27センチ 青と白のマーブル模様

「大森さん!」


彼女の小さな姿を見つけることができないかと背伸びをして慌てて周りを見渡す。黒い頭ばかりで姿を見つけることができない。いつだか小さい子を見つけるのは得意なんてことを言った。家族でどこかに行くと一人で先を行く妹の彩羽いろはを見失ってはよく見つけた。けど得意なんてことはない。

救急車はどこにいる。神社か大鳥居か裏手か。通りに面した入り口はいくつかある。ヒトにぶつかるのも構わずにかき分けて進む。嫌な汗が止まらない。耳に響くほどの心臓の音がうるさい。


息を切らしながら大鳥居に着いたけど救急車はなく、参道を出入りするヒトであふれているだけだった。慌てて背を向けて戻る。焦燥感と喪失感に駆られて足が速くなる。だけどヒト混みで思うように進めない。

お願いだ。お願いだから。

母さん、彩羽いろは

お願いだよ。

神様だかなんだか知らない。

これ以上俺から大事なを奪わないでくれ。

無事でいてほしい。


どれだけ探したか。荒い息を吐いて立ち止まる。もう救急車は行ってしまったかもしれない。ヒトの波が切れた参道の石畳に視線を落とすと、転がるスーパーボールを一つ見つけて拾い上げる。

まさか……

ほんとに……


「蒼空くん!」


声のする方を振り向くと、肩で息を切らしている大森さんがいた。俺と目が合って笑顔でいてくれてる。


「大森さん……良かった!」

「わ!」


足早に近づく大森さんに駆けつけて小さな体を抱きしめていた。

周囲の目を気にすることなく。


「あ、あの。そ、蒼空くん? どうしたの?」

「俺から離れないで。一緒にいて」


恥ずかしそうに俺を見上げる大森さんを離したくなかった。

そうだ。

離れたくないんだ。

離したくない。

一緒にいてほしい。


✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧


『俺から離れないで。一緒にいて』


渡合くんの言葉を聞いて顔がどうしようもうないくらいに熱かった。

背中と後ろ頭に手を回されて、わたしの顔が渡合くんの胸に密着している。あまりの出来事に心臓が痛いほどに鼓動を立てている。

でも……会いたかった渡合くんに再会できて嬉しい。


抱きしめられているという異常事態に頭の中は真っ白だった。


「無事で良かった……本当に……」

「無事? うん。大丈夫だよ。ちょっと転んで擦りむいたけど」


あの時、転んだわたしに素早く手を差し伸べてくれたヒトがいて助けてもらっていた。そうでなかったらヒト混みに踏まれて怪我をしていたかもしれない。


「転んで?」


少しだけ体を離してわたしの手のひらをとって確認する渡合くん。


「血はあまり出てないけど。傷、大きくない? ちょっと待ってて」


混雑を避けるために参道の脇に移動する。飲み物を売っている屋台からペットボトルの天然水を買ってきてくれて、わたしの汚れた手を洗ってくれた。


「痛くない?」

「うん。大丈夫」

「拭くから痛かったら言って」


渡合くんの大きな手に持たれたものはわたしにとってのお守りと同じもの。ワッフルの青いタオルハンカチだった。わたしの濡れた手と洗った傷口を優しく拭いてくれる。渡合くんの優しい想いに触れるようでとても嬉しい気持ちであふれていた。細かいところはハンカチを受け取って自分で拭いた。

