第 4話 奴隷商:エドワード
「私を…」「どうか主に尽くします…」「儂が…」「私を買ってくれ…」
「頼む… お嬢様…」「お願いだ!僕を…」「俺は役に立つ… だから…」
頭の中で、ちせに縋ろうと懇願する男女の声が、幾度も幾度も木霊する
「・・・! ティセ! ・・・ おい、ティセ! しっかりせい!」
「・・・!?」
「大丈夫か… 向こうに行こか…」
「いや… 大丈夫・・・ 私は大丈夫だから・・・」
「ホンマか…?」
「うん… ここの領主様って、奴隷の販売もするワケ?」
「いや・・・ それがな、、、」
その時、1人の男が声を掛けてきた
「いらっしゃいませ 麗しきマダム 私はエドワード お見知りおきを
奴隷の売買は、国からも認められたれっきとした商売でございます
さすれば、一領主如きが何と吠えようとも、私の耳には届きませんので
この者たちは犯罪者でございます
どのようにお使いになられても… 問題は無いかと」
「そうなの… ふ~ん…」
「それで今回は、どのような"商品"を御所望でございますか?」
「全部で何人いるの?」
「何人…? 7品ございます」
「幾らからあるのかしら…」
「そうですねぇ~・・・ こちらなら4000… 3500で結構ですよ
人間 男 48歳 使い道があるのかは、私には分かりませんがね」
「エドワードさんのおすすめは?」
「おすすめでございますか 色々とございますが…
それでしたら、こちらはどうでしょう ドワーフ 男 31歳
まだ若く、雑用から肉体労働 夜伽までこなせるでしょう
そしてこちらのダークエルフ 女 68歳
顔もまずまず エルフの寿命からして、まだまだ子供のようなものです
娼館で働かせたら、すぐに元が取れるのではないでしょうか」
「そうね… 中々の品揃えじゃない… かと言って、衝動買いしてもねぇ
ねぇ、サンダース…」
「さ…、左様でございますね…」
「聞きたい事が幾つかあるの、良いかしら?」
「どのような事でございますか?」
「この"商品"たちは、いつ入れ替わるのかしら…」
「月末に全て入れ替えます」
「その後はどうなるのかしら?」
「売れた分を補充して、別の国に移動させます」
「ジュリアの方が儲かりそうだけど、何故この街で?」
「勿論、ジュリアでも販売しております こちらの街では再開と云う形になります」
「先ほどのおすすめ商品はお幾ら?」
「ドワーフは4万 エルフは10万でございます」
「例えばセットで買うとか… まとめて買う場合、勉強して貰えるのかしら?」
「それはもう… 全てでしたら、3割は勉強させて頂きます」
「それならお買い得ね… 本当に」
「ご決断されましたら、お早めにお買い上げ下さいませ」
「じっくり検討したいの 何度か見に来ても良いかしら?」
「それは最もでございます いつでもおいで下さいませ
納得された上で、お買い上げ頂ければ幸いでございます」
「そうさせて頂くわ おほほほ! それでは失礼」
「宜しくお願い致します」
ちせたちは、その場を離れた
「何よ、あの変態ヤローは! プンスカ!!」
「まぁまぁ… ここではなんやから、宿に戻ろう 飯を喰いながら話すわ」
ルイーゼの酒場1階
「ここの領主は、奴隷を認めてるなんてどうかしてんじゃないの! プンスカ!」
「そもそもノア様は奴隷商には反対でな、領内では奴隷の売買は禁止やったんや
それがな、貴族連中に押されたんだかで奴隷販売が始まったんや
理由は分からへんけど、何でか王様が認める形になったらしいんや
それで王様やら貴族に、何度も何度も掛け合ったんだと
その姿勢に領民も喜んだんやで "明日は我が身"やからな
やけどその貴族たちが邪魔しとるらしいで・・・」
「禁止だったのに、貴族連中にそそのかれた王様の命令で!?」
「その辺は、僕も詳しくは分からへん… お偉いさんの事情があるんやろ?
