第21話 屋台

 広場の屋台では様々なものが売られていた。

 まずは食べ物。祭りということもあって、串焼きやら果物やら多くの屋台が軒を連ねていた。串焼きは屋台の中で焼けたものをすぐに出しているので、匂いに釣られた人はその屋台に列を作っていた。

 もう一つは雑貨屋だ。普段村では見ないような、別の町にある商品を見ることができる。品ぞろえも面白く、コップなどの生活雑貨から、魔道具まで幅広く売られている。ただ、その品ぞろえのよさ故に、在庫が複数用意されているのはあまり無いようだ。気になるものがあるなら先に雑貨屋の屋台を見たかったので、マリーが連れて行ってくれて助かった。

「いろんなものがあるね。何か欲しいのある?」

 俺はマリーと一緒に並べられた雑貨に目を落としていた。ガラス製のコップ、鏡、ぬいぐるみ、コースター、櫛、本当にいろんなものが並べられている。ここで面白いのは普段村で売っているものより、遠くから仕入れてきた商品が多いということだ。そのおかげで食器などは村でも買えるが、木製ではなく陶器のものや、銀製のものまで売られていた。

「うーん…なんかこういうお祭りって、普段大してほしくないものでも欲しくなるよね。」

「わかる。だから、財布の紐を安易に緩めたらだめだからね。しっかりと自分に必要なのか考えないと。」

「そうだねぇ…」

 そう返事はしたが、やはり目移りしてしまう。

 だめだ。だめだ。欲しがり出したらきりがない。

 俺の予算は銅貨二十枚。それ以上のお金はどこからも引っ張ってくることはできない。

 二人で雑貨屋を回っていると横に子供たちが集まっている屋台があった。

「なんの屋台なんだろ?」

「覗いてみよっか。」

俺は子供たちの合間から中の様子を窺う。

「さあ、訓練用の木剣から魔剣までなんでもあるよ!木剣なら怪我する心配もなし!どんどん見ていって!」

 店主のその言葉を聞いて、俺は訝しむ。

 魔剣?

 店に並べられている武器を見ているが魔剣と言える武器はどこにも無かった。まさかとは思うが、あの魔力をのっけただけの剣のことを言っているのだろうか。

 だが、他に魔力を持っている武器はない。つまりはそういうことだろう。

「行こうか。」

 俺はマリーの手を取って、次の屋台に行く。あれが魔剣だなんて詐欺もいいところだ。

 普通魔剣は魔力量が多く、付与魔法に特化した魔法使いにしか作れないものだ。自身の魔力をその付与魔法で剣にしっかりと固定させる。剣自身に魔力を乗せるというのは簡単ではない。それを可能にする高度な付与魔法を扱える奴なんて俺の知り合いにも一人しかいない。そいつは宮廷魔法使いとして、国に召し抱えられていた。

 魔剣というのはそれだけ貴重なのだ。いくら祭りといってもこんなところにあるわけがない。あったとしても金貨が百枚単位で必要になる程の高級品だ。

 俺は武器を親に強請っている子どもたちを無視して次の雑貨屋へ行く。

「ルー君は武器欲しくないの?」

「いらない。あってもしょうがないし。今は他にもっと買った方がいいものがあると思うし。」

「私が買ってあげてもいいんだよ?」

「いいよ…マリーのお金なんだから自分のために使って。」

 俺はマリーのの提案を断る。マリーにお金を出してもらうのは、もうなんというかヒモみたいで絶対に嫌だった。

 道具が売られている屋台に目を落とす。そこにはノコギリやら、スコップやらが売られていた。どれも日常生活で使いそうなものばかりだ。

 ナタやノコギリがあれば、木材を手に入れることができる。そういう意味では買う価値はあるかもしれない。だが、金属の道具となると銅貨二十枚では足りない可能性の方が高い。

「ねぇルー君、あれなんの道具だろうね。」

 俺が次の屋台に行こうか迷っていると、マリーが一つの商品を指差す。

 そこにあったのは木の枠に釘が打ち付けられた変な道具だった。その枠の左右には金属の棒が使われていた。そして、付属品らしき櫛のようなもの。

 なんだこの道具。今まで見たことがないものだ。

 俺はその道具を手に取ってみる。釘は完全には埋まっておらず、半分くらい浮き出ていた。上下に打ち付けられたたくさんの釘。全く使い方がわからなかった。

「それが気になるかい?」

 俺がじーっと見ていると、店主が俺に話しかけてくる。

「これってどうやって使うんですか?」

俺が店主に説明を求めると、男は指を刺しながら使い方を教えてくれた。

「これは機織り機っていってな。この釘に縦糸を括りつくて使うんだ。そのあとはこの巻取り機につけた横糸を縦糸に潜らせる。最後にそれを櫛で寄せる。これを繰り返していくと布ができるって仕組みだ。面白いだろう。」

 俺とマリーは店主のその説明を聞いて固まる。

 これが機織り機?マジかよ!?この国だとここまで形が違うものなのか。

 俺が文化の違いに感心していると、マリーが肩を叩いてくる。

「ルー君!ルー君が欲しがってたのってこれだよね!?」

「うん…」

 おそらく俺が求めているものでこれ以上のものはないだろう。手動になってしまうので布を作るのに時間はかかるだろうが、それでも買う価値がある。

「すみません。これっていくらですか?」

「お、買ってくれるのかい!そうだな、ボウズが欲しいっていうなら特別に銅貨二十枚でいいぞ。使い方も細かく教えるよ。」

 買える。

 俺はそれを聞いた途端、小銭入れから銅貨を全て取り出す。糸はもう用意できてる。最適な道具に加え、使い方まで教えてくれるのだ。買わない手はない。

「これでお願いします。」

「ほい。うん、ちゃんと二十枚あるな。よし、これでこの機織り機はボウズのものだ!使い方を教えてやろう。」

「よかったね、ルー君!」

 俺とマリーは頷き合って、店主から使い方を聞く。これでようやく鞄作りは進めることができる。

こうして俺は手動の機織り機を手に入れた。

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