第 9話 謎の女の子

「よく聞いて コツは勢いと要望 それに正当性 この3つが肝だからね

 勢いに乗せ要望を伝え、正当性を主張するの 分かった?」


「僕にできるやろうか 心配や…」


「できるか?じゃないの やるの! やってやるの!」


「そうやな… ほな行って来るで」


「あんな弱気で大丈夫やろか?」


「交渉ならハーランドの方が上だよ 物おじしないからね

 ただ、少し短気 すぐ"しばいたる"って言うでしょ?

 サンダースの悪い部分は、弱気なところ

 弱気は相手に見透かされちゃうし、付け込まれちゃう

 何度も何度も場数を踏むしかないよね」


「俺は短気か? そないな事ないと思うけどな?」


「自覚してないのがヤバし 私も超短気だもん すぐイライラしちゃうから

 でもね、頭に血が上っても冷静に対応できれば問題じゃないの

 理不尽に怒ったって、どうしようもないじゃない」


「ティセの言いたい事は、理解できるんやけどな…」


「兄弟2人を良く混ぜて2つに分けたら、丁度良さそうな感じヨ」


「・・・」


 同刻 ハルヨシ村 兵舎


「よく来たなサンダース 商売も上手くいってるようで安心したぞ」


「ありがとうございます」


「揚げ鳥食べたぞ あんなに美味い揚げ鳥を喰ったのは初めてだぞ

 相当研究したんじゃないのか?」


「そうですね 何度も何度も試しました それでいけると感じて…」


「大したもんだ それで今日は何だ?」


「それがですね… 今日臨時で休んで、バザールや屋台を巡ったんです

 そしたら、揚げ鳥屋がめっちゃ増えとったんです

 でもそれは良いんです マネされても… こっちは"味"で勝負しますんで

 問題はレモネン屋です 今日だけで18軒やっとりました

 当然相手に抗議しました こっちはノア様から、お墨付き貰っとるって

 話せば一旦止めるんですけど、今見たらまたやっとるんです

 今まで誰も見向きもしなかったレモネンに目を付けて、

 商売を始めたらマネされたんじゃ、たまったもんじゃありまへん

 確かにすぐに対応して貰って、高札を立てて下さったんで感謝してます

 やけど高札だけやと効果が薄いんで… 取り締まりを強化して欲しいんです

 一目見て、レモネンの専売業者って分かる証みたいなもんが必要思いまして

 巡回の強化と取り締まり そして証の発行をノア様にお願いに参りました…」


「もうマネされてるのか?  取り入れるのが早いな・・・

 言いたい事は分かった 早々に検討して善処する それで良いか?」


「はい、お願いします 失礼しました…」


 サンダースは、部屋から出て行った


「ノートン、レモネンの高札は何カ所に掲げている?」


「現在は全部で6カ所です」


「レモネンの取り扱いと、罰則の条文を周知させる方法か・・・

 考えてみたら、高札以外の方法など気にした事は無かったな」


「守る側のモラルに頼る部分が大きいです

 どうしても"いたちごっこ"になりがちな案件ですから

 しかしサンダースの言う通り、筋を通した側が不利益を被る状況を、

 看過する訳にはいきません

 ここは一先ず、取り締まりを強化するのがよろしいかと存じます」


「そうだな… "やれば得する"から、"やったら損する"と分からせんとな

 ギャビンとエリスに各々10名与え、

 飲食店エリアとバザールで取り締まりに当たらせよう

 明日からやらせてくれ」


「はっ! 違反者の処遇はどうなされますか?」


「レモネンは全て没収し、1回目なら以前決めた罰則で良い 確か罰金だったな

 2回目は、商材問わず営業禁止半年だ 3回目で営業禁止1年 それで良い

 現在の掲げている高札に、その旨を追記してくれ

 フォランダに20名与え、ハルヨシ村にある全ての商店主に対し、

 レモネンに関する条例を直接"口頭"で告知させよ

 いいな? 宿屋だろうが武器屋だろうとも、全ての商店主に対してだ

 ただし、王都を介しての取引までは関与できない

 それはハーランドたちに伝えてやってくれ」


「はっ!」


「ノートンは全ての賃貸業者に対し、条例を周知させよ 兵は自由に使って良い

 賃貸業者は借主に対し、レモネンの取り扱いに関して告知する義務が生じるとな

 つまり、契約時に条例を告知して借主の同意が得られない場合、

 物件の契約はできない

