#012 魔族が出た!②

そんで俺もさっさと気絶した!

 目が覚めたら何やら真っ白な服装をした人たちが何かしらを散布していた。

 いや、こんな学園だからそういった方々がいるのはわかる。しかしどうにも現代的な服装と装備をしていた。結局この世界がどこまで科学が発達しているのか、未だわからない。

 知ったところで俺には何もできない!なろう系の主役にさえなれない!

 「君たちがやったの?」

 ニックスとシャリオが先に起きていたせいか、何やら尋問を受けていた。許してやってください。

 「……いや、そのですね……」

 「そのじゃない」

 「はい……」

 なんて厳しいのだろう。あいつを吊し上げればいいだけなのではなかろうか?

 そうはさせない良心があるのだ!

 なんでいい人たちなんだろう。

 当の本人はどうしているのかわからないので周囲を見ると、何やら天井に張り付いているのが見えた。

 十字架刑みたいな感じではっついてる!

 死ぬの⁈

 え⁈もうこの作品終わり⁈

 「——こわいよ〜」

 いや元気そうに呟いていた。もはや何が起こっているのかわからん……これが毒魔術だというのか?

 

 そんなこんなで一時間くらい空き時間ができてしまった。

 大講堂のドアの前に集まる三人。

 さてどうしよう。

 「いやぁ絞られたね」

 「ええ」

 ニックスとシャリオはケロッとしていた。こいつらメルドットの件の時も思ったけど割と図太いな?

 「にしてもまさかあそこまで爆発するとはな」

 「……きっと、なにかトラウマがあるんですよ。きっと人にも言えないくらい……」

 「そうかぁ?」

 「そういう考え方が!弱者を追い詰めていくんですよ!」  

 「……ごめん」

 どうなんだろうかあの症状。何かしらの過去があってああなっているのか?にしては出力がバグってる気がするんですけどね……。

 「で、今どこにいんの?」

 「わからん」

 「どうしてですか?」

 「なんか天井裏に逃げてった」

 「「ヤモリかな」」

 ここヤモリはいるのか……なんでそれなりの令嬢なのにあそこまで落ちぶれてるんだ……自分から没落する悪役令嬢さえいないというのに。

 てかヤモリか……婆ちゃん家でよく見た。いやぁ懐かしい思い出。スイカを食べたり夏祭りに行ったり……あとなんだ……あれだよあれ……なんだ……同じモヤモヤ!

 ——よくわからん記憶が封じられている!

 ——誰がなんの目的でこんなこと⁈

 「ハセベさん、すごい顔ですよ」

 「どうかしたのか」

 「いや……なにか大切なことを思い出しそうな気がして……」

 「生き別れの母か!」

 「自分の一族の秘密ですか!」

 「いや……そんな重くもない」

 「鍵閉めたか?」

 「窓閉めましたか?」

 「待ってなんか途端に不安になってきた」

 よくある不安!

 そんなことで余計な文量使いたくないよ!

 「……全く思い出せない」  

 「あら」

 「大変ですね」

 「まぁそんな大したことでもないさ、そのうち思い出すだろう」

 「ハンマーでも持ってくるか」

 「わたしスタンガン持ってきますね」

 「頑張らないで」


 そしてその後、二人は何やらちょっとした用事があるらしく、また別れることになった。

 しかし!なんだこの時間!僕めちゃくちゃ暇人!

 どうにかしてこの暇を潰さねばならない……だが携帯がなければ現代人は暇を潰す手段なんてそんなないだろう。

 輪ゴムで三十分潰そうにもそれさえないのだ。どうしよう。シコるか?部屋で。主役にあるまじき行為だが。

 ということでずっと大講堂のドアの前に突っ立ってる人になってしまった。

 「あと一時間あるよ」

 と爺さんが通っていくたびに親切に教えてくれた。なんでこんなことで精神の安定を保たなきゃ行けないんだ!

