第 7話 アレルギー

「(知ってはいるけど、一応聞いておくか…)

 もしかしてさ、この世界って【魔王】とかいたりする?」


「魔王? 今更何を言うとんねん…」


「魔王軍と神たちがやりあってるっちゅ~のは、長老から聞いてるで

 現にこいつらも、魔物なんやろ?」


「(うわぁ~ 魔王とかメンドくさっ… 異世界ライフを楽しませろよ…)

 この辺の魔物って、魔王が創り出したのかな?」


「そうやろな… 魔物とちゃう普通の動物もいるんやろうけどな」


「でもね、考えたら変な話だよ…」


「何がや?」


「魔王が創り出した魔物だとしたら 人間や世界を滅ぼす為…

 その為に魔物を創って送り込んだとするじゃない

 だけど人間や亜人は、その魔物を食べて生きてる

 魔物って危険な存在だけど、私たちの恵みになってるんじゃないの?」


「考えてみたらそうやな…」


「これはごっつ深い話やで…」


「まぁまぁ… あいつ(キラーアント)のせいで脱線しちゃったけど、

 本来の目的は別だったの

 飲食店をやるなら、生ゴミの処理が必要じゃない…?

 なんでもかんでも食べちゃう奴が欲しかったんだよね… キモいけど」


「ふ~ん… それでどないするん?

 こいつ(キラーアント)持って帰るんか?

 ごみなんか森にほかしたら(捨てたら)、こいつらが喰うんやで」


「そうなの? みんな森に捨ててるワケ?」


「そやで みんなほかしてるがな

 あっ… 思い出した!!! ティセ… 多分重要やで…」


「何さ?」


「ちょっと待って~な… ゴソゴソ… ゴソゴソ…」


 ハーランドは、キラーアントがゴミを捨てた場所を探り始めた…


「ほら、あったで!」


「これは…!? もしかして… かの有名な【魔石】じゃない?」


「そうや… 魔石や」


「ホンマやな… 間違いなく魔石や!?」


「何でここにあると思ったの?」


「さっきティセが言ったやろ… 魔物は魔王が創り出したとかって…」


「うん」


「魔物なら体ん中に魔石があるっちゅ~のは、子供でも知ってるんや

 何に使うかは知らんけど・・・

 そやけど、俺らが魔物を捌いて魔石が出て来た事なんか、一度もあらへん

 魔物を捌いた時、ティセが内臓は喰わんのかって聞いてきたやん

 そん時に鳥の"ハツ(心臓)"を切ったけど、魔石なんか無かったやろ…

 もしかしたらって考えたんや・・・

 俺らが喰わん内臓とか頭に、魔石があるんちゃうんかってな

 それか、そもそも魔物やなくて普通の動物かも知れへんし…

 キラーアントが動物の死骸を喰うなら、当然魔物の死骸も喰うやろ?

