第20話 その代わりの条件

 ミーアは叫びながら部屋に入ってきた


「ぎゃーーーーー! ノア様ーーーーー!!!」


「どうしたミーア!」


「はわわわ・・・」



 その日の夜・・・

 9月19日(異) 午後10時22分 王都:フィエスタ近く 宿屋


「お疲れ様です」


「ケニー、大事は無いか?」


「特に問題はございません 午後10時半に、サリト殿下とエヴァンス女王陛下が、

 こちらにいらっしゃるそうです」


「あと…8分か 分かった

 それでケニー、残り8分弱でお前に説明しなければならない

 幹部で知らないのはお前だけなのだ」


「えっ! 私だけ知らないのですか!? (なんかやだ…)」


「ノートン、先ずは…」


「はい」


 ノートンは部屋を出て、1人の女性を連れて来た


「これは誰だ?」


「??? はて? 兵士でしょうか?(誰だ?全然分からん…)」


「我が軍の兵士ではないか」


「さっぱり分かりません…」


「分からぬのか?」


「新兵まで全ての兵士の顔は記憶しておりますが、見覚えがございません…」


「答えは… 自分で名を言ってみろ」


「ミーアです・・・」


「はぁ? ミーア!?・・・ ミーアと顔が違いますよ あははは!」


「本当にミーアなのだ… 今朝から先ほどまで、ずっと泣いていたからだ…」


「お前… だから顔がパンパンなのか… あははは! 何をやらかしたんだ?」


「・・・・・・」


「今回はセット(コンビでの任務)ではないんだな 珍しいなぁ…!?