 

 ——すると、何やら人影が見えた。


 ぱっと見食堂時のクロエに瓜二つなので、同じようなぼっち強者かと思ったが、しかしなんだろう、そのある種自分を抑えながらも隠しきれない自信はぼっちのそれではなかった。

 何者なんだろう?なんだろう?

 しかもなんだ——こっちに向かってくる!

 

 そしてピッタリ俺の目の前で音もなく立ち止まった。

 するとこちらに顔を向けてきた。

 ——フクロウみたいな目だ。ギョロッと丸くて、まつ毛が長い。

 真っ赤な髪がストレートで綺麗に流れていることがわかった。

 美人さんではある——しかし目が怖い!目が怖いよ!

 「——な、なんですか」

 「わたくし、こういうものです」

 滑らかな声だった。棘がない。見た目の割には。

 そして彼女はいうと同時に何やら箱を取り出した。そしてそれなりの重みのあるそれを開けてみせた。


 ——真っ赤な指輪だ。とても綺麗。装飾も細かい。結構いい品ですよ。


 「——物売り?」

 「そうなります」

 まるで自分でもよくわかってないみたいだった。身売りにでもあったのだろうか?しかしその目から聡明さがわかる。

 「これを売ってるんですか」  

 「はい」

 「なんぼですか」

 「しめて二百ゴールド」

 ゴールド!ファンタジーっぽい単位!

 そうか!この世界はそういう単位なのか!全くそういったことにここに来てから関わってないからよくわからん!相場もわからん!

 こういう人間がアメリカの株買って死ぬんだ。

 「いかがでしょう」

 「ちょっと待ってくださいよ……」

 懐をあさくる。このローブには何やらポケットが色んなとこにあるらしいのだ。お爺さんのジャケットじゃないんだから。

 「別に後払いでもいいですよ」

 「ほんとですか」

 「わたくしよくここに来ますので」

 「なるほど……じゃあ後払いでいいですか」

 「まいど」

 まるでそういうことを初めて習ったような舌足らずな発音。元々はお嬢さんだったんだろうか?こんなとこまで身を落としてまぁ。

 「つけてあげましょう」

 「え?」

 そういうと彼女の細くてひんやりとした指が僕の汗ばんだ右手を触る!触る!そして人差し指に通す!通す!

 「どうでしょう」

 「あ⁈え⁈……ぴったりだ」

 「ふふ、でしょう」

 すごく優雅に笑う。いやぁあのコミュ障も見習って欲しいものだ……。


 ——ん⁈


 ——待てよ⁈


 「なんでわかるんですか?」

 「ふふ。なんででしょう」

 いやイタズラっぽく笑うけど、つまりなんだ⁈どういうことなんだ?

 「これが我が社の技術力です」  

 「あぁなるほど……」  

 形状記憶合金とかその辺の技術か!そっかそうだよな!いやぁ!この世界の技術も発展してるんですねぇ!

 「いやぁいいですね、これ」

 「気に入ってもらえてなによりです」

 「また来たらなんか買わせてもらいますよ」

 「それはありがたいです」

 そういうと彼女はそそくさと準備をして、踵を返した。


 「——それではまた、長谷部慎さん」


 「——なんで俺の名前を」

 「ふふ」

 「待って!ねぇ!怖いよ!ねぇ!」

 彼女はまるで元々いなかったかのようにフッと消えてしまった。


 ——しかし、あの並び。あの発音。

 ——この世界の人間の言い方ではない!

 ——なんだ……?何者なんだ彼女……ただのセールスレディだと思ったのに……畜生!


 「どうしたんですか」

 「そんなに赤く青い顔して」

 「どんな顔なの」  

 シャリオとニックスが戻ってきた。シャリオはまた別の本を持ち、ニックスはまた別のダンベルを持っていた。ブレない心、大事ですね。

 「いやぁ……かくかくしかじかで」

 「はぁ」

 「へぇ」

 これで済むのが小説のいいところだ。

 「革新的な販売ですね」 

 「俺も真似しようかな、筋肉年齢を当てるんだ」

 割と需要がありそうなのをやめろ!

