4: 謎のおじさん
「え? そ、それより、前‼︎」
太った中年の男性は焦らずに背負っていた風呂敷から謎の野草を取り出す。マッチで火をつけて野草を焼き始めると辺りに不思議な匂いが漂い始めた。匂いを嗅いだ自分は慌てて右手で鼻を押さえる。
〈この鼻を刺激する匂いは何なんだ⁉︎ 何の野草を使ったんだ⁉︎〉
鳥のような影獣達は何故か苦しそうに暴れている。次々と倒れていくと影となり消えていってしまった。
「野草で倒すなんて……おっさん、その野草は?」
太った中年の男性は変なポーズをしたまま、こちらへと近寄って来た。
「おんめぇ、何かいらないださか? 売り物があるんださて」
そう言うと、太った中年の男性は再び背負っていた風呂敷を地面に置いてから広げた。風呂敷には先程の謎の野草や、剣、菓子等が入っていたようだ。
「いや、おれは特に何もいらな……!」
チラッと太った中年の男性の方に視線を向けると、買えと言わんばかりの表情でこちらを見ていた。
〈何だよ、あの顔……ヤバいおっさんに会っちまったなぁ〉
暫く経っても視線は全く逸れない。
「だぁああああ‼︎ 分かったよ、何か買えばいいんだろ! おれだって持ち金は少ないからな。ほら、これで買える物を買ってやるよ!」
腰に付けていた布巾着から一銀を取り出して太った中年の男性に見せると、先程までの怖い表情が嘘だったかのように消え満面の笑みを浮かべていた。
「一銀ならこれが買えるださん。ほれさ、おんめぇにやるださね」
一番高そうに見えていた剣が買えるようだ。一見、そこらで売っているような剣にも見えなくはないが……。
「えっ、この剣そんなに安かったのか? ラッキー! 新しい剣も欲しいと思っていたんだ! 名前とかあるのか?」
質問をした途端、太った中年の男性の表情は段々と険しくなっていった。
〈何だ? まさか、幻の剣とか伝説の剣とかじゃないよな⁉︎〉
……謎の沈黙が続く。
二分程経ってから、太った中年の男性は瞑っていた目を開けて小さく呟き始めた。
「
「ん?」
よく聞き取れなかった。
「な、何? 星天何だって?」
今度こそきちんと剣の名前を聞き取らなければと思い、太った中年の男性の方にしっかりと右耳を向ける。
「
気の所為だろうか。最初に聞いた名前と少し違うような……。
「んまいいや! 新しい剣も使ってみたいし! この、星天何とか剣貰うからな」
返事がないので顔を上げると、太った中年の男性の姿はなかった。
「あれ? どこに行った? ……まぁ、いいか」
地面に置いてあった剣を持ち上げた瞬間、刃がポロリと落ちてしまった。
「え」
本物の剣ではなく、粘土のような物で作られた剣だったようだ。怒りで両手が震え始める……どうやら騙されてしまったらしい。
「な、何が星天何とか剣だよ。おっさん、待ちやがれー‼︎ どこにいったぁあああ‼︎」
辺りには冷たい風が吹き始めていた。
竜幻 川之一 @kawayori
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