 さすれば新規の物件契約者は全て条例を知る事になる

 知った上で違反するなら、余程罰を受けたいのだろうな」


「承知致しました 明日から取り掛かります

 "証"はどう致しましょう?」


「それは、私が直接やろう」


「はっ!」


 その頃 店舗内事務所


「いやあ… 緊張した~」


「お疲れ様~ どうだった?」


「早々に検討して善処してくれるって言うてたで」


「どう対応してくれるかだよね お手並み拝見だ!」


「ほなティセ、明日から通常営業でええんやな?」


「良いよ 売り上げは徐々に戻っていくはずだから

 多少悪くてもイライラしないでね 我慢強くやるんだよ!」


「そやな、明日からがんばろー!」


「おー!」


 翌朝・・・ 店舗内事務所


「じゃあ向こうに行くね」


「あぁ、任せたで」


「ティセはあいつら(エドワードたち)引き連れて、どこに行ったんや?」


「今回買った店や 村人専用の宿も後でやるけど、店舗に改造せなアカンやろ

 それで大工さんと打ち合わせをしにいったんや」


「ティセの行動力はハンパないな・・・ 即行動やもんな」


「黙ってられへんのやろ 早うやりた~て、うずうずするんちゃうんか?」


 その時・・・ 誰かが訪ねて来た


「コンコン!」


「どちらさんですか~?」


「よぉハーランド 仕込み中か?」


「あっ!? これはノア様… おはようございます どうされました?」


「昨日サンダースが来て、切実に訴えられたからな

 今日から取り締まりを厳しくするからな それを伝えにきたのだ」


「そうですか… それはありがとうございます!」


「どうだ、上手く商売は出来てるのか?」


「はい、想像を遥かに超えるほどでございます」


「この前揚げ鳥を喰ったぞ いやぁ美味かった すぐに全部食べてしまったぞ

 それに"ハツ"か あれも良かったな お前たちにこんな才能があったなんてな

 驚きだぞ はっはっはっ!」


「そうですか 自信はあったんで… 褒めて貰えて嬉しいです

 ノア様にお聞きしたい事が2つあるのですが・・・」


「聞きたい事 何だ?」


「先に魔石についてなんですけど」


「魔石?」


「何かの役に立つのでしょうか?」


「魔石単体では何の役にも立たないが、加工して魔力を込めた物ならば、

 込めた魔力に応じた使い道はあるぞ 代表的なのは"魔道具"だな

 それに、魔石は単体で売れるからな それで日銭を稼ぐ者も居る

 我が領内にある【深淵】では、魔石を取りに行く者…

 つまり冒険者だな とても多いぞ」


「そうなんですか… どこで売るのが、高値が付くのでしょうか?」


「大きさ重さ純度で価値が決まるが…

 凡その価格は決まってるから、大した違いは無いだろう

 だが… 個人売買よりバザール バザールより王都ではないか?」


「ありがとうございます 勉強になりました!」


「もう1つは何だ?」


「あぁ… タカミ村についてなんですけど…」


「タカミ村… どうした?」


「今回の収穫量で、長老も畑を諦めました…

 それで… ハルヨシ村やジュリアに移住を提案したのです…」


「移住か… その提案は悪くないと思うが…」


「ノア様は… タカミ村をどのようにお使いになるのですか?

 あの村に… どのような意味があるのか・・・

 長老曰く、タカミ村はノア様にとって何か戦略的に重要な・・・」


「はっはっはっは! そんな事を気にしていたのか

 タカミ村が戦略的に重要かどうか? そんなものは何もないぞ

 今は安穏と暮らせてはいるが、戦争なんてものはいつ起こるか分からん

 どこにも属さない村人を、魔物や戦火から守るために庇護下に置いただけの事

 移住したければ、何も心配せずにしても構わん

 こちらとしては、寧ろ移住してくれた方が助かるんだがな」


「移住した方が助かるのですか?」


「タカミ村に人員を割かなくて済むだろ

 それに、井戸も枯れかかってるではないか…」


「あぁ~ 確かにそうですね・・・」


「村には30数名いるが、かねはあるのか?」


「店舗も順調ですので… 問題はございません…」


「随分と歯切れが悪いな… 心配事があるんじゃないのか?」


「えぇ… 長老がその提案を受け入れてくれるのかと…」


「正に"老いては子に従え"だな…

 頑固なご老体は多いが、長老はそうでもないだろ?

