第 5話 ジュリア計画
「儂の名前はラングと申す よろしくお願い致す」
「私の名前はレンです 役に立ってみせますよ」
「私はティセ そんでサンダース
さっきまで一緒にいたのがサンダースのお兄さんでハーランド
もう1人が元奴隷だったモスさん こいつが変態君とコルトン」
「しかしティセ、よくもあんな瞬間で、あれだけの作戦思いついたなぁ」
「全くだ! 頭の中を覗いてみたいもんだ! あっはっはっは!」
「1回目モスさんを買った時、"主の変更"をしたじゃない
コルトンがスキルを使ってさ あれを見て、あぁできるんじゃんって」
「それでできる思たんか…!?」
「いい、よく考えてね コルトンが腕輪にスキルを付与したよね
その時コルトンは、1人で… 自分だけで作業って言うのかしら、やってたの
例えばその時コルトンが、私の手を掴みながらとかね
スキル付与の作業に、私も加わっていたと仮定するなら…
その付与された腕輪は、私しか使用できない専用の"隷属の腕輪"なはず
ところが、私が関わる事無く何もせずに出来上がったの
スキルが付与された腕輪なら、誰でも使えるんじゃないかって考えたの
腕輪をはめた人が"主" はめられた人が"奴隷"ってワケ
だからよ 取り外した隷属の腕輪をエドワードにはめれば良いだけ
しかも変更する時に、"外してからはめた"でしょ? 一瞬でも隙が生まれるの
私なら、隷属させたまま2個目をはめるわ はめてからもう1つを外す
それが考えられなかった変態君の詰めが甘い所」
「ティセ様は天才ですね~ もしかして賢者様ですか?」
「まぁね… ナイショだぞ! ゲラゲラ!」
「そんで次や… ジュリアでの作戦は、さっきのと同じやな?」
「そうだね… そっちはそれで良いと思うんだけどね…」
「なんや? まだなにかあるんかいな?」
「モスさん、ラングさん、レンさん 3人の話を聞いて共通するのが、
ジュリアの酒場 "よいどれ亭" なのよね
話を聞いてない元奴隷の人たちも多分、 "よいどれ亭" が関係してるはず
その考えで恐らく間違いないかな…って」
「その "よいどれ亭" の主なり関係者が関わってるって事やな…」
「正面突破で行くか… 変化球で行くか… どうしよう???」
「そやなぁ… どのくらいの規模か分からへんしな…」
「ティセ殿、何を迷われておるのだ そんな輩どもは一刀両断で…」
「そうですよティセ様 ギッタギタにしちゃいましょう」
「ところで2人とも、ハルヨシ村のお家見に行かなくて良かったの?」
「あっはっは! もう数か月も家を空けておるのですぞ 賃料も払っておらぬ
家財道具やら全部、とおに取られておるでしょう
大した貯えもありませぬ故 お気に召されるな」
「お金払いに関して賃貸業者は、一切妥協しませんからね…
滞納なんてしようものなら、すぐに追い出されてしまいます
私もラング同様その日暮らし… 全部取られても、困りはしませんよ」
「そう、世間はシビアなのね… 2人はポジティブだから心配ないね
職業… クラス?ジョブ? なにかの職に就いてるのかしら?」
「儂は戦士ですぞ しかし… 鍛錬もせず、そのままの状態で… LVは18
ですが本来は職人 戦士に拘ってはおりませぬ」
「私は弓使いです… 最初はシスターになりたかった… けど、
厳しい戒律で断念しました… 私には無理でした テヘペロ
なのでシスターLV2 スカウトLV15です」
ティセは、カゴに入れられた"腕輪"を眺めて考える
他にも使い道があるんじゃないかと、スキル付与済の物を全て持って来た
(奴隷にはめていた腕輪も、再利用可能なのは先ほど検証済)
ガタン!ガタン!
