尋問

「ここを使おう」

 赤毛の兵士が示した頑丈そうな扉には『遊戯室プレイルーム』と書かれたプレートが付いていた。この建物自体、軍の施設ではなく。カモフラージュの為に廃墟となった施設を利用しているのだと、ドロシーが聞きもしないことを赤毛の兵士はベラベラとしゃべっていた。その間、無機質な通路を付いて歩くしかなかったドロシーは、必死で赤毛の兵士の服装と授業の記憶を照らし合わせていた。


 煌々と照らされた部屋は、ドロシーの見たことのない物で溢れていた。

「ここはなに?」

「なにって。ビリヤード台にダーツ、ジュークボックスにカウンター。休憩室みたいなもんだ」

「へえー」

 目を輝かせて部屋を眺めるドロシーに、赤毛の兵士は不思議そうに答えた。

「ドロイド!」

 カウンター席の隅に、飾り物のようにたたずむ人型のドロイドがいた。

「この施設と一緒に捨てられたのね。可哀そうに」

「可哀そう? まあいい、とにかく話を聞こう。そこに座って。まずは、そうだな。俺はレイオンだ。君は?」

 適当な椅子に向かい合わせで座ると、赤毛の兵士は礼儀正しく自分の名を言ってからドロシーに問いかけた。

「ドロシー」

「うん。じゃあドロシー。どうして、こんな所へ?」

 レイオンの二つ目の問いに、私が知りたいと思いながらドロシーは強い口調で答えた。

「戦争を終わらせに」


 レイオンは声を出して笑うと声を荒げた。

「俺達だって戦争を終わらせようとしているんだよ! もう手段は選んでいられない。状況からして君はスパイだ。だが俺達の邪魔をするのは間違っている。何かできると思わないが、このまま大人しくしていれば俺が帰れるようにしてやる」

 最後の言葉は弱弱しいほど優しかった。

「見たでしょ、あの部屋。帰してもらえるとは思えません。それに私の話も信じてもらえない。だから協力してレイオンさん。私は神に遣わされたんです。ミサイルを止める為に」

 ドロシーは、ここへ来てから見たものと自分の記憶から、ある答えを導き出していた。そしてレイオンに鎌をかけてみる事にした。

「おいおい。神の遣いだなんて信じられる訳がないだろ」

「じゃあ、私はどうやってここに? 私に力があるとでも?」

 ドロシーは立ち上がると、レイオンに両手を広げて見せた。明らかにレイオンが動揺をみせた。

「そ、それは。なにか科学的な。そうだ瞬間移動テレポーテーションだ。それなら入って来られる」

「科学的なことなら信じられるの?」

「あ、当たり前だろ」


「2119年から始まった戦争は終焉戦争ラグナロクと呼ばれているわ。それは2124年、今日のミサイルで終わる。でもそれで世界の汚染が始まって、2135年には生き残った人類が地球を放棄して月に移住する。それが私達の祖先。あなたたちの未来よ」

「そんはずはない。一度壊した世界を、俺達が、この国がひとつにして再建するんだ」

「分かってるんでしょ? 本当に世界を再建する気持ちがあるなら細菌兵器なんて使うはずがない」

 レイオンは手段を選んでいられないと言った。ドロシーにはそれが自分への言い訳のように聞こえていた。

「君の時代は?」

「2153年。レイオンの軍服も写真で見たわ。あなたの国は北の赤鬼レッドオーガとして歴史に汚名を残してるわ。国の言葉じゃなく、心の声を聞かせてレイオン」

 黙り込んだレイオンを、ドロシーは真っ直ぐに見つめたまま次の言葉を待った。

「俺は……戦争なんか反対だった。でも何ができる。何もできないまま、結局国の言いなりで兵士にもなった。敵と戦う勇気も、自国を止める勇気もない。俺に勇気があったなら、こんな計画なんて」

 レイオンは俯いて拳を握っていた。その拳はわずかに震えているように見えた。

「私と一緒に、戦争を終わらせて地球を救ってレイオン。お願い」

 レイオンにここに飛んできた経緯を全て話したドロシーは、レイオンの良心に最後の望みをかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る