 それなら魔石が出てくるのは当然やん

 だからコイツのごみ捨て場にあると思ったんや」 


「と言う事は…! 森の中の地面は、何十cmも落ち葉が積もっててフカフカだよね

 この地面に積もった落ち葉をね、こうバサーバサーとやったら・・・

 ほら! コロッ… 魔石が落ちてるじゃない サンダース拾って!」


「これは、何でここに落ちてるんやろ?」


「魔物だって死んだり喰われたりするでしょ? 蟻の場合は巣に持ち帰ったけど、

 他の動物や魔物が食べたりするなら、巣に持ち帰るかその場で食べるでしょうよ」


「あぁ、なるほど! その場で食べたんか 喰われへん骨や魔石を残したんやな」


「ほな魔石、結構あるんとちゃうか?」


「魔石を探してみよう さぁやるよ!」


 3人は積もった落ち葉を掻き分け、落ちている魔石を集めまくった・・・


「122、123、124… 全部で124個 今回はこんなもんで良いよ

 次にやる時は、この続きからだよ」


「集めるのはええんやけどな、これ何に使うん? そもそも使えるんか?」


「加工したりしてから、使えるようになるんでしょ 多分

 間違いなく、価値はあるはずだよ」


「ティセは大したもんやで」


「だとしたら最高やん 森にかねが落ちてるんやで 信じられへん!」


「この"魔石拾い作戦"は、定期的に誰かにやってもらおうよ

 私たちはやる事が多くて、こっちまで手が回らないもん…」


「そやな… 長老に相談してみるか…」


「ちょい待ち… ウェイキーバード1匹獲ってからにしてくれ」


「いいよ」


 ウェイキーバードを捕獲したティセたちは、長老の家に向かった


「こんちは~長老さん」


「おぉ~ティセか よく来たな 上がんなさい」


「ちょっと聞きたい事があって来たの」


「聞きたい事って何じゃろ?」


「魔石って価値あるんでしょ?」


「価値はあるけど、どのくらいなるかは分からんなぁ~…」


「一応価値はあるんだね… これ森で拾って来たんだけどさ」


「なんじゃこの数は… 一体何個あるんじゃ?」


「確か124個かな?」


「・・・凄い数じゃな」


「それでも、ほんのちょっとの時間でこれだけ拾ったんだよ

 私たちハルヨシ村で商売をするから忙しいのよ

 森で魔石拾いをお願いしたいんだけど良いかな?

 やり方は、あーしてこーして・・・云々・・・」


「畑の仕事が殆ど無くなったからな…※ 結構な人数割けるぞ」

 ※畑を6面から2面に減らし、場所も変えた


「長老さん、ありがとう 売る時はまとめて売るからさ 貯めといてよ」


「分かった 手配しとくんでな」


「一つ提案があるんだけど、良い?」


「何だろか?」


「ハルヨシ村とか王都に移住したら良いんじゃない? 嫌なの?」


「・・・・・・」


「長老! 俺らティセと出会う前は、この村でのんびり一生を過ごすんやって…

 なんとなく思ってたんやけど… それって何か違うなって感じたんですよ…」


「僕もそう思う… のどかなタカミ村は大好きやで、そやけど…

 住まないとしても、この場所が無くなる訳やないし、好きな時に来れるし…」


「お前たち… それこそ畑があるんなら、この場所に固執する理由なんじゃがな…

 今となっては… 特別拘ってる訳では無いんじゃよ…」


「えっ… そうなの!?」


「このタカミ村が、ノア様の庇護下に入ったのは数か月前の話じゃ…

 本来ならこんなちっぽけな村、どうでも良いはずなんじゃがな…

 戦略上何か意図があって、この村を加えたと思うんじゃよ

 ずーっとお世話になりっぱなしやからのぅ…

 お役に立てる事があるなら、その手伝いはしたいとは考えてはおるが…」


「長老さんは、この村に拘っているワケじゃないのね?」


「そうじゃな… ここであろうとなかろうと、やれる事があるなら、

 どこでも良いんじゃ 特別この村に執着してる訳ではないんじゃよ」


「そうだったんだ… それなら、お金稼ぎが直接役立つかもよ

 たくさん稼いで上納でもすれば、それでも良いじゃん 充分役に立つよ」


「確かにそうじゃな… 僅かな収穫を渡してもな…

 そう考えればティセの言う通りじゃ」


 

 長老の家を出たティセたち3人は、ハーランドの家に戻った


「最近何度か唐揚げ作ってるんやけど、どうも上手くいかんのや…

 ティセに食ってもらって、アドバイスくれへん?」


「いいよ、作ってみそ」


 ハーランドはウェイキーバードを捌き、唐揚げを作った


「もしゃもしゃ… もしゃもしゃ… う~ん… べちゃっとしてるね」


「そうなんや ティセが作ってくれたのは、もっとカリッっとサクッとして、

 中はジューシーやったから…」


「わざとべちゃっとさせる場合も、あるにはあるみたいだけどね

 この前私が作ったのは"鳥の唐揚げ"

 "フライドチキン"だと、多少べちゃっとしてる方が、美味しかったりするよ

 何がどう違うって、私もよく分からない

 唐揚げもフライドチキンも、同じように揚げてるんだから

 正直、食べる人の好みは人それぞれだから、何が正しいとかはないよ」


 ティセは、色々な方法を試してみせた


「今やったように低い温度の油で揚げた後ちょっと休ませてから、

 高い温度の油で"2度揚げ"すると、外側がカリっとするよね?

 先にやった"揚げ焼き"にすると、外側のカリっと感は2度揚げ程ではないけど、

 パリッと感はあったよね?

