#009 編入生ですが④

 俺は殴りかかった!

 ちょっと中指を出っ張らせておく!痛いだろうな!しかしこれは制裁なのだ!仕方ない!


 「なっ———⁈」


 普通に驚くメルドット!いやそこはもうちょっと余裕を出しとけよ⁈

 

 そしてそのまま———拳は奴の顔面を捉える———捉えたのだが———。


 ———そのまま直線上に吹っ飛んだ!


 いやなんかほんと豪速球のストレートみたいに飛んでいく!

 あんな動きする人間俺見たことないんだけど⁈

 

 ———やがて、その辺の建物の壁に激突した!


 「あ、あああ、あ……」

 なんかもう見るも無惨な姿になっていた。

 四肢がなんかおかしな方向に曲がっている———老人か⁈骨粗鬆症か⁈


 「やべぇよやべぇよ……」

 「とりあえず向かいましょう」

 そう二人から急かされるのでその凄惨な現場に向かう。

 

 ———顔面はもはや原型を留めていなかった。おそらく顔の骨もバキバキなのだろう。大丈夫か⁈顔面セーブが通用しないだろ⁈

 しかも虫の息だ。内臓もボロボロになったのか⁈

 「おい!自分がわかるか⁈」

 「———う、うう」

 もはやろくに会話もできない。ひどい状態だ。アベリティさん、息子さんは、もう……。

 てか俺早くもペナルティ被ってない?

 どうしよう。クロエになんて説明しよう———いやてかあいつ今どうしてんだろ———うーん!どうにか正当防衛ってことでひとつ話を打ちませんかね!

 

 ———すると、そこにセシリーがとててと駆け寄って、何やらオーラを出す。

 しかし魔法陣みたいなものが手のひらに見える。そうか!あれが普遍魔術か!勉強になったぜ!

 メルドットはどんどんバキバキ言いながら元に戻っていく。しかしビクンビクン跳ねながら戻ってるもんで、なんかアクメしてるようにしか見えない。

 強く生きてくれ。生きながら死んでるみたいなもんだけどな!可哀想にな!

 

 「はぁ……はぁ……雑種のくせに……」


 ———多分シャリオにも負けると思うんですけど⁈

 「大丈夫か?水いるか?」

 「うるさい!」

 そういって俺の顔を立ち上がってビンタする———のだが、俺の顔に到達した途端、何やら指がぶらぶらしてしまった。

 「ぐああああ!!!」

 ビンタしただけで指が折れたようだ!

 お前マジどうやって生きてきたんだよ⁈

 「やりやがったな……」

 「「「何もしてない何もしてない」」」

 三人の心が一つに!

 こんなの嫌だよ!!!!!!!!!!!!

 「ここまでコケにされたのは初めてだぜ……」

 わなわなと震えるメルドット。大丈夫か⁈そのまま全身バラバラになったりしないか⁈


 「———ハセベ!俺はお前に、決闘を申し込む!!!」


 「「決闘!」」

 何やら二人が反応している。

 決闘は日本国では犯罪ですよ⁈

 「な、なんなのそれ」

 「この学校には決闘制度ってのがあるんだ」

 「闘技場を借りて、魔術で対決するんです。それで勝った方が、自分の願いを学校の権力を以て、通すことができるんです」

 なんだそれ!

 びっくりだな!

