非日常2

『信じてないみたいだね。まぁいいや。

 こっちもそんなに暇というわけでもないから、話を先に進めるね。』

そう言うと上位存在様は話を続けた。


『さっきの続きから話すね。

 君の人生で積んできた善行だと、せいぜい戻れても7年ぐらいかな。

 君が20歳の頃だね。』

『・・・本当に・・・戻れるのか?』

『だからそうだって言ってるじゃないか。君って結構疑り深いね。』

本当に人生をやり直せるのか・・・

でも、この状況はどう考えても異常だし、信じざるを得ない・・・のか。

頭が追い付かない。


『そりゃあ、急にこんなところに来たと思ったら、上位存在だとか意味のわからない

 ことを言っている子供が目の前にいるこの状況を、すぐ理解しろって方が難しいだ

 ろ。』

『まあそうだね。でも、他の人は結構すんなり状況を理解してくれたけどなあ。』

『俺の他にも過去に戻った人間がいるのか?!』

『ああ、何人もいるよ。』

『え?じゃあ、俺が生きてきた世界には人生をやり直した人間が何人もいたってこと

 なのか?』

『そうだよ?』

『それなら、未来預言者とかがいて、ネットやTVで話題になっても良いような気が

 するんだが、、、もしかして何か制約があるのか?』

『うん。と言うか、それも契約書に書いてあったはずなんだけど。』

『あぁ、、、ごめん。契約書は、、、あまり読んでないんだ。』

『はああ、呆れた。契約書も読まないで自分の人生を売ろうだなんて。』

「ははは・・・」

『まあ良いや。ちゃんと説明してあげるからしっかり聞いてよね。』

『ああ。すまない。ありがとう。』

まさかこの歳になってこんな子供に叱られるだなんて・・・いや上位存在だったか。


『君が理解しているのは、人生で積んだ善行の分だけ過去に戻れるってところまで

 だったね。』

『そうだ。それ以外は何も聞いていない。』

『ではまず、善行というのは何だかわかるかい?』

『ううん、、、良い人間が行う行為のことか?』

『まあ、それもそうだけど、君は自分が良い人間だと思うかい?』

『いや、思わない。』

『随分と即答だね。まぁ、でも普通はそう思うだろうね。

 善行というのは、他の人間や生き物に対して行う善い行いのことだよ。

 別に良い人間が行うことが善行ということではないんだ。』

『つまり、人助けとかってことか?』

『まあ、言ってしまえばそんなところだね。

 ただ、そこまで大それたものでなくても善行に値するんだ。

 例えば電車やバスでお年寄りや妊婦に席を譲ったり、

 ゴミ拾いなんかのボランティアでも善行にあたるよ。』

『へえ、そんな小さな親切でも善行になるのか。』

『そうさ。それに、気づいていないかもしれないけど、

 君が毎日遅くまで頑張っていた仕事も善行になるんだよ。』

『え?仕事が?』

『そうなんだ。

 仕事というのは本来困っている人を助けることで対価をもらう行為だ。

 対価をもらっているからといって、それが善行にならないというわけではないん

 だ。まあ、対価の分、過去に戻れる時間は減ってしまうけどね。』

『じゃあ、俺がやってきたことは無駄じゃなかったってことか。』

『ああ。君たちは何でも意味があるとか無いとかで分類するけど、

 大きな視点から見ればすべてのことは意味があるし、意味が無いんだ。』

『???』

『まあ、あまり意味はわからなくて大丈夫。

 とにかく、どんな人でも善行を積んでいるってことを理解してもらえれば。』

『ああ、わかった。』

善行の分過去に戻れる?俺のやってきた仕事も善行にあたる?

何だか少し報われた気分で話を聞いた。

俺の人生にも少しは意味があったんだ。

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