#007 編入生ですが②
「学園長、ほんと脅かさないでくださいよ……」
クロエが疲れ切っている。息が上がっているので、多分急いで走ってきたのだろう。苦労させてすまない。
「ごめんクロエ」
「もういいわよ!この際どうでも!」
「……それじゃ自己紹介させてもらおうかな」
すると学園長は自分の椅子に向かって、まるで子供のように少し飛んで腰掛けた。
「僕はアストレイ・モールモール。この学園の学園長だよ」
「はぁ……」
「みんな学園長って呼ぶけどね、アスって呼んでくれると嬉しいな」
ケツの穴みたいなあだ名。
アナル強いのかな。
「はぁ、アス先生」
「それでいいよ」
しっかりと机に両肘を乗せて———わかりやすく言うと碇ゲンドウのポーズをとった。トップはみんなああしなきゃいけないのかね?社長も首相もみんなああなのか。
「———君は何でも、異世界から来たらしいじゃないか」
「えぇ、まぁ」
「まぁ僕もそこまで多言しないよ」
「……ありがとうございます」
誰がそんなこと伝えやがった!
「マルタさん?からよくよく聞いたよ」
あの野郎!絶対ベラベラ喋りやがったな!普通にただの人として通せよ!
「魔術についてもね」
「いつ⁈」
「さっきかな」
「そんなリアルタイムで」
「大切だからね、ウチにとっては」
確かに。
ここ魔術学園だわ。
「まぁ今年は編入生が多い。多分君もそこまで目立つことはないと思うよ」
「良かったです。悪目立ちしないか不安だったので」
「それはそれは」
やはり老人なのか?にこやかに返してくる。
あんた一体何歳なんだ⁈
「それじゃあ、そろそろ対面式に移ろうか」
「対面式」
ニックスが言っていたことだろうか?
何をされるんだろう?将来の目標とか?大富豪になりてぇ。
「———まず、うちが何するところから説明しようか」
そりゃ魔術だろう。
「……そもそも君は常識から知らないから、魔術について説明しないとね」
確かに僕は異世界人だからこっちの常識を知らない。
でもなんか俺が馬鹿って言われてるみてぇだな⁈
「まず魔術には大きく分けて二つある。固有術式と普遍術式だね」
「へぇ」
普遍術式ってなんだ?右足出したあと左足出したりするのか⁈歩ける!
「まず君は磁力を操るはずだ」
「はぁ」
なんか能力バレてるの怖いな。こういうバトルって能力割れてたら負けますからね。大変ですよ。僕はバラしていきますけど。主役だから。
「それが固有術式。みんな一人ずつ必ず持っている」
「じゃあ普遍術式は何ですか」
「誰でも手順さえ守れば使える、いわば道具みたいなものだ。例えばね」
すると人差し指を立てるアス先生。
「『ファイア』」
そういうと人差し指に火が灯る!!!
すげー!!!!!!
「消していいですか」
「誕生日?」
「あんたさっきから失礼じゃない?」
クロエがなんか言ってる。別にいいじゃない!
「さて、君にはこれを学んでもらう」
「へぇ」
「でもこれだけじゃない。他にも色々あるからね、だからあんな学費なんだ」
「はぁ」
「学園長!!!」
クロエが顔を真っ赤にして叫んだ!
「ははは」
「知ってるよ俺」
「……は?嘘……」
そういうとフラフラして倒れた!
「相当疲れてるようだ。あとでまた保健室に送りなさい」
今すぐはしないのか……。そういうもんか?
「まぁ、大体はこれくらいかな。あとは通ってれば身につくだろうしね」
「ありがとうございます」
「さて、それじゃあそろそろ対面式も終わりにしようか」
「何するんです」
すると学園長はおもむろに立ち上がって、壁に手を合わせる。
———すると、何やら魔法陣みたいなもんが手のひらを中心に発生して、壁から箱がぬぷぷと出てきた。
瞬間移動じゃダメなのか⁈
その箱を開ける学園長。
そしてその中から何かを取り出して俺に向けて見せる。
———何やらマントみたいな……ローブか⁈しかし全身をすっぽり覆うほどではない。精々前が胸の辺りまでで、そして後ろはマントみたいになっている。
「これをみんなして付けることになってるんだ」
「はぁ」
そのまま立ち上がってこちらに近づいてくる。
「そしてこれを渡すときは、私が最初に付けさせないといけないんだ」
「へー」
なんだその変な儀式は。
てかこの人爺さんなの⁈婆さんなの⁈どっちなの⁈
重要だよ!幼年期の思い出は!
