです、自分がストレスを感じると病欠できるようにする」
「これ一生実験施設じゃねえかな」
「まぁいいや、もう今日は各々休もうぜ」
ニックスはそう明るく言いながら、スポンジにクロエを吸わせていた。
——するとスポンジがやがて人間大に肥大化し、そして動き始めた!
「ヒ、ヒト、コワイ……」
「お前のがこえーよ」
そんなこんなでみんなして別れることになったので。
俺はとっとと部屋に戻った!あんな目にあったらみんなそうするでしょう⁈僕間違ってる⁈
しかしベッドに寝転がって天井を見つめていると、どうにも考え事をしてしまう。
自分が世界最強の殺し屋になって世界最大の犯罪組織と戦ったりとか、竜騎士になって悪の魔導士と戦うとか……いやこんな寝れなくなること考えるべきではない!
すると右手の人差し指が光ったような気がした。
——真っ赤なよくできた、おもちゃの指輪。
そうだ!これの代金を払わねばならぬ!
ということで財布の中身を見てみた。
お札がそれなりに入っていた。しめて何ゴールド?なんかもう疲れ切って考えることさえままならぬ!まぁ足りるだろう!おもちゃなんだから!
ということで翌日になった!
とにかく彼女が現れるのを待つために俺は彷徨わねばならなかった!
ちょうど授業は午後からだから、九時という微妙な時間にほっつき歩くことができた!
しかしなんだこれ!
「なんだなんだそんなに堂々と」
「何か言いたいんですか」
ニックスとシャリオまでついてきた!こち亀のオープニングじゃないんだから!
「探し人」
「男?」
「女?」
「アキネーター?」
「でもなんだお前、そんな入学して三日でそんな探す人ができるとか」
「ワンナイトラブしたんですか」
「違うよ!この人だよ!」
俺は光り輝く真っ赤な指輪を見せた!
「なんでそこなの」
「ちゃんと薬指につけてくださいよ」
「違うよ!代金!」
「「あ〜」」
興味のなさげなビブラート!そうかもしれないが!俺にとっては大事なんだよ!
「なんだそんなことか」
「帰ります?」
「じゃあ帰りなよ……」
「でもなんだ、その妙に勿体ぶった感じ」
「なんだか波長を感じますね」
「なんなんだよ!めんどくさいな!」
「とりあえず付いてくか」
「そうですね」
「そう……」
ということで二匹のポケモンを連れ回す形になったんですけど。
一向に現れない!
なんなんだ!そんなにおひとり様しか相手にしないってんのか⁈普通に女子の集団とか狙った方が利益出るんじゃねぇの⁈こういうの!
サン宝石を見習いなよ!
ということなんですけども。
しかしまぁこういうことになるとどうにも。
「出ないな」
「相手はなんなんでしょう、タヌキなんでしょうか」
「それ復讐だろ!」
あのタヌキは降りれたのかが気がかりです。
「にしてもおかしいな、代金なんてさっさと払って欲しいはずなのに」
「そんな道楽でやってる方なんですか?」
「うーん」
道楽でやってるように見えるほど艶めいているわけではなかった。
だがしかし本人から漂う妙な商売気のなさ。
それはまぁ、うーん?どうなんだろ……?
「ほんとに悩むじゃないか」
「昨日の思い切りの良さはどこに」
「よくわかんない人だから!」
「「ニグルーもよくわからんよ」」
「正論やめてくれよ!」
あの変人。
今日もミミズを食ってるんだろうか?
「ほんとにどういうことなんだ……?」
「とりあえず俺らは隠れるとするか」
「そうですね」
「思い切りがいい」
「「撤収!」」
即座に消えた!
ニックスはともかくシャリオも⁈
「——賑やかな方々ですね」
「うわっ!」
するとまるで待っていたかのように、物売りの人は現れた。
相変わらずその瞳はどこかギョロリと、こちらを見透かしたかのように見つめてくる。
「わたくしを、呼んだでしょう?」
そうニコニコ笑う。こういう時にも優雅さがある。いやぁ、気品がありますね。生まれ持ったものなのかな?
「聞いてたんですか?」
「ええ、大体」
「……にしてはあまり感じなかったというか」
「ふふ」
「いや、あの」
「ふふふ」
笑って返された!なんだよ!何かあるだろ!
しかし許そうという気分になってしまう。
これが女性の魔力!
「……とりあえず代金払わせてもらっていいですか?」
「ええ、どうぞ?」
そう言って両手をこちらに出してきた。まるで何かをそちらから差し出すかのように。
ということで二百ゴールド、硬貨で十分だった。
「ふふ、ありがとうございます」
思っていたよりもよく笑う人だ。
いや!多分これは相手の販売戦略だ!乗りに乗ったらこっちの負けだ!
