#013 魔族が出た!③

 まずい!どんとん机にめり込んでいく!なんとかしてやりたいがそしたらまたパンデミック!

 備品なら壊れても大丈夫、ということにしましょう。

 てか周りでは次々とグループができていく。

 どんどん隙間が空いていく!

 「まぁ私たちはなんとかなるとして」

 「問題はあれだわな」

 ついに机を真っ二つにするレベルでめり込んでいる。そんなもん極めんでええねん。

 「どうするハセベ」

 「う〜ん」

 無理に背後から近づいてもあぁなるんだもんな。だとするともはや出来ることはひとつしかない気がする。

 「あいつは俺の親みたいなもんだ。俺がどうにかしなくちゃ」

 「ヤングケアラーみたいですね」

 「悲しき現実」

 あんまり社会問題を出すな!こんな作品が社会派になっていいことなんてないよ!

 ということでそろそろと近づいていく。

 しかしここで大事なのは、あくまで正面から行くことだ。

 正面突破こそが一番の近道なのだ!

 

 「クロエ」

 「——何よ」


 まるで気丈なお嬢様のような声と態度!しかし目はマグロ並みの速度で泳いでいた。吐くぞそんな状態。

 「お前の力が必要なんだ、こっちに来てくれ」

 「ふん、まぁあんたみたいなのには私レベルの秀才がついてないといけないわね」

 「じゃ来て」

 「待って……足が震えて……」

 「肩もつよ」

 「ごめんなさい……」

 威厳はどうした!もうちょっと保て!

 「ということで連れてきました」

 「大丈夫ですか?今にも折れそうですけど」

 クロエの細い足が今にも折れそうなほど震えている。高周波ブレードってあんぐらいなの?

 「まぁいいや!四人で頑張ろうぜ!」

 「……ッス……」

 すげぇ小さい声で素早く会釈した!情けなさがすごい!もうちょっと頑張れ!ほんとに!

 

 「——ルールは簡単、魔物をグループで十体狩って、何かしらの証拠を待って帰ってきてください。魔物の種類は問いません。あくまで今回は皆さんに協力してもらうことが前提ですので」


 「はー」

 「なるほど」

 「みなさん、頑張りましょう!」

 「……ウッス」

 なんでセリフ並べただけでもこんなにわかるんだよ!

 心配になるよ!ヒロインだろ!

 

 そんなこんなで学園の出口にみんな集まることになった。

 しかし思った以上に生徒が多い。さすがは魔術学園。

 「それでは皆さん、今から開始しますので、順番に並んで出て行ってくださいねー」

 そうやってみんなゾロゾロと外に出ていく。

 まぁ、そんな時間のかかることでもないだろう。

 あくまでレクレーション、そんな大した存在が出てくることもなし。

 さっさと帰って寝ようぜ!俺昨日あんま寝れなかったんだ!正直なところ!


 ——そして十分後。

 俺たちはそこそこ森の奥深くを歩いていたが、しかしまぁ——。


 ——全く魔物は出てこない!!!


 「どういうことだ……もう俺抑えられないよ」

 「血を!私に血を!」

 「ヒィ……」

 「忙しいなぁ……」

 普通ああいうことをこちらに要求するのだから、あくまで弱いのがハエみたいに寄ってきて、そしてそれを狩る、というのが当たり前の話だが。

 しかしハエが全く来ないとは、予期せぬ事態です。

 ニックスの筋肉はもはや爆発しそうなほどに膨張し、シャリオの目はなんだか血走っている!

 そしてクロエはガタガタ震えている!

 ダメだこりゃ!

 

 ——だがしかし?なんだ?何か理由があるはずだ!どんなことにも……。


 ——何かが頭をよぎる!


 ——前にもこんなことがあったからか?

 ——あ!思い出した!しょうもなくない方!


 俺はクロエの傍に来て、肩を抱いた。

 「——お前だな」

 「ヒッ!!!」

 「ちょっと待ってください!言いがかりがすぎますよ!」

 「そうだぞ!彼女怖がってるじゃないか!」


 「——こいつの固有魔術を知ってるか」


 「え?」

 「知らないけど……」


 「こいつの固有魔術は毒。そしてそれにより通常のレベルの魔物はすぐに死ぬことを察知するから、近づかないんだ」


 「な、なるほど……」

 「確かに……そうですね……」

 二人のクロエを見る目がどんどん切ない感じになっていく!

