第19話 デス畳を煽り散らす“ゲス野郎”
いくども聞いた、悪夢のごときあの
廊下のカドまで走ると、血をにじませ、ふちには“悪魔ばらい”の
「タミィィィ!」
怒りに満ちたおたけびを発し、木製のドアをバリバリと
「やばっ」
“中型免許”がさけんだのと、足を動かしたのは同時であった。
そうでなければ
人ふたりはすれちがうことのできる廊下ではあるが、それでもデス畳の
が、そんなことは
「ウウウワァァァァァ!! ちゅ“中型免許”が喰われちまうよぉぉぉ!」
音を聞きつけ、二階からおそるおそる状況をのぞいた“びびり八段”が絶叫し、腰をぬかした。
“中型免許”のからだが、まるで手品のように、デス畳のあいだへと吸いこまれてゆく――
ボキンッ
「ウウウワァァァァァ!! “中型免許”ォォォ!!」
“びびり八段”の
脇にあった、自分よりも背の高い観葉植物に腕をからめた“中型免許”はすべるように身を伏すと、みごとにデス畳を回避しつつ、観葉植物を思いっきりデス畳に喰らわせたのだ。
もちろんデス畳に大したダメージはないが、観葉植物を不快そうに何度か口で折ったあと、またも吐き捨てるデス畳。
「ウウウワァァァァァ!! 観葉植物ゥゥゥ!!」
腰をぬかしながらも、階段の手すりにしがみついてどうにか階下をのぞいていた“びびり八段”は、なぜか観葉植物にまで
「“びびり八段”! 旧デス畳が、解放されたって、逃げろって、控え組のみんなに伝えてくれ! さっき監視してたメンバーは、おれのほか……みんな、やられちまった……」
デス畳の猛攻を皮一枚でかわしながら、“中型免許”がさけぶ。
「に、に、逃げろって、デス畳がここにいるんなら、そとに逃げたほうが、いいかなぁ?」
倒れながら足を噛もうとしてきたデス畳を、ピョーンとジャンプし、チアダンサーのごとく足を大きく広げて回避する“中型免許”。
「いや、新デス畳が、まだ和室にいる! そとへ行ったらまた
「わ、わ、わかった! 伝えて、すぐに、助けに、助けにウウウワァァァァァ!!」
「どうした、“びびり八段”!!」
“びびり八段”は単にあせりすぎてすべって転び、床で「あわわ」と泡をふいているだけなのだか、いつもの絶叫があまりにも
二階を見あげるが、下からでは、“びびり八段”の状況はまったくわからない。
そして、このスキをのがすデス畳ではない――
下から、すくいあげるように、“中型免許”をのみこもうとする。
「う、う、ウウウワァァァァァ!!」
まるで“びびり八段”がのりうつったかのような絶叫をあげる“中型免許”であったが、思わず目をつむると、ガシャン、という音がひびいた。
「なんの音だ……?」
おそるおそる目をひらく。
――すると、デス畳の上で植木鉢が割れ、土や葉っぱまみれになっているではないか。
「ケヒヒヒ、ここで登場するのは、そうこのおれ、“ゲス野郎”さ。
「タミィィィィ!!」
二階から、“ゲス野郎”が植木鉢を全力で投げ捨て、それがデス畳に直撃していたのであった。
予期せぬ痛みのためか、土まみれにされたのを
かたわらの“中型免許”には目もくれず、バサバサと飛ぼうとするも、壁や階段の手すりにはばまれうまく飛ぶことができない。
それを見た“ゲス野郎”は、
「ケヒ、ケヒヒヒぶざまだぁねぇ! 飛べない畳はただの畳、いやこんなところで立ってたら畳の役割もはたせない、ただの粗大ごみだねぇ。おい、“びびり八段”いつまで寝てるんだ。早く立って大広間へ行くんだよノロマ。おれさまはひと足先に逃げてるからよ、あばよマヌケないぐさやろう」
と、階下にきこえるような声量で言いながら、長い舌でレロレロとデス畳をあおって逃走した。一点のくもりもない(あるいは全面にくもりしかない)、みごとなゲス顔である。
「ダァァミィィィ」
それを聞き、濁ったうなり声をあげるデス畳。
カッとさらに大きく目をかっぴらくと、壁にぶつかってへこみをつくり、階段を削りながら不器用に、けれど猛然と二階へのぼっていく。
まるで、岩石のまじる荒れ地を
“びびり八段”は階段をあがって右の大広間へ、“ゲス野郎”は左の客間へとドタドタ走っていくのが見えた。
客間のベランダには一階のウッドデッキへつづく階段があり、そこから逃げようという算段であろう。
が、デス畳は怒りにわれを忘れているのか、うしろ姿のみで識別が難しかったのか、よく確認もせず大広間へとむかった。
ちょうど大広間では、“びびり八段”がころがるように逃げ込み、少し前に監視組を交代して休んでいた“太鼓持ち”と“いつもどこか
「に、に、逃げろデス畳デス畳、デス畳がぁぁぁ」
と要領を得ぬ悲鳴をあげているところであった。
この悲鳴だけではなにがなにやらわからぬが、ふたりは一瞬目配せをして「まあデス畳が来たので逃げろという意味だろう」と
「さすが“びびり八段”だぜ! もはや名人の
と、“太鼓持ち”は太鼓をたたくことも忘れない。
とはいえ、全員の意思が統一されていたわけではない。
発声しながらもまよわずベランダへと飛び込んだ“太鼓持ち”に、大広間のクローゼットへとすがたを隠した“いつもどこか
ギヌロンと、大広間へ入室したデス畳の眼光があやしくひらめく――
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