#011 魔族が出た!①

 そんなこんなで震えながら寝て、そしてまた朝がやってきた!

 初めての授業だ!

 もちろん真っ先に顔を洗って歯を磨くが。


 ———しかし、朝飯はどうするのだろう?


 こういうときはなんだ———食堂とかあってもおかしくないはずなんだけどな———どこだ?

 するとドアがノックされた。

 「誰だ!」

 「俺だ!ニックスだ!」

 「開いてるから入って」

 「へぇへぇ」

 ニックスが出てきた。タンクトップに短パン、トレーニングするみたいな服装!

 「飯行こうぜ」

 「どこに行けばいいのこれ」

 「そりゃ食堂だよ」

 「そんな大勢入るとこがあんの?」

 「まあ行ってみりゃわかるさ」

 ということで食堂に向かうことになったのだ!

 

 「ここだここだ」

 そうニックスが指さす先には、何やら大きな塔みたいなのがあった。

 「……学園長がいたとこと同じじゃないの?」

 「とりあえず行ってみようぜ、俺も初めてだし」

 「そうなのか……」

 果たして大丈夫なのか!

 あんな変な食堂で!

 

 「あーこりゃだめだ下の方は全滅だな」

 「どういうことだよ」

 何やらぎっしり詰まっている———いやしかし、見た目が似ているだけかと思いきやまさかの構造まで似ていたのか、螺旋階段はしっかりあった!

 ———まさか?

 「———これを登って、席を取るってか?」

 「うん、そうだけど」

 「朝から⁈」

 「朝練の後飯は普通だろ」

 そうかな……?

 そうかも……!

 そんなこんなでとりあえず上に登っていく。しかし!登れども登れども空いている席は見えてこない。

 「なぁ!これほんとに飯食えんのかよ!」

 「そりゃ学園もしっかりしてるよ、スタッフもしっかり各階にいるからな」

 「なら良かったよ!」

 「だろ」

 皮肉だよ!

 そしてついに最上階まで来てしまった。

 朝から体が熱い!なんなら少し汗もかいてしまった。こんなんでいい朝が迎えられるのか!

 「よかったな、最上階だからガラガラだぜ」

 「そりゃそうだろ⁈」

 「まぁいいや、とっとと飯にしようぜ」

 「そうだな……」

 ここまですると腹の減りもしっかり響いてきた。何か食べないとイライラして仕方がない!

 ようやく食べるフロアの方に向かうと、そこにはおぼん、そして食器が重ねて置いてあった。

 「———どうすんの?これ」

 「あぁ、これをひとつひとつ取って、飯をついでもらいにいくんだ」

 「なるほど」

 給食システムか!

 どっちかというとアメリカとかあっちの方かもしれない。

 ということでお盆に食器を重ねて、トコトコと配ってるカウンターに持って行っていく。

 しかし不安点がひとつ。

 アメリカ式なんでしょ——日本人の僕の口に合うかしら。

 てかあれだね、ハリーポッターもバタービール以外大して何も言われないじゃないか!飯についてはさ!

 それです。どうしよう。カロリーメイトみたいなのがあれば飢えなくて済むんだけど。

 前には丸々と肥えたおばちゃんがいた。なんかこういうとこだけちゃんとしてる!

 「ほい」

 おばちゃんは俺の食器に何やら細長いものを乗せた。

 それは表面は硬そうに見え、そこに脂が泡を立てていた。

 焼きたてだ!焼きたてのベーコンだ!

 その次に行けば白い丸いもの、目玉焼きだ!しっかり焼いてあるぞ!半熟の方が好きだけどこの際どうでもよかろう!

 そんな具合に色々乗っけられました。トマトで煮込んだ豆とか、ソーセージとか、あと固そうなパン。

 

 結論——大満足!


 「いやぁ美味そうだな」

 ニックスはこちらを急かすようにくっついていた。なんだお前!そんな筋肉あんならもうちょっと気をつけた方がいいんじゃねぇか!飯!