 なんなら、私が直接長老の背中を押してやろうか?」


「お忙しいのによろしいのですか?」


「案ずるな では、そのように動いて良いのだな?」


「はい 申し訳ございませんが、お願い致します…」


「分かった 近い内にタカミ村に行く

 他には大丈夫か? 何でもいいぞ」


「今回は大丈夫でございます

 何かありましたら、ご教授賜りたいと存じます」


「そうか、分かった・・・

 忘れてた… サンダースから頼まれてた"取り扱い許可証"だ

 私の直筆で書いた物だ 客が見て、一目で分かるような場所に掲げるのだ

 さすれば、許可を得て販売してる事が確認できるからな どうだ?」


「はい、これがあれば安心して商売ができます ありがとうございます!

 えーと… 例えばですが… 店舗を増やした場合どうすれば・・・」


「その時は兵舎に取りに来い その場で作ってやる」


「宜しくお願いします!」


「あのな… 開店前で悪いのだが、2人前頼めるか? ハツも2人前で…」


「良いですよ 少々お待ちください」


 

 少し時間は経過し・・・ 午前11時20分 バザール内 新店舗(仮)

 ティセは、大工との打ち合わせを終えた


「そんな感じでね よろしく~」


「ティセ様、今後はどのように動きましょうか?」


「そうだね~… 奴隷の解放にも再度取り掛かりたいんだけどね…

 こっちも手が足りないし…

 1回村に戻らないと、スプレーとか調味料も増やせないし困ったもんだ…」


「タカミ村からの増援(村人の)を検討した方がよろしいのではございませんか?」


「それも考えてるけどね… それでも足りないのよね~

 とは言え、1つずつ解決していかないとね

 ハーランドたち5人は、今のままで動かせないでしょ…

 となると… 私を含めここにいる10人※ ちょっと考える時間が必要だな~

 だけど… 一旦帰るか 帰らないと進まない うん帰ろう」

 ※ティセ、ラング、レン、エドワード、エドワルド、コルトン、 

  旧酔いどれ亭の名無し4人の合計10名


「すぐに向かわれますか?」


「そーだね… すぐにこっちに戻って来るかは分からないから、

 みんなに指示を出してから出よう その前に… ご飯食べに行こうか」


 食事後・・・ 店舗


「私さ、一旦村に戻るよ」


「はぁ? なんでや?(サンダース)」


「スプレーは無いし、調味料もその内無くなるじゃない

 私の錬金術(嘘)で、作らないといけないのよ・・・」


「ここじゃ無理なんか?」


「そだす ムリだす」


「そっか… すぐに戻るんやろ?」


「それもちょっと分からない やる事多くてさ」


「そうか~… 早う戻って来てや」


「うん、なるべく急ぐけどね そんで、今後の事なんだけどさ

 この無名4人衆をこき使ってやってよ 雑用とか裏方とかでさ」


「それはかまへんで」


「ちーと変われ(ハーランド) (店が忙しいから)

