第20話 狩猟祭
家に帰ったあと、俺は両親に暗くなるまで叱られ続けた。
「なんで森の中に入ったんだ!あれだけ日頃から駄目だと言っていただろう────!」
「お願いルーカス、もう一人で森に行かないってお母さんと約束して────。」
俺はひたすら謝り続けて、なんとか両親に許してもらった。
卵については最初は捨ててきなさいと言われた。だが、竜が俺に直接託してきたと言ったら、二人とも押し黙った。
勝手にヴォルガの名前を使うのは気が引けたが、あいつの子供のためだ。今度会う時に何か美味しいものでもご馳走して許してもらおう。
一時的に避難していた村人も、安全がわかると狩猟祭の準備に戻って行った。多少の遅れはあったみたいだが、みんな暗くなる前には準備を終わらせていた。
自室に戻ってきた俺は、とりあえず布団の上に卵を置いておく。内部の魔力反応から数日以内に羽化することはわかるが、正確な日付まではわからない。
とりあえず条件魔法で卵にひびが入ったら信号が送られるようにしておく。これで多少目を離しても大丈夫だろう。
明日は朝から狩猟祭を見て回ることになっている。午前中は一人で店を回る予定だ。
しかし、前世の知り合いとは初めて遭遇したが、すごい変わりようだった。もしかしたら他の奴らにも、心境の変化があった奴がいるかもしれない。そう考えると前世の知り合いに少し会ってみたくなる。
みんな今頃何をしているんだろうか。特に気になるのはアスティアだ。俺は前世で自分の家に大掛かりな仕掛けを作っていた。そのメッセージを受け取ってくれただろうか。彼女になら伝わると信じているが、もう少しだけわかりやすくした方が良かったかもしれない。
そのメッセージには俺の保管庫への行き方が書いてある。予定通り動いていたら、転生魔法の研究成果は全てそこに送られているはずだ。
ただ、少しだけ懸念事項があった。それは俺の転生魔法は半分失敗しているということだ。その影響が死後の俺の元の体に出てないか不安要素がある。当たり前だが、死体を保護する魔法なんて用意していなかった。運が良ければしたいはそのまま残る。だが、ヘタをすると体が木っ端微塵に吹き飛んでる可能性もある。
もし後者だったとしたら、アリサには少し申し訳ない。嫌なものを見せる結果になっているかもしれない。
まあ、今となっては確かめようがない。
悲惨な結果になっていないことを祈りながら、俺はベッドで眠りについた。
翌朝、俺は朝食を摂ると自分の部屋で外出の準備をしていた。前に両親からもらったお金を首から下げて、簡単には盗まれないようにしておく。
この村の人たちはみんな優しいので、そんな犯罪は起きないと思いたい。しかし、狩猟祭には村の外から来る人の量も普段より増加する。
その中に不埒な輩が混ざっていてもおかしくない。それに今回持ち歩くのは俺の全財産だ。警戒をするに越したことはない。
両親はというと、二人ともすでに出かけている。お父さんは演舞を、お母さんは踊りをそれぞれお昼にやることになっている。その準備のためにお母さんは朝から忙しそうにしていた。
俺は自分の部屋の扉を閉めて、階段を降りていく。本当ならオルカンを待機させた方がいいのかもしれない。だが、まだ俺の正体のことは話し出せずにいた。そんなことで正体がバレでのも嫌なので今回は卵だけ留守番だ。
階段を下り、俺が一階に降りようとしたその時だった。家の玄関から、扉を叩く音が聞こえた。
「はーい。」
俺はそのまま玄関に向かい、扉を開ける。そこに立っていたのはマリーだった。
「おはようマリー。どうしたの?」
「おはようルー君。一緒にお祭り回ろ!」
俺はその笑顔のマリーを見て、少し立ち止まる。
「ええっと、でもいいの?他の子の面倒見なくて。」
「大丈夫だよ。今日はほとんどの子は家族と回るから。ルー君は午前中一人だけだけだって聞いてたから、最初から一緒に回るって決めてたの。さ、行こう?」
マリーのその話を聞いて俺は納得する。演舞をやるのは村を守る兵士。踊りをやるのは若い女性だ。両親がいなくなる俺のために、一緒にいてくれるのだろう。本当に優しい子だ。
「わかった。じゃあ一緒にお店見て回ろうか。」
「うん!」
俺はマリーの手を取って、狩猟祭に繰り出した。
村の中は普段とは違い、たくさんの人が出歩いていた。村の外から来ている人もたくさんおり、結構な賑わいを見せていた。
「ルー君、手は離しちゃだめだよ。危ないからね。」
「ありがとう。」
俺はマリーの手をしっかり握りながら村の広場に歩いていく。普段から村の人たちの憩いの場ではあるのだが、今日は屋台が軒を連ねており、、あちこちに人だかりができていた。
「ゆっくり見たいし、空いてるやつから見ていこうか。」
「わかった。」
しかし、人が多い。俺の今の身長だと何が売られているのか全然わからない。マリーはその辺気を利かせてくれたのだろう。
マリーの言う通りに俺たちは空いてる屋台から見ていくことにした。
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