27話 なんか来た

 街を飛び出して数十分。

 なりふり構わず逃走を選んだこともあり、なんとかヘイル森林まで逃げることに成功した。


 やはり、どうにもならない時は逃げる、もしくはスピナーに押し付けるのが1番だとしみじみと思う。


「………いや、スピナーに押し付けたら後が怖いな」


 あの技は代償がデカすぎる。前も殴られすぎて走馬灯が見えかけた上に罰ゲームまで課せられた。


 あの技は本当にどうしようもない時の技にしよう。

 そんなことがもう来ないことを願いながら、改めてヘイル森林へと意識を移す。


「さ、気を取り直して、角の採取するかぁ」


「いやー。速いねぇ、グレン。まさか、到着するまでに追いつけないなんて」


 明るく、快活な声。

 ひどく、聞き覚えのある声が頭上から聞こえた。


「………嘘、だろ?」


 いやいや、まさかそんなことはない、はず。

 けれど、確かに聞こえた。

 恐怖に震えながら、上を見ると木の上に金色の尻尾を揺らしている獣人が座っていた。


 俺は回れ右をして、走り出そうとする。が、軽やかに着地したステラは俺の肩を掴んだ。


「まぁ、まぁ」


「お金は持ってないぞ!」


「いや、別にカツアゲとかしないから。私のことをなんだと思ってるの」


 口には出さないが、化け物だとは思ってる。なんでこんなところにいるんだよ。


「なんでこんなところにいるんだって顔してるね」


「思ってるな」


「逃げられたから追いかけたくなっちゃった」


「動物か、テメェは」


 思わずスピナーに接するような言葉遣いが出た。


「はは、私は獣人だから半分は当たってるね」


 そうだったね。君、半分は獣だったね。じゃあなに? 俺をネズミかなんかと思ってる?



「なら、俺は捕まったからもう良いよな? じゃあ、俺はこれからクエストなんで」


 と、また歩き出そうとしたら肩に力を込められる。


「まぁ、まぁ。なんでそんなに逃げたがるのさ」


「いやいや、別にそんな逃げ出そうとなんかしてないさ」


「じゃあ、一回足を止めようか?」


 おっと、どうやら無意識に足が離れたがっていたようだ。

 流石は俺の足、危機管理能力はバッチリのようで安心するな。


 さて、現実逃避はここまでにするか。

 言われた通りに足を止めた。無論、渋々である。

 そして、決めた。

 これだけは使いたくなかったんだが。どうやら、ここは俺の必殺技を使うしかないようだな。

 振り向いてステラと向き合い、


「こんな美人で胸の大きな女の人が俺を追いかけて来てくれたなんて嬉しいなー!」


「え?」


 ステラは目を見開いて固まった。ここだ、ここで畳み掛ける。


「もしかして俺のことが好きとか? いや、追いかけて来たってことはそうなんだろ? 俺、獣人の尻尾とか耳って触ってみたかったんだよねー。触って良い?」



 どうだ、このイタイ男の発言は!

 獣人は心を許している人間じゃないと、尻尾や耳を触らせないと、俺は知っている。

 どうだ? お前のような男嫌いの人間からすればこんなふざけた男に近づきたくないだろう。



「………ふぅーん」


 ステラは目を細めた。

 さぁ、とっとと軽蔑して去れ。

 そして、できればアンタらのパーティ全体に広めて、近づかないように言ってください。

 けど、ギルドには言わないでください。

 噂になったら俺は野郎どもに殺されちゃうので。



「………良いよ。はい」


「へ?」



 何が起きたのか分からず、固まってしまった。

 ステラが頭を下げてこちらに向けている。


「どうしたの? 触らないの?」


「え? いや………は?」



 頭が混乱する。

 何故だ? 自分で言うのもなんだが、先ほどの発言は男嫌いのこいつからしたら最も嫌悪する類の一つのはず。

 嫌われることはあっても、好かれることはありはしない。

 意味がわからない。


「ほら、どうしたの?」


「え、いや。えっと」


「………やっぱりね。君、さっきの発言わざと嫌われようとしたでしょ?」


 顔を上げたステラは僅かに口角を上げていた。

 な、なぜバレている!?


「い、いや? 別に? 本当に思ってたことだよ?」


「いや、どう考えてもさっきまで逃げようとしてた人が急にあんなこと言ってたらなんか意図があるって。隠しきれてないよ」



 ぐうの音も出ない。

 くそ、なら最初にこの手を使っておけばよかった!

 つい、癖で逃げようとしてしまった!


「で、どうする? やっぱり触る?」


 ステラは意地の悪い笑みを浮かべながら耳を動かしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る