 ノア様からな、専売の許可証貰ろたで」


「凄いじゃん これで他と差別化できる

 みんな、頑張ってやってよ 私たちは村に戻るからね

 工事は7日掛かるってさ 鍵は預けてあるから

 私が村に戻る事大工さんに言ってないからさ、伝えておいてよ」


「あぁ、分かった 気ぃ付けてな」


 ティセたちは店舗を出た


「ところでラングさん、どうやって村に帰ればいいの?」


「馭者のありなしで値段は変わりますが、馬車を借りられます

 馭者なしで借りた場合、馬車を返さなければなりません

 こちらにすぐ戻らないのなら、馭者ありで借りた方が良いかと」


「そうだよね 返さないといけないもんね…

 すると… 今度はこっちに来る時に、困っちゃうよね… どうしよ…」


「はいはい、ティセ様!」


「はい、レン氏」


「この際、豪華な馬車を買っちゃうってどうです♡」


「却下!」


「えぇ~ 何で~???」


「勿体ないじゃん 要らないでしょ」


「はいは~い!」


「はい、エドワード」


「あの~マダム… 馬車の話じゃなくてすみませんが…

 兜が重すぎで首も肩も限界突破のサヴァイヴァーな状態なのです…

 エレガントな仮面とかに替えてもらえませんか 切実に…」


「めんどいなぁ~ でも仕方ない… アイテム売ってる場所知ってる?」


「バザールの中にありますぞ 向かいましょうか?」


「あぁそうだ… さっきの食事代で全部使ったんだ…

 レン氏、お金貰ってきてよ 30万くらい」


「はい、行ってきまぴゅ~・・・ 貰って来ました ゼイゼイ…」


「じゃあ行こうか」


 ティセたちは、バザール内の武器防具・アイテム販売エリアに来た


「へぇ~ 鉄の剣だ かっこいいね」


「この辺は武器エリアです あちらに防具エリアがございます」


「凄いね~ 王都だともっと凄いんだろうね」


「そうですね 人口が違いますからね ハルヨシ村は2000ちょっとで、

 王都は確か… 3万人以上ですから 規模が違います」


「前に行った時に、色々行けば良かったよ…」


「いつでも行く機会はございます」


「そうだろうけどさ…」


「ティセ様~ あの仮面はどうですか?」


「私が選んでもなんだし、エドワードたちに選ばせてよ」


「は~い!」


「武器とか防具はかっこいいね 私は使わないけどさ

 なんかさ… アイテムとか無いの? 便利なやつよ なにかできるやつ

 魔道具とかアーティファクトとかさ 何とか石とか、なになにの翼とか…」


「物としてはありますが、王都なら多少の期待はできるでしょうけど…

 こちらはあったとしても、数は少ないでしょうな」 


「やっぱり探すなら王都なのね… まぁそれでも何かあれば・・・」


「ティセ様~! 大変です!」


「なにさ?」


「3人共試着したら呪われちゃって… 外れないんですぅ

 店主が怒っちゃって… 絶対に買えって…」


「おどれらなに勝手な事しとんじゃコラッ!!! プンスカ!」


「お怒りはごもっともですが… とにかく来てください…」


 3人は店主の元へ向かった

 顔を真っ赤にして怒ってる店主が喚いている


「・・・・・・さぁ払ってくれ!」


「しかし呪われてるなんて…」


「おじさん、迷惑掛けてごめんね!」


「嬢ちゃん、こいつらの仲間かい?

 商品を外して置いていけないんだったら、代金を払ってくれよ!」

 

「確かにこっちが悪かったけど、試着お断りって書かなきゃダメだよ!

 呪われてるかどうか分かんないんだから

 おじさんも、呪われてるって知らなかったんでしょ?

 そこはちゃんと調べておくべきじゃない?」


「そりゃ~ まぁ~ 知らなかったけどよ・・・

 それでも仕入れてるんだ 損はできねぇよ プンスカ!」


「今回はさ、どっちも悪かったって事で収めてよ

 代金は、卸値で勘弁してよ ねっ!」


「仕方ねぇな… それで構わねぇよ 仕入れ代は3つで15000だ

 ほら納品書もあるよ 間違いないだろ?」


「レン氏、払ってあげて」


「はい・・・ 15,000ね、どうぞ」


「15,000… 確かに頂戴しました…」


「マダム~・・・」


「おじさん、迷惑掛けて本当にごめんね

 掘り出し物があったら、今度はちゃんと買うからね」


「事を収めるのが上手いな、嬢ちゃん! 気に入った!

 事のついでだ、セールスしちゃおっかな…

 これは当商店イチオシの商品! その名も… 呪われた・・・」


「それ要らないわ じゃあね!」


 ティセたちは、その商店を離れた


「あんたたちねぇ 余計なお金使わせんじゃないわよ ガルル!」


「申し訳ございません・・・」「すみませんマダム・・・」「ごめんね・・・」


「チッ… たく!」


「お陰様で私、スキルを習得したようです」「僕も覚えました!」「おいらも!」


「なんなの!? このマンガ的展開!!!」


「マダムに披露致しましょうか?」


「待て待て待て~い! 今はやらんで良し! 指示なしでやるの禁止!

 違反者は強制ベジタリアン!」


「シュン・・・」


「ティセ様、こちらは道具専門店ですな」


「良いのあるかな~ マスター、一押しなにかある?」


「らっしゃい、色々とあるよ! これはどうだい」


「どんな効果があるの?」


「これは、キャビンガレージの小箱

 馬車を丸ごと収納できる道具だよ 凄いだろ?」


「何台収納できるの?」


「え!? 1台だけだけど… 凄くないの?」


「マジックバッグ的な物なら、何台も収納できるんじゃないの?

 それに馬はどうするのよ? 使う時、馬がいなきゃ使えないじゃんか

 置き場所が無い人の為の、保管専用じゃない

 そもそも置き場に困る人は、馬車なんて持たないでしょ…?」

 

「そんな… みんな凄い凄い言って… 言われてみたらその通りでガックリ…

 2つも仕入れたのに… 残念無念」


「幾らで売ってるの?」


「5万だけど…」


「高っか… 仕入れ値は?」


「1万・・・」


「それを2個も仕入れちゃったの?

