第7話 化粧室
空いてたら別にいいと思うけど、五階のレストランフロアでお昼ごはんを食べて、八階の化粧室に入ったら、ブレザーの女子高生三人組が椅子のある方を占領していた。
洗面台と入り口に一番近い席に座った髪を後ろで一つに束ねた女子高生が、何を塗ったのか、顔を真っ白にして、
「ねえ、誰かコンシーラー持ってない?」
と聞いた。
「持ってない」
と、背中くらいの髪の一人が椅子の前でマスカラをつけながら、もう一人は椅子に座ったまま何か触りながら答えた。
化粧台の前、彼女達の右側には、スマホが置かれていた。
「え、持ってないの!?」
いちいちうるさいなあ……。
しかも、コンシーラーって……。
若い人達でも、きちんとコンシーラーしてメイクしてる人達がいるのも知ってるけど、まだ女子高生でしょ?女子高生にコンシーラーって……。
あ、今時、こういう発言、考え方すると、ポリコレ的にアウトなのかな?
ダウンと荷物を置きたかったので、椅子のある方を使いたかったのだが仕方ない。
彼女達のメイクはまだ終わりそうになく、私は仕方なく、彼女達に背を向ける形で、椅子のない鏡の前に荷物を置き、何とかダウンを台の下の物入れの中に突っ込んだ。
鞄から、化粧ポーチを取り出して、メイク直しをしていると、今度は鼻歌が聞こえてきた。
後ろで髪を一つに束ねた女の子が鼻歌を歌いはじめたらしい。
ーー街に出ると、たまにこんな子いるけど……。
どの高校の子だろう?
と思っても、最近は、学校名で差別されるのは良くないとかで、制服も似たようなデザインだし、スクールバッグにも学校名が書かれていないので、さっぱり分からない。
三人とも髪の色が暗く、ギャルと言うより大人しそうなのに、ばっちりメイクして、どこへ行くんだろう?
私がJKだった頃は、JKなんて言葉もなかったし、寄り道は御法度だった。
保護者とどこかへ寄る時でも、事前に学校へ届け出ないといけなかったし。
時代は変わったとはいえ、女子高生に化粧室を自室代わりに使われることには、いつまで経っても慣れない。
駅前のショッピングモールの化粧室を自室代わりに使う人達は女子高生だけではないけど、何故か、この化粧室は、女子高生や若い女性達に占領されることが多かった。
もっとひどい場合だと、メイクしてる友達の横で寝出したり、お菓子を食べ出したり。何か書類を書いたり、電話したり。
お弁当やパンを食べてた人達もいたな……。
スマホ撮影禁止のシールが貼られる前は、自撮りしてた子達も多かった。
待ち合わせに使ってたおばさん達もいた。
デパートのトイレで、しゃべりながら宿題してた小学生二人組も見たことがあるけど。
デパートの化粧室の椅子は広いので、二人で座ってはしゃいでた若い女性達もいた。
お昼休みの証券会社のOLさんが、瓶から、フレグランスを吹きつけてたのも見たことがあるけど、さすがにこれは……。
ヘアアイロン?美顔器?
何かよく分からないものを、また、一番右端に座った、後ろで髪を一つに束ねた女の子が取り出して、触り始めた。
まだ、鼻歌も止まっていない。
何か異臭がすると思ったら、一番奥に座ってた三人の中では一番大人びて見える肩より少し髪が長くて、明るく見える女の子が笑いはじめ、真ん中で椅子の前に立ってメイクしてた女の子が、
「くっさあ~~!」
と言って、二人で、私の隣の鏡の前へと逃れてきた。
もちろん、椅子に荷物を置いたまんま……。
今日はまた寒くなったせいか、月末のせいか、人が少なかったし、私の後にお掃除のおばさんが入ってきたくらいだけど、ちょっと我が物顔し過ぎ!
機械?が異臭を放っても、右端に座った女の子は鼻歌交じりにメイクを続けていた。
見ても分からないけど、せめてもの足掻きに、私は彼女が座っている椅子の右に置かれたスクールバッグを見てみたけど、やはり、スクールバッグからも、制服からも、私は何の情報も読み取ることは出来なかった。
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