 これに関しては、ハーランドとサンダースで色々試してみて欲しいな」


「いやティセ、充分やで 良いアドバイスもろたわ ありがとう!」


「僕も兄貴と色々試してみるわ」


 ティセたちは、今後について夜遅くまで話していた・・・


 

 その日の夜 ハルヨシ村 兵舎


「ノア様、レイリアンからの報告です」


「どうした?」


「行方が分からなかったダスティ卿が、姿を現したそうです」


「クレイソンか?(ダスティ卿の本領)」


「姿を現したのは王都ですが、

 すぐにクレイソン(ダスティ卿の本領)へ戻ったとの事です」


「・・・ レイリアンはそのまま王都で情報収集

 アズディニをクレイソンに向かわせろ

 ソロの冒険者を装わせてな、ダスティを見張るのだ」


「はっ! 別件ですがそれともう1つございまして…」


「何だ?」


「昨日の事ですが、新しい借主がエドワードの元アジトを契約したそうです

 また、檻のあった場所も同様に、新規の者が契約したそうで、

 本日賃貸業者から報告がございました」


「早々に借主が現れたか それは良かった!」


「それで物件の借主なのですが、檻の場所はハルヨシ村在住のモスと言う者です

 ギルドの登録はございません

 元アジトの方ですが、どうやらタカミ村のハーランドが借りたようです」


「ハーランド…!? 今回も作物は不作だったと聞いたが…

 レモネンも件もそうだが、試行錯誤しながら色々とチャレンジしておるな」


「そうでございますね 昨日ですが弟のサンダースもここに来まして、

 眷属の馬について色々と聞いてきました」


「眷属の馬が欲しいのか?」


「そのようでございました」


「"赤兎"は無理だが、"アハルテケ"なら余ってるではないか?

 くれてやっても良かったのではないか? 売っても大した額にはならんだろう」


「はい… アハルテケから赤兎馬に入れ替え予定ですので…

 実はそのように提案したのですが、"その内自分で買うから"と断られました

 ただ、"それまでの間貸して欲しい"と言うので、4頭と大型荷馬車を貸しました」


「あっはっはっは! レモネンに大金を払い、ただ(無償)の馬を断ったのか?

 若いってのは怖いもの知らずだな それが武器にもなるが、危うくもなるもんだ」


「仰る通りで・・・」


「まぁしかし、頑張ろうとしておるのだな…

 時には失敗するかもしれんが、諦めずに挑戦してもらいたいもんだ

 何か言って来たら、出来るだけ協力してやってくれ」


「はい、心得ております」


「それと… 以前タカミ村の住人から要望が出てた件だが、どうなったのだ?」


「各所に溜まった水ですが、確かに小さい虫のような物がうようよといました

 それが蚊の子供で、放っておくとやがて大人になり、蚊になるそうです

 村内で雨後に水が溜まる場所は、桶や器など速やかに撤去させました

 厩の水飲み場などは水を足すのではなく、水を全部入れ替えさせております」


「うむ… それで蚊が少なくなれば…」


「次にレモネンの木の植え替えの件です

 明日の朝、タカミ村で取り掛かります 森に入り、レモネンの木10数本集め、

 先ずは兵舎周りに植えます 数か月タカミ村での成果を確認し、

 結果次第でハルヨシ村でも取り入れる予定でございます」


「・・・・・・ いや・・・

 タカミ村の方は、兵舎だけでなく家々の周辺にも植えるようにしてくれ

 それで、結果は待たなくても良い

 こちらの(ハルヨシ村)兵舎周辺も、植え替えに取り掛からせてくれ」


「こちらも明日から始めてよろしいのですか?」


「あぁ、明日から始めてくれ」


「はっ! 明日から取り掛かります 指揮は誰にしますか?」


「誰でも構わんぞ」


「はっ! それではマシューに任せます」


「ところで… その"蚊"の話やレモネンの件だが…

 タカミ村の住民とは誰なのだ? 誰が言った事なのだ?」


「??? "女の子に言われた"と、フェルナンドから報告がありましたが…」


「女の子… タカミ村に住む女の子だと、相当小さかったはずだが…

 名前は分からんのか?」


「名前までは聞いておりませんが…」


「井戸の件でスタンも… 女の子に言われたと言っていたのだが…」


「気になる事がございましたら、明日確認を取りますが…」


「あぁ、少しだが気になってな… 聞いといてくれ」


「畏まりました」


 ティセは研究の為、秘密の部屋に籠っていた・・・

 数日後・・・ 昼過ぎ タカミ村

 

「あれ~!!! レモネンの木が植えてある!? 凄いじゃん」


「この前ティセが来た翌日やったかな? 兵士さんが森に入って採ってきてん

 そんで村の中あちらこちらに植えてくれたんやで」


「匂いも爽やかで良いよねぇ~♪ 良いじゃんか!」


「そうやな、心が穏やかになるで♪」


「そろそろ店舗の改造も終わる頃やろ 今日か明日やったな?