 はっ…! もしかして… アルゼは!?」


「そうなのだ… お前の知るアルゼは、今朝〇んでしまった…

 呑気で間の抜けたヤツの顔を、ケニーにも見てもらおうと思ってな・・・」


「そうですか・・・ ヤツは逝ってしまったのですね・・・」


「ノートン」


「はっ!」


 ノートンは部屋を出た


「わざわざ私の為に…」


「別にそんな訳ではない… まぁ何だ、その… ついでだ」


「ついでだとしても… 感謝致します…」


 ノートンが再び部屋に入った


「いいぞ、入れ」


「よう、ケニー 2日振りだな キラーン!」


「ああああぁ… アルゼ…!?!? お前・・・」


「ノア様から"秘薬"を頂いたんだ それを飲んで暫くしたら… ご覧の通りさ

 頭の中のもやが晴れたんだ 今は爽快な気分さ☆」


「ええぇ~… 秘薬… ノ、ノア様… 秘薬とは一体…」


「それはな…」


「コンコン!」


「ノートン」


「はい…」


「時間のようだ… ケニーとミーアは下がっていいぞ

 詳しくはミーアから聞け アルゼは残っていろ」


「はっ!」「はっ!」「はっ!」


「ノア様、サリト様エヴァンス様がお見えになられました」


「入ってもらえ」


「どうぞこちらへ」


「おいノア… 我々は、を引いたようだな♪」


「全くだ それで手紙にもあった"果物"を持って来たのか?※」


 ※朝会議終了後、それぞれに返信を送っている


「あぁ 正直、誰にもやりたくはないが、特別に持って来てやったぞ」


「お主(エヴァンス)は"蜂蜜"だったな?」


「色々なお花の蜂蜜なの… こんなに凄い蜂蜜は初めて食べたの…」


「果物と蜂蜜が凄いと言ってもな… 全然ピンと来ないが…

 それほど騒ぐ逸品なのか? 食べさせてみろ」


「これだ、喰ってみろ」


「・・・バナ~ネ(バナナ) 色は鮮やかだが、普通のバナ~ネではないのか?」


「バカ言うな… どこが普通のバナ~ネだ 全然違うではないか! プンスカ!」


「・・・・・・」


「エヴァンス・・・ よだれが・・・」


「はっ!・・・ 失礼・・・」


「ノートン、バナ~ネを半分に切って、その半分を小さめにカットしてくれ」


「はっ! 少々お待ち下さい」


 ノートンは、バナ~ネを奥に持って行った


「お主は"酒"だったのだろう? どんな酒なのだ? 飲ませてみろ」


「そうだ 酒だ 今まで飲んだ事のない、素晴らしい酒だ

 エヴァンスは飲めるのか?」


「飲めるの」


 ノアはコップと小さいグラスを取り出し、ビールを注いだ


「これが"びーる"だ 冷やして飲むそうだ ここに来る間も冷やしておいた」


 サリトとエヴァンスは、びーるを飲んでみた


「ぷふぁ~ 何だこれは! 美味い… 美味いじゃないか!」


「ふ~… おいしいの♡」


「この入れ物(缶)のデザインが、それぞれ違うのだ

 それによるものなのか、味もそれぞれ微妙に違うのだ だが、どれも美味い!」


「お待たせしました どうぞ」


「このバナ~ネを喰ってみろ 飛ぶぞ!」


「もぐもぐもぐ… この甘さ! 信じられん… 普段食っているバナ~ネが霞むぞ

 "ナッシュトルティーヤ大陸"で、これほどの物が作れるのか・・・?」


「バクバクバクバク… げふ~… はっ!… 甘くて美味しかったの…」


「手紙には、"万疋屋まんびきやの高級フルーツ盛り合わせ"と書かれていたぞ

 一体どこにあるのか… ジュリアで探そうと思っている」


「私も欲しいの・・・」


「"万疋屋まんびきや"なぞ、聞いた事がないぞ… ジュリアではないだろ?」


「お主も見せてみろ 逸品の"蜂蜜"とやらを…」


「コト… これなの 花の香りが9種類あって、1つはプレーンって書かれてたの」


「どれどれ… こ、これは… 素晴らしい♪ まるで食べられる"黄金"ではないか!

