最終決戦
第25話:ロングロード
日の出前に起き、服を着替え朝食を取る。今朝はサンドウィッチが支給された。古城の北門に集まりガゼロさんを待つ僕ら、総勢200人以上の大部隊はこれから忘却国家グレナドの王都、グレナド・ロイヤルに向かう。
「アラヒサくんはまだ動かない方がいいんじゃ…」
「大丈夫だ、魔術的治癒もしてもらったし、着く頃には戦えるぐらいには回復するだろう」
アラヒサくんの身体はどこも以上ない様に見えるが、歩くたびに顔が歪んでる。きっとまだどこかが痛むのだろう。
「よぉし!」
門の前でガゼロさんが大声を出して言った。途端に目線がそちらに向く。
「これから大変な戦になると予想される。今この時が最後のチャンスだ。家に家族を残した者、思い残しがある者は今すぐ引き返せ。思えば、君達は背負わなくていい重荷を背負わしてしまった… ここまで来るのに死んでいった者たち、彼らの死の責任は俺にある。今一度問おう!命が惜しい者は去れ、俺と一緒にこの罪を背負ってくれる者は残れッ!」
広場に集まった人間は動かなかった。皆笑顔を浮かばせガゼロさんを見上げた。
「… よし!では出発だッ!」
思い出す、いろんな事を。俺ははじめ、なんともない男だった。街の外れにある農村で生まれ、12になった頃に兵学校に入った。魔力はなかったが剣の才能には恵まれた。同期の中ではトップに秀でて、あまつさえ先輩にまで勝ってしまった。天狗状態だった俺は夜な夜な街に出てはゴロツキを片っ端からやつけてた。そんなある日、俺はヤツにであった。
「おい、てめぇ。そんなに乱暴すんな」
「ああん?」
俺と大差ないぐらいの年齢と見た。長い棒を布で隠してる。後ろにいるのは… ローブで見えねぇが佇まい枯らして老人か怪我人だろう。ま、ガキの方を相手とればいいか。
「なんだぁ?こいつらはこうなって当然な奴らだ、てめぇは口を出すな」
「『力を武として使う者は、力を善として使えない』」
「何言ってんだてめぇ?」
「セイラー氏の有名な一文だ、君も覚えとくといい」
剣を抜き、得意の技で殺す!と言っても刃は潰してあるから殺傷能力はない。瞬時に相手の懐に入って剣を横に振った。カーンと甲高い音を上げて止まった。振動が手に伝わるのがわかる。
「なるほど、天狗になるのも納得の技量だ。だが所詮はそこ止まり。知ってるか?折れにくい剣を作るには鉄を何度も殴るんだ」
「だからなんだってんだ」
槍で防いだのか。あの一瞬でか?早すぎんだろ。
「強い戦士を作るには、それ相応の『痛み』や『挫折』が必要だ」
「それ、意味ある?俺は俺の好きなようにやって強くなった、その理論が無意味である事を証明してやん—」
んだ!?危なかった、いやいや速すぎる!槍は基本、近接は苦手なはず…!一気に間合いが空いた今、俺は不利—
「弱いな」
槍の裏で胸を突かれ吹き飛ばされた。遠く飛ばされ壁に当たった衝撃で右手からは剣が離れていた。負けた。
「これで己の弱さを実感したか?」
「… てめぇ、何者だ…?こんなに強けりゃ… 行くとこ敵なしだろ」
「ただの通りすがりの魔術師さ」
——ああ、懐かしいな。あん後また再会するとは微塵も思わなかったさ、クーフーリンよ。だがお前の目はあの日とは違ってた、何がそうさせたのかは知らないが、お前の目指すとこに連れて行ってくれ。俺らならなんだってできる、そんな気がする。
「なんだお前、そんなにニヤついて。気持ち悪いぞ」
「ハハ、お前は相も変わらず辛辣だな」
「んな事よりもうすぐ着くぞ、準備はできてんのか?」
「任せろってんだ、俺を誰だと思ってる?ラース最強の戦士ガゼロだぞ」
この戦いが終わったら、そうだな、久しぶりにおかぁとおとぉに会いに行こうか。弟も元気にしてるかな?
「ん… そういやお前に兄弟って居たか?」
「あん?いねぇよ。居たとしてもずっと師匠と二人で旅に出てたんだから会ったこともねぇ」
「そうか… 師匠さんは元気にしてんのか?」
「… ああ、小さな街で隠居中だとさ」
「あの人にはもう一度会ってみたいな、手ほどきのお礼もしっかりしたいしな」
「ああそれもいいが… 着いたぞ」
着いた場所はちょうどグレナド・ロイヤルを見下ろせる崖だ。今日はここ付近にキャンプ地を作って、翌朝襲撃する。時間は限られてる、が焦ってしまえば作戦は崩れる。特に今は兵も疲弊している。
「皆んな!ここで休憩だ!作戦結構は明日の早朝、今日は存分に休んでくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます