第4話 迫り来る絶望
攻撃はされてない筈だ。アレは動いてすらない。
だが、全身が訴えかけてくる痛みと痺れは紛れもない事実だ。
どこかで攻撃をもらった? けれど外傷は見当たらない。
必死に原因を探っていると、太陽の光の反射で、周りが少しだけ光った。
「なるほどね…やられたよ」
目の前の龍は鱗粉を飛ばしていた。僕たちの誰もが気づかないような魔力の籠っていない小さく透明な鱗粉を。
動かないんじゃない。動く必要がないんだ。だって既には、勝負は決まっていたのだから。
「ゴホッ、ゴホッ!……ぐっ!?」
喉が焼ける様に痛い。めまいと倦怠感で視界が揺れて膝をついてしまう。
毒が急速に体を駆け巡り、症状が悪化する。
この速度、あと数分で僕たちは死ぬ。
おそらく、誰も助からない。ここで、僕たちの冒険は終わりだろう。
なら、
「みんな…まだ、動ける?」
喉の痛みに耐えながら、3人に尋ねた。
「なんとかね。かなりギリギリだけど…」
「はい…」
「ん」
3人ともまだ動けることを確認できた。今、この瞬間にも毒は回る。
多分、次が僕たちの最期だろう。
「3人とも…最後に一矢報わない?」
僕は再度みんなに聞いた。3人も助からないと分かっているらしい。
「まぁ、こうなったら、しょうがないよね」
「本当は、死にたくなんかないですけどね」
「カーラも、早く覚悟を決めるべき」
カーラはため息をついているけど、覚悟は決まっている様だった。
全員が死ぬ覚悟を決めて、再び立ち上がり、武器を構える。
瞬間、
初めて狂蒼龍が動いた。僅かに捉えた視界に空中に浮いた狂蒼龍の前脚。
薙ぎ払い。
皆が同じ様に吹き飛んだ。
ただでさえ毒で身体が弱っているうえに、緑龍より遥かに強い攻撃をくらい、立ち上がることも出来なくなった。
血が体外へ流れ出る感覚は残っているが、不幸中の幸いだ。
痛覚は既に麻痺していた。
僕は、僕たちはもうすぐ死ぬんだろうな。
「フフ…」
どうにもならない現実を目の当たりにして、僕は笑ってしまった。
ドシン、ドシン。
ゆっくりと狂蒼龍が近づいてくる中で、仲間が横目で見えた。
僅かに動く首を動かして、見るとピクリとも動かない。
死んでしまったのだろうか。
笑って、いがみ合って一緒に冒険をした仲間たちが、こんな呆気なく。
その事実に、頬から涙が流れた。
冒険者なんて危険な職業をやっているのだから、死ぬ覚悟はあった。だけど、まさかこんな、こんな呆気なく終わりなのか。
もっと、みんなと一緒に冒険がしたかった。けど、それはもう叶わない。
龍が僕の前で歩みを止め、口を開けた。
僕も死を受け入れる為に目を閉じる。
ドゴォン!
突然の轟音が耳に届く。僕は思わず目を開くと目の前にはありえない光景が広がっていた。
「え?」
マヌケな声が出た。それ程までに信じられない光景だった。
こちらに近づいて来た龍が遥か後方の山に激突して、先ほどまで龍がいた場所には黒いローブを纏った人が立っていた。
ずっと昔、子供の頃に読んだ絵本が思い浮かんだ。お姫様が危機に陥ると、絶対に助けてくれる騎士。そんなありふれた内容の物語だ。
我ながら、どうかしていると思う。
「お前、大丈夫か?」
男は僕の方へと振り返った。ただ、一つ。物語の騎士と違うのは
不気味な白い笑顔の仮面をつけていたことだった。
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「いやー、間一髪だったなぁ」
いや、ほんとうにな? まじでギリギリだったわ。
探知魔法を広げたら、強い魔力と小さくなっていく魔力が4つあったから、なんかやってんのかなって見に行ったら、人が4人ぶっ倒れてたからびっくりだわ。
しかもなんか見たことないような変な龍が、4人の方に近づいてたし。バレない様に
倒れてる人たちを改めて確認すると、見たことがある顔だった。
しかも、今日ギルドで見かけたばっかの。
「………」
あれ? こいつら、”月の雫”じゃね?
「……あー、なるほどな」
大体理解した。
要するに、あの龍にやられて死にかけているってことだな。
しかし、4人ともが重症だな。特にステラとアリスだ。腹の部分からかなりの血が流れている。
俺は手をかざして回復魔法を使う。ステラとアリスの腹の傷はすぐに消えた。
次はカーラとリズの治療を行う。
全員の傷は全て塞がった。
とりあえずはこれで一安心だ。と、思ったが全員の顔色は悪いままだった。
「マジか……」
傷は治した。だが、相変わらず、死にそうだ。
なら、他の原因?
「痙攣に発汗、それに顔面蒼白………毒か!!」
これは非常にまずい。俺は僧侶のような解毒魔法は使えない。
つまり、こいつらの毒を解除できない。
本気で焦る。
どうする? どうする? 見捨てるか? いや、悪人でもないのに見捨てるなんてことはできない。
なら、アレを使うか?
一瞬だけ迷った。アレはとても貴重なものだ。誰から構わず、見ず知らずの人間に気軽に使えるような代物ではない。
だが、使わなければ、こいつらは死ぬ。
「………くそっ……これ飲めるか?」
最終的に使うことを決断。
俺は
果たしてこんな仮面をつけた怪しい奴からの薬を飲んでくれるだろうか?
俺、一歩間違えたらただの不審者じゃないか?
だが、俺の心配をよそにアリスは飲んでくれた。良かった良かった。
「…え?」
アリスは信じられないことが起きた様な表情だった。俺は同じ様に3人の上体を起こして、飲ましていく。
「なんで……」
「……うそ」
「生き、てる?」
3人も信じられない様な表情だった。するとアリスがこちらに向いて口を開く。
「あの、ありがとう……でもどうやって?」
「あの毒の解毒薬は存在しない筈です。一体、私たちに何を飲ませたんですか?」
カーラも続いて驚いた様な……いや、疑う様な目で俺を見てくる。うん、まぁこんな怪しい奴の薬だからしょうがないな。
「聞いたことあるから分かんねぇけど、これは『超水』って呼ばれている水だ」
「え!?」
カーラが信じられないと言わんばかりに目を見開いていた。こいつは、知ってるのか。
「カーラ。知ってるの?」
「え、えぇ。私も詳しくは分かりませんが、飲めば傷や病を癒すと言われた幻の水です」
まさか知ってるとは。こいつ博識だなぁ。偉いなぁ、
「けど、あり得ません! それは御伽話の中にしか存在しないもののはずです!」
「まぁ、それもそうだな。けど、お前らがこうやって生きてるのが証拠だろ?」
「うっ、そ、それは」
まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。問題はその『超水』はこれで終わったと言うことなのだ。
助けたことに悔いはない。そこは言い切れる。
だが、自然と俺の目の端から涙が流れていた。
「え、な、泣いてるの……?」
「……も、もしかして。さっき私たちに使ったので」
「……終わった?」
俺の反応を見て3人がとても気まずそうにしていた。リズだけは相変わらず表情が変わっていないが、
「いや、良いんだ。俺が勝手にやったことだし、お前らが別に責任を感じる必要はない。うん、大丈夫だなら」
「で、でも。その、すごく涙が」
そうだね。止まらないね。すごく悲しいといえば悲しいからね。
まぁ、でも過ぎてしまったことはしょうがないのだ。
『グォオオオ!!』
あぁ、そういえば蹴り飛ばした龍がいたな。元はといえばこいつのせいで俺は超水を失ったんだよな?
やべぇ、怒りがどんどん湧いてきた。あの龍も怒っているが、俺の怒りの方が絶対に強い。
絶対に許さん。
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