綺麗になった傷口を見るとそれほど大したことはない怪我で、備えに持ってきていた絆創膏を渡合くんが貼ってくれた。


「ごめん。うまくできなかった」


大したことはないけど擦れた傷が大きかったから何枚も絆創膏を貼っていて見た目には痛々しい。そして改めてタオルハンカチの刺繍を見つめる。


「ううん。ありがとう。この刺繍、前にも思ったけど丁寧に縫ってあってとっても素敵だね」

「妹が失敗しながら縫ってたけどな」

「お兄ちゃん思いの妹さんなんだね」


小さいけれど羽が大きく羽ばたくような青い鳥の刺繍。やっぱりひと針ひと針にとても想いが込められてるように感じる。


✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧


大森さんに怪我がなくて良かった。事故に巻き込まれたとかではなくて本当に良かった。事故と救急車はどうしても母さんと彩羽のことを思い出してしまう。


「どうして転んだりした?」

「あ、その。ヒト混みがすごくて他のヒトにぶつかっちゃって。その時にせっかくすくえたスーパーボールをばら撒いちゃったんだ」


スーパーボール……救急車の話と大森さんのことは関係なさそうだ。ヒトの噂話なんてあてにならない。けど、そのおかげで大森さんを見つけることができた。


「それで手を擦りむいて、そのままにしていたのか」

「えと。転んだ後このあたりを行ったり来たりしてたから。絆創膏は持ってきていたけどハンカチは忘れちゃったし傷をどうにかするのは後でいいいかなって。わたし、また失敗しちゃったね」


しゅんと気落ちした感じの大森さんが誤魔化すように巾着のようなバッグで顔を隠している様子がとても可愛らしかった。


「はは。大森さんにはやっぱり俺がいないとだな」


俺の言葉で大森さんが顔を赤くしている。

やば。また言い過ぎた。前にもうまい弁当をもらって『俺のために作ってよ』とかプロポーズみたいなこと言ってしまったんだよな。そういえばついさっきも……俺、やらかしすぎてないか?

俺がいないとだなんてどんだけだよ。


「う、うん。そうだね。渡合くんはいつも優しいね」


母さんと彩羽からよく言われて遺言のように俺の心に残る言葉。

『蒼空、力の強いあなたはヒトに優しくしてあげるのよ』

『お兄ちゃん。女の子には優しくしないとダメなんだよ』

その言葉の通り。高校になってからずっと誰かのためにそうしているけれど、元々あったいいかげんな性格はそんなに変わるもんじゃないなと思う。

だけど、俺と一緒にいてくれる大森さんとこうしていると、とても自然で、とても幸せな気持ちになるんだ。だからつい、自分の本性が出る。でも……それでいいのかもしれない。


「俺はもう。誰にでも優しくするのはやめる」

「そうなの?」

「うん。そうする。だけど何も転ぶくらいに急がなくても良かったのに」


大森さんと再会した時、肩で息をしていたし。きっと一人で心細かったんだろう。


「あ、その……渡合くんに会いたくて探していたから。ヒトにぶつかるなんてちょっと注意が足りなかったかも」

「俺に?」


俺に会いたくて?

嬉しかった。混雑したヒト混みの中、息を切らしてまで俺を探してくれていたことがとても嬉しかった。


「俺も、大森さんに会いたかった」


あんまり嬉しくて思ったことがそのまま口に出ていた。

もう。思った通りにしてもいいのかもしれない。

母さん、彩羽。

俺……俺のために幸せを探してもいいかな。

俺は、大森さんのことを大事にしたいと思ってるんだ。

だから。許して欲しい。


✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧


『会いたかった』


その言葉に胸がいっぱいになる。

わたしも会いたかった。

だから必死に探した。

会いたい。

話したい。

そばにいたい。

もう一度好きを伝えたい。

彼女として隣にいたい。


「わたし……」


でも。伝えていいの?

わたしは一度、振られている。

また振られてしまったら……

ダメ。言えない。

想いがあふれて止まらないのに言えない。

胸が締めつけられる。

涙がこぼれていた。


「蒼空くんに聞いてほしいことがあるの」


わたしの初恋。

叶えたい想い。

叶わないかもしれない。

それでもいい。

今はただ、伝えたい。


「わたし。振られてからずっと隠していることがある」


だけど。

もう隠せない。

好きという想いを隠したくない。


「わたし、蒼空くんに出会えて。たくさんの嬉しいをもらえて幸せです」


辛いことも。

嬉しいことも。

楽しいことも。

好きという想いも。

いっぱいの毎日だった。


「わたし。蒼空くんのそばにいたい。隣にいたい。いっぱい話したい」


隠さずに伝えたい。


「好きです。わた、わたしを彼女にして……」

「待って」


え。最後まで言わせてほしいのに。

言わせてくれないの?


「ここから先は俺から言わせて」


なにを? また振られてしまうの?