普通貴族の領内の事は、王様でも口は出せんみたいなんやけどな…
それにしても、ティセは大したもんやなぁ
あんな風に堂々と振舞えんで、普通は・・・」
「そうね… 話としては(アニメや小説)定番のようにありふれた話だからね
でもそうだとしても、実際に人が檻に入れられて売られるなんて
人間が、人間や亜人たちにあんな事できるなんて、本当に恐ろしいわ・・・」
「せやな… 鬼畜の所業やで 人間からどこかで、魔物になってしまったんやろ」
「・・・」
「でもなティセ、彼らの前であんな事言ったらアカンで
"買って貰えるんじゃないか"って期待させてしまうやないか…
それはそれで可哀そうやで」
「・・・あら? 買うわよ 何言ってんのよ」
「はぁ~!? 買うって!? ホンマか! ホンマに買うんか?」
「買うわよ… さっきも言ったけど、"定番のようにありふれた話"
擦られ過ぎちゃって、"また奴隷の件"すかってほどなのよね
その場合、買わない手は無いってワケ 分かる?
買って失敗するストーリーなんて、この世に存在しないのよ」
「ちょ、待ちーな… 意味が全然分からへんのやけど・・・」
「いい… あの変態ヤローは、"おすすめはあの2人"だって言った
つー事はよ、私たちにとってあの2人は、話を進める上で今後重要な存在
そうかも知れないし、違うかもしれない…」
「はぁ・・・? 話を進めるってなんやねん?」
「あの2人が居る居ないで、未来が変わるって事よ… ここ、とても大事なの
私には未来が観える(嘘) 2人は重要なキーパーソンってなワケ」
「僕の頭では理解できひん… そない言うたかてどないするん 2人で14万や
仮にやで、ティセの見立て通りコショーが8万で売れたとて、
2割5分手数料で取られる 全然足りひんやん…
村の買い物もせなアカンし、手持ちもほぼゼロや
兄貴が来ても、ギリギリ飯は食えるだけや どうすんねん?」
「ハーランドには申し訳無いけど、もしも今夜来たら我慢して馬車で寝てもらってよ
明日のお昼過ぎ… 競売の結果次第で、方法は変えなければいけないけど…
月末までまだまだ期間はある 急ぎは村の買い物になるけども・・・」
「まだまだ期間はあるって、何言っとるんや…
あと3日しかあらへんやろ 3日と数時間やで どないするん?」
「えっ・・・!? 今日は何日よ?」
「今日は27日やで 6月27日」
「チッ… (現実世界と時間だけでなく、日にちまで違うとは思わなかった・・・)
それは正直想定外だったよ… でも信じて、何とかするからさ」
「・・・分かった もう言わへんよ」
「さぁ食べましょ」
「そやな・・・ 明日に備えよう」
そして食事を終えた・・・
「ハーランドが来たら、今日の事詳しく説明してあげてね
私は部屋で、幾つか作戦を練るからさ」
「あぁ、頼むで!」
2人はそれぞれの部屋に戻った
翌日 午前11時過ぎ 宿屋
「コンコン、ティセ! 起きてるか?」
「は~い 起きてるよ」
「入るで ガチャ おはよう 目覚めはどうや?」
「う~ん… まぁまぁかな… ハーランドもおはよう」
「おはようティセ 昨日は大変だったようやな」
「そうね… とてもヘヴィな一日だったわ
長老に伝えてくれた? なんて言ってた?」
「そんな事になってしまって申し訳ないと謝ってたで」
「別に構わないのに」
「そろそろバザールに行こか」
「うん、行こう」
3人はバザールに向かった
バザール内 取引所
「おじさん、おはよう!」
「お嬢さん、おはようさん! もうすぐ始まるぜ~」
「お客さんは集まってるの?」
「上々だよ! さすがのコショーだね 1時間前で150人を超えるくらいだとよ
200~300人以上いくんじゃねぇ~かな♪ 冷やかしも多いけどな」
「良かった! 悪いんだけどさ… 1万だけ先払いしてくれない?」
「先払い・・・ そりゃあ無理だって・・・」
「良いじゃんか! ご飯食べたいんだから
次に掘り出し物があったら、優先しても良いんだけどなぁ~・・・
ダメならダメで良いよ その時は3割払ってもジュリアに持って行くだけだから」
「・・・・・・分かったよ 売り上げから2割5分と1万を引いて貰うからな!
その代わり、ちゃんと約束は守ってくれよ 良い物あるならさ」
「きっぷが良いねぇ 気に入った! 勿論、約束は守るよ」
「そんじゃあ1万、ほらよ」
「毎度あり~ 終わりは何時くらいになる?」
「正直分からねぇが… 2時には終わるんじゃねぇかな?」
「そう… また後で来るね」
「おぅ、それじゃあな」
「じゃあ、ご飯食べに行こう」
「ティセは交渉が上手いんやな」「ホンマやで、これが年下かいな…」
酒場 ワールド亭1階
「さぁ、好きな物頼んで」
「そやなぁ… 兄貴、何にする?」
「ワールド亭なら、"ワイルドボア"やろ」
「ホンマに!? ティセ、ワイルドボアのステーキでええやろか?
