5話 怪物たちの戦い
僕の目の前にいたのは人と怪物ではない。
目の前で繰り広げられているのは怪物同士の戦いだ。
「ラアッ!!」
白い仮面の彼が跳躍して拳を振るう。普通ならば素手の攻撃なんて通じるはずがない。僕たちの全力の攻撃ですら一切通じない相手なのだ。
だが、彼が跳躍した場所の地面は砕け、振るった右拳は狂蒼龍の鱗を砕いて吹き飛ばす程の威力だった。
『グォオオ!』
しかし、狂蒼龍も負けじとブレスを放った。赤い熱線が白仮面の全身を包む。
直撃だ。
「あ!」
光の中へ消えた彼を見て、咄嗟に声が漏れ出た。あれでは骨すら残らない。
今更ながら加勢しようとするが、もう遅い。
「くっそー。あいつ、無駄に頑丈だな」
だが、そんな心配も杞憂に終わった。
まるで意に返していない。怪我どころか、衣服の汚れすら見当たらない。
たった一度の攻防は僕の理解を超えていた。
「だ、大丈夫なの?」
「ん? あぁ、平気平気。それよりお前ら、まだ動くなよ? 守りづらいから」
「え、え? 守る?」
守る? 僕たちを? なんで? 初対面のはずの人が何故僕たちを守ろうとするんだろうか?
と疑問を思考する暇もなく、龍はこちらへ向かってくる。
『
僕たちが構えるより速く、男の指先から風の塊が放たれた。
瞬く間に狂蒼龍を吹き飛ばす。
「これもたぶんダメージないよな……仕方ねえ、やるか」
「ねぇ」
と、男が何かを始めようとした時、リズが男の方へ寄っていく。
「え、なに? 今ちょっと忙しいから後でも良いか?」
「なんで、見ず知らずの私たちを助けるの? やっぱり、私たちの体や顔が目当て?」
「ッ……」
リズの質問に思わず体が跳ねた。頭の片隅にずっとあった疑問。なぜ、貴重なアイテムを使ってまで僕たちを助けてくれたのか。
それは、全てが終わった後に僕たちに肉体的な関係を要求したいからではないだろうか?
そうでもないと、初対面の僕たちを助ける意味がない。今の攻防からして、この人は僕たちよりも遥かに強い。
もちろん、命の恩人だから感謝はしている。けど、そんな要求はもちろん嫌だ。どんな人間なのかすら、分からない人間に初めてを奪われるなんて絶対に嫌だ。
けど、仮に抵抗したとしてもおそらく勝てないだろう。命を救われても自分と仲間の尊厳を奪われる。考えないようにしていた。
嫌な考えが頭の中でどんどん膨らんでいく。
「え、死にかけてる人間を助けるのにそんなこと考える奴いんの?」
「え?」
「あー、ちょい待ち。そうじゃねぇな、お前の疑問は。なんで俺が他人のお前らを助けるか、だよな」
「うん」
「まぁ、そうだな。強いて言うなら飯が不味くなるから、かな」
「え?」
「いや、飯だけじゃねぇな。風呂入ったり、寝ようとした時にも、俺は考えちまう。なんで助けなかったんだろって」
僕を含めて、皆は仮面の男の話を真剣に聞いていた。
「それが嫌だった。飯は美味い方が良い。風呂に入る時も、寝ようとする時も。後でずっとぐるぐる考えるくらいなら、助けた方が良いと思った。そんだけだな」
着飾らない本音。
聞く相手が違えば自己中心な考え方だと言うかもしれない。
けど、だからこそ、信用できる部分がある。
「もう良いか? 良いなら今のうちにできるだけ距離を取ってくれ。なんなら街まで逃げてくれたらありがたい」
「………分かった」
リズは彼から離れると、僕らの元に帰ってきた。そのまま全員で距離を取ると、彼が一言、
『
ーー
このような場所では、聞こえる筈のない音。扉が開く音がする。
前へと手を伸ばすと、何もない空間が水に手を入れたように波を打つ。
引っこ抜いて1つしかない武器を取り出した。
その武器は手袋だ。真っ暗で一切の装飾が施されていない趣味の悪い手袋。
これを武器と言ってしまえば、皆は鼻で笑うだろう。
「うし」
手に嵌めて魔力を流す。すると、手の甲に魔法陣が浮かび上がってきた。
こいつは魔力を流すことで初めて
流す魔力の量によって威力が変わるが、毒を持ってるこれが適してる。
奇妙な音と共に手に風を纏わりつく。
この武器の名前は嵐華。いや、今は嵐華、と言うべきか。
まぁ、そんなことはどうでも良い。
準備を終えて、構えを取ると、龍の表情が変化していた。
どうやら、この武器の力がわかるらしい。
先ほどの怒りの表情から、一変して今は恐怖が見える。
ーーまぁ、もう遅いけど。
「行くぞ」
俺は跳躍して、狂蒼龍の腹を殴る。俺の一撃が入った瞬間、纏っていた風は爆風となり、龍を上空へと吹き飛ばした。
「まだまだぁ!」
吹き飛ばした龍の移動先へ先回りして、構える。
吹っ飛んできた狂蒼龍がこちらへ迫ってくる。
それを再び殴って吹き飛ばす。
移動、殴る、吹き飛ぶ。移動、殴る、吹き飛ぶ。移動、殴る、吹き飛ぶ。移動、殴る、吹き飛ぶ。移動、殴る、吹き飛ぶ。移動、殴る、吹き飛ぶ。移動、殴る、吹き飛ぶ。移動、殴る、吹き飛ぶ。
狂蒼龍が縦横無尽に空中をバウンドする。
弾かれるたびに、体中の鱗が砕かれていく。
だが、鱗だけだ。
肉がより一層硬い。
これを続けても、こいつの命には届かない。
「なら、アレだな」
狂蒼龍の腹を殴り、更に上空へと飛ばす。その隙に地面に着地して両腕に魔力を込める。
『ォオオオ!!』
態勢を整えた龍は、喉元を光らせながら口を開ける。
どうやらあの龍も本気で来るらしい。先ほどより溜めが長い。
あいつも最大威力のブレスで応戦するつもりだ。なら、俺も時間を大いに活用させていただこう。
どっちの火力が強いか勝負だ。
「行くぞ……」
嵐華に更に魔力を流し込む。
周辺の空気を巻き込み、風はより高音に。
それぞれの腕に形成された風塊を両掌へ合わせる。
ゆっくりだ。
焦らずにゆっくりと二つの力を溶け込ませる。
「よし」
両手をゆっくりと開くと、そこには小さな風の塊があった。
これは
その名もーー
『
龍のブレスと俺の魔法が同時に放たれた。一見してみれば俺の魔法は小さく弱そうに見えるだろう。
だが、それは大きな間違いだ。
俺が放った攻撃は超高密度の風エネルギーの塊だ。風魔烈空弾はあらゆる障害を削りながら進む。
それはブレスとて例外ではない。
ブレスは確かにすごい威力だが、速度を緩めることさえ叶わない。
結果、見事に狂蒼龍の腹に大穴を開けた。
致命傷だ。
狂蒼龍は態勢を崩し、地上に砂埃を立てながら墜落した。
「ふぅ…」
終わったとは思うが、念のために近寄って死んだ事を確認する。
「死んでるな…」
『
不可視の扉が音を立てて閉じた。手に付けていた武器もいつのまにか消えていた。
とりあえず、危機は去ったな。
そして、
「ふっ、今日は最高の日だな」
オークは見つからず、代わりに超水を全て使い切ってしまった。
まったく、本当に最高の日である(皮肉)
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