 「———ここまで恥をかかせてくれたんだ、何がなんでもお前をここから弾き出してやる」

 「そうか……」

 「なんだその涼しい目は!覚えてろ!」

 そんな三下みたいなこと言ってると負けるんじゃないか……と思わせながらメルドットとセシリーは去っていった。

 「……俺何もしなくていいの?」

 「多分あいつが手続きするだろうから、まぁ心配はしなくていいよ」

 「でも、どうするんですか⁈負けたら退学させられちゃいますよ!!!」

 「「あれに」」

 「まぁ……確かにそれはそうですけど……」


 「ハセベ!!!!!!!!!!!!」


 なんか声が聞こえたと思ったら、クロエだった。

 また顔が真っ赤。全身震わせて後ろにいた。


 「あんた!!!またなんかやらかしたわね!!!」

 「なんでわかるのさ」

 「探してたらあちこちで騒ぎになってたわよ!アベリティの次男を殴り飛ばしたって!」

 「いやぁ、まぁ……」

 「余計なことばっかりして!!!」

 「……決闘もすることになったんだ」

 すると一瞬で顔が蒼白になった。

 「……はぁ⁈決闘まで⁈あんたどこまで……」

 「まぁ、まぁ勝てるはずだよ勝てるはず」


 「———相手が死なないならな」


 するとニックスが口を挟んだ。

 「———どういうことだ?」

 「決闘のルールとして、相手を殺した場合は普通に刑務所にぶち込まれるんだ。流石の蘇生魔術もすぐに用意できないからな」

 「なるほど」


 「普通そんなことありえないんだが———問題はあいつが多分普通に殴れば死ぬってとこだ」


 「そうですね、あの感じだと罪を背負うか刑務所に入るかどちらかです」  

 「割と積んでない⁈」

 「しっかり作戦を立てる必要がありますね」

 「あぁ、相手はなんせ、器がちいさくてかわいそうなやつだからな」

 略してちいかわ。

 もうちょっとタフだぞあっちは。


         ●


 そんなこんなで第一話の冒頭に戻るわけだ。

 いやぁ〜長かったねぇ!

 とか言ってる場合ではない。

 そんなこんなで闘技場に入ってみれば、何やら生徒は観客席にずらっと入っており、さらには何やら音楽も鳴っていた。

 なんだよ!古代ローマかよ!

 まぁ仕方ない。とにかく俺はあいつをどうにかして抑えなければならない。

 そして楽しい学園生活をね!送らないといけないんですね!わかりますか!皆さん!

 

 目の前には、メルドットがいた。

 いやぁ!すごく怒ってる!殺されるかも知れない!俺にな!

 「見ろこの大勢を!お前の醜態を見るために集まってくれたんだ、お辞儀でもしとけよ」

 かなりのトゲトゲ言葉。悲しい。

 だが客席の言葉に耳を傾けてみよう。


 「———あれが例の」

 「一体どれだけ弱いんだろ」

 「動画撮っとこ」


 「———あぁ、そうだな」

 「なんだその生暖かい目は!」

 悲しい現実から目を背けるように———そんな生き方しかできないのも悲しい。

 「まぁいいさ———お前のツラも、ここで見納めだからな!」

 するとメルドットの両手に緑色のオーラが出てきた!

 「え⁈開始の合図は⁈」

 「それは選手たちに任されてるのよ!」

 客席からクロエの声が聞こえてきた。

 なんだよそれ!不正の温床だろうがよ!

 「オラァ!」

 メルドットの周囲に何やらモコモコしたものが現れる———緑色!まさか!そうか!あれがカビ!

 「死なない程度に死ね!」

 ———そう言うと、カビは俺に目掛けてやってくる———なんか勘だけどさ、あれ触れたらまずいよな?さてどうしたもんか。

 「磁力バリアーーーー!!!!!!」

 磁力を展開する!しかしこれだけじゃあダメだ!しっかりと相手には反発する性質を付与しておく!なんでこんな能力がわかるんだ!話の都合か!

 カビはなんとかそのまんま自然消滅していく。だが———まだまだだ。

 何もわかっていない。こいつがどこまでカビを操れるのか?本当にこれまでか?それは全く不明だからだ。

 「やはりな。噂は本当ってわけだ———」

 メルドットは笑いながら言う。そんな余裕ないだろお前。こけたら死ぬど。

 「———こんなのはどうかな?」

 そう言うとメルドットは、何かを懐から取り出した———きらりと輝く———なんだあれ———まさか!

 「その反応!図星みてぇだなぁ!」

 そうペロペロと奴が舐めているのは、ナイフだ!なんか紋章がある。アベリティ家のものかしら。親御さん、赤ちゃんにあんなもん持たせちゃダメでしょ!

