第27話 闇

 マリーとの平和な時間を過ごした俺たちは、家に帰ってきていた。昼食を食べる為と、ヴァ―レンの体の手入れの為だ。

 お母さんと一緒に昼食を食べると、俺はヴァ―レンを連れて、庭に向かう。

 最初にやることはこの子の寝床の掃除だ。俺は箒で一通り枯草や落ち葉を掃いた後、キュアエリアをかけて庭を綺麗にしていく。

 いつも通り掃除を進めていく。すると、落ち葉の山の中から中位≪ちゅうくらい≫の魔石が姿を見せる。色は青。この世界にいる一般的な魔物が持つ色の魔石だ。

 全ての魔物は魔石を持っている。

 今手元にある杖や庭に転がっているこれのような青色が一般的な魔石。多くの人が魔石と言われればこの色を思い浮かべる。

 次に世界の外側から来るモノの魔石。悪魔や天使、魔族の魔石は赤色をしている。魔力の密度が青色とは段違いで、一点ものの魔道具にはよく赤の魔石が使われる。俺のオルカンに使われているものも、魔族の魔石を使用したものになる。

 俺は魔石を落ち葉の中から取り出し、箒で掃いて綺麗にしておく。恐らくこの魔石はヴァ―レンが森で勝手に狩りをして、持ってきたものだろう。

 俺はそれを庭の横に作った箱の中に放り込んでおく。できれば勝手に森に入るのはやめて欲しいのだが、俺が寝ている間のことまではさすがに管理できなかった。

 森に入っては魔物を食べて、魔石を持って帰ってくる。魔石が一定の量溜まると、半分は売却して、半分はヴァ―レンに食べさせている。

 この魔石を食べるという行為だが、正直俺もよくわかっていない。魔石を食べることで魔力量が上がっているのはわかる。だが、その反動で何が起こるのか、体に負担はないのかなどは一切わからない。

 はじめのうちは、まさかあんな固いものを食べるとは思っていなかったので、悲鳴を上げたものだ。何年経っても具合が悪くなったりはしなかったので、とりあえず食べさせてはいるが、心配事の一つではある。

 自衛できる力も必要なので、魔力量は多いに越したことはない。今度ヴォルガが来たら、そのことについて聞いてみてもいいかもしれない。

「もう元の姿に戻っていいぞ。」

 寝床の掃除を終えて、俺は箒を庭の脇に置く。

 俺がそう言うと、ヴァ―レンは庭の中央に飛んでいき、自分に掛けていた小型化の魔法を解除する。

 銀色の鱗を全身に身に付けた立派な竜がそこに出現する。いつ見ても綺麗な鱗だ。

「スチームウォーター。」

 俺は暖かい水をかけて、ヴァ―レンの体を洗っていく。この子も洗ってもらうのは好きなようで、庭に寝転がって待機している。

 水を掛けたところを大きなブラシで磨いて、鱗の汚れを落とす。

 小型化させたまま洗った方が早いのだが、それだと細かい汚れを落とすことができない。ヴァ―レンも隅々まで綺麗にしてもらった方が気分が良いだろう。なので、手間はかかるが、確実に綺麗にできるこの方法を選んでいる。

 ヴァ―レンの鱗だが、この日々の手入れのおかげなのか、最近は更に美しくなっている。時折、銀色の輝きの中に虹色が見える時があるのだ。自然に体から落ちた鱗は全て回収しているのだが、確実に美しさは上がっていた。

 この鱗だが、数日前に何枚かをマリーにあげた。日頃の感謝としての意味もあるが、竜の鱗というのはそれなりに貴重なものだ。贈り物としての意味は深い愛情となっている。

 まあ、これは俺がいた国でのことなので、ここでも同じかはわからない。

 でも俺は親愛の意味を込めて贈った。

 マリーの方は鱗をあげた時は跳ぶように喜んでいた。

「本当に!?本当にいいんだね!?もらっちゃうよ!?もう返さないよ!?」

 マリーはそう言うと俺があげた鱗は大事そうに抱えていた。そこまで喜ばれると逆に不安になってくるが、本人的には万々歳らしいのでそのままにしておいた。

 俺は最後にヴァ―レンに浄化の魔法をかけて、体の手入れを終わらせる。これでまた数日間は綺麗な状態が続くだろう。

「じゃあ、今日はもう遊んでていいぞ。俺は部屋に居るから、用があったらすぐに来てくれ。」

「グルァ!!」

 俺はブラシなどを片付けて、部屋に戻ろうとする。

「おい。」

「ん?」

 物置から出てきたタイミングで、家の外から声をかけられる。

「お前、これ以上マリー近づくな。」

 誰かと思ったら小さい頃からよく剣を振っていた、ダニエルがいた。

「嫌だけど。」

「はぁ!?」

 俺はそいつに真正面から言い返す。

「だから、嫌だって言ってるんだよ。じゃあな。」

 俺はそれだけ言うと、さっさと家の中に帰る。というか、なんでいきなりそんなことを言われなきゃいけないのか意味がわからない。

「お前!これ以上俺の邪魔をするなら後悔させてやる!」

 ダニエルはそう言いながら怒りを露わにする。俺はそいつへの興味を失って、家の扉を閉めた。


 クソクソクソが、なんなんだあいつは。俺のマリーにネチネチとくっつきやがって。

 あいつのことは小さい頃から気に入らなかった。

 碌に剣も振れない雑魚の癖にマリーにベタベタして。昔からヘラヘラ笑って、地面に落書きばかりしている奴だった。

 近頃は魔法を覚えたとかで調子に乗っているのだ。何が気に食わないってそれを鼻にかけて俺に楯突いてきやがったことだ。竜なんかを飼っていい気になっているのも気に入らなかった。

 何が竜に選ばれた者だ。あんなのただ運良く竜の卵を拾っただけではないか。あんなの俺にだってできるに決まっている。

 俺は小さい頃から剣士になるために木の枝を振ってきたんだ。確かに他の奴よりは少しだけ違うところはあるが、絶対に弱いわけじゃない。

 俺はすごいやつだ。小さい頃からマリーに「将来は立派な剣士になるね。」と言われ続けてきた。

 その言葉通り今では村の兵士として、魔物相手に一歩も引かずに戦っている。

 そんな偉大な俺に比べてあいつはどうだ。

 毎日村の奴らにヘコヘコ頭を下げて回って、マリーの商会にも迷惑をかけて。情けないにも程がある。

 大体、魔法使いなんて近づかれたらなにもできないではないか。

 俺がその気になれば、あんな雑魚すぐにボコボコにできる。ま、俺はそんな低俗なことをするような奴らとは違うので、本当にやりはしない。

 実際、家の中でも、俺が大声を出せば両親もすぐに言うことを聞くのだ。直接力を見せるまでもないということは証明されている。

「ダニエル!何サボってるんだ!早く見回りに行くぞ!」

「…ッチ。」

 俺はその仲間からの言葉に舌打ちをして、雑魚の家を後にする。全く、なんで見回りなんてくだらないことを、俺がやらなければならないのだ。

「お前弱いんだから列から離れるなよな。」

「もう子供じゃないんだから、もっと協調性持とうぜ…」

 俺が仲間たちのもとに行くと、そいつ等も俺を見下したようなことを言ってくる。

 何が弱いんだから、だ。お前の方が弱いだろ。実は俺のほうが強いのにウザいやつだ。

 協調性とか、くだらなさ過ぎる。そんな事言うならお前らが俺に合わせろよ。

「やれやれ。はぁ、今行くよ。」


 俺は仲間たちと一緒に仕方なく見回りに行った。

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