 はて… そんな事が可能なのか??? ノアよ… 見てみろ」


「どうした? 何が可能なのだ… !? そ、そんなバカな・・・

 カスが一切入って無い… そんな事、不可能だ・・・ ピト、ぺろり…

 濃厚な甘さだが、後味は全然くどく無い… 蜂蜜の概念を超えている…」


「それぞれの土産も相当な代物だが、本命はやはり"秘薬"であろう…」


「確かにそう… あの"秘薬"があれば、多くの不自由な者たちを助けられるの」


「うむ… 異論はない できる限り安価で、大量に供給してもらえるのならば…

 あれはとんでもない代物だぞ…

 しかし… ザースマがあれほど頑固に意固地を通すとなれば、

 このまま泡沫国にいても明るい未来は無いぞ 

 ワイゼンの言う通り我々と手を組んで、ノア… 貴様が取って代われ 

 さもなければ、泡沫国と共に滅ぶぞ? いい加減貴様も覚悟を決めるがいい」


「先日のあの頑なさは… ひっくり返すのは容易ではない…

 私もそれしか方法は無いと考えておるが… 王都との戦力差は明らかに段違いだ 

 我が方兵は僅か200しかいないのだぞ… 民兵を入れたとてせいぜい500だ」

 我が方の立場を明らかにすれば、直ぐにでも王都から軍を出されてしまう

 お主たちの援軍があったとしても、間に合わずに即座に負けるであろう…

 これは独り言だ… 誰かに伝われば良いのだがな…

 アルゼ、こちらに来て自己紹介をしろ」


「はっ! は…初めまして アルゼと申します 以前の担当は兵站長でしたが…

 現在は衛兵を担当しております… よろしくお願い致します… キラーン☆」


「このアルゼはケニーと同期でな… ケニー同様、新兵の時からの逸材であった…

 5年ほど前、暴走した馬から子供を守った際に、頭部にダメージを負ってしまった

 それが原因で、言語と身体に障害を負ってしまったのだ・・・」


「ほぅ… あのケニーと並ぶほどか? 大したものだ」


「今朝方お主らの手紙を読んで、”秘薬”を飲ませたのだ

 赤子のように”薬は飲まない”と駄々を捏ねて、1瓶割ってしまったがな」


「1瓶割ったのか!? 何と勿体ない… アレは100万以上の価値があるのだぞ」


「反省しております・・・」


「殆どの症状をたちどころに治せる"秘薬"の存在をヴァティスたちも知れば、

 ヘヴンの重要さを簡単に示せるのだがな… やはり"秘薬"の事は話せん」


「これだけはハッキリと言えるぞ

 余程の条件や恩恵を示さない限り、ヴァティスとワイゼンは認めん…

 ポタリスはどうでも良いが、土産の話はできないのだぞ…

 それに、ジークはあれだけ連中を煽ったのだ あれは明らかにやりすぎだ…

 ヘヴンの同盟入りはどう足掻いても無理だぞ 今更どうにもできん…

 虫のいい話だが、我々にだけ融通してもらうしかあるまい・・・」


「同盟に入れないと… 魔王と手を組んでしまうの…」


「100歩譲ってだ、物が手に入らないだけならまだましだ・・・

 だが、魔王側と繋がるのは絶対に阻止しなければならない

 かと言って… 本当に魔王と手を組むとも考え辛いのだが・・・

 仮に"秘薬"が魔王軍に流れたら、我々は本当に終わる」


「それならばどうするのだ?

 ヘヴンは仲間が殺されて、怒りの矛先は我々に向けられているのだ

 我々には、潤沢な資金や物資がある訳ではないだろ

 ヘブンを繋ぎ止める術など、何も持ち合わせてないではないか…」


「お主の指摘通り、金品強奪事件が事態を拗らせた原因であるのは間違いない

 実行犯を確保できなかった事が、ヘヴンの怒りを買ったのだ

 私の勘だが、その仲間は恐らく"〇んではいない"・・・」


「なっ!? 報告書では”腹部を刺された”とあるではないか?」


「ジークは仲間が、"〇んだ"とか"〇された"とは、1回も言ってないの」


「そうだ… ジークは、"仲間を傷つけた"と言っていた 私が覚えている限り2回だ

 2回目は、嘘泣きを交えふざけながら"仲間を傷つけた"と言ったのだ

 あの時点では特に何も感じなかった…

 だが今は"秘薬"の存在も明らかになり、錬金術で作れる事を知るに至った

 要するに、その"仲間"とやらは〇んではおらん

 実際に大怪我は負ったのだろうが、あの"秘薬"で治したのだろう

 仮にその仲間が本当に亡くなっているとするならば、

 喧嘩を売りに来たあの場であのようにふざける事ができるか? 絶対にあり得ん

 仲間が傷つけられた事と仕事の遅さに対して、彼らは本気で怒っているのだ

 "自由に楽しく暮らしたいだけなんだ"と言っていた…

 "面倒だが、同盟に加わってやる"とも言っていた

 "自由に楽しく暮らしたいだけ"であるならば、

 本来なら面倒な国の仕事などしたい訳ではなかろう?

 攻めるならその部分しかあるまい…

 同盟の椅子を要求しておきながら、本気で欲しいとも思っていない

 私はそう考えている」


「!!! だったらこうするの ごにょごにょごにょ・・・(ノアに耳打ち)

 ごにょごにょごにょ・・・(サリトに耳打ち)」


「・・・まぁ、それしか策はなかろう…」


「ふぅ~… 他に案が無い以上仕方ない

 もしも駄目ならば、ヘヴンに縋るしかあるまい…」


「そうと決まれば、私が手紙をしたためよう

 サラサラサラ… サラサラサラサラ… サラサラサ… これでどうだ?」


「これで良いの」


「はぁ… 字面だけ見たら、何とも情けない・・・」


「このくらいでないと、大きな期待は得られないだろ?」


「さっさと送ってしまえ!」


「ノートン、これを封筒に入れ蝋封で閉じろ 印璽を忘れるな

 バサンナのワムプレ殿宛てで送ってくれ」


「速達でございますか?」


「いや… 明日の午前中… 明日の朝7時着で良い」


「はっ! 直ちに」


 ノートンは手紙を受け取り、部屋を出て行った


「アルゼも下がって良いぞ」


「はっ! 失礼します」


 続いてアルゼも部屋を出て行った


「今が、我々の分岐点かも知れぬ…」



 翌朝・・・

 9月20日(異) 午前9時27分 王都:拠点


「コンコン おはよ~ございま~す ナイトホーク郵便で~す!