「コラー エドワード! 静かに速く行かんかい、しばくぞコラ プンスカ!」
「ひぃ~… サンダース様、申し訳ございません・・・」
エドワードの声を聞いたティセは閃いた
「そっか… そうだ! そうだよねぇ! ゲラゲラ!」
「ティセ、どうしたんや?」
「考えてみたら、すんごく簡単な事だった」
「簡単? 簡単ちゃうやろ 関わってる奴ら全員、探して調べなアカンのに…
気の遠くなる作業やでホンマに・・・」
「そうやってたら時間は掛かるわよ」
「ほなどないするん?」
「こっちには、張本人がいるじゃない 変態君, a.k.a.エドワード withコルトンが」
「!? そうやった… ははは! エドワードに聞けば良いだけやんな」
「そう、名付けて"ジュリア計画"はこうよ・・・・・・」
「それでええんやな・・・」
「さすがは賢者様・・・」
「ちょっと~完璧じゃない それって!」
「サンダースは、エドワードとコルトンにも後で説明… 指示してね
アイツら私の言う事聞かないから・・・」
「任せとき 言う事聞かへんかったら、しばいたるで」
午後4時過ぎに出発した一行は、午後9時半過ぎ ジュリアに到着した
「危なかったな… 22時過ぎたら、入れんかったで…」
「22時までだったんだ 間に合って良かったね
それじゃあ… 馬車はどうする?」
「預けるとこあるはずやから、預けてから宿やな ちーと待っててや」
サンダースは、馬と馬車の保管場所を聞きに行った
「預けてきたで ついでに宿屋も教えてもろたで 行こか」
ジュリア(王都) 宿屋兼酒場 ビリーの酒場
「ちわー 部屋ある?」
「何名様だい?」
「6人なんやけど」
「大部屋しかないよ どうする?」
「ティセ、大部屋1つしかあらへって どうする?」
「別に良いよ 今晩だけだし」
「そうか、なら…
そんじゃあその大部屋でええよ 食事は上で喰うわ 持って来てくれや」
「はいよ どうぞ2階へ」
そして… 食事を運んできた店主らしき男性が、急に怒り出した
「!? あんたらに出す食事は無いし宿泊もさせない 金も要らねぇ帰れ!」
ティセたち6人は、追い出されてしまった・・・
「ちょっと、何なのよ! 普通のお客さんでしょ どこがダメなのよ?」
「普通の客だと? ふざけるんじゃねぇ! そのゴミ虫が普通の客だってぇ
そんな訳ねぇだろが! 二度と来るな バタン!」
店主はドアを閉めてしまった・・・
「ジュリアで相当嫌われてるのね 変態君・・・」
「こりゃあアカンな… 何とかせんと…」
ティセたちは行った先々で、追い出されてしまう・・・
「今日泊まれなくなっちゃうし、お腹もすいた…
仕方ないから、装備でも買うか…
ドルフさん、戦士の兜(フルフェイス)売ってる所知らない?」
「それならば、あちらにありますぞ 案内しましょう」
ティセたちは武器防具の店 アンディ商店に入った
当然エドワードとコルトンは、外で待機した(見張りはレン)
「今晩は 戦士の兜はどこですか?」
「戦士用の兜でございましたら、こちらにどうぞ」
「まぁまぁ揃ってるね… これで良いか これとこれ下さい」
「ありがとうございます! 5800ヨーになります
はい確かに またのお越しをお待ちしております」
買い物を終えたティセは、エドワードとコルトンに被せようとしたら…
「あんた達、人前では被ってなさいよ 分かった!」
「マダムの言う事には従いません!」「ヤダよ」
「キー! こいつら・・・ サンダース!」
「お前ら、被ってろ ええな! ティセの言う事も聞かなアカンで」
「はぁ…」「はい…」
「ムググ! その返事で、納得してないのが丸分かり… 次の宿屋に行くよ!」
そしてやっと泊まる事ができたティセたちだった・・・ 翌朝
「・・・・・・こうやってね 段取りはこんな感じ みんな分かった?