 僕らハルヨシ村に行くで ティセも行くんやろ?」


「じゃあ行きますか!」


 ティセたちは荷馬車で、タカミ村から出発した


「ティセはここんところ何してたん?」


「ハーランドとサンダースだけじゃなくて、

 これからは村の人たちに手伝ってもらって、みんな忙しくなるでしょ?

 誰がどの作業をするとか、誰かの代わりの場合は誰がするとか、

 一目見て分かりやすい物が必要なのよ

 それを予定表とかスケジュール表とかって言ったりするのよね

 それをどんな感じで作るかを考えていたの」


「凄いシステムやな 聞いただけやけど、便利そうなのが分かるわ

 そんなアイデア、どこから出てくるん? 天才かよ! 賢者やったな…」


「うふふふ ナイショだぞ! ゲラゲラ!」


 しょーもない話をしながら… ハルヨシ村の店舗に到着した


「モスさん、こんちは! 元気してた?」


「あ~ティセ様、元気にやらせてもらってます

 実は… 私や彼女たちを捕まえたニセ衛兵が来ています

 ラングさんからの手紙と腕輪を持参してました… 奥に居ますので、どうぞ…」


「ライラックの酒場のマスターが、上手くやってくれたみたいね…」


「ニセ衛兵か… 俺らも一緒に行くで」


「そうや! とことん追い詰めたろ~」


「みんな行くよ!」


 ティセたちは、店の奥へと入って行った

 そこには腕輪を着けた縛られた男が、椅子に座っている


「ティセ、まずは俺がこいつに色々と聞いたる 何かあれば言ってくれへんか?」


「うん、それで良いよ 私はラングさんの手紙を読みながら聞いてるから」


「おい、あんた! 名前は?」


「俺の名前は、トロイ・・・」


「トロイ、お前はエドワードの仲間なのか?」


「仲間… 確かに仲間だな」


「王都の衛兵を装って、罪の無い人を何人も奴隷にしてたんやな?」


「その通りだ・・・」


「1人連れて行ったら、幾ら貰ってたんや?」


「販売価格の1割・・・」


「お前がおっさん… モスさんの彼女を〇したんちゃうのか?」


「俺は〇ってない…」


「どうせ嘘やろ! 白状せぇ!」


「本当に俺は〇ってないんだ… そこまではしない…」


「ハーランド、もういいよ 私が聞くから」


「あぁ、交代しよか」


「あんたが、モスさんを捕まえた人?」


「あぁ… そうだ」


「モスさんの彼女の家に行った事は?」


「1度行った…」


「モスさんと彼女… 家に行った順序は?」


「先に女の家に行った… その後で男の家に…」


「彼女の家に行って、何をした?」


「男のヤサ(家)を聞きに…」


「あんた… 彼女が死ぬのを見たでしょ?」


「・・・見た だけど俺は何もしてないんだ! 女が急に苦しみだして…」


「ほらな… こいつが〇したんや 間違いないやろ!」


「サンダース、ちょっと黙ってて!

