第27話:クーフーリン/フォルネ
俺は… 無事だな。どうやらただの移動魔術のようだな。にしてもここはどこだ?
「主が襲撃者… か」
通路の奥に誰かがいた。すかさず槍を構える。
「お前、敵か?」
「そうとも言える… な」
火が灯っていない、暗すぎて見えない。緊張が走る。お互い、一定の距離を保ちながらその場にとどまる。だが最初にその沈黙を破ったのは、俺だった。
地面を蹴り、超速で相手の懐に入る!初見じゃあ避けることは出来ねぇ!槍でその身体を貫いてや— いやなんで避けねぇ?避けないにしても何かしらのアクションは取るだろ?いや、こんな刹那の思考に意味なんてねぇ—貫け
「ゲイボルグッ!」
確かに貫いた。奴の腹を。だがその体だと思っていたものは、煙のように消えていった。
「そうか… そういう攻撃なのだ… な」
幻覚、幻影か?どちらにしろ対策方法は知っている。ただひたすら… 突き続ける!
幻覚や幻影系の魔術は一見最強に見えるが、唯一弱点がある。それは自分の幻影を一定距離にしか召喚できないって事だ。出てくる幻影の位置を全て把握し潰し続けることで、本体の位置を大体探れる。あとは傷一つさえ入れれば幻影は解ける。
「オラオラ!攻撃してこいよ!張り合いが無さすぎて飽き飽きだ!」
また一体、また一体と潰していく。よし、大体場所はわかった。本体は…
「ここだな!」
渾身の一発を何もない空間に放った。だが文字通り、何もなかった。ハズレた…?
「こちらに戦う気は… ない」
どこからともなく声が聞こえた。まるで天から話しかけているようだった。
「すまねぇが俺にはあるんだ。だから潔く出てきてくれやしねぇか?」
「貴様をここに拘束するだけでいい… さすれば国王の計画は完遂される… 鳥籠にいる気分を… 味わいながら待て… それがゆ—」
「あーあ、うるせーうるせー。ったく聞き飽きたんだよそういうの。早く終わらせたいから出てきてくんねぇか?」
「… そんなに戦いたいのであれば… 傀儡を使わそう」
左右に通路からゾロゾロと亜人が出てきた。どれも動物に近い、亜人擬だった。
「げっ、煽りすぎたな」
確かにこいつらと似たやつをラース・セントラルで倒した。他の亜人とは違い、知性らしきものがない。傀儡、引っかかるな。
「まぁいいぜ、千年分の後悔を味わって死ね」
そこは綺麗に装飾された部屋だった。豪華な椅子には月光に照らされた一人の男がいた。
「貴様が我が王に害をなす存在か。その魂、王に似ているな」
「あなたは… アッシュ・ヴァリヤァグですね」
「貴様… 我が名をどこで、いや、ペルナドか」
アッシュ・ヴァリヤァグ、剣の達人で、四獣士の中でも最強と聞いている。そして分が悪い。槍は中距離が主な領域、けど彼の使う剣術は近距離が強い。間を縮められたら、勝ち目は無い。
「その魂の色、なぜ染まらない」
そう、僕は分かっていた、本当の自分を。魂の色は、その人の善悪を左右する。そして現状最も悪意に染まりやすいのは『黒』。『黒』の魂を持つ者は死の魔術を使う、僕らは彼らを黒魔術師と呼ぶ。そしてそれに近い色、それが『紫』、僕の魂の色だ。
「僕は… フォルネ・ボイル、悪意には染まらない!」
「その魂の色は珍しいらしいな。我が王が申しておられた、かの色を持つ者は生け取りにせよと、生憎、我が意思はそれを拒む!」
アッシュはおおよそ15mはあったであろう僕との距離を一気に詰めた。それをあたかも知っていたかのように僕は一歩下がった。アッシュは抜いた刀で空を切った、一歩下がったことによって避けられたのだ。肌スレスレに剣はかする、生まれた一瞬の油断を逃さず僕はアッシュを蹴っ飛ばした。両者背後へ倒れ込む、地面につく前に体勢を整えなければ死ぬ。
「『エアロショット』!」
魔術で身体を再度宙に浮かせた。半ば宙返りのように飛び、着地した。アッシュはどうやら受け身を取りつつ戦闘体勢にまで身体を持っていった。手慣れた戦士、そう思った。命のやり取りを幾度なくやってきた者の動きだ。
「気にならんのか、なぜ我が魂の色が見えたのか」
「僕も見れますから、特段驚きはしなかったですね。ただ僕の場合はある条件じゃないと見れない、あなたが見れたのは戦士の域を超えていたからでしょう。戦い方を見れば分かります」
魂を見るという行為は、魔術師にはできないことだ。魔術や魔法による魂鑑定などはあるが、直接目で見ることは本来なら人間である時点で無理なのだ。これは武の道、戦の者になった者だけが取得できる一種の超能力だ。彼の場合はそうだ、だが僕は違う。僕はある一定の条件下でのみ見れるような、ただの劣化コピーでしかない。
「その歳で魂を見る技を習得しているとは… よほど優秀な師匠を持ったという事か」
アッシュは剣を構えた。僕も次の攻撃を捌くため槍を構える。自然と息も心臓の鼓動も同じになる瞬間、飛び出した。鉄と鉄の衝突、空を切る物と空を突く物、それらが交わり、弾かれ、また交わる。どちらも一歩も引けを取らず、どちらも一手先を行かない。まさに拮抗状態。
「良い槍使いだッ!!」
「そちらこそいい剣捌きだっ!!」
戦いを楽しめ、師匠がよく言っていた。けど戦いは斬獄で無惨なもの、到底楽しめないと思っていた。だが今なら分かる。同じ技量、同じ位の者と張り合った時、戦いを楽しめる。
そして一瞬の油断で—いや—ほんの一瞬の力の誤差で、戦いは終わる。
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