 そのまんま席に着きます。

 最上階だからかあんまり人がいない。

 「いただきまふ」

 ニックスは言うと同時に口にパンとソーセージを突っ込んでいた。行儀が悪いんだかいいんだか判断がつかない。読者の皆さんはどう思います?

 とりあえずちゃんと食べてみる。

 ベーコンを一口齧って、そのままパンに移動する。

 うん。脂と塩味と旨みとパンの小麦の味がベストマッチ、やはり朝は塩辛いものですよね。

 

 ——塩辛いもの?


 なんだ?何かが頭によぎった気がする。

 なんだろう。すごく懐かしいもののような気がする。

 しかし思い出せない!なんだ!転移したせいでそんなことになってんのか俺!重篤!

 「あふふもんふふぁふ」

 「なんて?」

 ニックスが顔の下部を何倍にも膨らませてどっかを指差す。なんだ?可愛い女の子でもいたのか?

 「ん……あれってさ、あの子じゃね」

 

 ——ニックスが指差す方向には、隅っこの席で、誰にも顔を見せないようにして、さらにローブまで被っている人がいた。

 プロのぼっちだ。尊敬します。


 「どの子だよ」  

 「ほら、あの紫色の魔力の……」

 「俺わかんねぇよそこまで」

 「ほら!お前の雇い主みたいな」

 「雇い主?」


 ——まさか!


 「声かけてくるぜ」

 「あっ」

 ニックスは席を立って、彼女の元に向かっていった。

 どうしよう——ここで止めてもあいつは恥をかくし止めなくても悲しいことになる。

 しかしあくまで心のダメージを考えた結果——今回は止めないことにした。成長してもらいましょう。

 

 「なぁ、君ハセベの……」

 ニックスが話しかけるとこちらで見ててもわかるほど身体が波打った。なんの起伏もない身体ですけどね。

 「あ、あ、はい……」

 「そんなところで食べてないで、一緒に食おうぜ」

 「あ、はひ、あひ……」

 バイキンマンみたいになってる。

 てかほんとに人と喋れないんだなあいつ……見てて悲しくなってきますね。こういう人もいるのだ。


 「わぁっ!」

 

 ——すると、ついに気絶した!


 ——クロエ、お前はどうやって生きてきたんだ?


 「どうしようハセベ!倒れた!」

 「ほっとけー」

 「まじでー?」

 「そのうち起きる」

 「お前が言うならその通りか」

 ということでほったらかしで美味しい朝食をとって帰ることにしました。

 悲しいことだけど、これ学園なのよね。



 とりあえず部屋に戻ると、自分が今日何をどうすればいいのかが載っていた。

 そのうち大講堂で最初の授業があるらしい。スタートダッシュが大事なのはどんな業界でも変わらないからね、しっかりせねば。

 しかし何もいらないらしい。

 だよね!多分最初だから話聞くだけだろう!あとは今日は飯食って寝るだけだ!ニート!

 ちょうど残り時間は30分。

 早めに行っておいた方がいいだろうということで、とりあえずまた外に出てみる。

 するとまたしても本の山を持ち歩く少女が見えた。

 豊かな胸が邪魔そうだ。僕が持ってあげようか!そんなこと言ってる場合でもない!

 「シャリオ」

 「わっ!」

 またしても崩れた。せっかくできた知り合いなのに話しかけられないというのか。悲しすぎるだろその宿命。

 「は、ハセベさん……」

 「ごめん急に話しかけて」

 「いえ……私がドジなので」

 「持つよ」

 「え!また!」

 「別に今日何もいらないから」  

 「え!」

 「ちゃんと読もうよ……」

 しかし部屋に戻るのもめんどくさいので数冊持つことにしました。

 「……ハセベさんは、普遍魔術どこまで覚えました?」

 「え?」

 まずいな……俺はあくまで火をつけることぐらいしか知らないんだ……何を言えばいい?

 「まぁ、まぁまぁ……」

 「そうですか……私なんかまだ一項目の把握までしかしてなくて……」

 「そうなんだ」

 「山を全焼させるくらいで」

 「土地神かなんか⁈」

 かなりの火力を持つ方だ!身体の火力はすでにオーバーヒートしてますけどね。

 「私あんまり学んでこなかったので……」

 「……家庭の事情?」

 「そうですね……そんなところです」

 「いっぱい勉強して、俺より偉くなってよ」

 「そ、そんな……」

 片手でぶんぶんと顔のあたりを隠しつつ振る……十冊くらいある本を片手で持てるのか⁈えらい怪力!

 

 そんなこんなで大講堂までやってきました。

 中に入ると、うん、わかりやすい大教室。

 大して俺は大学について知らないが、こういう時は後ろの方に座って携帯いじるのが当然のルールだと聞いたぜ!

 ということでトコトコ後ろに向かおうとする!

 すると何やら後ろから負のオーラを感じた。

 

 ——シャリオが、何やら震えて立っている!


 「——どうしました?」

 「い、いえ、お構いなく……」

 「……後ろいやなんだ?」

 「い、いえ!」

 「前に座ろう、真面目に聞かなきゃな」

 「ほんとですか!」

 途端にパッと明るくなった!割と忙しいなこの子!

 ということで前に座ることになりました。

 そんな真面目な方でもないんだけどな……当てられたりしたら死ぬぜ!

 「……すみません、振り回しちゃって」

 「いや、別にいいよ」

 「その、あの、私あんまり目が良くなくて……」

 そんな牛乳瓶みたいなメガネしてんのにか!どんだけ目が悪いんだ?

 「大変だね」

 「でも、今ここにいれる方が幸せです」

 「そうなんだ……」

 よかったね!俺はよくわからないうちに流れ着いた桃みたいなもんだからよくわかんないけどよ!

 「よくわかんないけどダンベル持ってきた」

 「なにゆえ」

 気づいたら俺の隣にニックスがいた。

 ダンベルを上げ下げしている。

 そうだ!それでこそお前だ!

 「シャリオちゃんだっけ?元気?山燃やした?」

 「はい!見事に!」

 山燃やすのが常識なのか……恐ろしいことだ。俺も燃やさねばならぬ。

 「しっかし何すんだろうな、レジュメにも全く書いてないからよ」

 「はぁ……」

 傍を見るとシャリオは頭だけ見事に机に合体していた。

 首いわすからやめなさい。

 「この学校そういうとこアバウトだからな」

 「単位とかどうなの」

 「教師が全部独断と偏見で決める」 

 「終わりだろ」  

 教育界の腐敗を異世界に見た!

 NHKで特集しましょうや。

 「てかさ、アレ……」

 ニックスがまたしても指をどこかに向かって指す。

 

 ——ついに毛布を何枚も重ねていた。

 ——死にかけの遭難者かよ!


 「どうしよう……やっぱり話しかけるしかないよな?」

 また気絶させるだけじゃないのか……?

 どうなんだ?どうするべきなんだ?

 

 「——俺が行く」

 「ハセベ、やるんだな」

 「ハセベさん……」

 何やら俺が死地に向かうような雰囲気になってきた。ただぼっちに話しかけるだけなんですけど。

 

 とりあえず足音を消して近づいていく。

 本人は何やら本を読んでいるようで、こちらには全く気づいていないようだ。

 よし!背後を取った!

 

 「——おい」


 「わ、わ、ワァァァァァ〜!!!」


 ひっくり返るクロエ!!!

 すると何やら紫色の胞子が、クロエから放出された!

 教室全体が紫色に染まっていく!

 ——てかなんだ、なんか途端に鼻がグズグズになってきたぞ⁈目も痒い!

 ニックスとシャリオを見ると、二人とも気絶していた!!!


 ——毒撒いた!!!毒撒いたんだこいつ!!!

 ——こいつダメだ!!!恩人ではあるけど!!!

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