それじゃあ先に、エドワルドの方ね 行くよ!」
ギガバザール内 奴隷市場
「バザールと同じ感じね… ん!? エドワードと似た顔が…」
「あれ!? 兄さん? まだ月末前だけど、どうしたのですか?」
「ハルヨシ村の商品全て完売したのです 少し早いですが補充にきたのですよ」
「さすが兄さんですね」
「エドワルド、お前の方はどうなのです? 売れましたか?」
「それがさっぱりで・・・ 2つです・・・」
「在庫はどれほどあるのですか?」
「現在の在庫は5個です」
「5個ですか・・・ 分かりました」
「兄さん、こちらの方は?」
「このマダムが、全て買ってくれました 言わばVIP 粗相の無いように」
「初めまして… エドワルドと申します よろしくどうぞ」
「あなた、エドワルドと言うの? よろしく どんな商品があるのかしら?」
「現在は、人間が4個と… 獣人が1つでございます
どれも兄さんが自信をもって選んだ商品ですので、おすすめですよ」
「エドワルド、皆さんを中へご案内して差し上げなさい」
「はい、それではこちらへどうぞ」
エドワルドの案内で、アジトに入った
「あれ、兄さん!? このドワーフとダークエルフ この前まで・・・」
「そうです マダムが購入して下さいました」
「そうですか それはありがたいですね」
「それでエドワルド、ここにあるお金を全て出して下さい」
「全てですか? しかし支払いもありますので…」
「それは私の方から出しますから 心配は無用ですよ」
「そうですか・・・ それではお待ちください 今お持ちします」
エドワルドは、金を取りに行った
「エドワード、檻の鍵はどこや?」
「エドワルドが持っております」
「そうか… 戻ったら、鍵を貰うんや」
「はい、承知しました」
30数分後・・・ エドワルドが戻ってきた
「はい、こちらが全ての金です」
「エドワルド、マダムに商品をお見せするので檻の鍵を」
「はい、どうぞ」
鍵を受け取ったエドワードとレンは、奴隷を檻から出しに行った
「しかしマダム 全てお買上とは凄いですね!
爵位家のご令嬢様ですか?」
「まぁそんな感じかしら あら貴方のこの腕… すべすべじゃない…
す~べす~べ す~べすべ~」
「あぁ… そんな マダム… はれんちが… 過ぎますよ…」
「ゲラゲラ! 私からのプレゼントじゃ はめときなさい!」
ティセはエドワルドの腕に、隷属の腕輪をはめた
「ティセ様、奴隷たちを連れて来ました」
「エドワルド、奴隷から腕輪を外しなさい」
「はい、マダム」
隷属の腕輪から解放された者たちは、涙を流して喜んだ
前回同様少々のお金を渡し、家に帰らせた・・・
「エドワルド、全部で幾らあるの?」
「全部で120万ちょっとございます」
「結構稼いでんのね 全部頂きたいのは山々なんだけど、
私の取り分は半分で良いや 」
「ティセなんでや? 全部もろたらええやないか?」
「残りは、今後の為に使うから」
「今後の為…?」
「次は酔いどれ亭だよ 行くよ」
ティセたちは酔いどれ亭でも同様の作戦で、
悪事に加担していた者を隷属させた
酔いどれ亭 店内
「そんじゃあ、今日から酒場は営業中止 店じまいね
2階の宿屋は営業しても良いかな」
「その後はどないするんや?」
「まだ捕まえてない奴がいる 衛兵を騙る奴
ジュリアにいる貴族 こいつの名前は分かってる
今の段階では、そこまでやれないから…」
「そやな… 時間が幾らあっても足りひんな…」
「そこで、ここを仕切る人が欲しいんだよなぁ~」
「そいつらを捕まえるんやな?」
「それもあるけど、根本的な問題の解決と現状を回復させないとね」
「難しい言葉やなぁ…」
「みんな聞いて こいつらのせいで、人生が狂った人が大勢いるの
それを少しずつ、直していかないといけないじゃない
それなら何をするのか?
奴隷にされている人を探し出して解放する事
教会やら恵まれない子供や人たちを助ける存在である事
この2つをやりながら、悪者を捕まえるってなワケよ」
「ティセ殿! その仕切り 儂にやらせてもらえんだろうか?