 「うぅっ……ひっく、ひっく……」

 ついに泣き出してしまった!

 仕方ない、ということで抱きしめてあげた。

 「ごめんね……言いすぎて……」

 「……私の方こそ……」

 「DV彼氏かな」  

 「いやですねぇ」

 「仕方がない、それなりに強い存在を探してそいつをぶちのめすしかない」

 「森燃やしますか」

 「そうだねぇ」

 「過激すぎない?」


 「——その必要は、ない」

 

 突然会話の流れを切るように鋭い返事!見てみたらクロエだ!お前情緒不安定じゃない?

 「「そうなの?」」

 「……あ、そうなんです……」

 「維持しろよ」

 「ワタシノドクハキシャクスルコトガデキテ、ソシテソレヲコウスイノヨウニスルコトモデキル」

 ボソボソ喋りすぎて全部半角に聞こえる。

 この人ほんとにどうやって生きてきたの?

 「なるほど……」

 「じゃあなんでさっきまでやらなかったんです?」

 「……前に出るのが怖くて……」

 「そう……」

 「戦いましょう、それが私たちの存在証明です」

 「もはや戦闘民族しか思えなくなってきた」

 「それじゃあ、やってみます」


 クロエから紫色の煙のようなものが立ち込めていく。あたりが紫色!なんか怪しい店みたいになっちゃいました。


 「な、なんだ、この気持ち……戦いたくて仕方ないぜ」

 「今こそ普遍魔術の真髄を見せる時……!」

 「そっちにも聞くの⁈」

 「いじめる?いじめる?」

 「みんなわかんないよそのネタ……」

 怯えるクロエ。そこまで弱いからそんな魔術に目覚めたんだろうか?生命の神秘を感じますね。

 するとどんどんと魔物の群れが四方を囲む!ゴブリンとかスライムとかキノコのやつとか、まさに百鬼夜行!わぁ!

 「やりますか……」

 「ゲッゲッゲ」

 もはや二人が悪鬼みたいな表情をしている。こんなんでいいんだろうか?

 「オラァ!」

 ニックスのパンチが炸裂する!小さい魔物の群れは即座に吹っ飛んで爆発していった……え⁈爆発すんの⁈

 「『ヘルフレイム』!」

 シャリオの魔術が彼女の前方を燃やし尽くす!魔物も完全に燃え尽きたが、しかし悲しきかな、ぺんぺん草ひとつ残らない。焼畑農業でもここまで荒野にならないと思う。

 そのまんま暴れる二人!

 こんなんが仲間で俺の活躍は期待できるんだろうか!ちょっと不安になってきたぞ!

 ということであれだけいた魔物の群れも一気に少しの骨を残して消えてしまいました。

 いやぁ!早く終わったから定時で帰れるね!

 「あ、あれは!」

 クロエが再び怯える!なんだ!なんかチャラいグループでも現れたのか!


 ——そこにいたのは、巨大な影だった。


 ——人のようでもあり、しかしその姿は獣のようでもある。

 ——牛の頭に、人のような肉体。

 ——ミノタウロスだ!!!


 「おっとぉ、大物のお出ましか」

 「焼肉にしてあげましょう……」

 「ノリノリだね……」

 しかしでかいぞ!まるでビルみたいだ!こんなとこに建てんな!違法建築!

 「ちぇぇぇ!」

 ニックスが突っ込んだ!

 しかしその大きな手で抑えられた——やはりか、流石に奴の怪力にも限界があるのか、面積の問題か、強い!強いぞ!

 そしてそのまんま吹っ飛ばされてしまった!あぁ!やはり!

 しかし少し擦りむいたくらいの感じで起き上がってきた。

 「……なんとかなるか……?」

 「まじ?」

 果てなき挑戦スピリッツ。

 人生ボウケンジャー。

 「魔術でなんとかします!」

 シャリオが少し長い詠唱を挟んで、放つ!

 「『ファイアレイン』!!!」

 火の玉がミノタウロスに落ちる!落ちる!

