26話 逃走後


ーーステラ視点ーー


 良い笑顔で全力で駆けた1人の男。

 私たちは何が起きたのか状況を飲み込めず、呆気に取られていた。


「えっと」


「逃げ、た?」


「状況から見るに、そうだろうね」


 初めての体験だ。私たちはこれまで、迫られることはあっても、逃げられたことはない。


「まぁ、それならそれで良いんじゃないですか?」


 カーラはどこか安心したようにギルドの奥へ向かう。他の皆も同じように向かって行くが、私は立ち止まっていた。


 なんだろう、この感覚は。


「じゃあ、行こうか。……ステラ?」


 体がすごく、うずうずしてしまう。無性に追いかけたい。追いかけたくて、仕方がない。

 今なら、まだ間に合う。

 でも、行って良いのだろうか。今日は昨日の件で、ギルドマスターに報告に来たのに。


「どうしたの?」


 あぁ、駄目だ。我慢できない、すごく追いかけたい。



「ごめん、私、ちょっと行ってくる」


「ちょ! ステラ!?」


 たぶん、これは本能みたいなものだ。獲物が逃げたら捕まえたくなってしまう獣人の本能。

 私はギルドを飛び出して、彼を追いかけた。





ーーカーラ視点ーー



 ステラがどこかへ行ってしまった。


「ありゃー、どこか行っちゃったね」


「ん、行っちゃった」


「なんでそんな呑気なんですか!?」



 たぶん、行き先はあの男のところだ。男のところへ1人で向かったと言うのに、2人はとても穏やかだ。焦っているのは私だけ。



「まぁ、あの人なら別に大丈夫なんじゃない?」


「ん、私も1人で会いに行ったけど、何もなかった」


「はぁ!?」


 自分自身でも驚くくらいに大きな声が出た。

 男に会いに行った? しかも1人で? なんて危ないことをするんだ、このエルフは。

 いや、今は過ぎたことはどうでも良い。今の問題はステラだ。

 もし、あの男の所へ行って、それで万が一のことがあってはならない。


「私が連れ戻してきますので、2人は先に報告をお願いします!」


「なら、私が」


「アリスはリーダーなので、無理です!」


「じゃあ、私が」


「リズは私以上に体力がないでしょ。すぐに連れ帰ってくるので、お願いします!」



 リズは言わずもがな、アリスもあの男に対して、僅かながらに警戒を解いている。危険だ。

 私は急いでステラの後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る