#008 編入生ですが③

 「んしょ、んしょ」

 そう言いながらシャリオが先に階段を上っていく。

 あの後近くの三階建ての建物に向かって、そこで彼女が先陣を切り始めたのだ。

 そんで今階段を上る彼女の後ろをついていってるのが現状というわけだ。

 「なんでこんなたくさん本あるんですか?」

 純粋な疑問。

 「……普遍魔術を完璧にしておきたくて」

 へぇ。

 「授業でやるからいいんじゃないですか?別に」

 「私編入生なので……」


 またかよ!!!編入生同士は惹かれ合うのか⁈てかなんだ⁈それ同士じゃないと仲良くなれないのか⁈だったら転校生の場合はどうするんだ⁈ずっとぼっちだぞ⁈

 

 「俺も編入生なんですよ」

 「えっ、そうなんですか⁈」

 そんな驚かないでもらいたい。

 あんなことできるのも日が浅いからだろうよ。

 「へ、へぇ……」

 なんか俯き始めた!ちゃんと前を見ろ!落ちるぞ!

 てかさ!お部屋まで行くんだよな!心配だよ!

 嫌だねぇ……いきなり寝室に呼ぶとかねぇ……。


 かと思いきや彼女は自分の部屋の目の前に本を置き始めた!


 よかった!本当に!ただ俺がはしゃいでただけのような気がするが、まぁこの際ほっておこう!

 さて!

 俺も置く!

 「それじゃあ、よろしくお願いします……」

 こういう時はとっとと帰るのがスマートだ。みんなも会計はお札だけで済ませるようにしようね。

 

 「待ってください!!!!!!」


 また叫びやがった!ねぇ!めちゃくちゃ声がでかいな!舞台俳優とか行けるんじゃないの⁈褒めてないけどね⁈

 「……どうしました?」


 「……ご飯、どうですか?」

 「へ?」


 へぇ!女の子からの誘い!こういう時ってさ!断れないよね!てかさ!大体の男は告白されたらOKするよね!そういうもんだよな!

 「ちょうどお腹空いてたんです、ぜひぜひ」

 ちゃんと笑っておこう!歯を見せてね!俺歯が白いことだけが唯一の自慢なんだ!

 

 そんなわけで再び学園内をテクテクテクテク歩くわけですね。

 てかさぁ———さっき本に隠れて見えなかったんだけどさぁ———。


 ———この子、胸が大きい!


 いやほんとゆっさゆっさ揺れるな?なんでそんな服にした?もうちょっと目立たないようにしないとダメじゃないのか⁈いや俺の周りにそんな大きさの人がいなかっただけか?みんなこうなのか?みなさんどう思う?

 すると彼女がこちらの目を目掛けてしっかり見つめてきた!


 バレた!!!!!!!!!!!!


 でも恥ずかしそうにはにかんでくれた。優しい人だ。なんか奢ってあげよう。


 そんなこんなで何やら広場みたいなところにやってきた!

 いやぁ!たくさんの男女がね!二人っきりでね!お弁当食べてるね!

 幸せですね。僕には関係ないことだが。


 ———いや、待てよ⁈


 そうだ!!!!!!俺は今こいつらと同じことをしてるんだ!

 人間的な世界ランクが上がったような気がしますね。いつだってこれくらい自己肯定感が湧いてくれたらいいんだけどね。

 にしてもしかし、ここで問題がひとつある。

 「……なに食べるの?」

 「待っておいてください」

 「はぁ」

 待ってたら緑色の自転車が来てくれるのか?てかここ相当田舎の方だよな?田舎にウーバーは来てくれるのかな?宮崎県とか。

 

 「うぃーす!どうもー!焼きたてのパンいかがっすかー!」


 なんかそう言いながら後方からガチャガチャと何かが来ている!

 行商か!東筑軒みたいだ。みんな知ってる?福岡の鶏そぼろ弁当なんだ。来たら食べてみてね。美味しいから。

 ん?てかこの声さっき聞いたような気がするぞ!


 ———振り返ってみると、そこには色黒の筋肉質な男がいた。


 「———ハセベ⁈」

 「ニックス!」

 「……お知り合いですか?」

 困惑してるシャリオ。すまないね。

 友達の友達って一番扱いづらいんだよな。ねぇ、人と集まった時も、ねぇ!

 「あぁ、今朝こいつに飯を恵んでもらった」

 「デカすぎたからね」

 「はぁ……」

 よくわからなさそうな顔をしている。確かによくよく考えたら変なことしてるな?