でも負けたところでそれなりのおもちゃ買わされるだけなんだよな……だとしたら別にそうでもないか?
「——お時間ありますか?」
そう突然言われた!すごく滑らかな声!スルッと耳に来て、脳に快楽をもたらし、そしてそのままスルッと抜けていく!
いい酒みたいな声だ。飲んだことないけど。
「ええ、まぁ午後一時からなので」
「ちょっと付き合ってくれませんか?奢るので」
「はぁ……」
おい待てよ?
奢る?
今代金もらった状態で⁈
「え⁈大丈夫なんすか⁈それ!」
「——元々、大した商売ではございませんので」
「上からなんか言われたりとか——」
「別に。私はあくまでずっと個人ですよ?」
我が社の技術とか言ってなかったっけ?
——いや俺の聞き間違いか!そういうことにしようよ。
「……いいんですか?生活とか……」
「別に生活には困ってませんよ?」
「そうなんですか⁈」
その割には随分みすぼらしい格好。
いや単純にファッションに対する興味がないだけか?じゃあ安心?
いや別にそういう観点からの話じゃないぞ!
「わたくし、ちょっとしたシェアハウスにいるんです」
「シェアハウス」
よくある話だ。芸人とか留学生とか。
なるほど!この世界にもあるんだな!そういうことが!納得!します!
「じゃあ、諸々の心配はいらないってことですか?」
「そうです。遠慮なく奢られてください」
そう例の笑顔で見つめてくる……こちらも笑い返すしかない!長谷部ほほえみ返し!
「それじゃあいきましょうか、この学園にいいところがあるんです」
「なるほど……」
俺よりも、知っている!
そうか!年上なのかもしれない!
だからだろう!この包容力!納得!リターンズ!
ということで彼女に連れて行かれることになった。
ぼったくりバーに連れて行かれる可能性もある。そういう手口もありますからね。
しかし学園の中にそんなのがあるか?
あるかもしれないだろ!!!
時々後ろを振り返ってみる。
着ぐるみのクマとウサギがのしのし付いてきていた!尾行にしては新時代が過ぎる!
怖いのか!新時代が!
普通に怖いです。
「——どうかしましたか?」
こちらを覗く売り子さん。
しかしなんだ、その瞳は——先ほどまでの見透かしたような視線に、一つの鋭さが見えた。
——知っている!わかっている!多分!
しかし僕は何も言えない。怖いですからね。この人。
結局何が目的なんだ?
てかなんで俺をこんな風に連れ回す?
「——なんで俺を連れ回すんですか?」
「ふふ」
またしても五里霧中!
いいんじゃないかしら、ここまで心を震わせられるんなら。
やがて辿り着いたのは、綺麗なカフェテリアだった。
いやほんとに綺麗だ!ガラス張りの壁で!普通に中が見えるぞ!
何やら勉強しているピンク髪の人も見えるからな。
——え⁈
——あ!!!クロエだ!!!
「え、ほんとにここでいいんですか?」
「——なにか、不都合でも?」
しかしなんだろう、どこか声に棘がある。
なんだ、そんな僕の顔がだめなのか。ということで手鏡を取り出して顔を見る。
ニキビができてる!!!
そういうことか⁈いやそれならさっさと言いなよ!あんなジロジロ笑顔で見つめるならさ!
「いえ、なにも……」
「ならいいですけど」
別に何事もなかったようにするが、しかしその声には機嫌が一回転したときの反動がしっかり現れていた。
怒らないでよ!じゃあさ!
後ろから堪え笑いが聞こえる!あいつら性格悪い!
だから友達なんでしょうけどね。うん。人のこと言える性格してないし。
ということで入店だ!
「お二人様ですか?」
なんかなんも考えてなさそうな女の子の店員さんが出てきた。
あんな風に生きていたい。
「はい」
「見ればわかるでしょう?」
ヒエ〜!!!
店員に対して当たりが強い!男だったら見限っていたがしかし女だ。許す。
「こ、こちらの席にご案内します……」
めちゃくちゃハートブレイク!可哀想なことをしてしまった!
そんでテーブル席に案内された。
——ちょうどクロエとは一番距離の取れた席だった。ラッキーだったといえるだろう。
「どうしたんですか?そんなお顔で」
心配そうに見つめてくる彼女。正直に言うべきか⁈
「……その、結構強気に出るんだなって」
「あ、あぁ、それですか……」
なんかまるで図星だったというか。まるで前々からわかっていたかのような。
ちょっとちょろまかした金がバレた時のような反応だ。
「……あまりこういうところに来ないもので」
「はぁ……」
やはり元は高貴な血筋の方なのだろうか。だとしたらちゃんとしたお茶会とかしかないのかな。そういう機会。
「——それでは、話を始めてもよろしいですか?」
嗚呼!
やはりそういうことか!!!
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