熱い想いに、感服せざるを得ない! 誠の仁愛
このラング、ティセ様に忠誠を誓う 是非とも御配下に…」
「ちょっと待って! 私も同じです
助けられた御恩もあるけど、ティセ様は愛の人です・・・
私も配下に加えて下さい お願いしますティセ様」
「良いよ じゃあ私の手下ね」
「軽いな・・・」「そうね・・・」
「近くエドワードに廃業宣言させて それで、慈善活動家に転身
実質的な仕切りはラングさん サポートがレン氏
その他は実行部隊やら雑用ね 黒幕は私
サンダース、さっきの半分のお金は、ここでの活動資金にするから
ラングさん、そのお金でさっき言った事やってね」
「そんなとこまで考えてたんか… 脱帽や」
「ありがたく存じます 大事に使わせて頂きます」
「ラングさん、その貴族とやらにお金が支払われないって事は、
近い内に自分で取りに来るから その時にさ・・・・・・」
「なるほど・・・ さすが神の如き采配!」
「それじゃあ村に帰ろうか みんなありがとう 上手くやってね」
「ティセ様、お気をつけて ここは儂に任せて下され」
「ティセ様、私もラングをサポートします また来てくださいね」
「うん、分かった 何かあったら、タカミ村のハーランド宛にね
帰る前にサンダース、こいつらの主をラングさんに変更だよ」
「そうやったな… 忘れたらアカンな…」
サンダースは隷属させてた者たちの主をラングに変更し、
ティセもまた、隷属中のエドワルドの主をラングに変更した
そして村へと帰る道中
「サンダースは、何かやりたい事は無いの?」
「僕か? やっぱり村での生活がええなぁとも思うんやけど、
ハルヨシ村でなにかしら商売もしたいな」
「そんじゃあ、前に私が言った商売やってみる?」
「あのレモネン売るやつか? しかしそない売れるんかいな?」
「それもあるけど、他にも候補はあるの 絶対売れるから、やってみ」
「そうか? そない言うんやったら、兄貴にも相談してみるわ」
「そうね、聞いといて
それでもう1つ… バザールで、スパイスとハーブを買わせて」
「ええで」
その日の夕刻 タカミ村に到着した
「馬車はハルヨシ村で返さなくて良かったの?」
「そうや ノア様のを借りたからな ここに置いとけばええんや」
「そうなんだ じゃあ、今日は帰るね 色々とありがとう またね」
「おいおい、この金どうするんや 兄貴が持って来たのもあるんやで…
合わせて100万近く持っとくの怖いやないか・・・」
「それなら… どうしよ? まぁ… 今日は疲れたから、持っててよ、ね!」
「分かった… ほなまたな!」
ティセとサンダースは別れた・・・
ティセの本拠地 秘密の部屋
「ひゃ~ 疲れた・・・ 飯喰って風呂入って屁~こいて寝るかな・・・」
「明日はピコタローでも見に行くか」
「改めてハーランドとサンダースに、お礼しとかないとな・・・」
「飯の前に、確認作業を・・・ まずゴミ箱… ふむ キッチン… ふむ
ダイニング… ふむ 冷蔵庫… ふむ 各種ストック… ふむ 良し」
前に気付いた違和感 それを確認したティセ
「ゴミ箱に"捨てたゴミ"が無かった 持って行って無いはずのコショウがある
散らかったダイニングテーブルはそのまま 食べて減ったはずの食材がある
持ち出したので、ここには無いはずの霧吹きと果物ナイフがある
段ボール箱内に1個でもストックがあるものはそのまま
しかし、段ボール箱を空にしておいた物は補充されている
しかも、空の段ボール箱は無い
だけど、風呂の排水溝 キッチンのゴミ受けは綺麗になっている
扉に挟んだトラップ用メモ用紙もそのまま 開けた様子は無い
つー事は、ここに誰かが来なくても、物の補充はされるって事
ゴミが溜まる場所は綺麗になるけど、それ以外にあるゴミはそのままって事か」