 「それで何をするつもりだ?俺には反発するバリアがある」

 「———じゃあ、こんなのはどうかなぁ?」

 そう言うとメルドットは緑色のオーラでナイフを覆い始めた!

 何してんの!切れ味死ぬぞ!

 

 ———かと思ったが、しかし、そこからおかしなことが起こり始めた。

 ———ナイフは段々ともこもこした泡のような形になっていた———しかも問題は、そのカビが、銀色に輝いていたということだ!

 うーん!これはまずいぞ〜!!!

 

 ———実は俺の能力には弱点がある。

 ———金属は磁力を付与しても、結局のところ自然の性質のせいか、ある程度近くまで来てしまうのだ。触れるか触れないかのギリギリのところまで。

 なので基本的に金属は扱いやすいがその分取り扱いに注意が必要でもある———便利な薬品みたいなものだ。


 ———まぁ基本的には問題はないが———しかしここでは話が別だ!カビに触れたらなんか侵食されそうな気がするのだ!

 なのであれを磁力で止めようとすれば、近づかれてカビにされてジエンドというわけだ!

 さぁどうする?どうする?どうする———⁈


 ということで回想に入ってみよう。



 「———一番の問題は、あいつの耐久力だ」

 ニックスがそう深刻そうに言う。

 あの後、あの場で四人留まって作戦会議をすることになっていたのだ。

 「そうだけど」

 「多分あいつは人間だと思わないほうがいい、虫かなんかだ」

 「「「虫」」」

 確かに。ハエ叩きでぶっ叩いたらそのまんまぺっちゃんこに潰れそうだ。

 「てことは、それ相応の攻撃がいるということですね」

 「そう。虫を殺さず、しかしダメージを与えるような攻撃」

 ひどく繊細なオーダーだ。

 誰ができんだそんなもん!!!!!!

 でも僕主人公だから!!!!!!可能にしなくちゃいけないんだ!!!!!!

 「……本当に頼んだわよ」

 凄まじく眉をひそめるクロエ!確かにな!ごめんな!

 「……やってやるさ、そのくらいな」

 「ハセベ」

 「ハセベさん」

 「本当に大丈夫なんでしょうね……」



 さて!何も解決してない気がするが!

 まぁいい。

 俺には既に策がある!

 いつもこんな感じな気がするぜ!

 だがしかし!限界までカビを引きつけなければならない!それがね!きついね!

 だが簡単だ!俺にとってはな!

 「なんだ?何もしないってのか?」

 呆気に取られるメルドット!しかしカビは僕に向かって飛んできます!

 「終わりだよ」

 そう言いながら、俺は少しずつデコピンの体勢を取っていく———そして!!!


 限界までカビを引き寄せたところで———放つ!


 打ち出すそこには何もないように見える。

 しかし、相手は相手なのだ。


 「———がっ!があっ!があぁっ!」


 何やらよくわからないがダメージを受けているメルドット!しかもごくごく普通のダメージである!肺が破裂したとかではない!

 しかし壁に飛んで激突はする。お前紙でできてんのか?


 「て、てめぇ……何をしやがった!!!」

 「空気中のチリを磁力を這わせて飛ばしたのさ。お前にはちょうどいいダメージのはずだ」

 「な、なんだと⁈」

 かなりのショック!そりゃそうだ。

 「だがカビには手こずったよ———とっとと打つと俺のところにすぐに来るところだったからな、限界まで磁力の影響下の少ない俺の間合いまで持ってこなきゃいけなかった。そこは評価しよう」

 「———て、てめぇ———!!!」


 その時客席から歓声が湧く!


 「す、すげぇ!あれが真の弱さ……!」

 「チリだけであんなダメージを!」

 「びっくり人間だ!!!」


 やめたげてよ!

 事実メルドットの顔はどんどんボロボロになっていく!そしてそのままそこにへたり込んだ!

 「あ、あ、あ……」

 メンタルまでクソザコなのかよ!どうやって生きてきたんだよ!本当に!

 

 ———どうしようか?

 ———こいつのために動いてやるか?

 ———動いてやるか!

 ———なんてったって主人公だからな!

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