レイオン

「にわかには信じがたい。でも他に説明のしようもないか」

「とりあえずミサイルの発射は止められたけど」

「それだって時期に発射の目途がつく。完全に止める事は不可能だよ。ドロシー。君はこれからどうするつもりだい?」

「弟を探して、ここを爆破する。その後はレイオンが戦争を終わらせてくれるって信じてるから、家に帰る方法を探すわ」

 ドロシーの話を聞きながら、腕を組んでウロウロと歩き回っていたレイオンが頭を掻きむしった。

「ああーわかった。手を貸すよ。全部信じた訳じゃないからな。このミサイル攻撃が間違っていると最初から思ってたからだ。いいな」

「うん。ありがとう!」

「復旧も進んでるだろう。急ごう。トトの居場所は見当がつく」

「待って。この部屋は随分と明るいけど、この施設には十分な電気があるってことかしら」

「今回の作戦の要の拠点だからね。電気の供給は十分にされているだろう」

「なら試してみたいことがある」

「わかった。急げよ」

 ドロシーは頷くと、たたずむドロイドに駆け寄った。


「これは驚いた!」

「昔、電気を使わないからくり人形ギミックドールがあったんだけど。それにAI頭脳を載せたのがドロイドって感じね。私の時代は業務用で人型は珍しいわ」

 時を止めたドロイドは、電気の供給によって目を覚ました。『N46-T134613』と名乗った鉄の骨組みだらけのドロイドは、ドロシーの話を把握すると自身のデータを解析した。

「準備オーケーです、ドロシー」

「レイオン、トトの所へ」

「よし行こう」

 レイオンはドロシーの後ろに回り、連行しているような素振りで廊下を歩き、その後ろに4613が続いた。


 復旧作業のおかげで、地下に向かうエリアには誰もいなかった。順調に地下に降りると、そこはレンガ造りの空間だった。レイオンの推察で、以前は貯蔵庫だった場所に向かうと兵士が一人立っていた。

「なんだ、どうした?」

「一緒に監禁しとけってさ」

 見張りの兵士が顎で貯蔵庫の中を示すと、ドロシーが駆け込んでいった。

「後ろのは何だ?」

「ドロイドを見つけたんだ。人手も必要だし役に立つと思ってさ。見張り代わるよ」

「おお、悪いな。喰ったら戻ってくる」

 上手く見張りの兵士が去ろうとした時だった。

「トトがいない!」

 慌てて貯蔵庫に入ってゆく兵士にレイオン達も続いた。

 貯蔵庫には、食料を置いていただろう木の棚が幾つも並んでいた。天井からぶら下がる豆電球で薄暗いが、どこを探してもトトは居なかった。

「おい、どうなってる!」

「そんなはずは。俺はずっと見張ってたんだ」

 レイオンに胸倉を掴まれた兵士は、失敗を責められていると思い縮み上がった。

「こ、こいつを見張っててくれ。俺は報告してくる」

「おい待て!」

 レイオンの静止も聞かずに、兵士は逃げるように走って行ってしまった。

「まずいな。早くトトを見つけないと」

「でも、ここからじゃ何処にも行けないはずよ」

「ドロシー。この穴に入れますか?」

 貯蔵庫の入り口でレイオンとドロシーが顔を見合わせていると、奥から4613の声がした。


 貯蔵庫の奥の壁、ほんの一部のレンガが崩れて穴が開いていた。4613の暗視モードでなければ見つけられなかっただろう。

「行ってみる」

「気を付けろよ。俺達は回り込んでみる。4613ナビ頼む」

「わかった」

 穴の中へ入ったドロシーは、匍匐前進ほふくぜんしんで頭を壁から出す事ができた。完全に抜け出すと、そこはドラム缶や麻の袋が積み上げられた部屋だった。

「お姉ちゃん!」

「トト!」

 麻袋の陰からトトが飛び出してきた。ドロシーは、しっかりと抱きとめると頭を何度も撫でた。

「大丈夫? 怪我してない?」

「うん。大丈夫」

 ドロシーは改めて部屋を見回した。片隅にダストシュートがあり、どうやら以前はゴミ収集所だったようだ。

 通路を駆けてくる聞こえると部屋の扉が開かれた。軍服を見たトトは、慌ててドロシーの背後に隠れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る