 悪いけど、こんなの全然使えないし売れないよ

 今まで売れた事あるの?」


「いや… 仕入れたのは今回が初めてだから…」


「3年くらい置いといたら、売れるかも知れないけど…

 5,000でも・・・ かなり厳しいかもね」


「えぇ~… そんなぁ~」


「使い方は?」


「箱を開けた状態で地面においておく その上に馬車を移動させると…

 吸い込まれて収納できる

 取り出す時は、開けた状態でさかさまにして振れば出てくるよ」


「ふ~ん・・・ 仕入れ値で良いなら、2個引き取ってあげるよ

 このままじゃ2年経っても… 埃被ったままだと思うけど どうする?」


「2個2万で買ってくれるのか? それは助かる! 引き取ってくれ」


「レン氏、お支払いして」


「はい… 2万だな」


「おお、ありがとうな! 助かったよ… はい2個ね」


「気にしないで 持ちつ持たれつだからね 他に良い物ないの?」


「おっほん、気を取り直して… これはどうだ?・・・」


 買い物を終えたティセたちは、店を後にした・・・


「ティセ様、あんなに貶してたのにどうして買ったのですか?

 しかも宝飾品もあんなに色々と… そんなに要らなくないですか?」

  

「レン氏… 分かって無いねぇ~ もう60うん歳でしょ?

 まだまだ若いのね…」


「それほどでも♡ 若いねって、たまに言われますよ」


「勘違いで喜ぶでない ティセ様は、お主を褒めてないぞ・・・」


「はぁ~… なんでよ! プンスカ!」


「ティセ様が、使えない物を買う訳がなかろう… 使えるから買ったのだ」


「あんなに貶してたじゃない? 2年経っても売れないってさ」


「あのなぁ、あれはだな・・・」


「ラングさん、大丈夫 私が説明するから…

 全部を説明するのはメンドイからさ 

 最初のだけ(キャビンガレージの小箱)買った理由を教えてあげるよ

 使い道を聞いた段階では、ふ~んな感じだったの

 馬まで収納出来たなら、5万でも買ったかも知れない でも馬はムリ

 使い道としては本当に、馬車の収納にしか使えないワケでしょ?

 もしかしたら、馬車くらいの大きさだったら収納できるかなって考えたの

 どでかい特注の木箱とかね 期待して、使い方を聞いたワケだ

 そしたら"箱を開けた状態で、馬車を箱の上に移動させる"ときたもんだ

 その方法じゃ、どでかい特注の木箱はムリ…

 無理やりやる方法も、あるっちゃあるけどさ そこまでするのもね…

 それなら、大型荷馬車をより多く積めるように改造してだよ、

 賃料も取られない "永久無料倉庫" として使えるなら、2万は激安じゃん」


「私もそうなんじゃないかって、薄々気付いてましたよ・・・

 なんとなくね アハハハ!・・・」


「お主はいつもそうやって、知ったか振る」


「なによ良いじゃない プンプン!」


「レン氏、知識はさぁ 無いよりあった方が良いに決まってるけど

 知らない事は知らないと素直に言えば良いのよ 知らないんだから

 私だって知らない事だらけだもん

 やれって言われて知ったか振ってたら、そのうち恥かくよ

 知らなくて恥ずかしいと思うなら、段々と覚えていけば良いし

 それを上手く利用できれば、助かる事もあるかも知れないじゃん

 持ってる知識を上手く変化させて、大成功だった時が楽しいんだよ」


「深いお言葉だな・・・ 再度感服しました」


「さすがのティセ様♡ 感動です…」


「あの~マダム… ありがたいお話の最中で申し訳ございませんが…

 この兜が超重過ぎて、私の腕はただの棒となってしまいました

 最早"限界を超えたラヴァーズ"なのです…

 腕がもげるのも時間の問題… 無理難題…

 早く処分したいのですが、そこら辺に捨てて良いですか?」


「あんたねぇ… 堂々と不法投棄を宣言すんじゃないよ!

 こちとらお金を出して買っとるんじゃ 売りに行くよ!」


 ティセたちは来た道を少し戻り、防具屋に立ち寄った


「こんちは~ 防具の買い取りってやってますか?」


「いらっしゃい 買い取り? やってますよ なにを買い取りましょう?」


「こいつらが持ってる兜3つなんだけど 幾らになる?」


「そうですねぇ… ちょいと鑑定しましょう 少々お待ちを」


 店主は兜の鑑定を始めた・・・


「マスターはさぁ、鑑定のスキル持ってんの?

 (ティセは、そんなスキルが実際にあるのかは知らないが、一応聞いてみた)」


「あたし? 持ってますよ 商売柄持ってないとね」


「それなら安心よね(鑑定のスキルあったし、持ってやがったか… ガッデム!)」


「お待たせしました 全部で、4800だね どうする?」


「それでお願いします」


「はいよ 4800ね ありがとね」


 兜を売却し、ティセたちは店を出た


「ティセ様~ 今回はあっさりと終わりましたけど、

 もっと高い値で引き取らせる事ができたのではないのですか?