各種確認作業を終えたティセは、自分の部屋へと戻って行った…
その日の夜 午後11時過ぎ ハルヨシ村 兵舎
「ノア様 レイリアンからの報告です」
「ジュリアの… 何だ?」
「消えたエドワードが現れたようですが、またどこかに潜ったようです」
「・・・ 奴隷を、こちらに連れて来るのではないのか?」
「そうかも知れませんが、ジュリアにあるアジトも空のようで・・・
加担してる可能性の高い"よいどれ亭"も営業していないようです」
「何かしら企んでいるのかもしれんな・・・
動きがあれば、逐一報告するようにしてくれ」
「はっ!」
数日後… タカミ村 太陽園
「おはよう~ ピコはいますか~」
中から泣き声が聞こえる
「わわ~ん ごごごご、めんなっささい ひっくひっく… シクシク」
「あらティセさん、おはよう ピコは… 今 "ごめんなさい中"なの」
「ごめんなさい中??? 何ですのそれ?」
「ティセさんから頂いた"レモネンシロップ"をね 隠れて舐めてたのよ…
しかも毎日・・・ だからお説教してたの」
「食い意地の張ったヤツだな・・・」
「ティセ~… ごごごごめんんね… また… 作って…ううぅ… ぐすん…」
「みんなと仲良く分けるんだったら、作っても良いよ」
ピコが独り占めするんじゃ作らない どうする?
「仲良くわわけるうううぅ…」
「ティセさん、お願いできるかしら・・・」
「明日作って持って来ますよ 今日は長老の仕事の件で…」
「長老さんのお手伝いしているの? 偉いわね」
「まぁ乗り掛かった舟ですからね」
「???」
「ここの資金とかはどうなってるの?」
「全部ノア様が賄ってくれてるのよ ありがたいわ
あの方は人格者だわ 領民は安心して暮らせるもの
いっその事、王様にでもなったら良いのに しー!内緒よ」
「みんな慕ってるんだね・・・ じゃあまた明日来るね」
ティセは太陽園を出て、長老の家に行った
「ちょり~す 長老さん おげんこ?」
「おぉ~ ティセ! 君には迷惑掛けたなぁ~ ありがとうじゃ足りんがな」
「えーよえーよ 気にしないで こちとらたんまり儲けたんでね
それはそうと… これをみてみそ」
「なにこれ~ ちいちゃくてかわいい~ まるでちっちゃいトメィトじゃな」
「ヤバいくらいネイティブな発音ね… だけど正解! 食べてみそ」
「あ~ん モグモグ うまし! なんじゃこの美味さ…
トメィトの美味さ超えとるがな!?」
「でしょ バザールでさ、トマト食べたの 激マズだったよ・・・
商店のおばさんがさ"美味いでしょ"って… 信じられなかったよ
一応"そうですね"って言っといたけどさ・・・ 超ゲロマズよマジで」
「意外と大人じゃな… 子供なら素直に不味い言うとったじゃろうな…」
「こんなのはお金を出せば買えるんだから 秘密の場所でね」
「ホンマか!? そりゃあ凄い!」
「お金が稼げたら結局畑は要らなくなるし、植えても収穫は期待しなさんな」
「核心をズバズバと… そうじゃな…
昨日衛兵殿が、オランジの皮を持って来たぞ 今朝から外に干しとるからな
ティセが持って来たレモネンの皮もカッピカピじゃ」
「ありがとね長老さん レモネンの皮は持って行くよ
そんでもう一つお願いがあるんだけど・・・」
「なんじゃろ?」
「この村のあっちにある小屋 なんか… 石を祀ってるでしょあそこ」
「あぁ… あれな」
「あの小屋、私にくれない?」
「あの小屋を? 別にええけどな・・・」
「何かあるの?」
「あんなボロっちい小屋より、もっとマシなのあるんじゃぞ」
「あれがいいの そんで、お水とかお供えは私がやるからさ
今は誰かがやってるんでしょ?」
「私がやってるが、任せてええのか?」
「うん、私がやるよ そんでさ、あの石何なの?」
「私も知らんのじゃ なんかずーっとあるんでな ただやってるだけじゃ」
