33話 気まずい二人
上手い話には乗るな。
甘い誘いには必ず裏がある。何も考えずに乗ってしまうと、後悔する。
いつだったか、そんなことを誰かに言われた。
俺は聞き流して聞いていた。自分なら、きっと強固な意志で跳ね除けられると思っていたからだ。
けど、こんなことになるなら真面目に聞いておけば良かったと思う。
まぁ、いまさら後悔しても、もう遅いのだが。
「はぁ〜」
「なんですか?」
おっと、まずい。
前を歩いていたカーラが鋭い視線で睨みつけてきた。
まるで不機嫌さを隠そうともしてないな。
にしても、ステラがいなくてカーラと二人っきりだ。
こんな美少女といるのに、甘酸っぱさもドキドキもない。
いや、ドキドキはあるな。あまり嬉しくないタイプのドキドキが。
そんなギスギスした空気なのだから、そりゃため息の一つや二つつきたくなるってもんだ。まぁ、こいつには言えないけど。
「いや、別になんでもねーです」
「……こっちの方がため息つきたいですよ」
小声だったが、しっかりと聞こえた。ほんと、なんであいつどっか行っちまうんだよ。
嫌がらせか?
ん? いや、待てよ。こいつは俺のことを嫌っているよな? そりゃ確実に絶対に。なら、わざわざ一緒に行動する必要なんかないよな?
そうだよ、そんな必要ねーよ。こいつは、嫌いな人間と離れられて、俺はステラが飽きるまで、一人でのんびりと時間が過ぎ去るのを待てばいい。
俺って頭良いー!
「あー、その」
「なんですか?」
「いや、提案なんだけど。お互い別々で行動しないか? ほら、カーラ……さんも男と一緒にいるの嫌だろ?」
「え? いや、まぁ、それは」
「だろ? 実は俺もちょっと一人でのんびりとしたい気分だったんだよ」
「え?」
「じゃあ、二人の意見が合致したということで。ここからは別行動な。うんじゃ!」
いやー、良かった良かった。
と、安心したのも、束の間。
何故か、足が動かない。
足元を見ると、硬い地面が足を埋めていた。
「あのー、すいません。カーラさん? 離してもらえないっすか?」
「………」
俯いてぶつぶつとなんか言っているが、全然聞き取れん。もっとはっきり喋ってほしい。
「………さい」
「え、なんて?」
「だから! 待ってくださいって言ったんです!!」
よっぽど嫌なのだろう。今にも泣きそうな顔をしながら、頬を紅潮させている。
ここでんなこと知るかと言いながら離れることはできる。
けど、それは流石に可哀想なので足を止めた。
「えっと、その………あのですね」
とりあえず、黙って聞くことにするが、なんか長そうだなー。
帰ったら、今日の晩飯は何にすっかなぁ。ガッツリとした肉にするか。
「や、やはり別々で行動するのは危険だと思います。私は別に一人でも大丈夫ですが、貴方は中堅ランクなので、万が一の可能性があります。そう、これは決して私が怖いからと言うことではなく、貴方のことを思っての発言です。だからと言って勘違いしないでください。私は別に貴方のことをなんとも思ってません、むしろ嫌いです。まぁ、その感情は抜きにして万が一にも死んでしまう可能性があるのならば、それは見過ごせません。そんな訳で大変不本意ではありますが、離れるのは危険でしょう」
あー、でもどうだろ。なんか、ラーメンとか食いてぇなぁ。最近できたあのラーメンもどきめっちゃ美味いからなぁ。あそこも捨てがたい。
「ちょっと! 聞いてるんですか!?」
「え? あぁ、そうっすね。良いんじゃないっすか?」
やべえ。全然聞いてなかった。とりあえず肯定しておいたがなんて言ってたのだろうか?
「では、そういうことで」
「はぁ、そうっすね」
まぁ、とりあえず当初の予定通り別々で行動するか。と、離れようとしたのに、また拘束された。
「あ、貴方、話を聞いてたんですか!? さっき同意してくれましたよね!?」
「いや、すんません。早口でなんか言ってたのは分かったんすけど、全然分かりませんでした」
「なっ」
あれ、何やら顔を赤くしながらプルプルと震えている。
なんか重要なことでも言ってたのだろうか。だとしたらごめんよ。
俺は飯の方が大事だったんだ。
「だ、だから危険ですからまだ離れない方が良いと言ってるんです!」
「あぁ、なるほど。それならそうと早く言ってくださいよ」
軽く笑うと、カーラがギロリと睨みつけてくる。やべぇ、マジで魔法ぶっ放してきそう。こいつ、前科あるからなぁ。
あんまり刺激しないように気をつけないと。
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