 ティセ様にしては、意外なほど淡泊な感じでしたけど~」


「そりゃあ頑張れば、もっといけたかもしれないよ

 だけどさ、その為に1~2時間掛けるのって勿体ないじゃない

 やる事もなくて暇過ぎてさ、のんびりしてるんならまだしも、

 村に帰ろうとしてんのにだよ

 仮に額が上がったとしても、大したもんじゃないでしょうよ

 そんな時間があるなら、別に用事があるんだしそっちに時間を割くよ」


「あ~ なるほど! 頑張りどころを間違えるなって話ですね!」


「まぁ、間違ってはいないかな… そんな感じ」


「時間は尊いですからな 無駄に浪費はできませんな」


「その通り! お金で時間は買えないよね でも違う視点から考えてみて

 人を雇ったりして、手伝って貰ったり作業させたりするでしょ?

 ある意味では、その人の時間をお金で買ってるじゃない

 時間はお金にも変えられるし、逆もそう

 時間を無駄にするのは、お金を無駄にしてるって事なんだから

 とっても勿体ない事なんだよ 時間はもっと大事にしないとね」


「数々の金言 正に"金を生むお言葉"・・・ 凄まじい叡智・・・

 ティセ様のような賢者様は今後現れないだろう…」


「ホントですね♡ 今までは無駄に無駄を重ねていました… 勿体ない…」


「1秒たりともムダにするなってのは、ムリな話なんだから…

 そんな事もあるなって、頭のどこかに入れておけば良いんだよ

 段々と、合理的になってくるから

 それはそうと、もう帰んないと…

 馬車を運転手付きでレンタルして帰ろうよ」


「分かりました 儂が手配しましょう 2台でよろしいですな?」


「いいよ 早くしてね」


 ティセたちは2台の馬車に分乗して、タカミ村に向かった

 そして・・・ 村の入り口に到着

 

 ティセを探っていた幹部兵士ケニーは、ここ数日間タカミ村にいた

 兵士や村人からやんわりとティセについての聞き込みをしていたのだが…

 話は聞けるが一向に姿を現さないので、一旦ハルヨシ村に戻っていた

 タイミング悪く、ティセたちが久々に村に戻る数時間前の話だった…

 その少し前… ハルヨシ村 兵舎


「ノア様、只今戻りました」


「ケニーか、ご苦労だったな 何か掴めたか?」


「情報は幾つか掴めましたが、姿は見えませんでした・・・」


「そうなのか… して、どのような情報なのだ?」


 ケニーは、タカミ村で手に入れたティセの情報をノアに話した・・・


「それでは先月の〇〇日あたり、道に迷ったと言って村に来たのが始まり…

 ピコはその女の子を、自分の部下だと言っていると…

 ハーランド兄弟や長老と仲が良く、いつも一緒に居るとな…」


「左様でございます… アレハンドロやフェルナンド以外にも、

 あんな件やこんな件も大小様々な困り事を、瞬時に解決しているとか…

 長老が畑の作付けを減らしたのは、その女の子の助言と言う情報や、

 ハーランドたちが商売を始めたのも、口添えや手助けがあったとか…

 長老に伺いましたが口を濁しておりましたが、私は事実だと感じました」


「やはり、村の連中と女の子とは関りがあるようだな・・・」


「間違いないかと存じます…」


「私からもよろしいでしょうか?」


「どうした、ノートン?」


「そのような頭脳を持ち合わせていながら、己の利益の為に動いてはおらず、

 その力を他人を助ける為に惜しみなく使える慈悲の心を持ち合わせておるようです

 年少だとか女の子だとかはこの際抜きにして、

 我が陣営に迎えるのは如何でしょうか?

 それだけの才能が有れば軍師などとは言い過ぎかも知れませんが、

 有事の際は何かしら助言やアイデアを出してくれるかもしれません…」

 

「そうだな… 私も一度会って話してみたい」


 

 時は戻って… 現在 タカミ村

 ティセは馭者に、半月後に迎えに来るように依頼した

 今回の支払いと予約金を支払った

 村に入ろうとした一行を、衛兵が止めた


「この村に何用かな?」


「(あぁ~そうか… いつもはサンダースたちがいるから…)

 あの~… 長老さんに用があって来ました 私、友達なんですよ…」


「長老の友達… 一応確認は取らせてもらいます お名前を伺っても?」

 

「ティセです」


「ティセ殿だな 暫し待たれよ」


 衛兵は、長老に確認を取りに行った・・・

 程なくして、長老が迎えに来た


「おぉティセか、よう来たな 皆さんもどうぞ」


 ティセたちは、長老の家にお邪魔した


「いやぁ、サンダースたちがいないから止められちゃったよ」


「そりゃそうじゃな 団体さんがこの村にくる事は無いからなぁ」


 ティセは、ハルヨシ村とジュリアでの経緯を細かく説明した


「そうか、こいつらが奴隷商っちゅうやつらなのか!?

