#014 魔族が出た!④

 前回までのあらすじ!

 角の生えた釣り人が出た!

 「あ、あ、あ……」

 満身創痍の人は転んだ状態でビビってるもんだから、なんかブリッジみたいな体勢になっていた。背骨折るよ。

 「お、おいなんだあれ……どういうことだ?角が生えてる」

 「触るか」

 「ありがとうございます」

 普通に触るニックス!そして別に満更でもないニグルー!なんだこの空間!

 「割と滑らかだった」

 「磨いているからな」

 「ってそうじゃないよ!なんなの!あんた!」

 「え?いや、そんな驚くことですかね?」

 何やらどうでも良さげなシャリオ!

 化け物以外どうでもいいのかこいつ⁈

 「——私が何者か聞きたいのか」

 「いやそりゃそうだろうよ」

 「私は釣り人だ」

 「それは見たらわかるよ」

 「そして魚を探して回っている」

 「辞書じゃないんだから」

 「なんだ、じゃなんだ」

 ほんとによくわかってない感じの声!

 「お前角があるだろ!人間じゃないんだろ!」

 「あぁ、そういえばそうだな、私は魔族だ」

 「魔族⁈」

 な、なんだそれは!

 誰か説明して!僕携帯ないんだから!


 「——聞いたことがある、地下に潜み、そして時々人間のところから食べ物や宝石などを奪っていく謎の存在——それが魔族」


 クロエが魚を知らない人とは思えないような口調で詳細に語る。

 なんなのさ、もう。

 「借り暮らしのアレかな」

 名前の割になんか随分と慎ましやかというか、格らしきものが見当たらないというか。

 「まぁそんなところだ」

 心底どうでもよさそうなニグルー。釣竿の手入れを始めた。ここまでアイデンティティのあの字もないのはすごいぞ!

 「——つまりなんだ、あんたは魚を得るためにわざわざこんなとこにいるってわけか」

 「そうだな」

 「——釣った人間をどうしたんだ」

 「それならこっちだ」

 踵を返してずんずん進んでいくニグルー!心なしかさっきよりも機嫌が良さそう!歩きながら跳ねてる!

 「とりあえずついていくか」

 「……そうするしかないよな、今は」

 ということで四人で追いかけて行った。

 満身創痍の人?

 ついに後転をして森を下っていった。すごい進化だ。


 やがてニグルーが立ち止まったので、そこでこちらも立ち止まった。

 「一体ここに何があると言うんだ」

 「上を見ろ」

 「上?」

 

 ——するとそこには、気に吊るされている学園の同級生たちがいた!


 「うへ〜」

 「なんかヌルヌルするよぉ〜」

 「苦くてくさぁい」

 「一体何をした⁈」

 「簡単なことだ、釣りをしている」

 「これが⁈」

 

 「——魚は山に出る、そのために餌を置いているまで」


 ?????????????


 まずい!頭が真っ白になってハテナマークしか書けなくなってしまった!

 「……魚は、水辺にいるんだよ?」

 「「「「な、なんだってー!!!」」」」

 俺以外みんな驚く!

 どういう了見でこれまでタンパク質を摂ってきたというのか!

 「はぁ、てかそもそも魚ってなんだよ」

 「そうですよ」

 「こっちが知りもしないことを物知り顔で」

 「なんで俺が悪いみたいになるの?」

 無知とはここまで人を愚かにするのか!

 「なんなんだよ!なんで魚しらねぇんだよ!」

 「俺は高山地帯の生まれだからそもそも川がない」

 「私も似たようなものです」

 「あの屋敷からあんま出てない」

 「ダメだこりゃ!」

 

 「なるほど——そういうことだったんだな、散々動物を吊るしてきたが、そういうことか」


 ニグルーは納得したように、吊るされている人たちを降ろし始めた。

 「「「ゲェップ♡」」」

 全員何やら艶やかなゲップをして去っていった。

 何を飲まされた⁈何を飲まされたんだ⁈

 「ならば、どうすれば魚を釣ることができるんだ」

 「え、いやそりゃ水辺に釣竿を垂らして」

 「なるほど……」

 真面目にメモをするニグルー。真面目な人ではあるんだな。なんかおかしいだけで。


 「——では、つまり水辺に行けばいいんだな?」

 「そうだよ?」

 

 至極真っ当なことを言う。

 そんなに地下に水がないのか⁈

 こんなファンタジー世界で環境汚染起こってんのか!末期!