「なにそれ… なんか曰くとか言い伝えとか、あるんじゃないの?」
「別になんも無いな 聞いた事も無い」
「あらそう… じゃあ、あそこは今日から私の物ね
でも、これは内緒の話 私の家ってのはみんなに秘密だからね」
「ええぞ 好きに使ってくれ
ティセがそうしてくれちゅ~なら黙っとこう」
「じゃあ、レモネンの皮持って行くね オランジの皮よろピコです」
ティセは長老の家を出て、しばらく村の中を見回った
「水が無くなってる…」「ここも無い」「片付いてる・・・」
「水が溜まってるところが、1つも無い… 馬用の水も綺麗 完璧じゃん!」
「仕事が早いねぇ 移植はまだだけど、この感じだとすぐやってくれそう」
「そうだ、ブロスの家に行こか」
ティセは適当な家を選び、場所を聞いた
「それなら、あっちでこっちだよ」
「ありがとう」
「あっちでこっちね… これかね? こんちは~ すんまそん」
「はい? おっティセ ここがよく分かったな」
「さっき一般市民に聞いたから 兄者もいるの?」
「おぉいるで、兄貴~ 兄貴~ ティセが来たで」
「(その"兄貴~兄貴~"の響き、あのドラマを思い出す・・・ ブホッ)」
「ティセやん よう来たな まぁ上がりぃ」
「おじゃましま~す」
「そんでどないしたん?」
「まだ時間も経ってないけどさ、商売やんないのかって話よ
そのへんの話、ちょっと聞かせてもらおうじゃないの!」
「あぁ、この前の話か… まだ兄貴にしてへんで」
「どないな話なん?」
「ティセがな、ハルヨシ村で商売やらへんかっちゅう話や」
「商売!? 俺らがか? 何のや?」
「レモネンやねん」
「レモネンやと!? 売れんやろ そんなもん」
「レモネンやねん♪ そうやねん♪ 売れんのやろ♪ そんなもん♪
レモネンの価値は二束三文♪ お前らの目はまがいもん♪
取り込んでくるぜ洗濯もん♪ ダンスと料理はひとりでできるも~ん♪
突然新しいリリックが生まれてしまった… 恐ろしい才能かも・・・
まぁ、それは置いといて… またその
「楽しそうやな…」「何よりや…」
「そんだらモスさんは?」
「村を見て回ってるで」
「ふ~ん 明日森に行くから、モスさんと一緒に来てよ 迎えに来るから」
「ティセがここに来るんやな 分かった」
ティセは、預けていたクローブを持って帰った
ティセの本拠地 秘密の部屋
「パキパキのリモネンの皮を粉にして… と」
「お次はクローブを… レモネンに挿していく…
通常よりケチ仕様に(個数少なめ)しておこう 出来上がりはキモいわね…
そしてクローブ単体で・・・」
「太陽園のシロップとブロス用の… 次が新作の…」
ドライレモン レモンピール それにレシピを書いてと・・・ 」
「か~っ! 仕事したな~ くったくただよ・・・」
「ちょいと休んで、行くか」
昼寝して数時間後・・・
「はぁ~ 良く寝た そんじゃら行きますか」
ティセは兵舎に向かった
「こんちは~」
「君は… この前来た子だね? 今日は何だい?」
「あれ? 誰だっけ? 忘れちゃった・・・ 衛兵さんのお名前は?」
「僕はフェルナンド こいつはロベルト」
「フェルナンドとロベルト・・・
あれ? アレハンドロ? そう!確かあれはアレハンドロ!
アレアレハンドロさんいます?」
「? アレハンドロね 勤務終わりで交代して、休みなんだ」
「そう… んじゃあ夜警の時に、この魔法の粉を篝火に時折ぶち込んでやって
一回の量は一つまみくらい ちょいちょい入れたら良いよ この皮もね
アレハンドロさんの分は、また持って来るから
これは、今日夜警する人が使って良いよ 虫よけになるからさ
あとはね、家の中所々に置いたり家の周りに撒くのもおすすめだよ
はい、どうぞ」
「これが虫よけになる"魔法の粉"!? 凄いね!
