37話 帰還。のちに


 既に日が落ち始め、星々が光を輝き出す頃。

 

 自然由来の月光とは異なる、人口の光が街を照らす中で二人の少女は大通りを歩く。


「はぁー、それにしても疲れたねぇ」


「……誰のせいだと思ってるんですか」


 カーラのジロリと視線。

 ステラの「ごめんごめん」と反省した様子のない謝罪に、カーラは呆れたようなため息を吐いた。


「もう、今日は疲れたのでゆっくりしたいですね」


「あはは、男の人に抱きついて?」


 彼女にとって、あまり思い出したくない出来事なのだろう。

 カーラは顔を赤くして、睨みつける。

 が、ステラはどこ吹く風だ。


 ただ、涼しい顔をしながら、真っ直ぐに前を見て、自身たちの宿に指を向けた。


 いや、宿と言うよりはホテルに近い。

 外見からでも伝わる気品に優に20階は超えているであろう階層。


 そんな豪華絢爛なホテルを出入りしているのは、ホテルに見劣りしない服装に身を包んだ老婦人や若い男女など様々である。



「おかえりなさいませ。ステラ様、カーラ様」


 ホテルの入り口に辿り着くと、シワ一つ見当たらないスーツを着たいホテルマンらしき女性がお辞儀をする。


「もし、よろしければお荷物などお預かりしますが、どう致しましょうか」


「いえ、特にないので大丈夫です。いつも、ありがとうございます」


「かしこまりました」


 ステラとカーラはお辞儀をしたまま動かないホテルマンの横を通りすぎ、上の階層へと続く階段へ向かう。


「あ、あの!」


「確かに今日はもう疲れたねぇ。私も早くお風呂に入りたいよ」


「待ってくれよ、ステラ!」


 最初の時点で自分に声をかけたのに気づいていたが、あえて無視していた。が、まさか名前まで呼ぶとは。

 うんざりしつつも、一応は横目で確認する。


 年齢は同じか、少し上くらい。

 茶色の髪に整髪料で整えて、質の良さそうなスーツに身を包んでいる。

 体つきからして冒険者ではないのは明らか。



 やはり、知らない男だ。


 おそらく、どこかの名家か、裕福な商人あたりの息子だろう。


「……私に何か用?」


「い、いや。別に用事って訳でもないんだが」


 と、何やら言い淀んでいるが、視線は雄弁だ。さっきから人の胸をチラチラと見てきてうんざりする。

 慣れてきているが、鬱陶しいことに変わりはないのだ。


 もっと、あの男を見習ってほしいものだ。会話する時はちゃんと目を見て話すし、それに胸が当たっている時もまったく、反応、



 と、そこでステラの思考が切り替わる。

 思い返してみれば、自分は今日とんでもないことをやらかして事実に。


 普段ならば、男と会話するのも億劫なはずが普通の男たちと全く違う反応を見せるグレンが面白く、ついテンションが上がっていた。



 そのせいで、パーティメンバーに仕掛けるようにイタズラを仕掛け、あまつさえ恋人同士がするように腕を組んで歩いてしまった。


 いまさらながら、顔がどんどん熱くなってくる。幾ら恐怖で麻痺していたとはいえ、我ながら完全にやりすぎだ。


(それにしても、グレンの腕って意外と……)



「き、今日一緒にディナーでもどうだ?」


 男の声に意識が引き戻される。居心地の良い場所に侵入されたような気分だ。


 ステラは落としていた視線を睨みつけるように、向ける。

 が、相手は自分の目を見ていない。

 視線は僅かに下がっている。

 隠す努力くらいしたらどうなのだろうか。


「悪いけど、私たちはこれからパーティメンバーと過ごすから」



「じゃ、じゃあほら! 別に二人っきりじゃなくても、お前のパーティメンバーとかも連れてきても良いからさ」



 男はカーラに視線を変える。

 何を考えているのか手に取るように分かっていた。こいつは私たちの顔や体だけしか見ていない。カーラも感じ取ったのか、冷ややかな目をしていた。


「いや、ほんと迷惑だから。行こう、カーラ」


「そうですね」


 これ以上の会話は無駄だと悟り、階段を上がっていく。背後から声が聞こえたが、無視して登る。

 最後の最後で気分を害されてしまった。


「あ、おかえり」


 部屋に着き、扉を開けると簡素なTシャツを着たアリスとリズがいた。


「随分と遅かったけど、何かあった?」


「そうですね。ステラのせいで男の人と二人っきりにされた挙句に触れられたこと以外は特になんともありませんでした」


「待ってごめん、どう言う状況? ステラはグレンを追いかけて、カーラは後を追いかけたんだよね? それがなんでそんなことになるの?」


 リズも理解できずに首を傾げていた。カーラは何故そんなことになったのか、愚痴をこぼすように一から説明を始めた。

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