なにもの

38話 夢の狭間




 ………何も見えない。




 なんの前触れもなく、気がつけば暗闇の空間にいた。

 俺はすぐに理解した。これは夢だ。


 また、この夢か……


 

 一体何度目だろう。

 うんざりしながらも、ひたすらに歩き続ける。


 


 何分か、何十分か、体感時間は定かではないが、気がつけば目の前には扉が出現していた。


 大きくもなく、小さくもない、錆びれた鉄製の扉が佇んでいる。



 前回と変化がない。

 何も変わっていない。



 なら、きっと今回の夢の終わりも同じなのだろう。



 俺の予感は正しかった。

 ギィッと扉が音を立てて開き、中から漏れ出た光に目が眩む。あまりの眩しさにいつも目が開けられない。



 今回こそは……



 そう奮起しながら、なんとか目を開いて中を見ようとするが、



「………あ?」


 目を開けると、木製の天井が見えた。

 横に設置されたカーテンの隙間からは、僅かに漏れ出た陽光が目に降り注いでくる。


 寝起きのせいで、まともに頭が働かず呆然と天井を見つめていたが、ようやく働き出した。


「……あー、またか」


 上体を起こして、ため息を吐く。久々に見たな。


 いつもそうだ。

 あの扉が開くと夢が終わる。

 いつも同じ終わり方だ。



 最初は大して気にならなかったが、こうも同じ夢を見続けると流石に気になってしまう。

 


 今回も見れず、か。

 まぁ、見れなかったものはしょうがない。わざわざ引きずるようなことでもないし、さっさと切り替えよう。




ーー



 ギルドは相変わらず賑やかである。まったく、俺のようにもっと慎みを持ってほしいものだ。


「やぁ、スピナーくん。どもども」


「グレンか」


「そうだよ、グレンくんだよ。座って良い?」


「ご勝手に」


 よし、座らせて頂こう。


「んで、お前は何しに?」


「ん? クエストを受けに」


「そんなことは見たら分かる。お前がそれ以外でここに来たことなんか見たことねぇんだから。なんのクエストを受けにきたんだよってこと」


「あぁ、そういうことね。なんも決めてねぇ」



 とりあえず、なんか良いクエストあったら良いなぁくらいの気持ちで来たからな。どんな分野のクエストかはまだ決めてない。

 また掲示板見て、良さそうな物があればそれにするつもりである。


「そうか。なら、遅らせた方がいいぞ」


「え、なんで?」


「ほら、あれだよ、あれ」


 スピナーの指先の進行方向には一人の男がいた。金色の髪、背中には身の丈と同程度の大剣、イケメンな上に強そうだ。

 あんな奴は見たことない。それに、誰も近づこうとすらしないのも気になるな。


「あいつがどうかしたのか?」


「あぁ、ついさっきここに来た新顔なんだけどよ。さっき、あいつに話しかけた一人が殴られたんだよ」


「はぁ? そりゃまたなんでだ?」


「雑魚が気安く話しかけるな、だとよ。殴られた奴は気絶して、そのまま仲間に回収された。ランク6の奴が1発でだ」


「おおう、そりゃやべーな」


 

 なら、少なくともあいつはランク7以上の強さはあるってことか。なんで、そんな奴がこんな平凡な街に来てるんだよ。


 王都とかに行けよ。

 掲示板近くのテーブルを占領してるから、取りに行きずらい。

 近づいただけで、イチャモンとかつけてきそうだ。


「どっか行ってくれねーかなぁ」


 小さくぼそっと呟く。すると、いきなりこっちに顔を向けてきた。

 え、聞こえた!? なんかこっちに来てるし、聞こえちゃったのか!? すんません! 嘘です! 一生ここにいて良いのです!!


「……あれ?」


 身構えてたのに、スルーされた。あれ、もしかして許された? いや、違うな。どちらかといえば視界にすら入っていないような。


「………おぉ、久しぶりだな!」


 誰かに話しかけているようだ。一体誰に話しかけているんだ?


「………なんで、ここにいるの?」


 話しかけているのは、アリスだ。だが、話しかけられたアリスは不快感を隠そうともしない表情をしている。


 口ぶりからして知り合いみたいだが、俺たちはあいつの顔を知らないところから考えると、この街に来る以前の知り合いだと思う。


「あ……」


 と、今はそんなこと考えてる場合じゃないな。あいつがいない内に、さっさとクエストを選んで受けないと。


「さーて、どれにしようっかなぁ」


「いや、待て待て待て」


 掲示板に向かおうとすると、服を後ろから引っ張られた。喉がしまって変な声出た。ぐえってなった、ぐえって。恥ずかしい。


「いきなり何すんだよ!」


「いやいや、そりゃ俺のセリフだわ。何呑気にクエスト選びに行こうとしてんだよ」


「いや、だってあいつが近くにいない今がチャンスだろ」


「どう見ても只事じゃない雰囲気だろ、向こうが。よく見ろ」


 んなこと言ったって。冒険者の間なら揉め事なんてざらにあるだろ。それに、あいつらだぞ? 心配する必要がどこにある。


「私たち、これからクエストなんだよね。早くどっか行ってくれない?」


「私も同意見です。不愉快なので消えてください」


「……邪魔」



 いや、こわぁ。美少女たちの口撃威力高すぎない? 俺だったら泣くわぁ。可哀想に。


「はは、俺に対して相変わらずの態度、それでこそ俺の嫁に相応しい!」


 いや、あれだけ言われて笑えるとかメンタル強すぎるだろ。あいつのメンタルどうなってんの? 


「……ん?」


 いやいや、待てよ。それよりなんか重大な言葉を聞き逃した気がする。えっと、なんて言ったっけ? あのイケメン。

 えーと、あー、なんだっけなぁ。あんまり聞いてなかったなぁ。


 すっげー恐ろしいことを言ってたような気がするんだよなぁ。なんだったかなぁ。



「相変わらず、ふざけたことを言うね」


「ふざけてなどいないさ、アリス! 俺はお前たち四人を妻として迎え入れる!」



 そうそう! そこを聞き逃したんだった! いやー、答えが見つかってよかったよかった! 


「………え、まじ?」


 冷静になったら、思考が停止した。

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正体がバレたくない俺vs正体を知りたい彼女たち クククランダ @kukukuranda

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