3人前で、昨日のおっさんより高い値段やで」
「それで良いよ じゃあ3人前で」
「気前がええな・・・」
食事が出来上がった
「頂くでぇ~♪ モグモグ ぴゃ~ 旨い!!」
「モグモグ この味や 最高やな!」
「そんなに美味しいの? 頂きます モグモグ モグモグ・・・」
「どうや、美味いやろ?」
「確かに… 美味しいと思うんだけど…昨日のブルーラビットの串焼きみたいに、
パンチが無いのよ… お肉は豚肉のようで、良いのは分かるだけに惜しいなぁ…
多分私が作ったら、これの3倍は美味しいよ」
「かぁ~、ティセは厳しいな… 普段どんな美味い物食ってんねん!」
「ほんでこの後どないするん? バザールに戻るんか?」
「いや・・・ 奴隷商の所に行く」
「奴隷商… ホンマかいな!?」
「昨日の夜からずーっと考えててね、はっきり言ってまだ迷ってるの
それは色んな意味でね…
本来の使い方とは違うかも知れないけど、
現場100回とか現場百遍って言葉があるの
その場でないと分からない部分があるのよ 何事もね」
「相変わらず難しい考えやなぁ」
「ティセにしか分からへん感覚や…」
「サンダースがお金持ってて」
「えっ、あぁ 預かっとく」
食事を終えた3人は、奴隷商の元へ向かった
「ごきげんよう エドワードさん 調子はどう?」
「これはマダム 再会できて、とても嬉しいです
いや… ジュリアとは違いさっぱりですね…」
「そうなの… それは残念ね
それはそうと… 今日はじっくり見たくて、来ましたの」
「左様でございますか それでしたら、じっくりとご検分なされて下さい」
「それでねエドワードさん、ちょいと私のプライベートな事もね…
色々と見たり聞いたり ちょっと外してもらっても良いかしら?」
「それは大変失礼しました 私はその建物の中に居りますので
じっくりと観察なりなんなり なさって下さいませ
終わりましたら、お呼びくださいませ それでは」
奴隷商エドワードは、建物に入っていった
ちせは順番に、檻に入っている者たちに1つの質問をした
「あなたはどんな魔法を使える?」
奴隷たちは答えていく
そして、おすすめのドワーフ
「あなたどんな魔法を使える?」
「儂は… 魔法は使えない… でもスキルはある…」
「どんな?」
「ごにょごにょ」
「・・・ふ~ん それ… 良いのかどうか分からないけど」
「儂を買ってくれなくても構わないが、あのダークエルフだけは駄目だ
檻から、絶対に出してはいけない…」
「なんでよ?」
「邪悪な存在だからだ…」
「・・・」
次が最後の奴隷 おすすめのダークエルフ
「あなたはどんな魔法を使えるの?」
「防御系魔法(小)とヒール(小)を少々使えます…」
「ふむ…」
「弓や短剣も扱えますし… お役に立てるかと…」
「へぇ~ 凄いね!」
「私の主になって下さい、お願いします… スキルも少々ありますよ♪
それと… 《あの》ドワーフを買ってはなりません…」
「なんで?」
「嘘つきで人を誑かし、そして殺します… なので…」
「・・・」
「(小声で)ティセ… 何かヒントはあったんかいな…」
「(小声で)そうね・・・ うん… 変態君を呼んできて」
「あぁ… 呼んでくる」
サンダースは、エドワードを呼びに行った
「マダム、どうでございましたか?