 それで仮面を被っとるのか・・・」


「そうなの とっても悪い事したの 今は色々と手伝わせてるけど、

 責任は取らせるよ 時間は掛かりそうだけど、奴隷の人も解放しないとね」


「そうか、立派な考えじゃな そんで私らは、何をすればええんじゃろうか?」


 ティセは、一旦戻って来た理由を説明した


「お肉はそんな感じ レモネンは・・・ あれはこーで、それはこうして・・・」


「そうすればええんじゃな 分かった 人の手配は私に任せるんじゃ」


「全部覚えた? あぁ~ スケジュール表せっかく作ったのに、忘れちゃった…」


「私の記憶力は凄いぞ 心配には及ばんぞ」


「じゃあお願いね」


「任せんかい それとは別の話じゃが…

 ノア様の御配下の方が、お前さんの事を色々と聞いて回ってたぞ…」


「あらら… 嗅ぎつけるのが早い事… 流石国のお仕事ね 少し舐めてたわ…

 でも良いの バレたところで問題ないから そのまま放置しておいてよ」


「それでええなら構わんよ 知らんけど」


「そうだ! 儲けたお金でお店買ったよ(ローン6回払)

 バザールのど真ん中の元宿屋さんなんだけどね

 村の人がいつでも泊まれるように、元宿屋も1件借りてるし」


「なんじゃと!? 1件買って1件借りとるのか? 両方とも元宿屋じゃと?

