第26話:グレナド・ロイヤル攻略戦

朝だ。

今日、たくさんの兵が死ぬだろう。

だけど僕らがやらない限り、世界は救えない、もっと沢山の人が死ぬだろう。ここで躊躇ってはダメだ、もう後悔はない。

「みんな、行くぞ!」


その掛け声と共に僕らは崖を下り、街へと続く細い道を走った。あたりはまだ暗く、城壁からはこちらは見えないだろう。弓隊が矢を放ち見張りを殺す、それは音もなく訪れる死だ。気づいた時にはもう死の一歩手前、声を上げることもできない。アンカーを投げ、壁を登り、見えた景色は静かな街並みだった。今もあの家には人が住んでいて、ここが戦場になるなんて知らないんだろう。

「何ぼさっとしてる!行くぞ」


隊の一人が僕の背中を叩いた。気がつけばみんな壁を降り始めていた。ここで僕らは二つの班に分かれた。第一班は真っ直ぐ城へ向かい現国王を取り押さえる、第二班は収容所に向かい救助をする。僕らクーフーリンからなる第一班は強襲に優れた人材で編成されている。ミランダさん達は第二班だ、どうか無事でいて欲しい。

「もうすぐで城だ!」


走り出してから10分、ちょうど息切れし出した頃にようやく辿り着いた。

「でかいな…」


そして複雑だ。中は迷宮のようになっているとペルナドくんが言ってた。戦力を分散した方が良さそうだな。

「ビビってんのか?だらしねぇ」


「そういうガレフくんは大丈夫なの?」


「はっ!おめぇとは経験が違ぇんだわ」


そうか、ガレフくんは元々傭兵だった。こんな大規模な戦闘はないにしろ、多少は見慣れてるはず。いざって時は頼りにしよう。

「それじゃあ入るぞ、俺に続け」


ガゼロさんの掛け声と共に城の門を開けた。中は薄暗かったが月光が照らしてくれてる、内装がよく見える。

「全方位警戒だ、気をつけ—」


「ようやく来たのですか」


ガゼロさんの言葉を遮ったのは中央の階段を降りる一人の亜人、彼は執事のような格好でゆっくりと降りてきた。

「奴さんのお出ましだ、全員で取り掛れ!」


「その必要はありません」


その男が指を鳴らした瞬間、隣にいたはずのガレフくんが、消えた。

「…ッ!ガレフくんに何をしたッ!」


「安心してください、彼は今どこかの部屋にいるでしょう。と言っても、生きているのも今のうちですがね」


「どういう事だッ!」


その男はニンマリと笑い、また指を鳴らした。今度は2回鳴り、クーフーリンさんとダンダロスさんが消えた。

「私は戦いは専門外なのでね、そっち専門の方々のいる部屋に移動させたまでです。さて、あなた方も移動させてもらいます」


「させるかぁッ!!」


ガゼロさんが抜刀し、一瞬で男の目の前まで踏み入った。だがパチンと指を鳴らしただけでガゼロさんは消えた。

「さぁ、坊やの番です」


そして僕も、その場から消えた。


私の班は一直線に収容所へ向かっている。街は入り込んでいてなかなかまっすぐに進めないけど。それと… フォルネくんは大丈夫かな?向こうのほうが断然危険なはず…

「ミランダさん、大丈夫ですか?」


「え?うん、大丈夫よ。どうして?」


「いや、なんか思い込んでいるように見えたので」


「え!?あ、いや、大した事じゃあ…」


「…フォルネくんの事ですね、心配ですね」


「え、どうして分かったの!?」


「流石のワタシでも分かります、その顔は、恋してる顔です」


かぁぁっと顔が熱くなるのを感じる。正直、自分では隠してるつもりだったんだけど、そんなに分かりやすかったかな?顔に出てたって事でしょ?え、じゃあフォルネくんは気づいてるのかな?

「フォルネくんのやつは気づいてないでしょう、鈍感なところがあるんで」


「そ、そっかぁ〜… 」


「!ミランダさん、避けて!」


アラヒサくんに押し飛ばされた。私は咄嗟に受け身を取った事で、ダメージは最小限にとどめられた。一体何が起こったの?見ると私とアラヒサくんの間に大きな氷が地面にめり込んでいた。

「裏切ったのか、ガガギスゥ!!」


声の先を見ると、そこにいたのは一人の小柄な亜人、白いワンピースが風で靡いていた。

「アイル、よく聞け。お主らは騙されていたんじゃ!」


「知らない知らない知らない知らない!あっしは… 国王様に従うまでだああああ!」


氷の塊が何個も生成され、それをこちらに投げてきた。投擲された氷は豪快に民家を貫いていく。

「バッ… 貴様は市民の命をなんだと思っているッ!」


市民?振り返ると、崩れた家の中に瓦礫に押しつぶされてる亜人がいた。吐き気がした。それはどうにも言葉では表せず、ただただ酷かった。そうだ、まだこの街には多くの人が、私たちの存在を知らずに寝てる。まだここが戦場になるなんて思ってないんだ。

「裏切り者がよく吠える!!あっしはアンタを尊敬していたわ!友であり、師であり、そして何より親であった!」


「吾輩の話を聞け!貴様らは—」


「うるさいッ!!」


その声と共に彼女の周辺が凍りつき、私たちのところまで届いた。一瞬にして寒さが増した。

「もういいわ、アンタは… あっしを裏切った!その事実だけで、この戦いに意味がある!」


アイルと呼ばれている可憐な少女は、手に持っていた石を複数中に投げた。

「ホムンクルス!」


その呼び声に応えるかのように石に紋様が浮かび光、変化した。それは《あの日》、ラースで見た、亜人だった。

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