 あんたが彼女を尋ねた時、彼女は何かしてなかった?」


「何か? ・・・特別何かをしてたか… そうだ! パンを喰ってた」


「それで?」


「男のヤサ(家)を聞きに行ったけど、いきなり聞くのも… 中々…

 他愛もない話から、段々と本題に入ろうとしてたんだ…

 やっとヤサを聞き出したところで、一目で分かるほど徐々に顔が腫れて…

 苦しみだしたんだ 元気だったのに… これは本当の話なんだよ…」


「その後は?」


「俺は怖くなって… 女の家を出て、男の家の確認に行った…

 3日後だったか? 男がヤサに戻って来てから少し間を空けて、

 捕まえに行ったんだ・・・」


「なんで苦しんでる彼女を助けなかったのよ?」


「俺の仕業だと思われるじゃねぇか… 何もやってねぇのによ…」


「分かった・・・ あんた、ラングさんから何て言われてる?」


「自首しろと… 言われている」


「あんたの他に、エドワードと通じてる悪い奴っているの?」


「知らない…」


「分かった もういいわ みんな、一旦外に出よう」


 トロイをその場に残し、ティセの言葉で一旦外に出た


「ティセ! あいつは嘘ついてるんちゃうんか? それでも信じるん?」


「・・・ モスさん、確認したい事があるの 良い?」


「はい、何ですか?」


「王都で彼女と食事する前… 遡ってその前にした食事なんだけどね…

 どこで食べた? その時は彼女は一緒だった?」


「王都で食べた食事の前の食事… 確か… 当日の早朝でした

 ハルヨシ村から乗り合い馬車に乗りまして、王都に向かっていた道中です」


「乗り合い馬車に乗って、その道中… 彼女も食べたの?」


「いいえ、私だけ食べました 彼女は家で食べて来たからと…」


「そのお弁当は、彼女が作ったの?」


「そうです 彼女が作って持って来てくれました」


「そのお弁当を食べるまで、モスさんの体調はどうだったの?」


「元気でしたよ 絶好調でしたけど…」


「それじゃあ、いつ体調が悪くなったの?」


「王都で、食事をしている最中です」


「食事は残した?」


「はい… 肉は全部食べましたけど、付け合わせとパンが食べられなくて…」


「もしかして… と言うよりは、私はずーっとそう思ってたんだけど、

 残したパンを彼女に渡したんじゃない?」


「はい、そうです… 勿体ないんで 包んで貰って渡しましたけど…」


「そのパンは、あり?なし? どっち?」


「ありです クルミだったと記憶してますけど・・・」


「やっぱり・・・ 彼女がパンを選ぶ時、いつも"なし"じゃない?」


「そうです!? いつも"なし"で注文してます」


「モスさん… いい、しっかりと落ち着いて聞いてね・・・

 彼女が亡くなってしまった原因は、"パン"よ 間違いない」


「パンで… 亡くなる??? そんな・・・」


「ティセ… パンで人が〇んでしまうなんて、どうしてや?」


「正確には、パンに入ってた"クルミ"だよ 一番の原因はクルミ」


「全然分からへん… なんでクルミごときで、人が〇んでしまうんや?」


「私も細かくキッチリと伝えられないのは申し訳ないんだけど、

 出来るだけ分かりやすく説明するね

 人によって、特定の食べ物が合う合わないってのがあるのよ

 それは味とか好みじゃなくて、体に合わない物があるって事

 じゃあそんな物を食べるとどうなるか…

 皮膚のかゆみ、鼻水、くしゃみ、咳、発疹、吐き気、腫れ、腹痛とかね

 症状は人それぞれだったりするんだけどね

 そんな症状を"アレルギー"って言うの

 このアレルギーが、特に酷い症状になる場合があるのね

 それを"アナフィラキシーショック"と言ってね、

 最悪の場合亡くなってしまう事があるの・・・

 その症状を引き起こす細かいメカニズムは、私は知らないけど…

 よく聞く原因は3つあってね、1つ目は薬、2つ目は蜂に刺される事、

 3つ目が食べ物… これだけではなくて、もっと色々とあるみたいだけどね」


「ほなおっさんの彼女さんは、パンに入ってた"クルミ"のせいで、

 その"あれるぎー"っちゅうものになってしまったんか?」


「そう… 可能性はかなり高いと思う…」


「そんな事… 考えられへん…」


「特に3つ目の食べ物って、身近な問題だけどね…

 モスさんに聞くけど、彼女は牛乳は飲む?」


「はい、好きでした」


「果物は?」


「はい、好きですね」


「小麦は?」


「パンが好きですからね 食べます」


「魚は?」


「この界隈は魚が獲れませんので… みなさんもでしょうが、食べません」


「ナッツ類は?」


「・・・・・・食べてるのは、見た事がないです」


「ありがと分かった アレルギーを引き起こす食べ物…

 小さい時でも大人になってからでも、一度でも食べて体に変な症状が出たら、

 それを食べる時に身構えると思うのね あの時食べて体中痒くなったなとか…

 その経験が彼女にあったか無かったかは、分からないよ…

 その時彼女は、初めてクルミを食べたんじゃないかな?

 さっき聞いたけど、トロイが彼女の家に行った時ね

 彼女はパンを食べてたって言ってたでしょ… 何分か前に食べ始めたの

 モスさんのお家を彼女から聞き出すのに、10分~20分くらい掛かった…

 元気だった彼女の顔がみるみる腫れて、急に苦しみだした…

 みんなも見ただろうけど、トロイの腕には腕輪が着けられてるじゃない

 主はラングさん 手紙の内容とトロイが言ってる事は一致しているから、

 トロイは嘘を付いていないよ」


「そんなバカな… それでは、私が渡したパンが彼女を・・・」


「モスさん! 結果的にそうなってしまったけど、これは誰のせいでもないの

 誰にでも起こりうる可能性はあるの… この時代じゃ… 防ぐのは難しいよ」


「はい・・・」


「ほならティセ、あの野郎どうすんねん?」


「当然責任は取ってもらうよ シナリオはこうするよ… ごにょごにょ」


 