 

 ということで全員で近くを散策して、そしてやがて水辺を見つけた!

 魚たちが、元気に泳いでいます!何の魚だろう、イワメかな、ニジマスかな。

 「はぁ……これが魚」

 「思ったよりもシャープですね」

 「こんなのが食えんのか?」

 意気揚々とする三人。日本人としてはまさに未知の光景を見ている感覚になる。

 「——そうか、そうだったのか——」

 

 ——彼女の瞳からは、雫が垂れていた。


 「そこまでして、探していたのか」

 「こんな風にして、魚は——」

 感動的な場面である。いやそんなに探しているんだったらもう少し何とかならない?という話なんですけど。

 「……とりあえず釣ってみたら?」

 「あっちに千ゴールド!」

 ニックスが叫ぶ!

 「「わ〜」」

 クロエとシャリオがそちらに走る!馬鹿!

 「そうさせてもらおう」  

 ニグルーが釣竿の糸を垂らす。

 

 ——そして数分が経った!


 「ぐぅ……」

 寝息を立てるニグルー!そんなんで釣り人が務まるのか⁈

 「起きて!起きて!まだ!」

 「んぁ」

 「寝ちゃだめなんだよ」

 「なんと」

 釣りというのは時間がかかるものだ……諦めてはならない。

 ということで再び糸を水面に垂らす。

 

 ——やたらと水面が揺れる!

 

 「いけるよ!いけるかもよ!」

 「しかし魚はいないが」

 ——よく見るとニグルーがやたら揺れている!随分と細かい揺れ!携帯じゃないんだから。

 ——貧乏ゆすり!!!

 「やめなよ!魚逃げるよ!」

 「なんと」

 もはや駄目かもしれない!

 魚はおろか空き缶さえも釣れないんじゃないか?こんな状態では。

 「とりあえずもう教えていいですか」

 「なるほど、頼む」

 「それじゃこれ貸して」

 ニグルーの釣竿を受け取る。やたらと長い。釣竿なのかこれ?物干し竿の方が正しい職場なんじゃないのか?

 

 ——しかし受け取った途端、地面に落としてしまった!

 

 そして河原にヒビが入る。初めてだ!砂利の中に穴が空いている様子!

 「——これ何でできてんの?」

 「魔族の世界にある鉱物、軽くて丈夫」

 「魔族からすると軽いのか……」

 「いい品なんだが」

 これで俺は教えられるのか?

 ——しかしこんなところで諦めてはなりません!僕は主人公だから!強く心を持つ!筋肉もそう!悲鳴をその過程で上げさせて強くさせねばならないが!

 プルプル震えながらそれを持ち上げる。

 「まずここに餌をくっつける」

 「餌がいるのか」

 そこからか!

 「そりゃただ振り回してるだけじゃ寄ろうとしないでしょ」

 「そうか?」

 「そうなのか?」

 あまり気にしたくない話!

 「何か餌になるものない?」

 「これとか」

 なんかでかいものを片手に持っている。毛玉みたいな物体。

 「なにそれ」

 「タヌキ」

 「まじかよ」

 釣り人やめて狩人になった方がいいんではないだろうか。適材適所で働くのは大事だよ。

 しかし狩人と物干し竿のコンビ。

 何をどう行うんだろう?

 「もっと小さいのくれよ」

 「ミミズ」

 「筋がいい」

 なんかちゃんとした生徒に教えている気分だ——だんだんと勘そのものを鍛えていっている感覚というか。

 「じゃあこのミミズを針先に引っ掛ける」

 「なるほど」

 「そしてこれを水面に静かに垂らす」

 「ふむ」

 「あとはこれに魚が来るのを待つだけだ」

 「よくわかった」

 よくわかってなさそうな返事!

 ちゃんと成長は感じられる。だがしかし訓練始めて一週間の新米を戦場に送れるだろうか?