「それじゃあいいかな?」
「え、あぁはい」
ということで背伸びしたアス先生が俺の首を通すようにマントを被せる。
そして何かしらを整える。
「鏡で見てみるといい」
「どこですか?」
———するとすぐ隣に鏡が出現していた!
———やはりマントを背負っているように見える。
しかし下の服が思った以上に目立たない。
これならパジャマで良かったんじゃないんですかね!いやまぁどうでもいいんだけど!
「これで君は今日からうちの生徒だ」
「これから頑張ります!よろしくお願いします!」
ということで頭を下げておいた。
礼儀には厳しい家だったのだ。
「まぁ、困ったことがあるならいつでも相談に来なよ。君は多分困るだろうから」
「断定するくらい」
「———面倒ごとも多いからね」
何やら表情が一瞬凍てついたような気がするぞ!
なんだ!まさかあの新聞に載ってたやつとかか!犯罪率が多いとかますますここパクリ扱いされるじゃねーか!おい!
「まぁまぁ、気楽にやりなよ」
「はい!気楽にやります!」
「それじゃあね〜」
そう言いながら席に戻ろうとしたところ、そうだ!と思った。
「すいません!」
「ん?どうしたんだい?」
「こいつ保健室に送ってくれませんか」
「パシリじゃないか」
「おんぶして降りるの難しいんです」
「うーむ仕方ないかもしれん」
するとポン、とクロエが消えた!
「ベッドに送っておいたから」
「ありがとうございます!本当に!」
「まぁ君は式とかも免除されてるから、しばらく学園を回ってみたらいい」
「うーす」
「……礼儀どっかいった?」
「かもしれません」
そう言いながら学園長室を後にした!
いい人だ!冗談がわかる!
ということで学園内を歩く!歩く!
見たことないような建物がたくさんあるぞ!テーマパークに来たみたいだぜ!いや〜テンション上がるなぁ!
人もたくさんいるからますますそう感じる。みなさんなんだろう、楽しそうにしてますね。
俺にそんなことができるというのか!
友達は両手で数え終わるほどにしかいない!
———てか式に出れないって割とデメリット負わされた気がしてきたぞ!
そこで軽く会話とか交わしておくべきだろう!それなのに!いいのか!それでさ!
まぁ仕方ない。明日から頑張ろう。
にしてもしまった!考え事ばっかしてたら下向いて歩いていてしまった!そんな暗いわけでもないのに!
———するとそのとき。
———何やら角みたいなものにぶつかった!
「うわぁっ!」
女性の声!
———なんかそれは積まれていたらしく、何やら前方でバタバタと何かが倒れていく音がする。
「ってぇ!」
一応声が出てしまう。こういうときは何も言いたくないものですけどね。痛みは大事なものだからね。
しかし!前方はどうなっているのか!
確認してみよう。
本が散らかっている。ぶつかった時の感触からして、どうやら相当積み上げて歩いていたようだ。
そこでなんか尻を突き出す形で転がっている人がいた。多分あの人だ。
———女の子だ。そりゃそうだ。
———水色のウェーブのかかったショートヘア。それに眼鏡。可愛らしいが、田舎っぽい。しかも何か気絶している。なんだ、どうした?
———もう俺くらい真っ白!大丈夫なのか?もっと外に出な。
———服装はわかりやすいベージュのブラウスに緑のロングスカート。よかった。ミニだったら見えてしまっていたところだったからね!
さて。
大丈夫なのだろうか?