 「てかハセベってマコトだったんだな」

 「驚きました」

 「文字列にすると頭おかしくなる」

 「だな、めんどくさいからハセベでいいや」

 「ですね」

 「それでいいや」

 名前にこだわるのなんて悲しいですからね。自分の芯で生きていきましょう。

 だとすると俺はホクロフェチという名になってしまうのか?ホーちゃんと呼ばれるのか?川に沈みそうな名前。

 「にしてもいい品ですね」

 「だろ」

 「なんぼしたんだっけ」

 話漏れがあった!まぁそうでもしないと小説というものの文量が死ぬ!

 「二百ゴールドだよ」

 「なるほど……よくできたおもちゃですね」

 「おもちゃ!」

 なんて言い分!見なさい!この精巧な細工!鮮やかな赤!そんなことが言えるものか!

 「はぁ……最近のおもちゃってすげぇんだな」

 「……」

 褒めてんのか貶してんのかわからん!どうやって俺は反論すれば良いのだろう!

 「てか二百ゴールドで何が買えるの!」

 「かけそば三杯」

 「パン三個」

 日本円に換算しよう……大体千円前後!

 キーホルダーくらいか!

 「……確かにおもちゃだ」

 「でもすごくよくできてますよ、多分つけてても何も言われないくらいには」

 「んだ」

 「じゃいっかぁ」

 いい買い物をした!そう思うことにしよう!

 すると大講堂のドアが中から開かれた。

 「講義十分前です」

 「え!もう⁈」

 一体俺はどれだけの時間突っ立ってたんだ……もはや看板持ちのバイトもできそうな気がしてきたぞ!

 そんなこんなで再び最前列に着きます。

 「いやぁなにするんだろうね」

 「たのしみですね」

 「同じ会話をしている……」

 心なしか二人とも目が死んでいた。

 じゃあすんな!

 そしてそのうち人がドカドカ入ってきた。

 

 ——そこにはセシリーの姿もあった。


 ——なんかぐるぐる巻きのミイラみたいなのを連れている——尊厳はあるのか⁈彼に!


 そしてそのうち、男性の教師が入ってきた。

 穏やかな顔つきをした人だ。しかし立ち振る舞いから鍛え上げられていることがわかる。多分背後から襲っても勝てないだろう。

 「みなさん初めまして。二回生の主任教師を担当しております、デイビッド・デイマンです」

 「はぁ」

 「へぇ」

 「ふん」

 三人同時に間抜けな返答をした。こんなんで数年間頑張れるのだろうか。

 「みなさんも慣れない環境で戸惑いを感じているでしょうが、これから一年、しっかりと魔術と自分自身と向き合っていきましょう」

 はぁ……とても真面目な話だ。この人の下なら安心だぜ!

 「それでは早速、今日は何をするのか手短に話させていただきたいと思います」

 「普遍魔術の授業!」

 「バトルロワイヤル!」

 「どっちも違うでしょ」

 

 「——学園の周囲には森が広がっていることはみなさん承知でしょうか」


 「そうなの?」

 「さぁ」

 「まぁ確かに言われればそうか……」

 確かに自然豊かな場所だからな。それならなんかあってもおかしくはないね。

 

 「——本日は初っ端から、みなさんにはそこに行って魔物を狩ってきていただきます」


 ——魔?

 ——初日からモンスターハンター⁈


 当然というべきか座席からはどよめきが聞こえ始めた!

 「大丈夫ですよメルドット……わたしが守りますから」  

 「う、うう」

 「怖がらなくていいったら」

 いやぁ恐怖の光景!あの人とも関わらなくちゃいけないの⁈

 いやぁしかしかなり過激なレクレーション……こんなんでいいのか⁈

 「腕がなりますね」

 「ちょうど鈍ってたところだ」

 こんなんでいいんだな!ヨシ!

 後方を確認するとクロエは比較的安心した様子でいるようだった。確かにあくまで単独行動だけで済むのだ。いい話。


 「——そしてこれはレクレーションも兼ねているので、みなさんにはグループを組んでいただきます」


 激突するクロエ!

 あいつの頭蓋骨が心配だ!

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