どれかお眼鏡にかなう商品はございましたでしょうか?」
「そうねぇ… 彼が欲しいんだけども…」
「えっ!? この商品でございますか? それはそれは♪」
「そう彼… 昨日は3500って言ってたけど…
3000にしてくれない?」
「3000ですか・・・ しかしですねぇ・・・」
「今月もう1人買うわ だからお願い」
「そうですか・・・ でしたらマダムを信用しまして…
3000で結構でございます」
「サンダース、代金をお支払いして」
「はい… 3000やな」
「はい、確かに3000 受け取りました ありがとうございます
それでは、【隷属の腕輪】の主を書き換えますので、あちらの建物にどうぞ」
ちせたち3人と奴隷は、エドワードの案内で建物に入った
「マダム、奴隷は皆… 主に逆らわぬように、【隷属の腕輪】を装着させます
そうすれば、逃亡も反抗もできませんので
現在の主は私になっておりますので、只今マダムに変更致します
この者の名はコルトン スキル【イエスマン(※2)】を使う者です
これからの段取りを説明致します
現在この奴隷の左腕には【隷属の腕輪】をはめております
主のみ、この【腕輪】の解除が可能でございます
こちらがマダムから奴隷に装着させる腕輪です
物としては、どこにでも売っているような腕輪です 特別な物ではございません
コルトンが腕輪にスキルを付与する事により、効力を発揮致します
私が奴隷の腕輪を外しますので、素早くマダムの【隷属の腕輪】を、
奴隷に装着させて下さいませ 腕はどちらでも構いません
ですので、この中から1つお選びください」
※2 スキル 従う愚者:イエスマン
コルトンが付与した腕輪を装着させられた者は、
装着した者の言う事を聞き、反抗や逃亡したい気持ちはあるものの
逆らう事ができなくなる
実際は本物の【隷属の腕輪】なるアイテムでは無く、
コルトンがスキルを付与した普通の腕輪をそう呼んでいるだけである
「・・・ではこれで」
「こちらですね、畏まりました コルトン、こちらにスキルを」
「はい… 少々お待ち下さい ・・・・・・ はい、整いました」
「マダム、それでは私が外した後速やかに装着して下さいませ
よろしいですか?」
「はい・・・」
「それでは外します」
エドワードは、奴隷に装着していた【隷属の腕輪】を外した
「装着して下さい!」
ちせは素早く【隷属の腕輪】を装着させた
「これで主の変更は完了致しました お疲れ様でございます」
「そう… ありがとう それでは近い内にまた来るわ」
「はい、いつでもお待ちしております マダム」
ちせたち4人は建物を出て、バザールの屋台に向かった
「私はちせ よろしくね
彼はハーランド、こっちはサンダース 2人は兄弟だよ
あなたの名前を教えて」
「私の名前は、モス 私を買って頂き、感謝に堪えません・・・
ご主人様に尽くさせて頂きますので、何なりとお申し付け下さい」
「おっさん良かったな ティセが買ってくれたお陰やで 感謝しぃや」
「ホンマやな… あの中でおっさんが一番無いと思たわ…」
「私自身… 驚いてます… 何でなのかなって…」
「おっさんは一体、何をやって捕まったんや?」
「信じて貰えないのは承知で話しますが… これは濡れ衣なんです!本当に…
当時付き合ってた女性がいまして… 彼女の名はエスター
その彼女と、他愛もない事で喧嘩してしまったのです…
数日後、私の家に衛兵が来て… 彼女が自宅で死んでいたと・・・
それで私が殺したとして… 拘束されたのです・・・
喧嘩した時の声が結構激しかったので… 喧嘩が動機だと言われ…」
「ふ~ん… それでおっさんは、本当にやってないんやな?」
「はい、やってません… と言うより、やれないんですよ」
「どう言う事?」
「喧嘩したのが、2月2日の昼… ジュリアの"よいどれ亭"で食事中の時です
食事の後、彼女は自宅のあるハルヨシ村に戻りました
私は仕事の為、ジュリアから【レビド】を経由して【ビザルラス】に向かいました
出発したのも早めだったので、その日の内に【ビザルラス】に到着しました
翌朝から3日間【ビザルラス】に滞在して ですので… 3・4・5日です…
6日の早朝【ビザルラス】を出発してハルヨシ村に到着したのが午後5時過ぎ
衛兵が家に来たのが午後6時頃です」
「おっさん、その説明で "やれない" っちゅ~のは、ちょっと無理やで
穴だらけや」
「そやな… やってやれん事はないなぁ…」
「ちょっと、説明しなさいよ ムキー!」
「なぜか、以前の村や街との間隔は、凡そ15里(約60km)なんや
決まりでそうなってんのかは知らんけどな
ちゅ~事は、片道9時間から10時間半 往復なら18時間から20時間
車を外せば、もっと速よう行ける 速い馬なら、更に早く着く
夕方に出て昼前に帰って来る事は、不可能ではあらへん」
「そうなんです… 確かに眷属の馬なら、不可能では無い 仰る通りで…
しかし私は… 着いてすぐ、ビザルラスの診療所に3日間入院してたので
何かに当たったらしく、食中毒でした・・・」
「そーゆー事やったら無理やな・・・」
「彼女はどうやって死んでいたの?」
「顔がパンパンに腫れていたそうです…」
「殴られたんやろか…?」
「酷いのぅ…」
「・・・」
「もう1つ分からへん事があんねん」
「何、ハーランド?」
「捕まってしもたのは分かるんやけどな
謎なのは、奴隷商がおっちゃんを売ってる事や」
「どう謎なのよ?」
「ええか、奴隷商が奴隷を仕入れるルートについてや
普通に考えられるのは、どこかで攫った人を売るパターン
もう1つは借金のカタや 言葉通り、体で払うパターンやな
殺しで捕まってしもて、衛兵に連れて行かれたんやで
それなら、村の檻に入るのが普通やろ? なんで奴隷商なん?
奴隷商言うたら、売るのは若い男女や 特に女の子やけど
あの奴隷商に売られてた人たち見たやろ みんなバラバラやったろ?」
「モスさん、もしかしてだけど… モスさんを捕まえた衛兵って、
ジュリアの衛兵じゃない? ハルヨシ村の衛兵じゃないでしょ?」
「えっ!? そうです、その通りです・・・」
「そこがおかしいのよね・・・ 辻褄が合わないの・・・」
「何がや?」
「いい、モスさんと彼女が喧嘩したのはジュリア 2人のお家はハルヨシ村
死んでる彼女が発見された 何で発見されたのか?
訪ねてきた誰かが発見して通報したからでしょ ここまで大丈夫?」
「そうやな」「分かるで」「はい・・・」
「通報するのに、王都まで行く? 行かないよね
常識的に考えて、村の衛兵さんに通報するでしょ 当然早いんだから
なら何故、王都の衛兵がモスさんを捕まえに来たのよ」
「そう言われたらそうやな…」「そりゃあおかしいで…」「・・・」
「私の推理だけどね… ハルヨシ村の衛兵か、王都の衛兵を騙る奴
どっちかがいる 可能性として確率が高そうなのは"王都の衛兵を騙る奴"
何故、ハルヨシ村の衛兵の可能性が限りなく低いのか? なんだけどね…
誰かが発見して通報した場合、どの衛兵が事件を担当するのか分からない
彼女の死体を発見したのは、モスさんを捕まえた"その衛兵"なのよ
王都から帰って来る彼女を、そいつはずーっと尾行してたの
彼女が帰宅したのを確認してから、家を訪れた
モスさんの自宅や行き先を確認する為にね…
その時に、そいつにとっては都合よく彼女は亡くなってしまった
それで"王都の衛兵"だって騙るそいつに、モスさんは捕まった
犯罪者をでっちあげて、奴隷商に引き渡してお金を儲けているのよ!」
「何やて・・・」「そないな事・・・」「ご主人様・・・」
「話の続きは後にしてモスさん、お腹すいてない? 好きな物食べて良いよ」
「うぅ… ご主人様・・・」
「ほら、泣かないで」
「おっちゃん、早よ選び」「これも美味いで」
泣きながら食べた食事は、殊の外美味かったモスだった
「なぁティセ、そろそろ2時過ぎたんじゃないか? 取引所に行かんと」
「そうね… じゃあ行こうか」
4人はバザール取引所に向かった
「おじさん、どうだった?」
「よぅお嬢さん 最高だったぜ 幾らだと思う?」
「私の予想は、8万かな」
「残念! 12万2700だったぜ 良かったな」
「12万2700! ほら、サンダース やったじゃんよ!」
「ホンマやなぁ・・・ そないいくのか」「信じられへん・・・」
「ハーランド、これで買い物できるね」
「そやな… ホンマに助かったわ おおきにティセ」
「そんじゃあお嬢さん、12万2700から2割5分引いた額 92025だ
そこから1万を引いて… 82025だ 受け取ってくれ」
「よっしゃ~ 儲けた~!!!
私は5万貰う 残りの32,025は、村のお金にして」
「ティセ… ホンマにええんか?」
「いいってば ほら、買い物に行くよ」
「ホンマにありがとな・・・」
「ハーランド、村の物は何を買うの?」
「食べ物と日用品やな」
「そんでさ、買い物を済ませた後で良いんだけど…」
「ティセ… また買うんか?」
「うん、そうね・・・」
「ティセがそうしたいならそうせぇ なぁ兄貴」
「そやな、とことん付きおうたるで」
「じゃあ、買い物すませましょ」
ちせたち4人は、バザールで買い物を済ませた
「これで終わりや で… 変態君やな?」
「そうね… サンダース 5万持ってて」
「あぁ任せとき」
「ねぇモスさん これから奴隷商の所に行くけど、
これからやる事言う事は、全部お芝居だからね 本気にしないでよ
モスさんを貶すような事言うけど、申し訳なさそうにしててね」
「はい、ご主人様 頑張ります…」
バザール外れ 奴隷市場
「おほほほ、エドワードさん こんにちは」
「これはこれはマダム お約束通りお早い来店で… 大変嬉しいです」
「エドワードさんの言う通り、使い物になんないわね アイツ プンスカ!」
「あらあら… マダムを怒らせてしまいましたか
アレは本当にグズでございます それでも躾ければ… 何とか…」
「だから、次の"おもちゃ"を買いに来たのよ ちょいとお耳を」
「はい、何でございましょ?」
「(小声で)私ってごにょごにょ だからねごにょごにょ そんなんですわ」
「まぁ… なんともはれんちな…」
「なんていうの… もうごつごつのでごにょごにょ」
「まぁ… マダム まだお若いのにお盛んで」
「仕方ないじゃない もうごにょごにょなんですのよ おほほほ」
「まさに酒池肉林 おもちゃも壊れてしまいますね」
「おほほほ そうなの もう大変
それでエドワードさんに聞きたい事があってね」
「なんでございましょう?」
「ここ以外の他の場所は、ジュリアだけなのかしら?
他の奴隷商もいるワケ?」
「ジュリアでは、私の弟が仕切っております
王都もハルヨシ村も専売になりまして、私の所だけになりました」
「そう… 向こうも2人で営業してるのかしら?」
「あちらは1人でやっておりますよ」
「私の事 紹介状か何か書いてくれません?」
「勿論! マダムの紹介状ですね 書いておきますよ」
「今日も買わせて頂くわ エドワードさん、外してもらえるかしら?」
「はい、それではごゆっくりと」
エドワードは、建物に入っていった
ちせは3人と小声で相談する
「計画変更するわ ごにょごにょでごにょごにょ
ハーランドは・・・ サンダースは・・・ モスさんは・・・」
「急に… やるんやなぁ…」
「上手くできるやろうか…」
「やってやりますよ!」
「モスさん… 奴隷の腕輪、外してあげる」
「えっ!? 外す… 本当に良いのですか?」
「うん、良いよ 外してあげる」
「ご主人様・・・」
ちせは、モスの隷属の腕輪を外した
「これが終わったら、モスさんは自由だよ 好きなようにして」
「うぅ… ありがたいお言葉…」
「おっさん、泣くのは早いっちゅうねん やる事やってからやろ」
「・・・ そうですね やりましょう」
ちせはおすすめの2人に目もくれず、他の奴隷をじっくり見る
そしてやっと、ドワーフの檻の前に立つ
「この中では貴方が一番腕力がありそうね」
「儂がか? 他の者は見えんのでな分からんが」
「貴方は一体何をしたの 何故売られてるのかしら?」
「儂は酒を飲んでたのだ、それで他の客に絡まれてな
振り払ったら、相手が大怪我をしたと嘘をつきおって
せいぜい尻もちをついたくらいの事を、大げさに言いやがったのだ」
「どこで飲んでたの?」
「王都の"よいどれ亭"だが」
「どこで捕まった?」
「ハルヨシ村の自宅で」
「どこの衛兵が自宅に来たの?」
「王都の」
「最後に、あのエルフ… "邪悪な存在"って貴方は言ったけど、どう邪悪なの?」
「・・・」
「じゃあ、殺した方が良いかしら?」
「いやいやいや… 殺す…事はないんじゃないかなと…」
「でも"邪悪"なんでしょ 怖いじゃない」
「とはいえ… そうでもないかも…」
「貴方たち… 前からの知り合いなんでしょ ほれ、どうなの?」
「そうです… 儂とアレは知り合いです」
「恋愛感情はあるの?」
「色恋のそういった感情は無いんですがね… 腐れ縁ってな感じで…」
「バカみたい… 言葉を選ばないと、相手を殺す殺される可能性もあるんだよ」
「仰る通りで… 面目無い…」
「ちょっと待っててね」
ちせはエルフの檻の前に立った
「ねぇ… 貴女はドワーフの事を"嘘つきで人を誑かし、そして殺す"そう言った
私があのドワーフを殺そうか?」
「えっ!? ちが… ちょっとアレ… 少し誇張が…」
「なんでよ? "嘘つきで人を誑かし、そして殺す" そんなの恐ろしいじゃない
そんなの生きていてはいけないよね?」