 てかなんだ⁈めちゃくちゃでかい箱を担いでいる!大丈夫か⁈筋肉は水に沈むんだぞ⁈

 「お前何してんだよ、こんなとこで」

 「あぁ、それがあの後荷物確認したら財布まで忘れちまってよ」

 財布まで忘れた!

 「はぁそれはそれは」

 「そんで財布が届くまで食い繋ごうと相談したら、購買の仕事を手伝わせてくれてよ」

 「へー」

 てかなんだ?財布がどうやって届くんだ⁈

 「三日間くらいかかるでしょ」

 「あー、そうだな。まぁ下手したらもっとかも」

 「最近のはだいぶ寄り道しますからねぇ……」

 「なー」

 「何の話⁈ねぇ何の話⁈」

 「配達屋知らないのか?」

 「みんな使ってますよ」

 「何⁈そもそもそれは何なの⁈」

 「え?あれだよ、移動する魔術」  

 「はぁ」

 「それで指定した人物のとこまでものを飛ばすんです」

 「へぇ……」

 「お前知らないのかよ」

 「外国人みたいですね」

 あ!しまった!バレる!

 「いやぁ、俺の地元田舎だからさ、全くできなくて……」

 「うちは電車がないぞ」

 「私に至っては車さえないですよ」

 なんだそれ!

 田舎者ばっかだここ!

 「———外国だしさ」

 「そうか……」

 「外国ですものね」

 なんで外国で伝わるんだよ⁈そんなに配慮しなきゃ行けないのか⁈

 「あ、こんな話してる場合じゃない、パンパン」

 シャリオがグイグイニックスに向かっていく。

 「どれ?」

 「もちろんこれ」

 「なにそれ?」

 恐ろしく要領を得ない会話!ヴィトゲンシュタインがキレそうだ。

 「これこれ、魔術学園サンド」

 実際にシャリオが指していたのは、袋に入った、フランスパンに色々挟まっているものである———肉と野菜。野菜が入ってると健康ですからね、みなさんそういう気持ちでやっていきましょう。

 「これ、購買名物なんですよ」

 「へー」

 「今日残ってるのは珍しいぞ」

 「そりゃ買った方がいいや」

 「———私に奢らせてください」

 「そんなそんな」

 「いえ、初めて声をかけてもらえたので———」

 そう言いながら恥ずかしそうにこちらを見つめてくるシャリオ!

 そんなんなら入学式とか奢りまくりだろ!嫌だわそんなルール!

 しかし!日本人ですから、こういう時はしっかり相手の善意を受け止めなければならない。そういう風に僕らは生きている。

 「じゃあ、また今度しっかり返すから」

 「はい。わかりました」

 そうにこやかに微笑んで、二個魔術学園サンドを掴む。

 「えー、1000ゴールド」

 ゴールド。わかりやすい異世界単位!まぁわかりやすいからいいでしょう。どんなものもシンプルなのがいいからね。

 「はいこちら」

 金貨を二枚出すシャリオ。なるほど、そういう風なのか———異世界でそこの金の感覚持たないとヤバい気がするぜ!

 「毎度」

 ということで受け取って、その辺に座るシャリオ。

 「食べましょう。ここで」

 そう左をペンペン叩くもんだから僕急いで座っちゃう。急かすからだぞ!

 「そんな急がなくても」

 「腹減ってるからな」

 「ふふ」


 「じゃあ俺も食べるわ」


 そう言ってシャリオの右にどかっと座るニックス!お前!お前ちょっと……お前!!!

 「……どうやってご飯を?」

 「パン食ってもいいんだよ。後で給料から引かれるだけさ」

 そう言ってカゴからカツサンドを取り出すニックス。すでに袋の閉じたところに指がある!生き急ぐな!

 「……はぁ」

 シャリオが何やら察したようだ。

 ———これカイジの地下帝国だ!稼いでも稼いでもそこで金が消えるやつだ!

 まぁいいだろう。結局は財布がくれば済む話なのだから。

 「はい、どうぞ」

 そうシャリオの白い白い綺麗な手から、学園魔術サンドが渡される———めんどくせぇないちいち!なんだ!この雑な名前!