 しかしなんだ——体に触れるたびに炎がすぐに消えていく!なんだ!そういう耐性でもあるというのか!!!

 「なんと……あくまで私は炎を突き詰めただけ……」

 「他のは⁈」

 「涼しいくらいの風を吹かせる魔術……」

 「生活の知恵!」

 ミノタウロスがなんかイラついたのか、シャリオを弾き飛ばした!

 木を三本くらいぶっ倒しながら飛んでいくシャリオ!

 「シャリオ!大丈夫か!」

 「やはり猛者は違いますね……」

 そんなこと言ってニックスと同じように立ち上がってきた!チャレンジャーすぎる!僕の仲間たち!

 

 「——どいて、これは私の責任だから」


 クロエが先陣を切る!ちゃんと鋭い声。流石の見栄切り!

 「やれるのか!クロエ!」

 「わかんない……」

 「そこはちゃんと言いなよ」

 「ブモォォォォォォォォ!!!」

 ずっと待たされたせいか、プッツンしたように全速力で走ってくるミノタウロス!お前もお前で大変だな!こんなギャグに巻き込まれて!

 

 「——最大出力」


 そう言うとクロエはミノタウロスの腹筋に見事に掌底を喰らわせた!

 しかし音もない——果たしてこんなのでダメージが入っているというのか⁈


 ——すると。


 ——音もなく、ミノタウロスがだんだんとドロドロに溶けていく。

 ——それは骨も肉も同時に、まるで元々そういった形だったかのように。

 ——そのうち水のように透明な液体が、それの生きていた痕跡として、そこに在るだけだった。


 「「すごい……!」」  

 目を輝かせる二人!やめろ!絶対ろくなこと考えないだろこいつら!

 「で、でへ、でへへ」

 お前もお前だろ!なんだその生々しい照れ笑いは!

 「それに比べハセベは」

 「何もしてませんね」

 「それは!」

 「そ、そうよ……」

 「お前だけには言われたかねぇ!」

 「ひどいことを言う」

 「所詮はベラベラの実の口だけ人間」

 「だいぶ鋭い罵倒じゃない?」

 まぁ俺が集中砲火を喰らっているが、まぁなんとかなったと思ってよろしい。

 あとは破片拾って帰るだけだ!

 楽な仕事!


 「——はぁ、はぁ、はぁ……」


 するとおそらく同学年の奴がふらふらになりながら現れた!

 そしてそのまんまこけた!満身創痍、何かがあったのか!

 「な、なんだ!何があった!」

 「——釣り人だ」

 「釣り人⁈」


 「——釣り人に、俺の班の奴らがみんな釣られちまった!」


 「え!」

 「なんと!」

 「そんな!」

 ちゃんと驚く他三人。よかったよかった。


 「「「……釣りって何?」」」


 俺と彼はずっこけた!一方は満身創痍なのに!

 ——釣り⁈

 ——な、なんだこの感触は!

 ——忘れたくなかったこと!忘れられもしないこと!日本人に生まれた証!!!


 「……がっ、あぁっ、ぐあぁっ!!!」

 「ハセベ!」

 頭が割れるように痛い!なんだ!そうか!そういうことだったんだ!全ては!


 「——魚だ!!!」


 「「「魚……!」」」


 数秒間の沈黙。


 「「「……魚って何?」」」


 三度目に転ぶ満身創痍の彼!踏んだり蹴ったりが過ぎるだろ!

 

 「——知っているのか、おまえ」

 

 するとこんな状況下で、何やら声がする!

 どこか冷たいが、舌足らずな発音。

 なんだ……どんな奴なんだ⁈


 「——ならば教えてもらおう」


 なんか地面から角が生えてきた!!!

 そしてやがてそれは、人間のような彼女のものだとすぐにわかった。

 

 ——真っ白な髪をショートヘアに切りそろえている。瞳はどこか爬虫類のような、人間とは全く違う瞳孔を持っていた。

 そして何よりも、その曲がった立派な角が、彼女が人間とは別物の存在だと言うことを示していた。

 そして同時に背中に背負っている随分と長いその釣竿も、同時に彼女が釣り人であることを示していた!!!


 「お前、何者だ」

 

 「ニグルー=バルベイア。魚を知っているなら、教えてくれ」

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