 速達で~す!」


「ガチャッ ご苦労さん!」


 ロックは手紙を受け取った


「ティセ様~ ワムプレさんから手紙が来ましたよ はい」


「何の用なのかな? どれどれ… ガサガサ…

 すごーっ! 何このカッコイイ封筒⤴ ヤバぁ~

 溶かした蝋で封もしてるよ ほら」


「凄げぇ~な… こんなの映画でしか観た事ねぇ~よ…」


「ティセ、これって王様が指輪のハンコでこうやって押すの 海外ドラマで観たよ

 この封筒も素敵よね~ 額に入れて飾ろうか?」


「いいねそれ! やっといて」


「もしかしてティセ様… この王であるロックに、臣従の誓いの手紙では?」


「そうかも知れないね~ そう言えば、"悲しい"じゃない言葉見つかったの?」


「はい~ 候補はたくさんあって、悩んじゃってるんですよぉ~」


「どんなのよ?」


「そうですね~ 例えば"神々しい"とか、逆に"禍々しい"も良いですね♪

 変化球で"清々しい"とか"愛くるしい"も捨てがたい… 困っちゃいますねぇ~」


「おいティセ 俺たちは忙んだから、慌ただんだぞ

 そんな下らない事に付き合うなよ 相手にすんの阿保ら

 こんな怪おっさん、見てて痛々だろ? 見ているこっちが小っ恥ずか

 差し出がまように聞こえるだろうが、ティセの為だ 俺は心優からな

 このいやら顔を見てみろ ふてぶてだろ?

 厚かまし憎たら、 忌々とはこの男の事だ

 相も変わらずええかっこだな 暑苦んだよてめぇは!

 昔っからこうやって、どうでもいい話で難顔してんのが、腹立たんだ

 おぞまキャン玉教でも布教して、勇ま信者でも見つけてきやがれ!

 馬鹿馬鹿話で、ティセの大事な時間を奪うんじゃねぇ!」


「なんだとコンニャロめー! 一寸の虫にも五分のたまだろがい! ムキー!

 新王に逆らうとは何とも嘆かわ… ティセ様、〇刑にして下さい!

 煩わヤツめ!」


「キャン玉からとうとう虫に成り下がりやがった… 

 弱弱たかがクソ虫の王が、何でもかんでもティセに頼むんじゃねぇ~!

 押し付けがまんだよ、てめぇは

 茸無理やり喰わせて、げるぞコラ ガルル!」


「2人は放っておいてさ、早く手紙読んだ方が良いんじゃない?」


「そだね~ んじゃ読むか・・・」


 ティセは封を開け、手紙を読んだ


「・・・・・・」


「どうしたんだよティセ? 難しい顔しちゃってよ~」


「ん~… 意外って言っちゃ悪いけど、案外頭が良い人もいるんだなって…」


「そりゃあ向こう(現実世界)と比べたら、技術や文化は足元にも及ばねぇけど

 だけど賢者みたいなのは、どこにでもいるだろうよ?」


「それで何て言って来てるんだ?」


「読んでみそ はい」


「どれ、ぺらり… ・・・・・・ほぉ~ なるほどねぇ~ ふんふん…

 あれだけ煽ったのに拍子抜けだな… 何だかへりくだり過ぎじゃね?」


「想定内ではあるけど、可能性の中で一番薄いところ突いてきた感じ…」


「でもさぁ ティセだって同盟なんて興味ないんでしょ?