 袋を破く。するとソースの香りが鼻をくすぐる———普通のウスターソースだこれ!ここ本当に異世界なのかよ⁈

 まぁいいや。腹が減ってることは減ってるんだ。あれだけバタバタしたからね。

 レタスとかね。きゅうりとかね。そしてローストビーフらしきものもね。一口でしっかり捉えたいものですね。

 

 ———いただきまーーーーーー……⁈


 その時だ!

 なんか一気にパンが緑色になった!

 そして鼻をツンと突く匂い!

 あー!野菜もなんか萎びてカスカスになってる!勿体無い勿体無い!


 ———なんだ——————⁈


 

 「———下民が、そんなものをよく食えると思ったよなぁ⁈」


 振り返ると、何やら男女がそこにいた!

 ———男の方は、逆立てた緑色の髪を、トゲトゲに見えるように整えている。

 目つき顔つき、まさしくチンピラのような印象を与える!

 ———女の方は、白い長髪だ。全く顔や立ち姿から生気を感じられない。幽霊を連れているヤンキーなのか?こいつは。

 結論!———誰⁈


 「おい!お前ら何してんだよ!」

 ニックスがキレて向かっていく!

 「おおっとぉ、モブくんには興味がないんだよ」

 「———なんだと」

 「俺が用のあるのはお前だ———ハセベ・マコト」

 疑問なんですけど、なんでみんな俺の苗字を上るイントネーションで呼ぶのかしら。

 どっかの方言みたいになってるぞ!

 異世界だった!

 しゃあねぇか!

 ———てか———こいつがやったのか!カビを!なんてやつだ!

 「お前、なんでこんなことをした!」

 「噂には聞いてるぜ———なんでも奇妙な魔術を使うらしいじゃねぇか」

 ———は⁈

 「なんでそれを知ってる⁈」

 「ハッ!お前は隠したいようだったが———すでに広まってんだよ!」

 ———クソッ!もっと注意を行うんだった———いや待てよ?俺何もしてねぇ!

 ———まさか!

 「学園長!!!!!!」

 「どうしたお前⁈」

 ニックスが驚いている。確かにそうなる。

 「———この際それはどうでもいい、だから、なんでこんなことをした」

 シャリオの方を向く。

 すごく悲しそうな顔をしている。今にも泣き出しそうだ。

 「———百歩譲って俺だけなら怒ったりしない。だが!!!お前は人の善意を踏み躙った!!!!!!許してはおけん!!!」


 「———ただの下民が、それも流れ着いてきたゴミが、この学校で好き放題できるなんて思わないことだ!ヒャハハハ!」


 そう舌を出して悪辣に笑う男!

 「———お前、名前はなんて言う」

 「下民に名乗る名前はない———と言いたいところだが、退学土産に教えてやるよ、メルドット・アベリティだ」

 そして隣の白髪女の肩に手を置く。

 「そしてこいつはセシリー・タルマイヤだ」

 「———名前が知れてよかったよ、お前の醜態を学園中に広められるからな」

 「ハッ、夢を語るには遅すぎたな」

 「貴様!!!そもそも何者だ!」

 「由緒正しい魔術師の家系、アベリティ家の次男!お前みたいな雑種とは違うんだよ!」

 「へー」

 「どうでもよさそうにするなよ⁈」

 差別する貴族とかいるもんなんだな。まぁそりゃそうか。俺完全に流れ者も流れ者だからな。

 

 しかし!!!!!!!!!!!!

 流石の俺も!!!!!!!!!!!!

 これは我慢できん!!!!!!!!!!

 

 「お前、野良犬に噛まれるとどうなるか知ってるか?毒が回って死ぬらしいぜ」

 「ならその前に殺すまでさ」

 「ケッ、養殖品がピーピー鳴いてるぜ、餌の時間はまだだってのによ」

 「……天然は、あれだ、あれ、あんま採れない!!!」

 ———ん⁈


 すると隣のセシリーが何やら耳打ちをする!

 「あ、あぁなるほど……天然物は病気持ちだからな!今ここで駆除するに限る!」

 「さっきと言ってること同じだぞ」

 「う、うるさい!!!」


 ———なんだこいつ?

 ———思った以上にポンコツなのか⁈


 「とにかくここから今すぐ消えな!色白ヒョロガリがよ!!!」


 ———なんだと⁈


 「お前!!!!!!!!!それだけは!!!!!!言っちゃダメだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」

 「ハセベ!」

 「ハセベさん!」

 

 ———考えなしにメルドットに殴りかかる俺!


 ———それだけは言うな!!!ガチで!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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