 「とりあえず俺がまず何とかしてみるよ」

 「よろしく頼む」

 ということで僕が先んじて釣り人になりました。

 

 ——しかし!天はまるで俺を見放したように!何も与えてはくれない!!!


 「どうしたんだ、釣れないぞ」

 「そのうち釣れるはずだ、そのうち」

 「本当か」

 疑われ始めた!めんどくせぇ!どうしよう!

 「釣れるはずなんです……ほんとなんです」

 「ぐぅ」

 「ここで寝るか!」  

 焦っている人を横目に!

 魚が好きなだけで釣りは好きじゃないんだろうか?なんか少しそんな気がしてきたぞ。

 

 ——しかしそんな時震える竿!


 即座に引っ張り合いが始まる!しかし何だこの!思った以上に相手の力が強い!魚のくせに!人間に逆らうつもりか!クソ!

 負けられん!いやこちらが色んな意味でアウェイすぎるものの!しかし人として!

 「おおすごいすごい」

 「他人事!」

 これで人と魔族の壁だというのか!

 こんな形で確認することじゃねぇだろ!

 「ギギギギギ!!!」

 引きます!引きます!

 

 ——しかし見事に魚は餌をとって水面から消えていった!!!


 なんて奴だ!人の努力を下等生物の分際で無碍にするというのか!なんてこと!

 「逃げたのか」

 「いや!まだ!まだ何とかなる!だから俺を信じてくれ!」

 「目が血走っているぞ」

 「まだだ……まだなんとかなる……」

 

 「——こうやって少しずつ集めるからそんな苦労するんじゃないのか」

 

 「はぁ……」  

 なんだろう?網でも出すのか?だとしたらそうしてハッピー!こんなに血走ることもありません……。


 「範囲を広める」


 なんだ⁈

 何やら地面に、波紋の紋様が描かれていく!どこから出ているのかを確認する!

 ——ニグルーから出ている!

 てかなんだ!空も模様に覆われているように見える!おしゃれな天井みたい。

 てかだいぶ囲まれてる!結界みたいだ!

 ——まさか!

 ——これが魔族の持つ魔術だともいうのか!!!

 「え⁈何⁈なんですか⁈」


 「——『糊流泡影バルベイア』」


 ——何やら紋様が光り輝く!!!

 

 ——すると何やら体が地面に沈んでいく!

 地面が急に液状化したのか⁈と思ったが、そこにあるはずの砂の感触などがない!まるで地面そのものが水と化したかのようだ!!!

 

 ——まさか、あの囲んでいるように見える紋様が、それを引き起こしたというのか⁈


 「それでは私は魚を取りに行ってくる」


 そんなこと言いながらスイスイと完全な液状と化した地面をいくニグルー!

 「おい待て!なんだこれ!固有魔術か⁈」

 「ああ、そうだが」

 「そうか……いや納得できない!」

 「魚を取れば戻る」

 「元に戻せ!」

 「それはできない」

 「なんで!」

 

 「これは私の欲望の具現化。その欲望を完遂できねば収まることがない」


 なんだよそれ!これ自体がいわば本人の心情風景とでもいうのか!結界らしいな!

 「だったら待て!俺も行く!」

 「そうか、心強い」

 「がんばります」

 あくまでピュアに返してくるから、どうにも強く反論できない!

 

 「な、なによこれ~」

 「しずぶっ!じずぶっ!」

 「ハセベーもってくれー!」


 ニックスがクロエとシャリオを抱えて現れた。

 そういえばこいつらさっきまで消えてたんだよな……ほんとにあの嘘に合わせて明後日の方向に走っていたのか!熱血馬鹿にも程があるだろ!

 「これなんなんだ、何がどうした」

 「ニグルーの固有魔術だ、よくわからないがとにかく魚を取らないといけない」

 「なるほどなぁ、ヘンテコなんだな」

 「ほんとにね」

 「置いてくぞー」

 そう言いながらジャバジャバ前に進んでいくニグルー!


 ——教えるの、素潜りの方が良かったんじゃなかろうか?


 ——俺のミスだ!ケツ拭かなきゃ!

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