 だったらこれで良いんじゃないの?」


「獣人の人たちの同盟であって、ヘヴンとして同盟を結ぶ必要って全然無いの

 でもよくよく考えたら、元々獣人族は他の国と同盟関係はあるんだよね…

 それより問題なのは… 王都で戦争が始まっちゃって、

 フィエスタがオワコンになっちゃったらどうしようかってね~ それが心配なの」


「ヘヴンとして国の経営に関わるのは、一旦中止にするのか?」


「ん~… 中止って言うよりも・・・

 ヘヴンとしてじゃなくても、ワムプレさんの後ろから口を出せば良いじゃんか

 獣人族は私たちの配下で仲間なんだからさ」


「まぁな…」


「王都で何か問題が起こるまでは、ギリギリまで商売でもやりたいけどねぇ~」


「フィエスタでやりたいのか? 何の商売だよ?」


「コンビニか、ディスカウントショップ」


「えっ!? ディスカウントなら私ですよね?

 立派に社長の務めを果たしますよ~♪」


「勝手に社長に就任してんじゃねぇよ! テメェは地下労働の日雇いなんだよ

 うちらブラック企業だからよ~ この世に(異世界に) 社保も雇用保険も

 労基署もねぇ~んだよ テメェを奴隷のようにこき使ってやるよ ぎゃははは!」


「なんだとコラー! お前のキャン玉ディスカウントして切り売りすんぞ!

 コンニャロめー!」


「ロックさん、向こうの(現実世界)商品(回復薬の対価で得た品物)は、

 結構集まったの?」


「あるんですけどね こちらではそぐわない物が多いですよ」


「例えば?」


「ブランド品とか、電機・電化製品 スポーツ用品とか… インテリア系ですかね?

 日用品とかギフトセットはすぐに売れちゃうんで、そんなに無いですよ

 大量に入ってはくるんですけどね」


「そうなんだ じゃあ、分け前以外の資産は?」


「キャッシュは16億ちょっとありまして、当然未入金分もあります

 金銀の宝飾品は大量すぎて、勘定できませんよ…

 こちら(の世界)にもまだ7~8袋ありますし…

 貴金属以外の商品だけだったら、前回の棚卸で…7千万弱でした

 今はもっとあると思います

 少なく見積もっても、25億以上はあるんじゃないですかね?」


「ジークさん、エニィポーションは全部で何本ある?」


「ここには、オリジナルが229本ある ティセが調合した分は55本だな

 勇戦団と他の冒険者に頼んでるのが、どれだけ集まってるか分からねぇ

 今日が… 20日か… 50~100くらいは集まってんじゃねぇかな?

 ダン兄弟に(買取り等々任せている)聞いてくるか?」


「いや、大丈夫」


「キャッシュや在庫なんか確認してどうすんだ? コンビニやディスカウントが、

 どデカいシノギになるとは思えねぇけど 儲かるのかよ?」


「おかねの匂いがプンプンじゃん ゲラゲラ!

 正し、平和な時がいつまで続くのかだよ… 」


「早く作戦を聞かせろよ!」


「ロックさん、ラングさんを呼んで来て」


「は~い・・・・・・ 連れてきましたよ~」


「ティセ様、何か御用ですかな?」


「この拠点の近くに、この家よりもっと大きい物件を契約して欲しいの

 ここからもフィエスタからも近い所だよ 金額は問わないから大豪邸ね 」


「はい、お任せ下され! ぴゅ~」


 ラングは物件探しに向かった


「マジかよティセ… ここよりもデカいのかよ 最高じゃねぇか!」


「ここも広いけど4部屋しかないじゃん 私たちセレブなんだから」


「"4部屋しかないじゃん"も"私たちセレブなんだから"も

 人生で1回は言ってみたい言葉よね…」


「感覚がマヒするな… 今気付いたけど、俺たちってセレブなんだよな…

 嫁ちゃん… 大きな声で"セレブ"だって叫んでも良いんだぜ ぎゃははは!