「すいません、大丈夫ですか⁈」
とりあえず手を差し出してみる。なんか恥ずかしいね!でも真っ先に立たねばならないほど情けない体勢をしているのも確かだ。
すると気がついたようだ。
「———あ、ああああ、だ、だだだ大丈夫です!!!!!!」
めちゃくちゃ焦るやんけ!
そのまんまそのまま汗を滝のように流しながら、完全に立ち上がることもなく、四つん這いの体勢のまま本を上に重ねていく———しかし!
立てては別のとこを向くときに倒し立てては倒しを繰り返している!
多分焦りすぎて何も考えられないんだろう!
「お嬢さん!お嬢さん!落ち着いて!」
「あ、ああああはい落ち着いてます!!!」
「嘘つくな⁈」
こりゃどうしょうもないな!てかさっきから視線が痛い!そりゃそうだ!こんな女あんまりないからな!
ということで勝手に本を集めて自分の腕で重ねていく。
「え⁈」
「多分持ちすぎですよ、運ぶとこまで運びますよ」
「そ、そんな畏れ多い」
どうやって人の親切を断ってきたんだろう?
「さ、行きましょう」
「は、はい……」
なんなんだ!
そんなに恥ずかしがるなら最初からこんなことするな!分けろ!
分割することは大切ですからね。アニメとか。あれ結局どうなんでしょうね?
●
この時点で長谷部はなぜこうなったのかについて、たいして理解できていなかった。
なぜ彼女がこうも取り乱しているのか。
それはすごく簡単な話である。振り返って見ていこう。
まず彼女はある目的ゆえ、本を大量に持ち運ばねばならなかった———しかし運悪く不注意な男にぶつかってしまった。
そうである。この時点で100%長谷部が悪いのである。
しかしだ。ここで本来なら怒るか謝られるかするところを、彼女は取り乱してしまった。
それはなぜか?
———簡単な話である。
———気絶して目を覚ましたとき、手を差し出してくれた長谷部を、王子様のように捉えてしまったのだ。
———事実として、彼の顔は比較的整っていると言えるだろう。
彼が言っていた自分の容姿が、彼女には以下のように写っている。
雪のように白い肌。真っ黒でまつ毛の長い、どこか悲しげな瞳。そして泣きぼくろ。縮れていて、目を少し隠しているような黒髪。白い肌に映える、赤い唇。
———黒マスクをしていたら、ますます彼女にとっては劇薬だったのだろう。
簡単に言えば、ヒモをしてそうな見た目である。
線が細くどこか中性的で、弱そうではある。だからこそ母性本能もくすぐるのだろう。
多分女装も似合う。
男性的なマッチョイズムをかっこいいと感じる、本人は知るよしもないが。
そんなこんなで。
彼女は彼に対して、一種の憧れのようなものを、今の一瞬で、持ってしまったのだ!
●
あれからしばらく歩いてるのだが。
ぐるぐる回ってるだけだ!これ!
だって彼女が全く話さない!俯いて後ろをついてくるだけだ!
危ないだろ!(人のこと言えない)
「ねぇ、どこ行けばいいの?これ」
「———たしの名前」
「へ?」
出汁の名前?ブイヨン?
「私の名前は、シャリオ・マクラーレンです!!!!!!」
またみんな振り向いた!それくらいの声量だった!
なんだろう。生徒会長でもするのかな?だとしてもこんないつでも宣伝しちゃダメでしょう。駅の前とかね。やめてくれよほんと!邪魔なんだよ!
「俺の名前は、長谷部慎だよ」
「ハセベさん!そこの寮に向かってくれませんか!」
途端に元気になりやがった!
今の一瞬で酒でも入れたか?注射とかかしら、アル中の最終兵器だろそんなもん。
———てか寮?
寮があるのか⁈
まずいだろそれは!確実にパクリだぞ!こっちは肉体ひとつで学校に来たって言っても過言じゃないんだから!ヤバ!てかブリンブリンバンボーンってなんの意味?バーンブレイバーンの仲間?
「上がって、ください」
「———へ?」
いきなりお部屋訪問⁈
ノクターンに移動した方がいいか⁈
みんなどう思う⁈
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