「好きだよ。結安のことが大好きだよ。俺の彼女になってください」


渡合くんの優しい瞳がわたしを見つめてる。

もう寂しさと悲しさを感じない。

想いがあふれる。

涙がこぼれる。


「はい」


いま、彼氏と彼女になった。


「これ」


渡合くんの大きな手に乗っているスーパーボールを受け取る。青と白のマーブル模様。まるで青空のようで蒼空くんの優しさのようで。


「うれしい。ハンカチもありがとう。これはちゃんと洗って返すね」


わたしの手に持っていたままだった青いワッフルのタオルハンカチを巾着に入れようとした時、小さな鳥の刺繍が目に映る。渡合くんの妹さんが縫った刺繍。

入学式の日。わたしと渡合くんを繋いでくれた小さな青い鳥。

もしかしたら……渡合くんとわたしに大きな幸せを運んできてくれたのかもしれない。


「きっとみんなが神社で待ってる。はぐれないように手を。いや。彼女として手を繋いでもらってもいい?」

「うん!」


差し出された手にとても緊張しながら絆創膏だらけの手を伸ばす。

わたしの小さな手に大きな手が重なる。

繋いだ手と手の中に幸せがある。

幸せを手に、大事なを支えたい。


「やっときた!」

「遅い!」

「二人で何してたの!」


こまりちゃんと日向子ちゃん、中村くんに秋月くんに早瀬くんが神社で待ってくれていた。


「ごめんね。迷子になっちゃった」

「結安らしいけどさ」

「……それよりも。恋人繋ぎってどういうこと?」

「もしかして……」

「「きゃー!」」


こまりちゃんと日向子ちゃんが浴衣姿で飛び跳ねてる。

そんな二人を見て中村くんと秋月くんが楽しそうに笑ってる。

早瀬くんは……苦笑いしていた。


みんなの笑顔が眩しい。

渡合くんとわたし。みんなの笑顔が太陽を受けて輝いている。

見上げて青いそらがどこまでも広がっている。












☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ここまでお読みいただきありがとうございます。

物語はここで一区切りとさせていただきます。

なにも特別なことはない、どこにでもいそうな普通の高校生たちのアオハル物語はいかがでしたでしょうか?

とても駆け足な展開になってしまいました。

ほんとはもっと時間をかけて交際スタートのつもりでした。チョコワッフルケーキを渡合くんに作るチャンスがなかった。出すならバレンタインかと思ったし。

体育祭やクリスマスなどなど、本当は高校三年間をフルに使っていろんなお話を書きたいところです。

こまりちゃんと中村くん、日向子ちゃんと秋月くん。それに早瀬くん。登場してない結安ちゃんの中学時代の友達男子にお父さんとお母さん。

渡合くんのこと。お父さんのこととかまだまだ色々ありそうですよね。実は彩羽ちゃんと仲のよかった元カノがいたりして?

付き合いはじめたらそれはそれで不安になることもあったり。

困ったときのこまりちゃんにお願いしてかしこまり、なんて小ネタもあったり♪

ですが締切もありますし、応募要項では『一旦の一区切りとして完結にする』とありましたのでこの段階での終わりとさせていただきました。


少しでも楽しんでいただましたら、ぜひお星様をお願いいたします。

今後とも応援をよろしくお願いいたします。


下記はおすすめの物語です!

ぜひ読んでください!


溺愛浪漫譚〜福を招く猫娘と呪われた美麗狐男の御家再興物語

「狐に嫁入り 招き猫娘の冷たい契約結婚のちに甘々溺愛」

https://kakuyomu.jp/works/16818792438235897957


もふもふ×アイドル×学園 イケメン獣人と赤面女子高生のアイドルデビュー

「もふもふアイドル☆もふドル リボン読者小中生女子向けメンズもふもふバージョン」

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王宮も王子も無理!お花と蝶々がいい!なにこの力!?葉っぱが増えすぎる!

「悪魔令嬢は聖女じゃなくて妖精姫でした 籠みたいな王宮から逃亡したいわたしは蝶々になって大空へ飛び立ちます 行く先々で伝説を残すかも? 旅の軌跡は花の魔法陣 もふもふにゃんこ侍女付き」全28話

https://kakuyomu.jp/works/16818622176347823637

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