今日は僕とロベルトが夜警だから、使わせてもらうよ」
「うん、そうして
それと、フェルナンドさんにお願いしてた 水の処理の件なんだけど、
もうやってくれたんだね 早くてビックリ!」
「領民の陳情は、速やかに取り上げて改善する これはノア様の方針なんだよ
それをしてから、確かに虫(蚊)は減ったと感じるよ
あとあれだろ? レモネンの植え替え それも近い内にやるからね」
「ありがたや~ そんじゃあ」
ティセは兵舎をあとにした
「あっ!ご主人様! こんにちは」
「あら、モスさん こんちは
モスさんはもう奴隷じゃないんだから… ご主人様は止めて!
帰りたかったら、帰っても良いんだからね」
「でも、ラングさんとレンさんが、ご主人様にお仕えしたって聞いたんで…
私もお仕えしようと思いまして・・・」
「・・・ なら百万歩譲って、"ティセ"にしてよ」
「分かりました ティセ様と呼ばせて貰います」
「様も要らんがな… でもありがと」
「それで… ○〇の件なんですが・・・」
「それは明日ね・・・」
「分かりました」
その日の夜 ハルヨシ村 兵舎
「ノア様、レイリアンからの報告です」
「ヤツが見つかったか?」
「はい、見つかったと言いますか… 教会に現れたようで…
弟のエドワルド、幹部のコルトンも一緒との事です」
「教会・・・ それで?」
「教会に聴衆を集めた上で、演説を始めたそうです
その内容ですが… 奴隷の商いを廃業し、今後一切やらないと
過去の過ちを詫び、売却した奴隷を買い戻し解放するとの事
奴隷の購入者に対し、返品返金に応じるようにと訴えたそうです
最後に、恵まれない子供や喰うに困ってる者に使って欲しいと、
教会に20万ほど寄付をしたそうです」
「寄付だと・・・!?」
「はい・・・ そして、関与の疑いのある"よいどれ亭"ですが、
"賢者のお宿" と店名を変えたそうです
酒場の営業は無く、宿屋のみの営業のようです
借主は新規の者で、 "よいどれ亭" の関係者ではないようです」
「関係者ではない… 身元は分かってるのか?」
「冒険者でダークエルフの女性 名はレン ギルドにも登録しています
なんでも、パーティメンバーと共同経営のようです」
「冒険者… それならエドワードとの関わりは、限りなく薄いな…
新規でわざわざ借りる必要も無いからな…」
「"賢者のお宿"の方はどうしますか?」
「・・・・・・ 引き上げて良い」
「はっ! もう1つございます・・・」
「何だ?」
「ダスティ卿の行方が、不明のようです・・・」
「何だと!」
「まだ"大騒ぎ"とまではいってないようですが、
幹部の者たちがクレイソン(ダスティの本領)と王都を中心に、
内々に探し回ってるようでございます」
「エドワードの件と関係があるのか… 関連は大いにありそうだ
そう考えるのが妥当だろうな…
しかしこれは "願ったり叶ったり" だ!
奴隷の売買を認める王も王だが、ダスティこそが諸悪の元凶
王様を唆し、こちらの領内を踏みにじりおって…※
だがエドワードは、我が領内から出て行き廃業を宣言した…
ケニーを向かわせ、チャンスがあれば2人共殺したいが…
間違い無く私が疑われるだろうな はははは!」
※王様と言えども、貴族の所領内では当然勝手な事はできない
やるやらないの判断は、通常領主に委ねられる
「疑惑の目を向けられるかも知れません」
「レイリアンはエドワードから外れ、ダスティの調査に回してくれ」
「エドワードは、もうよろしいのですか?」
「色々と腑に落ちないが、大丈夫だろう 奴が残した檻も全て片付けて、
新たな商店主でも募集すれば良い スペースが無ければ商売はできん」
「はっ! 直ちに取り掛かります」
次回 第6話『森の掃除屋』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます