第43話 兵器の起動、最終決戦1


 “わけ知り顔”は、新デス畳の〈畳は時に局地災害デス・ダブルタイフーン〉によって吹き飛ばされていたとき、この屋敷へ来てからのことが脳裏をかけめぐるのを感じていた――


(これが、走馬灯でしょうか……。聞いたことはありましたが、実際に体感することができるとは……)


 まさしくB級ホラーに出てきそうな、山奥の屋敷を見たときの高揚感。

 デス畳に仲間たちが殺されていく絶望感。

 地下を捜索するときの、場違いながらリアル脱出ゲームでもしているような、かすかなよろこび。

 「兵器」の正体がメカ畳と知ったときの驚愕。

 いぐさを収集し、地下へおりたあと、“びびり八段”と手近な部屋へ隠れてデス畳たちをき、そのあとで研究室へもどるまでのあせり――


 つぎに気づいたとき、自分は床に横たわっており、メガネが壁にぶつかって割れていた。

 また、“びびり八段”が少し先で尻を丸出しにしながらたおれていた。その頭のまわりには、赤い血がにじんでいる……

 ピクリとも動かない。


 短いあいだ、意識が飛んでいたようだった。

 遠くで会話が聞こえ、そちらへどうにか目を向けると、デス畳がメカ畳を破壊せんと迫っていたため、思わず声をあげる。


「ま、まってください……」


 まってもらったところで、どうしようという考えがあるわけではなかった。


(どうしたらいい、どうしたら……)


 とにかく思いついた言葉を口から出しながら、一方で頭をフル回転させた。

 痛みにあえぐふりをしながら周囲に目を走らせると、先ほど収集してきたいぐさの袋がないことに気がついた。


(袋はどこに……?)


 疑問に思ってメカ畳のほうへ目をらすと、なんと、ミニ畳がよいしょよいしょと懸命けんめいに袋を運んでいるではないか!

 ちょうど、デス畳の位置からは死角になっており、自分に注目させていればひとまずは見つけられる心配はなさそうだ。

 よく見れば、メカ畳がえられている機械の裏側に、まるで掃除機のようないぐさを吸引する装置が床と接していた。

 袋から中身を押し出して、ミニ畳はそこへせっせと入れているようだ。

 “わけ知り顔”は、ふと、


『その得体えたいの知れないバケモノは、必ずおれたちに災いをもたらすよ……』


 という、予言じみた“ゲス野郎”の警告を思い出す。

 これでは、災いをもたらすどころか……


「救世主ではありませんか……」


 と、思わずほほえんで声をもらした。


 とはいえ、ミニ畳には手があるわけではないので、スムーズに装置へいぐさを流すことができず、かなり時間がかかっている。

 ミニ畳が必死に動いてくれていることは理解しつつ、せっかくデス畳に長く話してもらうことができたのに、まだひと袋目も途中である模様だった。


(ええい、ままよ!)


 一か八か、ゴロンと転がって、まったく関係ない話をしてみる。

 少しでもデス畳をまどわせることができないかと、あえて「ふふ」と晴れやかに笑ってみせた。

 その長広舌ちょうこうぜつが意外にもこうそうし、話し終えるころにはようやくミニ畳がふた袋目に突入していた。


「そうですか……それは、残念ですっ!」


 いましかないと、割れて飛んできていたレンズの破片を手にとり、デス畳へと投げつけて走った!

 とにかく気をそらし、一秒でも時間が稼げればそれでかまわない。


「行っけぇぇぇぇ!!」


 メガネを拾ったあと、あらんかぎりの力で、袋の尻をぶったたいてなかのいぐさを押し出した。


(本当は、もう少し、彼と会話してみたかった……)


 そう、少しの感傷が脳裏のうりをよぎると、阻止するために俊敏しゅんびんに追ってきた新デス畳の畳によって、せっかくかけ直したメガネとともに“わけ知り顔”はふたたび壁へとはじき飛ばされた。

 今度こそ、彼の象徴であるメガネのレンズはこなごなに割れてしまった。


 ギヌロンと、デス畳は状況を把握してミニ畳をにらむ。

 ミニ畳はおびえたようにふるえ、ふにゃふにゃと表面が波打っている。

 しかし、もはや袋のなかにほぼいぐさは残っておらず、ズモモモと激しい音を立て、すでにメカ畳の体内をくかけめぐっているところであった。

 そして――


〈マッタタミエネルギー、チャージ完了。イグーサマッソーファイバー、8725本損傷ゼロ〉


 機械につけられた数々のランプが激しく点滅し、続々と赤から緑へと変じていく。

 密封していたなにかの気体を開放したらしく、周囲にスモークが噴出ふんしゅつされ、ひろがっていった。


〈システム、オールグリーン〉


 高速で演算をすませてゆく電子音のうなりがひびき、機械音声が、ついにメカ畳の準備がととのった旨を、告げる。


『メカ畳、起動します』


 閉じていたひとみをカッと見ひらき、ついにメカ畳が据えつけの機械から立ちあがる。

 同時に、少し離れたところから、爆発音がとどろいた――


「……タミィィィ」


 研究室の入口を激しく破壊しながら、旧デス畳が、どこか昂奮こうふんしたようなようすであらわれたのである――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る