 その日の夜・・・ ハルヨシ村 兵舎


「ノア様、先ほどですがエドワードの仲間を捕まえたと、

 領民3名が連行して参りました」


「エドワードの仲間!?… それで?」


「3名によりますと、その者の名はトロイ 本人からも確認を取りました

 王都にて奴隷となる者を選別し、その後難癖をつけ連行すると言う手法です

 その領民3名は共に被害者でして、実際に奴隷として販売されたようです」


「なんだと! 奴隷とは咎人ではなかったと言うのか!」


「はい、そのようでございます…

 トロイは王都の衛兵を騙り、罪をでっちあげて領民を連行し、

 エドワードに引き渡して金銭を得ていたとの事です・・・」


「なんたる事… 罪無き者を奴隷として売るとは… 鬼畜の所業!!!」


「それに関連して約3か月前ですが… 女性が自宅で亡くなっていた事件です…」


「あぁ、覚えている 唇やら顔が酷く腫れて死んでいた事件だな」


「その女性は、トロイを連行してきた者と交際していたようです・・・」


 幹部兵士は、女性の死因についてノアに滔々と説明した

 

「それでは、女性の容体が悪くなったのは"クルミ"のせいだと?」


「はい、そのように聞きました」


「俄かには信じ難い話だが… そんな事はあり得るのか…

 では… スティーブ先生を連れて来るようにギャビンに伝え

 ウィルは… ハルヨシ村にいる役付き(幹部)含め全兵士を対象に、

 食べ物についてアンケートをとらせろ 兵は何人使っても良い

 内容はこうだ… 食べると身体に不調を来す食べ物はあるのか?

 ある場合、どのような症状が出るのか より詳しく書かせてくれ

 設問はこの2つだ 明日の晩飯前に終わらせるように

 お前はトロイの尋問を続けてくれ 3名は帰して良い、以上だ」


「はっ! 直ちに」


 30数分後・・・ 医者のスティーブが兵舎に到着した


「ようノア こんな遅くにどうした? 具合でも悪いのか?」


「いや、そうではない 少し見解を聞きたくてな」


「何のだ?」


「お主、飯は喰ったのか?」


「いや… 全然喰ってないな」


「では、飯を喰いながら話そう」


 ノアとスティーブは、兵舎食堂へ向かった


「それで何の見解だ?」


 ノアは食べ物による体調不良について聞いた


「・・・そんな訳で、特定の食べ物で身体に不調を来す事があるのか…

 お前の見解を聞きたい 私自身が、そのような食べ物は無いんでな」


「腐った物を食べての食中毒ではないのだな…

 それならば可能性は十分にあるぞ 斯く言う私も、卵がダメだ・・・」


「そんな話は初めて聞いたぞ!? 卵を食べるとどうなる?」


「全身が痒くなってな、冷や汗が止まらなくなる

 勘違いしないで欲しいのだが、卵は好きなんだ 美味いからな

 だが、食べると必ず症状が出る だから食べたいのをグッと我慢してんだ」


「今までで、似たような症例は何件ある?」


「そんなの、掃いて捨てるほどある とは言え、治療法なんぞ分からんからな…

 私のように原因がハッキリと分かるならば、その食べ物を食べなければ良い

 だがな… 原因を特定するのは、正直骨が折れる

 1日に3食だろ すぐに症状が出るとは限らない

 いつの食事のどの食材が原因かなんて、中々… 難しいだろ?」


「約3か月前の女性死亡の件だが、その女性のように死んでしまうなんて事が?」


「大いにありえる 症状なんて、人それぞれだ

 あくまでも私の症状は、そんなもので済んでるからな・・・

 不自由ではあるが、ある意味では〇なずに済んでラッキーなのかも知れないな」


「・・・・・・」


「まだ納得できないみたいだな… 信じ難い事を受け入れるのは、難しい事だ

 自分がその状況になって、初めて実感するんだろうな 不自由だってな

 兵士にアンケートを取るんだろ? 明日分かる 食べ物についての現状がな」


「そうか… 分かったところで、その食材を遠ざけるしかないのか・・・

 なんともやるせないな…」


「まぁな… そんなのが医者だってか… 笑っちゃうな 何もしてやれん・・・」


「・・・ とにかく助かった 飯を食おう」


 

 次回 第8話『繁盛する店の悩み』

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