「すこーし表現が大げさ過ぎたかも知れない…なぁ… アハハ…」
「貴女たち… 前からの知り合いなんでしょ ほれ、どうなの?」
「はい… 以前はパーティを組んでまして… そんな感じで…」
「恋愛感情はあるの?」
「いえいえいえ! 好きとか嫌いとかそういうのとは違くて… エヘヘ」
「アホらし… 言葉を選ばないと、相手を殺す殺される可能性もあるんだよ」
「そうですね・・・ 反省します・・・」
「貴女は何をして、こうなった?」
「アイツが捕まったと聞いて、王都の"よいどれ亭"に調べに行ったんです
店主に聞いてたら… 聞いてただけですよ、営業妨害だって騒いで
それで家に帰りました それで捕まったんです・・・」
「どこで捕まった?」
「ハルヨシ村の私の家で」
「どこの衛兵が自宅に来たの?」
「ジュリアの衛兵です」
「そうか・・・ じゃあね!」
「えっ!? ちょまっ! 私のスキルは役に・・・」
ちせは再びドワーフの檻前に来た
「実はね、ごにょごにょ あーしてこーするの 分かった」
「ふむふむ… 大胆なお方じゃな」
「本当はね、あっち(エルフ)にも手伝って貰いたかったんだけどさ
お値段が高くてね・・・」
「儂とアレ(エルフ)との価格差は、男女の違いか・・・」
「じゃあみんな、おさらいね あーしてこーして ね、分かった?」
「あぁ… やったるで…」「準備万端やで」「私も頑張ります!」
「じゃあハーランド、これを」
「あぁ、俺に任せぇ」
「サンダース、呼んできて」
「呼んでくるでぇ~」
サンダースは、建物内にいるエドワードを呼びに行った
「ササササッ! マダム、お決まりになりましたでしょうか?」
「そうねぇ… エドワードさんおすすめの、あのドワーフにするわ」
「さすがお目が高い! きっと満足されると思いますよ~ はい!」
「確か4万よね… ちょっと勉強してくださいな」
「アレはおすすめですからねぇ~… ちょーっと厳しいですが…
3万8000でどうでしょうか?」
「仕方ないわね… それで貰うわ」
「ありがとうございます!」
「代金は中で支払うわ 大金だから… 誰かに狙われるかも…」
「そうでございますねえ 只今、ドワーフを連れて行きます
ガチャ 新しいご主人様だ どうだ、嬉しいだろう ヌフフフ」
「さぁ皆様、中へお入りください」
ちせ等4人と奴隷のドワーフ そしてエドワードが建物内に入った
「サンダース、お支払いしてちょーだい」
「はい、3万8000です」
「は~い、確かに受け取りました 只今隷属の腕輪をご用意致します
どれがよろしいでしょう?」
「サンダース、今回は貴方が選んで良いわよ」
「ありがたき幸せでございます それではこれで」
「こちらですね 少々お待ちを… コルトン、こちらです」
「はい、少々お待ちを・・・・・・ はい、完了致しました」
「さぁ、隷属の腕輪をどうぞ」
「ちょっとお水を飲ませて頂戴・・・」
「私が持ってましょう」
隷属の腕輪を、サンダースが受け取った
「ゴホゴホ えっへん! ガブガブ ぷふぁ~ 買い物後の1杯は美味い
ねぇエドワードさん 紹介状は書いて頂けたかしら?」
「はい、既にご用意致しました こちらです」
「ふむ… 確かに ジュリアの奴隷商のお名前は?」
「エドワルドでございます」
「ジュリアでは、何人… 何個の商品があるのかしら?」
「そうですねぇ… 販売の状況にもよりますが、7個くらいでしょうか?」
「どうなの… 商品の質は? 良いのあるワケ?」
「それはもう… こちらにあるのは、ジュリアでの売れ残りですので
あちらの方が粒ぞろい お気に召すかと存じます」
「そう… 近い内に伺うわ」
「は~い、今後とも是非御贔屓に♪」
「では、やっちゃいましょうか」
「はい、手順は前回と同じです 私が外したら、マダムが装着させる
宜しいですか?」
「いいわ、やって頂戴」
「それでは… 外します はい、どうぞ!!」
「みんな、今よ!」
ちせの掛け声で、手筈通りに動く
ハーランドはコルトンに飛び掛かり、腕輪を無理やり装着させた
元々モスが着けていた腕輪を、ティセから受け取っていたのだ
「あれれ、ちょっと そんな! やだ! きゃ~!」
隷属の腕輪を外されたドワーフとモスが、エドワードの両腕を抱える
「あんたバカだねぇ… 隙があり過ぎ サンダース、やっちゃって」
「おう!」
サンダースは、隷属の腕輪をエドワードにはめた
「みんな~ OK! お疲れちゃん」
「ティセ~ 上手くいったなぁ~」
「緊張したわ~ ホンマに」
「ご主人様、完璧です!」
「どう、上手くいったでしょ?」
「大した御仁だ! あっはっはっは」
「みんな、まだ終わってないからね まずはエドワード
檻に入れてる奴隷を、ここに連れて来なさい」
「マダムの命令には従いません!」
「あぁそうだ… サンダースが命令しなきゃダメなのよ」
「エドワード、檻に入れてる奴隷をここに連れてこんかい!