 一体幾ら儲けたんじゃ? 兄弟の店も借りとるんじゃろ? 大丈夫なんか?」


「心配しないでよ たんまりあるからさ

 そんで、長老さんにお願いしたいのは、こっちでのみんなのお家なのよ…

 ラングさんとレン氏は個別に、エドワードたち3人は一緒で良いかな

 みんなの食事も欲しいんだけどね… 私の食事は要らないよ

 ただで貰うのも気が引けるから、獲物はこっちで用意するからさ

 衛兵さんに渡せば、何とかならない?」


「大丈夫じゃろ ただ、その獲物の料理が出る訳じゃないぞ ええのか?」


「いいよいいよ! 食事のお礼として渡してあげてよ 長老からだって言って」


「分かった 家は空いてるのが幾つかあるんでな 好きに使ってええぞ

 後で案内するでな」


「ありがとう」


「魔石も仰山貯まっとるがな 持って行くか?」


「いいよ置いといて そのまま放置で」


「そうか、ええぞ」


「そんじゃあエドワードたちは、しばらくの間こき使ってやって

 と言っても、今回は半月だけどね またハルヨシ村に行くからさ

 今後村の人10人くらい、向こうで働けないかな?」


「こっちでやるのは・・・ 森で魔石拾いじゃろ… 

 それにレモネンの採取と皮の加工じゃな 鳥を獲って内臓の処理…

 畑は2面じゃから、10人くらい大丈夫じゃろ」


「それじゃあ、7日以内に10人を選抜しておいてよ

 それに、長老さん以外みんな経験した方が良いよ 向こうでの仕事

 手が必要な時に、いつでも自由に代われるように

 ゆくゆくは、お給金を払っても良いし、欲しい物を自由に買えるとかね」


「ええぞ それええな!」


「今さ、2店舗で1日で幾ら稼いでると思う?」


「さぁ… どうだろか? 7,000くらいかのぅ?」


「ブブー! 不正解 全然違うよ」


「なら幾ら稼いどるんじゃ?」


「2店舗で約30万以上だよ」


「ぴゃ~ さ、30万… 月にか?」


「1日でって言ったでしょうが! 1日30万 ホントだよ

 今はちょっと落ちてるけど、すぐに戻るしもっと売れるよ」


「ティセの言う通り、これじゃ畑要らんな… 知らんけど

 家は準備させるんでな、時間を少しくれ」


「じゃあ太陽園に行ってるよ 長老さんヨロピク!」


 エドワードたち3人を残し、ティセたちは太陽園に向かった


「こんちは~ 園長先生いますか~?」


「まぁティセさん! 今までどうしてたの? 来ないねって心配してたのよ」


「あぁ… ハルヨシ村でお仕事してたんで… すんまそん」


「ティセ~!!! やっと来た!」


「ピコ! 元気だった?」


「うぅ… ティセ… 生きてた… わわ~ん…」


「なんで泣いてんのよ?」


「ピコがティセさんが森で〇んじゃったんじゃないかって… 心配してて…

 顔を見れて安心したのよ」


「森で〇んだってか… ハルヨシ村に行ってたのよ お仕事で」


「お仕事… ねぇ、シロップ作ってよ もう無いの お願い!」


「分かった分かった… 時間が掛かるから待っててよ 明日持って来るから」


「分かった 明日ね 絶対だよ!」


「はいはい…」


「ティセさん、こちら様は?」


「あぁ… ラングさんとレンさん 私の部下なの」


「まぁ…!? 部下を?」


「初めまして 拙はティセ様の家臣 ラングと申します

 以後、お見知りおきを」


「同じくティセ様にお仕えしてます レンです 宜しくお願いします」


「まぁまぁご丁寧に 私はシスター・テクラと申します

 この孤児院の太陽園を任されております よろしくどうぞ」


「ねぇティセ、この人たちがティセの家来なら、ピコの家来だよね?」


「なんでそうなるのよ・・・」


「ちょっと2人を借りて良い?」


「好きにしなされ」


「やったー! ちょっと2人ともこっち来て~」


 ピコは2人を奥に連れて行った

 ピコサイド・・・


「2人に大事なお話するよ 実は… ティセはピコの家来なの…

 これはナイショの話… 2人がティセの家来なら、ピコの家来だよね?」


「それは本当の話でございますか・・・」

「あの~・・・ 信じられませんけど・・・」


「本当なの… だから、ピコのお願いはいつも聞いてくれるの

 ティセは優しいからね・・・」


「なんと… ティセ様がピコ様の・・・」

「これは失礼しました・・・ お許し下さい・・・」


「ピコも優しいから… 許してあげる それでピコのお仕事はねぇ・・・」


 もっと先の未来で、ピコに仕える事を今はまだ知らない2人だった・・・


「そんなこんなでゲラゲラ!」


「まぁそんな事が! おほほほ!」


「ねぇティセ、2人とパトロールに行って良い?」


「2人が良いなら良いけど…」


「じゃあ行って・・・」


 その時村人が訪ねて来た


「こんにちは、こちらにティセさんいらっしゃいますか?」


「はい、私ですけど?」


「長老から家を用意するように言われまして、

 準備が整いましたので伺いました 御案内しますのでどうぞ」


「あ~ ありがとうございます ちょいとお待ちを・・・」


「ピコ、今ダメだわ お家を用意して貰ったから 行かなきゃ」


「えぇ~・・・ やだやだやだ!」


「わがままなガールね… 家を見に行った後にしてよ、ねっ!」


「分かった… 早くしてよね!」


「うっさいな~ 分かったよ」


 ティセたちは、村人の案内で家に向かった その途中・・・


「私はティセ ティセって呼んでね

 ラングさんとレン氏 あなたの名前は?」


「私はダン 宜しく」


「歳はハーランドと同じくらいかな?」


「良く分かったね 私の弟も、サンダースと同じ歳だよ」


「へぇ~ そうなんだ・・・

 (しかしこの世界は… 登場人物全員イケメンじゃねぇか…)」


「君は何歳? 10歳くらいかな?」


「はぁ~・・・ 14歳だっちゅーの ムキー!」


「それは失礼、、、 ごめんね!」


「今さ、ハーランドたちがハルヨシ村で仕事してんのよ 知ってると思うけど

 そんでさ、もっと人手が欲しいのよね 長老さんにも言ったんだけどね

 10人ほど集めてってね 何ならダンと弟もなんかやる? 儲けさせるよ」


「私も何かやりたいと思ってたんだ 仕事があるならお願いしたいな

 この村で生活するのは心地良いんだよ でも暇過ぎるからさ・・・」


「大丈夫任せてよ 飲食でいいの? 出来る?」


「何でも大丈夫だよ ある程度なら料理もできるし、

 村の者なら皆大体できるよ」


「ふ~ん ハーランド&サンダースの兄弟も獲物捌けるけど、

 ダンの弟も捌けるのね?」


「弟のフランクも捌けるよ」


「ダンとフランクの兄弟か・・・ ニヤリ!」



 次回 第10話『それぞれの仕事と新たな助っ人』

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