28話 禁断の選択
今、俺の目の前にはとんでもない難問がある。
「どうしたの?」
ピクピクと動くふさふさの耳。
ステラの耳を触るか否か。
もちろん、正直に言ってしまえば触りたい。
アイドル顔負けの美貌とスタイルを持つ者に猫耳や尻尾がついている奇跡。
触りたくない奴の方がおかしいと思う。
思うのだが、
「あー、私が見てたら触りづらい? なら、後ろ向いておくよ」
ステラは背中を見せる。
目の前に現れたフリフリと動く尻尾、サラサラとして艶のある美しい毛並みだ。
手を伸ばせば、すぐに届く距離にある。
しかも、隙だらけだ。
けれど、俺はこれには触らない、つか触れない。
確かに手を伸ばせば一時的に、幸せな気分になるだろう。
だが、その後が地獄だ。
ただでさえ、こいつらはとんでもない有名人。
冒険者だけじゃなく、街全体に大勢のファンがいる。
もし、触れたことが明るみになれば、間違いなくこいつのファンに殺される。
おそらく、こいつは分かってやっている。
これは罠だ。
見え見えの罠に引っかかる俺ではない。
絶対に触らない。
そう決めているのに、駄目だと分かっても手が勝手に吸い寄せられる。
頭とは別で体が動く。
あと、数センチで触れてしまう。
誰か、止めてくれ!! もはや自分の意思ではどうしようもできず、第三者に止めてくれるように願うと、
「風連弾!」
突然の暴風に体が吹き飛ばされ、地面を転がった。顔を上げ、何が起きたのか確認した。
ステラは無事。
吹き飛ばされたのは俺だけだった。
「ありゃりゃ。これじゃ、触らせるのは無理そうだね」
呑気で、どこか残念そうな声。
ステラは手を頭の後ろで組み、森の入り口付近を見ていた。
俺も同じ方向を見る。
そこにはいたのは黒いとんがり帽子を被り、灰色のローブを着込んだ可愛らしい少女だ。
俺を吹き飛ばした少女はカーラだった。
「なに、やろうとしてたんですか!!」
木製の杖を向けながら、叫ぶ。
その表情は怒り一色。
言葉から推察するに、俺がステラの尻尾を触ろうとした場面だけ見たようだ。
急いで弁明しないと、あらぬ誤解を受けてしまう。
ーーいや、これはチャンスなのではなかろうか?
「カーラ、落ち着いてよ。あれはーー」
「あまりに魅力的だったので、触ろうとしました!!」
ステラが目を見開いて俺を見る。
へへ、してやったり。
俺の頭の中には新たな作戦がある。
その名も、カーラに俺の印象を最悪にすれば絶対に近寄らせないようにするだろう作戦。
こいつは、ずっと俺に冷ややかな目を送ってきていた。前の遺跡の調査、旅の道中でも俺の手にかけた飯を食わずにリズにあげていた。
こいつは絶対に俺のことが嫌いだ。だから、こいつの好感度が地に落ちれば大切な仲間を近づけさせないようにするだろう。
さぁ、早く俺を軽蔑してステラを連れて帰ってくれ! けど、できれば俺のセクハラ発言はギルドには言わないでください。
「………殺します」
「え?」
カーラの髪の毛がふわりと浮き上がり、魔力が高まっていく。
目の光も消えていた。
なんか、俺の想定してた行動と違った。本当なら怒りながらステラを無理やり連れて帰るって思ったのに。
あれ、これひょっとして。
「死んでください」
どうやら、逆鱗に触れたようだ。
弁明しようにも絶対に聞き入れてはくれない雰囲気だ。
もはや、どうにもならぬで候。
俺は手を合わせて、合掌する。
グッバイ、俺。
「はーい、ストップストップ」
と、そこでステラが割り込んだ。
カーラの魔力が萎んでいく。
「襲おうとしていた男をなんで庇うんですか!」
「いやいや、カーラ。冷静に考えてみてよ。もし、私が本気で襲われそうになってたら、そもそもあんなに接近を許すと思う」
「………確かに」
「でしょ?」
「でも、その男の人が触ろうとしてたのは事実ですよね?」
「あー、あれは私が触って良いよって言ったんだ」
「はぁ!? なんでまた」
2人のやり取りを見ていると、ふと疑問に思う。
なんで、俺こんなことになってるんだっけ? 普通にクエストを受けに来ただけなのに。
なんか、もう疲れたな。
なんもしてないけど、疲労感がすごい。
帰って寝たい気分だ。
さっさとクエスト終わらせて、帰って寝よう。
「いや、まぁそこは話すと長くなるんだけど」
「じゃあ、迎えも来たみたいなんで俺はこれで」
「彼が面白いから、少しからかって遊んでたんだ」
また、肩を掴まれた。もう、ほんと勘弁してください。
早く帰ってくれ、頼むから。
「そう、ですか」
「そうそう。で、どう? まだ触りたい?」
「うん、そだねー。さわりたい、さわりたい」
「随分と適当になったなぁ……しょうがない。からかったお詫びにクエスト手伝うよ」
「なん、だと?」
ランク8の斥候が手伝う。
それが意味することはすなわち、金貨3枚が確実に手に入るということ。
なんか急にやる気がみなぎってきたな。
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