早うな しっかりせぇよ」
「はい、畏まりました」
「モスさんは、エドワードを見張ってて」
「はい、了解です!」
「ハーランド、サンダース、ドワーフさん、ここにある金目の物
一切合切頂くよ さぁ始めて コルトンにもやらせて」
「コルトン、金目の物を集めるんや」
「はい、始めます…」
「凄いで… まるで盗賊やん…」
「おそろしくて、ちびりそうや…」
4人は、各部屋を漁った
10数分後… 檻から出された奴隷たちを、エドワードが連れてきた
「サンダース様、奴隷を連れて来ました」
「それじゃあ、こう命令して… "隷属の腕輪を外せ"って」
「よっしゃ、エドワード… 奴隷の隷属の腕輪を外すんや」
「はい、只今」
エドワードは、奴隷に着けられた隷属の腕輪を、全員外した
「これで奴隷は、お前とコルトンだけやなぁ」
「アコギな商売するからや アホか!」
「はいはいはい、元奴隷だった皆さん、集まって下さ~い
あっやば! 時間が… ちょっと待っててね
ねぇハーランド、そんで相談なんだけどさ…」
「なんや 言うてみぃ」
「ハーランドとモスさんで、村に戻ってくれない?
サンダースとジュリアに行こうと思って」
「そないな事か、かまへんよ なぁ?」
「ええで また奴隷商を潰すんやろ?」
「そう、奴隷の人たちを開放して、私たちはガッポリって寸法」
「モスさんは、荷馬車運転できる?」
「大丈夫ですよ」
「ハーランドとモスさん2人は、2台の馬車でタカミ村に帰る ヨロシクね」
「おぉ、上手くやるんやで」
「ドワーフさんも来てくれない?」
「儂も助けられた身 そなたに忠義を尽くしたいと思う」
「それなら… 私もお願いできないですか…?」
「貴女も来るの? 別に良いけど」
「どう、金目の物は集まったかしら?」
「そうやな… 大した物はあらへんけど、金はたんまりあるで」
「30万くらいあるんやないか?」
「は~い 元奴隷のみなさん 皆さんは、解放されました
お家がハルヨシ村だよ~って方 手を挙げて はい全員ね
お家はまだあるよ~って方 手を挙げて・・・ ほぅ
分からない~って方 手を挙げて はい全員
じゃあ、並んでください
ハーランド みんなに5000ずつ渡してあげて
その5000を持って、お家に帰ってみて下さい
お家が無かったら宿に一泊して、翌日馬車とかでタカミ村に向かって下さい
尋ねる人は"ハーランド"です 覚えましたか? はいOK!
それではお帰り下さい」
元奴隷たちは、自宅に帰って行った
「ハーランドとモスさんは、荷物を積み込んだら出発して
サンダースは、そこから10万くらい抜いて持ってて
残ったお金は、ハーランドが持って帰って家に置いといて」
「承知したでぇ ほなおっさん、積み込んで村に行こか」
「はい、やりましょう」
「ティセ、10万抜いたで そんで僕らはどうすんのや?」
「これからジュリアに向かうんだけど、馬車あるかな?
私、サンダース、ドワーフさん、エルフさん、エドワード、コルトン
6人ね 6人乗れる馬車あるかしら?
あっ… コルトンの主はハーランドだ…
とりま急ぎで、サンダースに変更しよう」
コルトンの主を、サンダースに変更した
「ほな馬車探しに行こか」
翌日・・・ 夕刻
「ノア様… 奴隷商のエドワードが姿を消しました」
「エドワードが… 姿を消した!? 王都に戻っただけではないのか?」
「そうかも知れませんが… 檻に奴隷の姿は無く、アジトももぬけの殻で…
家具や調度品も何もございません 村での商売を止めたのでしょうか?」
「ヤツはそんな玉では無い・・・ 一体何を企んでいる、エドワード・・・」
次回 第5話 『ジュリア計画』
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