 そんで、商売をやるのは分かった 流れを教えろよ」


「要求を呑む代わりに、こっちの条件も呑んでもらうの」


「条件を吞む… つまり、手紙に書いてある事だな

 ヘヴンとしては同盟には加われない事に拘ってくれるなと…

 建前上、獣人族の国家経営に関わらないていでいて、その代わり…

 獣人族のバックには俺たちがいるのを3か国は黙認するって事だな

 それでこっちの要求は、フィエスタで商売をやらせろと?」


「そうだけど、私たちが商売をするワケじゃなくて、

 あちらさんに商売をやってもらうの 私たちは商品の供給だけするの」


「やってもらう? 俺らがやるんじゃないのか!?

 何でだよ? もったいねぇんじゃね?」


「確かにもったいないよ やれば売上げ独占できるんだから」


「じゃあ何で?」


「私たちだけ儲けたって、経済が回らないじゃん

 私たちに乗った3か国に儲けさせて、莫大なメリットとしてプレゼント」


「はぁ~? それじゃこっちに何もメリットねぇじゃんよ」


「焦りなさるな若旦那 全部あげるワケないじゃん 半分もらうよ」


「半分かよ… それでももったいねぇ~わ」


「もしも戦争が始まったら、どのみち終了なんだよ…

 本格的にやるのは、平和になってからでも良いじゃん

 その時は全部私たちでやって総取りだよ ゲラゲラ!」


「確かにそうだけどよ~」


「商品の仕入れと搬入だけはするけど、ほとんど不労収入じゃん 準不労収入だよ

 商品も取りに来させたら、更に楽になるよ」


「ティセがそう決めたんだから、私たちはそれに従えば良いのよ!」


「まぁ、期間限定って考えたら… だな」

 

「次の交渉も、ジークさんで良いんでしょ?」


「おい~! 交渉はまた俺かよ…」


「ロックさんに任せるのとどっちが良い?」


「選択肢無さ過ぎだろ… 勘弁してくれよ… 次は本当に消されんぞ…」


「売る商材はこっちで用意するから、店員さんと店舗の確保をやってもらって

 店舗はフィエスタと高級住宅エリアの一等地 一気に5店舗くらいで始めよう

 特別にエドワードたちを連れてって良いよ ロックさんは仕入れ担当ね」

 

「特別が"太郎"たちかよ… 前回と同じじゃねぇか!

 せめておばあちゃんにしてくれよ」


「おばあちゃんを連れてったらバレちゃうじゃん バレても良いけど」


「バレても良いのかよ! そんで、いつ交渉するんだよ?」


「今日の午後6時に、犯人の処刑があるみたいだから… その後で良いんじゃない?

 その前に、裏の裏首脳会談の予約入れといた方が良いかもね」


「すでに表じゃねぇ~か… どうやって?」


「場所は手紙に書いてあったじゃん

 フィエスタの南側 しゃくなげ亭だってさ 貸切ってるって」


「俺も強くならねぇとな… ここじゃ命が幾つあっても足りねぇよ…」


 

 9月20日(異) 午前10時00分

 ジュリア:鳳凰宮 特別会議室 緊急裏サミット(延長)


 国家        出席者

 魔導王国ドルー  主:魔女王      :ヴァティス魔女王

 ドゥーラン王国  主:ドワーフ     :ワイゼン王

 ファフ王国    主:エルフ   :サリト王

 妖精の里ルルン  主:ピクシークイーン :エヴァンス女王

 泡沫国      主:人間       :ザースマ準男爵

 泡沫国タカミ村  主:人間        :ノア男爵

 ワンダ村     主:小人族       :ポタリス族長


「さて、時間だ… 始めようじゃないか(ワ)」


 2時間経過・・・


「では強奪犯の処分は、ヘヴンの要求通り【処刑】とするざます(ザ)」


「刑の執行は、本日午後18時 執行する(ノ)」


「では昼食と休憩を挟んで、引き続きヘヴンの同盟への参加について審議する

 再開は、午後13時半から 以上だ(ワ)」


 各国の首脳陣たちは立ち上がり、各々控室に戻ろうとしている


「ノア様… 先ほど子供が、"頼まれた"と言って、手紙を届けに参ったそうです」


「どれ、見せてみろ」


 ノアは手紙を受け取り、読んだ


「・・・ノートン、サリトとエヴァンスを呼び戻してくれ」


「はっ! 直ちに」


 ノートンは、サリトとエヴァンスを連れて来た


「どうしたのだ?」


「ジークから手紙が届いた 読んでみろ」


「手紙が!? ぺらり… ・・・・・・

 こちらの条件は、全面的に受け入れてもらえたようだが… 更なる条件か…」


「面倒な相手なの…」


「だが、"莫大な利益をもたらす"とある 同盟とは関係無い話だそうだ」


「どんな話なのだか…」


「"莫大な利益"だから、お金の話なの」


「あれこれ考えても分からん…

 今日19時に、"酔える場所※"(しゃくなげ亭)だ」

 ※3人が分かる暗号


「獣人たちをヘヴンとの窓口に据え、獣人の意思はヘヴンの意志とするんだろ…

 上手くいけば良いがな…(サ)」


「確かにガイエンは、ヘヴンによって陥落おとされた

 それによって、獣人族との同盟が解消された訳ではない

 今まで通りの関係性を主張すれば良いのさ ヘヴンを排除した体でな(ノ)」


「条件を呑めばお土産も買えるかもなの やった方が良いかもなの(エ)」


「本日19時だぞ 遅れずに来てくれ」


「それは構わん」


「分かったの」


 9月20日(異) 午後14時56分

 ジュリア:鳳凰宮 特別会議室 緊急裏サミット(延長)


 議論は紛糾し侃々諤々の様相を呈した・・・


「・・・であるから、それは間違っておるではないか!(ワ)」


「ならばヘヴンを同盟に入れず、勝手にやれと言うのか?

 ヘヴンは兎も角、獣人たちはどうする? 自衛しろと言えるのか?(サ)」


「魔王より極悪非道なの(エ)」


「そんな事は言ってないじゃない… ヘヴンの傲慢な態度が許せないって言ってるの

 あそこまで好き勝手に言われて、何でもかんでも認めてたら、

 ドルーや同盟各国… 延いては組織全体の沽券に関わるって言ってるの!(ヴ)」


「そんな事は言ってないと言っておきながら、体面しか気にしないのであれば、

 ジークの言った通り"強者の驕り"ではないか! 何も間違ってはおらん

 何度も言うが、ヘヴンがガイエンに取って代わるだけの単純な話

 同盟を認めないのは、獣人たちを見捨てるのと同義なのだぞ(ノ)」


「別に見捨てちゃいねぇ… 俺はジークって野郎が気に食わねぇんだよ!(ポ)」


「気に食わないから、同盟には入れたくないのだろ? ならば獣人たちをどうする?

 ガルフと比べたら、余程マシだと私は思うがな(サ)」


「そんな単純な話ではない 獣人たちを見捨てる訳でもない(ワ)」


「同盟には加えないが、獣人たちは見捨てない… ガルフは良くてジークは認めない

 お主たち3人の言い分は矛盾しておる お主たちの対案を是非聞かせてくれ

 それで私たちを納得させてくれたら良いじゃないか(ノ)」


「・・・」「・・・」「・・・」


「私にとってはどうでも良い話ざます バカバカしいので先に失礼するざます

 ザーシタ 戻るざますよ あー忙しいざますね…(ザ)」


 泡沫国 国王代行のザースマは、途中で退席してしまった・・・ 


「獣人全員を受け入れたらどうだヴァティス? ドルーなら余裕だろ?

 獣人全員の世話を焼いてやれワイゼン ドゥーランなら可能だろ?

 ポタリスは… 何もできんか! 見捨てないとはどの口が言うのだ?(サ)」


「ムキー!」「ムキー!」「何だとこの野郎! ムキー!」


「まぁ待て… 私たちはお主たちと喧嘩がしたい訳では無い

 丁度良い着地点を見出したいだけなのだ そこで私の案だが・・・(ノ)」



 次回 第21話『異世界で新たに始めたい商売』

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